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koto
6649文字
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れめしし😈🦁
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90days.:1.出国
シリーズ「90days.」
≪原作から約1年半が経過した世界での話≫
1話目
れめしし(付き合ってない)
ある日👿から唐突に、行き先も期間も分からないまま旅行に誘われた🦁
断ろうと思えば断れる誘いに乗ることにしたが……
傍から見る限り、その五人の共通点を挙げられる者はそう多くないだろう。
一見して分かるファッションの系統は言うまでもなく、趣味、職業、生い立ち、果ては好物にいたるまで、てんでバラバラな連中が一堂に会しテーブルを囲んでふざけ笑い合う。その光景は内情を知っている者ほど奇怪に映るかもしれない。なにせ場所が場所であれば、テーブル越しにすることは良くて半殺しの命懸けのゲームなのだから。
この不思議な友人関係は真経津晨という青年の、ある種常軌を逸した価値観と行動力の賜物だったりする。真経津が基軸となり、まるでぐるりとコンパスで描いたような線の内側へと引き込まれた面々は、自らその外側に脱することもなく、なんだかんだでその関係を楽しんでいる。
そんなどこか不思議で不安定な交友関係は一過性のもので終わることもなく、意外にも始まりから一年以上経った今でも続いていた。つるんでいる月日もだが、各々の人となりをある程度語れるほどの密度で誰かと過ごしてきたことは、少なくとも獅子神にとって稀有な経験だった。他人との関係に全く同じものなどなく、そのどれもが唯一無二だとは理解しているつもりだ。そんな前提の上で、それでもやっぱり連中との付き合いは獅子神の中でとりわけ特別なものとなっている。
友人たちは出会った当初から自分の考えや欲求に正直で、ワガママとも甘えとも取れる振る舞いに獅子神が振り回されたのも一度や二度の話ではない。一緒に過ごす時間が積み重なっていく中で、さすがに獅子神も彼らの自由気ままな言動に慣れつつもあった。それでも、それらを全く動じずに受け止められるか否かはまた別の話だろう。
§
暦の上では季節が移りしばらくした頃。外気温がようやく周回遅れで春の訪れを触れ回り始めた。往来を行き交う人の装いも幾分か軽やかになり、また同時に店先では花粉症対策の商品が出回るようになっている。
寒の緩みを感じて獅子神が冬物のアウター類をしまいこむ算段をつけていると、思考を遮るようにテーブルに置いた携帯端末が暴れ始めた。ガガガガガと喧しく騒ぎ立てるのを捕まえると、ディスプレイに表示された漢字三文字を目にして一瞬だけ動きが止まる。が、すぐに気を取り直すと獅子神は画面に指を滑らせた。
その男からの提案はやっぱり唐突だった。
「ねえ、敬一君。しばらく一緒に旅に出るとかどう?」
メッセージではなく珍しく電話がかかってきたと思えば、叶は開口一番突飛なことを言い出す。この手の発言にはだいぶ慣らされてきた獅子神だったが、それにしても少しばかりは面食らってしまう。何処に?と聞くのは野暮だろうか。足が必要で電話をしてきたのなら車を出すのは別に構わない。ここであれこれ聞いたところできっと埒が明かないのだろう。獅子神は心得たように今確認すべきことだけを尋ねる。
「何時間後だよ?」
「十二時間後」
今すぐ!なんて言葉も警戒していた為、思ったより猶予があるなと少し拍子抜けしたものの、続く言葉でそんな余裕も霧散する。
「身辺まとめて、持ち物はパスポートと
……
まあ、あとは適当に」
パスポートということは当たり前だが行先は海外で、交通手段は十中八九、飛行機ということか。運転手を兼ねて声をかけられたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。さきほど叶が口にした「しばらく」が、一週間やそこらの話ではないことが今になって薄々察せられる。行こうよ、や、行くぞ、ではなく、建前でも意向を伺うということは、獅子神の生活にそれなりの影響を与える期間と場所なのだろう。
