ぴかぶ
2025-04-09 23:48:58
2630文字
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夜にあなたとクリームパイを

パと髭の会話。バソ写真参加。短め。全年齢。

クリームパイ企画にのっかりたかった、などと供述しており…

「ティーチ殿」
夜の食堂で、パーシヴァルが親しげに声をかけた相手は意外にも黒髭だった。
「もしよければ、相席しても?」
ドーゾと返せば、恭しい一礼。大ジョッキのビールを呷る黒髭の向かいに、騎士が座った。食事はすでに済んでいるらしく、コーヒーのカップを手にしている。
最近でこそバーソロミューを介してやりとりが増えたが、二人だけで顔を合わせる機会はあまりない。
いくつかの言葉を交わした後、さりげない調子でパーシヴァルが切り出した。
「最近、クリームパイが流行っているそうだね」
「流行ってるっつーか。まあ、話題にはなってまつねェ」
主に隠語的な意味あいのほうで。きっかけは忘れたが、カルデアの一部において盛り上がり、今現在ホットなワードであることは間違いない。
「うん、私の耳にも入ってきたよ。なにやらおいしいお菓子のほかに、別の意味も含んでいる言葉だとか」
爽やかな顔でさらりとそんなことを口にする騎士を見て、黒髭は口髭のなかでニヤリと笑みを浮かべた。
この騎士。別の意味、いわゆる……スキンなしでの行為を示す隠語だと知っているのか。
「それで先日、夜にバーソロミューと二人で……
おやおや、まだ宵の口だってのに、ぶっこんでくるじゃねーの。パーさんって、そういう話題もいけるクチ? いつの間にか混沌・悪に染められちゃった?
つらつらと言葉を紡ぐパーシヴァルを眺めながら、悪友と付き合い始めた騎士の変化に思いを馳せる。ジョッキを傾けつつちらりと目をむければ、騎士はその視線を捉えてニコリと笑みを返した。
「背徳感があるけれど、とても楽しい時間だった。よければ、そのときの写真をお見せしてもかまわないだろうか?」
パーシヴァルがあまりにも自然に携帯型端末を取り出したので、黒髭はえーっと大げさな動きではしゃぎたてた。
「えーッ、イイの? てか、ぱーさん、写真撮るタイプに見えなかったけど、そういう趣味もあったんだァ?」
パーシヴァルは、少しばかり口ごもる。照れのようなものに、かすかに頬を染めて。
「まあ、私もそれなりに……記録というか、大切な瞬間は留めておきたいと思うようになって。これは、きっと彼と親しくなってからの変化なのだけど」
パーシヴァルは手にした携帯型端末に触れ、写真フォルダの中にある画像をさらさらと指先でなぞった。
「何度も加減をしろと注意をされたが、結果的にとてもうまくいったんだ」
「それって、ここで見ていいやつ〜?」
「ええと……
きょろきょろと用心深く周囲を見渡す。
円卓や、バーソロミューの姿はない。
「うん。大丈夫、だね」
「つか、勝手に見せてバーソロのやつがギャーギャー言わね? 拙者、とばっちりはゴメンよ?」
「ええと、許可が下りているものとそうでないものがあって。このあたりの写真は大丈夫……
パーシヴァルは端末の画面を黒髭にだけ見えるよう、静かに傾けた。
「これが、そのクリームパイだ」
画面いっぱい真っ白だ。ナンジャコレ。
よくよく見れば、大きな皿にクリームもこもこの立派なクリームパイが鎮座している写真であった。
「あらまッ! 美味しそう〜〜!! パーさんって、お菓子とか作るんだァ〜!」
黒髭の大げさな反応に、パーシヴァルはふふふ、と嬉しそうに微笑んだ。
「夜にキッチンを借りて、二人で作ったんだ。白い生クリームの下にはカスタードとバナナを敷き詰めて。バーソロミューは夜遅くにこんなもの作るんじゃない、ボリュームがすごすぎて絶対に食べきれない、と言っていたけど、生クリームを軽やかなものにしたら気に入ってくれて、結局二人で完食したんだよ」
「へぇ〜」
「クリームパイは、罪深くも幸福の味わいなのだと知った次第だ。とても……うん、とても美味しかったよ」
幸せそうに頷くパーシヴァル。
「作る過程も楽しくてね」
ぐいと前のめりに、画像を見せてくる。
クリームを泡立てるバーソロミュー。
盛り付け前のパイ生地。クリームを絞るバーソロミュー。盛り付け中のクリームパイ。器にのせられたもこもこの完成品。
すぃー、すぃー、と。何枚もの写真がスクロールとともに流れていく。
……あ、ペットとかアカチェンの写真見せられてる気分だわコレ。
すぃー、すぃーー。
完成品を手に満面の笑みのバーソロ。味見中、鼻にクリームをつけたバーソロ。撮るなと手のひらで制するバーソロ。クリームパイを僅かに残したまま虚無顔になっているバーソロ。……って、バーソロ多くね? シャッターを切る頻度にゲオルギウスの片鱗を感じ取る黒髭である。
「ありがとう。上手に出来たものだから、つい誰かに見てほしくなって」
これもまた、彼と付き合うようになってからの変化だとパーシヴァルははにかむ。
「円卓の皆には、なかなか……こうした写真を見せるのは気恥ずかしく。話題に上げるのもなんだか気が引けて。彼をよく知るあなたならと、つい声をかけてしまった。お寛ぎのところを、突然声掛けして申し訳なかった」
律儀に頭を下げられて、黒髭は騎士ってのは堅苦しい生き物だな、などと考える。
つまるところ恋に恋する騎士さまは、気軽なノロケ先を求めていたってワケね。
「飯テロ、ドーモー! バーソロの面白写真が撮れたら、また見してちょーだいネ」
パーシヴァルは改めて礼を言い、少しばかり雑談を交わした後に去っていった。
食堂をあとにする騎士の足取りは軽やかだ。二人で作ったクリームパイの写真を披露できたことが、余程嬉しかったとみえる。
しかし黒髭は、知っているのだ。
あのもこもこクリームのどでかいパイを完食した後で、二人がもう一つのクリームパイを実践したことを。
ひと狩りいこうぜ、と意気込んでいたバーソロミューが食べ過ぎを理由にゲームの予定をキャンセルしたのと、胃薬を所望するバーソロミューから騎士の気配がぷんぷんすると某医神がぼやいていたのは同じ日のことだった。
あいつら、バク盛りの甘味の後もやることやってんのネ。おおかた、とても盛り上がったのだろう。
あの騎士は結果として、どちらのクリームパイもしっかりと堪能したというわけだ。
――罪深くも幸福の味わいなのだと知った次第だ。とても美味しかったよ――
それがどちらのクリームパイの感想かは知らないが。
「ウェップ。拙者、胸焼けしそーでござる……
酒を飲みに来たはずなのに、無性に濃いコーヒーが欲しくなる黒髭であった。