望月 鏡翠
2025-04-09 23:48:05
867文字
Public 日課
 

#1680 「追跡」「鉄路」「関内」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 長旅は、鉄路の終わりから本番を迎える。当初思ったよりも難しい仕事にあることを、察してため息を着いた。
 列車を降りたらここから先は、本当に目を離すことができなくなる。それまでは車窓の景色を眺めながらのんびりとして、駅に着いた瞬間だけ気を張っていればよかった。走行中の列車から飛び降りることは不可能である。どこの駅で降りるのかだけ、確かめれば良かったのだ。
 しかし、対象はなかなか列車を降りなかった。目的地がどこであるのかをみたときに、察するべきだったのかもしれない。訳ありの人間がたどり着くのにおあつらえ向きの場所が、そこにあったではないか。
 線路の終点は、上司の権力が及ばないところだった。任務のための様々な特権を発揮することができない。だから身を隠しながら後をつけ、入る必要がある場所に行くときは正規の手順を踏んで、調査を進める必要があった。
 そこは外界と区切られている。
 経済的な特区であり、法律の代わりに経済が特別な法を強いている。出入り口には関があり、その内側を関内と呼びならわしている。
 当然列車を降りても、駅から出るためにはボディチェックと身分証明書が必要だ。訪問理由を問われて、私は観光だと答えた。何かを持ち出すつもりがないのなら、それが一番簡単だ。
 ただしその場合、中で働くことも何かを持ち出すこともできなくなる。
 残念ながら、中で働く予定があるのだからこれは虚偽申告ということになる。私はともかく、追いかける目の前の男も関を素通りしたことが意外だった。
 あらゆる特権が許されているからこそ、そこはある程度身元が保証された人間でなければ入ることができないはずなのである。ならばきっとあの男の経歴はきっと見た目通りではない。何かを隠している。
 つまり今回の仕事は空振りではないのだろう。
 あまり電車の中で、のんびりするべきではなかったのかもしれない。相手もプロだとすると、追跡に気づいている可能性があった。
 気を引き締め直す。追いかける影が雑踏に紛れる。
 ここからが仕事の本番である。