モノクロ
2025-04-09 22:54:56
4623文字
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【4/12-14 レカペ展示】御冗談もほどほどに

ウルデプ未満からデプのうっかりでウルデプになる小話。

Xに投稿した『お題を使って140文字SSを書く』を加筆修正しました。

 今日はローガンがこの世界に来て半年、そしてなんだかんだありつつも同居が始まって半年の記念日でもある。
 こりゃ、お祝いするしかないだろ。そうと決まれば即行動。いつもは安さ重視でスーパーを選んでるけど今日は特別に大奮発しちゃう。だってローガンに美味いもん食わせたいし……いや、まぁ、俺も食うけどね? でもさ、やっぱり主役はローガンだろ。俺の世界を救った救世主! まさにヒーロー! 野獣味あふれるウルヴァリン! ローガンが喜びそうなメニューを考えながらメモを書いていく。
「あらら、肉料理ばっかじゃん」
 ハンバーグ、ステーキ、ビーフシチュー、ローストチキン、ローストビーフ、テールスープ、サラミと生ハムのサラダ、肉巻きおにぎり――
「ちょっとわんぱくすぎない? ローガンって二百歳超えてんだよな?」
 もう一度メモを見直す。
……ま、いっか! ヒーリングファクター万歳!」
 今日だけだし、ローガンと俺にはヒーリングファクターがあるし、お仕事でいっぱい身体動かしてるし、と誰もいない部屋でぶつぶつと言い訳を並べる。――まてよ、ただ好きなもん食うだけだよな? 別に周りに迷惑のかかることじゃないし、言い訳とかいらないんじゃないか……? あー、やだやだ最近いろんなハラスメントやらなんやらあるから変に悩んじゃった。
「よし! とっととお買い物行って、ちゃっちゃと作りますか」
 パーカーをしっかりと被り、メモと財布とキティちゃんのエコバックをポケットに突っこんで意気揚々と部屋を飛び出した。

 今日はローガンだけがTVAからの依頼でお仕事だったりする。――都合がいいなって思った? 俺も思った。でもサプライズしたかったし、今回はご都合主義の神様の采配におとなしく感謝しとく。
「ローストチキンは熱々で出したいから仕上げは後でやるとして……はい、これで完成っと」
 目の前にはローガンのために作った肉料理だらけの特製フルコースが並んでいる。品数を作りすぎて、いつも使ってるテーブルに乗り切らなかったから物置でずっと放置されてた空の木箱をピッカピカに磨いて簡易テーブルに変身させた。……え? 木箱になにが入ってたのかって? それはご想像にお任せする。俺から言えるのは木箱の元々の持ち主は我が家の親愛なる盲目な老女ってことだけ。
「思ってたより早くできたな」
 時計を見るとまだ時間に余裕があった。因みにお仕事終わりの腹ぺこクズリちゃんのご帰宅は早くてもあと二時間後だ。
「どーすっかなぁ。もう一品作っちゃう? でもちょっと作り過ぎな気もするんだよな。全部味濃いし塩分過多って感じだし……いや、今日はお祝いだからいいんだけどさ。色んなもんの中年男性の一日の摂取量なんて俺らには関係ないし」
 キティちゃんがプリントされたエプロンを脱いで洗濯カゴへと入れる。様々な肉料理の匂いがべったりと染み付いて少し離れていてもエプロンから美味しそうな匂いがする。
「もしかして俺にも匂いが染み付いちゃってる? まだ時間あるしシャワーでも浴び……
 そういや肉料理に気を取られてデザートを用意していなかった。別に家にある材料でなにかしら作れなくもないけど特別感はまったくない。――だったら俺がデザートになるのは?
 この半年でローガンとは随分と親しくなったと思う。初めはお互いに距離を測りかねてたけど今じゃ背中を叩いたり、肩がぶつかるくらいの軽いスキンシップは日常茶飯事だ。会話だってけっこう弾む。なら『デザートは俺』って冗談を言っても笑って許してくれるんじゃないか? それにこれって結構ありきたりなジョークだと思うし、なんか、こう……仲良さげじゃない? 冗談を言って笑い合う、とかさ。
「ジョークが滑ってもそれはそれ、これはこれ。パンケーキ作っとけばどうにかなるだろ! とりあえずシャワー浴びよ、マジで肉臭い。あっ、これってもしかして下拵え的な? きゃっ、俺ちゃんウルヴィに食べられちゃう♡なーんでね。やるならとことんやらなきゃな。ぼっこぼこなアボカドお肌がしっとりもちもちになるようにお高いボディクリームも贅沢に塗っちゃお。まってろローガン! 最高のデザートに俺はなる!」
 お手入れセットを抱えて勢いよくバスルームへと駆け込んだ。