言いたいことも聞きたいこともあったが、それでも一旦全部を喉の奥にしまい込んで、代わりに獅子神の口から出てきたのは深呼吸のような長い溜息だった。息を吐ききって、そうしてすぅっと短く吸う。息継ぎみたいに。
「使う空港と待ち合わせ場所。どこだか送っておけよ」
「オッケー!」
獅子神の返答に電話口の声が少し弾むのが分かった。たぶん獅子神が応じるかどうかはちょっとした賭けだったのだろう。断ったとしても次の手があったのかもしれないが。
念のため、獅子神は一~二か月を見込んで準備を始める。担当行員の梅野に不在の連絡を入れようとするも繋がらないのが少し気にかかったが、その気になれば旅先からでも連絡はできると後回しにしてしまう。行き先の気候も何もかも分からないが、その辺りは現地調達で事足りるだろう。
獅子神は残された時間ですべきことを取捨選択する。急な話だから行き先はおそらくビザが不要な国に限られる。その仮定でいけばビザなしで滞在できる期間は最大90日間だからどんなに長くてもそのくらいか?と見積もってはみたものの、叶が正攻法だけを取るかは疑わしく、考えても答えの出ないことに時間と頭を使うのは止めにした。
雑用係二人を呼びつけて、事の経緯と留守中の定期的な家の管理を指示する。
雇用主に対して明け透けな態度を取る二人は、獅子神がまるで日本語ではない別の言語でも話しているかのような表情を浮かべていた。何言ってんですか?隠す気もないのかありありと読み取れる。気持ちは分からなくもないが、そこは真っ当な社会人であれば多少は包み隠しておけという気もする。真っ当な社会人ではなかったから、今現在こうして獅子神の下で働いているわけだが。
そんな二人の態度はひとまず流し、獅子神は必要な引継ぎを済ませていく。さくさくと進んでいくやり取りに、改めて能力が低いわけではないんだよなと思わざるを得ない。自由になったのに何が楽しくてここに残ることにしたんだか、という思いは獅子神の中でずっと拭えないままだったが、それでもこういうときに二人のような存在が居て助かるのは事実だった。
§
叶の連絡から十二時間後。
獅子神は国際線の出発ロビーにて、指定された航空会社のカウンター付近で目を配る。いつもであれば叶の長身は待ち合わせ時の良い目印になるが、ここでは多様な人種と言語が入り乱れていて長身という目印だけで人探しをするのはなかなかに骨が折れそうだ。それでも獅子神はカウンターから少し離れた椅子にすんなりとその姿を見つけると、ズンズンと歩みを進め叶の目の前に立った。
「国外逃亡でもするつもりか?」
「あ、ほんとに来た」
手の中のスマホに落としていた視線を上げ獅子神の姿を視界に収める叶は、いつもに比べると幾分大人しめの出で立ちだった。どシンプルにすると元来の容姿がかえって悪目立ちするので、色味は抑えつつ纏ったハイブランド特有のデザイン性が上手いこと馴染んでいた。嫌味なくらいに。
「よく言うぜ。来ないかも、なんて思っちゃいなかった癖によ」
「なんでも100パーセントとはいかないだろ?それに思ったよりアッサリOK出してたからさー。ほんとに言ってる意味分かってんのかなってちょっと心配になっちゃった」
「一週間ちょっとの話じゃねーっつーのは分かってるつもりだけどな」
隣の空席にどさりと腰を下ろす。
ここまで来る道すがら、叶から知らされた航空会社のカウンター前を横切ったが、モニターから推測するに行き先はアメリカ西海岸の可能性が高い。
「オマエさ、アメリカ行くのにビザは要らねぇけどESTAっつーので電子渡航認証受けないと搭乗拒否されるぞ。どうすんだ?」
出発日当日に申請しても渡航認証が取得できないケースもあるため、このままいくと申請していない獅子神は旅立つことが出来ない可能性があると指摘する。
だが叶は獅子神の指摘にも慌てることなく面白がるように笑みを浮かべた。
「意地が悪いなぁ、敬一君」
「なにがだよ。ビザもESTAの渡航認証も無しでアメリカ行けないってのは事実だろ」
「そこまではね。でも敬一君は行けちゃうんだよ」
隣から伸びてきた手が遠慮なくジャケットの胸元へ突っ込まれると、内ポケットからスルリとパスポートを取り出す。なんでパスポートの在り処が分かったんだ?なんて問いは今更だろう。ペラペラと捲り該当のページを見つけたのか、叶は大きく見開くと獅子神の目の前に掲げてくる。
「前に敬一君渡米してるだろ?ESTAの有効期限二年間だから今回は申請無しで行けるって知ってたくせに」
「なんで把握してんだよ他人の渡航歴」
ちょっとした意趣返しのつもりだったが、そんなものは端から把握済みだったらしい。確かに仕事の一環で以前渡米はしたが、それは叶本人どころか真経津に出会うよりも前の話だ。
獅子神の問いには答えないまま、叶はパスポートを元あった場所に丁寧に戻す。呆れながらも獅子神は何か違法な手段で渡航の下準備を用意していたわけではないことに小さく胸を撫で下ろした。
「荷物預けたらご飯食べに行かない?フライトまでまだ時間あるし」
ひとまず犯罪に加担するはめにはならず安堵している獅子神を後目に、叶はすくっと椅子から立ち上がりる。食事をすることに異論はなかったが、獅子神はまだこの旅の目的や人選の理由を聞かされていなかった。
「それにしてもさ」
「ん?」
「誘っといてなんだけど、よく来る気になったよな敬一君」
叶は目の前に座る獅子神をしげしげと眺めながら、口に寄せた麺をちゅるりと吸い込む。誘った本人の言葉とは思えないくらいに他人事な口振りに、獅子神が唖然とするのも無理はないはずだ。
せっかくだし日本食っぽいものでも食べようかという叶の提案で二人が入った先はうどん屋だった。今時海外でも日本食は割と容易く食べられるが、まあ、気持ちは分からなくもないと了承した。
ただ、目の前の男がメニューからトマトビスクスープのうどんなるものをオーダーしたときは、いよいよ意味が分からなかった。どこかの誰かさんのように運ばれてきたものをやっぱり要らないと押し付けてくることはなく、満足げに食べているので別に文句もないが、「コイツにとっての日本食のボーダーラインってどこだよ。ほんと分かんねぇな
……
」とは正直思った。
どんなに頻繁に時間を一緒に過ごしてきても、大きなことにしろ小さなことにしろ分からないなと思う瞬間は今までいくつもあった。もちろん、それは叶に対してだけではなく他の面々に対してもだ。もともとが違う人間で、更には別の次元に居るような連中だから、理解できない瞬間があるのはおかしなことではない。ごくごく普通の人間相手でもそんな瞬間はあるのだから、化け物たち相手で皆無なはずがないと納得もしている。
同じものや時間を楽しむのに、必ずしも思想や好みが一致する必要はない。
それでも、今、獅子神は目の前の男の思考に改めて興味が湧き、知りたいと思っている。たとえば、コイツにとって日本食の基準とは?とか、そういう小さなくだらないレベルのことも含めて。
出会ってからかれこれ一年以上経てば、なにか大きな事件でも起きない限り、その関係性が劇的に変わるようなことはないと獅子神は思っている。別にそれ自体は悪いことでもないが、無意識の内に変わらない環境にどこか安心して腰を落ち着けてしまっているきらいは正直ある。人間の脳は怠けがちなようで、つい楽な方に流れてしまう。効率的と言えばそうなのだが、いつも当たり前と思っていることを改めて深く考えることはなかなかしない。距離感や立ち位置が変わらなければ、必要もないのに相手をより深く知ろうとするなんてのは、よっぽど意識しなきゃできはしないだろう。
――
だから、まあ、なんだ。これはちょうど良かったんだよな。
叶は咀嚼していたものを飲み込むと、口の中に残ったらしいトマトベースの後味を水で一旦リセットしつつ獅子神の反応を窺っている。
じぃっと向けられる瞳に常駐しているはずのスマイルマークが今日は不在で、そんな少しのイレギュラーで獅子神はいつもどおりの距離感を一瞬測りあぐねてしまう。普段の服装との違いに比べれば、それこそ“まちがいさがし”程度の些細な違いでしかないはずなのに。目というパーツが身に着けるものや髪形以上に、この男の本質に関わる場所だから意味を持たせてしまうのかもしれない。
そんな考察をしながら獅子神はすぐそばのグラスを手に取ると、底に数センチ残っていた水を飲み干してしまう。仰いだグラスを口から離したタイミングで店員と目が合った。催促をしたみたいで獅子神が少しバツの悪い思いをしていると、彼女は心得たと言わんばかりにピッチャーを手にして近寄り、グラス二つに少し多めの水を満たして去っていった。
なんとなく場の空気が変わり、仕切り直しというわけでもないが、叶が先ほどから不思議がっている同行の理由を教えてやる。
「気が向いたんだよ。なんか、別にいいかなって。来てみたかったから来た」
とは言っても、そこまで大層な理由なんてない。行き先も期間も不明のままで誘われた友人との旅行に出向く理由なんて興味以外の何ものでもない。端的に言えば、面白そうだなと思った。旅行自体も、叶が何を意図しているのかも。
「敬一君、そんなんでホイホイついてきちゃって大丈夫か?」
「テメェ
……
」
どの口が言うんだかと、あと何回思わせれば気が済むのか。どう考えてもたいした説明もなしに誘った側が言うセリフじゃない。獅子神が一緒に連れて行ってくれと頼み込んだわけでもないというのに。本当は来て欲しくなかったんじゃないか?と勘ぐっても仕方ない言い草だ。
「オマエ、俺がもし来なかったらどうしてたんだ?」
「どうしてたと思う?」
「質問に質問で返すんじゃねーよ」
答える気がないのか、端からノープランだったのか、あんな言葉足らずな誘いで来ると確信していたのか。
たしかに我ながらよく来たものだと獅子神自身思う。
ただ実際のところ、この状況をそこまで覚悟がいるような深刻さで捉えていなかったりもする。
「さっきから人のこと考えなしみてぇな言い方してっけどよ。別にただホイホイ来たわけじゃねーよ。行きたくなったから行く。んで、帰りたくなったら帰る。別に首に縄つけられてるわけでもねぇしな」
ニヤリと笑って見せれば、想定外だったのか叶はその大きな目を数回瞬かせる。告げられた誘いには途中退場不可なんて注意はなかったはずだ。右も左も分からない子供じゃない。気が乗らなければ途中で帰るという選択肢が獅子神には残されている。
「それってオレが面白くない認定されたら帰っちゃうってこと?ずいぶんふっかけるじゃん」
その目が細められると好戦的にニンマリと叶の口角が上がる。叶が面白くない云々というよりは、どちらかというとこれ以上付き合いきれないと匙を投げるパターンを想定しての話だったのだが。獅子神としては無理やり面白くしてもらわなくても一向に構わない。むしろできる限り平和に合法的に楽しみたいところだ。
叶は既に聞く耳は持ってないようで、言っても行動を変えるわけがないこともさすがにもう分かっている。不本意ではあるが今の獅子神にできるのは最低限の心の準備くらいだろう。
「まあ、でも敬一君都合つけられて良かったよ。敬一君にとってもね」
「あぁ?どういうことだよ」
意味深な言葉に獅子神が反応してから、たっぷり十秒くらいをかけて叶は器の中を空にする。待ち構えてたように店員が器を下げていくのを見届けた後で、ようやく口を開いた。
「多分ね、今頃、晨君のせいで銀行が慌ただしくなってる」
紙ナプキンで口元を拭いながら、のんびりと告げられた言葉はあまり穏やかな内容ではなかった。
「あぁ?なんだそれ?」
「まだ分かんないけどさ。いろいろバタバタしてるっぽいよ?もしもカラス銀行がやってる裏のアレコレが明るみに出たらオレらもめんどくさいことになりそうだし。だから、ちょっと距離置きがてら海外でホリデー楽しみつつ様子見ってことで」
先程叶に冗談めいて言った国外逃亡という言葉が当たらずとも遠からずといったところらしい。
「そう言えば梅野連絡とれなかったな」
「ふーん。じゃあ、しばらくこっちからの連絡は避けといた方がいいかもね」
そんなアドバイスを口にしながら席を立つ。促されるように時計を見るとそろそろ保安検査場に向かった方がいい時間だった。
「ま、せっかくだしさ。楽しく旅行しよ」
少し浮かれた調子の叶に呆れながら、獅子神は伝票を引っ掴むと会計へと向かった。
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マシュマロ
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