 指差ししながらひとつずつ確認していく。
 料理よし、カトラリーよし、ドリンクよし、んでもってアボカドお肌のコンディションもよし! ちょうど全ての確認が終わるとタイミングよく玄関のドアが開く音がした。ナイスタイミング! 俺は急いで玄関へと向かった。
「おかえりローガン!」
「ただいま。……ん?」
「なにキョロキョロしてんの?」
 鼻をひくつかせながらなにかを探るように辺りを見回すローガンに首を傾げる。 
「パーティーでもやるのか?」
「パーティー?」
……美味そうな匂いがする」
「いっぱい作ったからね」
……誰かくるのか?」
「いや、その予定はないけど……?」
 なんでローガンはそんな怪訝そうな顔してんの? まさか今日、なんか予定があったりした? マジかよ、勝手になんもないと思って大量に肉料理を作っちまった。……冷蔵庫に入り切るかな。消費するにしてもアルには塩分が多すぎる。あっ、ローラならいけるかも。あの子はいつだって食べ盛りだ、次の週末に振る舞おう。いったん入り切るだけ冷蔵庫にぶち込んで――
「ウェイド」
「なぁに?」
「もしかして……半年の記念か? 俺がこの世界に来てからの」
「おっ!!??」
 さっきまで考えてたことが綺麗さっぱり吹き飛んだ。
 今、ローガンの口から「半年の記念」って言った? 言ったよな? なぁ、言ったよな!? なんてこった。まさかこれは夢……
「夢じゃない」
「お返事ありがと、いつからアンタも吹き出し読めるようになったの? あ、映画じゃ別の言い方だったりする?」
「なんの話だ……?」
「ま、細かいことは置いといて二人きりのパーティーと洒落込もうぜ!」
「は? お、おいっ、ウェイド!」
 まだ意味がわかってませんって顔したローガンの広い背中をぐいぐい押して半ば強制的にサプライズ会場へとご招待した。
「タラーン! 見てよ、ローガンのために作った肉料理だらけのフルコース! あんたが前に好きだって言ってたやつばっかでしょ? 俺の記憶力がよすぎで驚いちゃった? うんうん、なんでこの料理を作ったって? そりゃもちろんローガンがさっき言った通り、アンタがこの世界に来てから今日でちょうど半年記念日だからだ。んでもって同居を開始して半年たった記念日でもある」
「そうだな」
 まるで子どもを愛おしげに見つめる親みたいな顔をしたローガンからの視線に身体がそわつく。
「これでも感謝してるんだ。アンタがここに居るおかげで俺の世界は消えずにすんだ。……殺るか殺られるかのハードすぎる出会いだったけど今は、ほら、そこそこ仲良くなっただろ? 軽いスキンシップだったするし談笑だってする。あー、なにが言いたいかというとこれはアンタを喜ばせたくてやったサプライズってこと、おわかりいただけた?」
……十分に伝わった。ありがとうウェイド。だが、ひとつ訂正させてくれ。俺がここにいるからお前の世界が消えなかったんじゃない。お前が、ウェイドが俺をクソみたいな掃き溜めから引っ張り上げてくれたから今があるんだ」
 ローガンの真っ直ぐな言葉に息を飲んだ。
 俺がアンタを掃き溜めから引っ張り上げた? 違う。アンタはいつだってヒーローでどんなに腐ったように見えても困ってる人間、自分に助けを求める人間を放っておくことなんてできない根っからのお人好しだ。
 ――でもそんなヒーローから熱烈なお言葉を貰うのも悪くないね。
「そう言ってくれて嬉しいよ。俺もなんだかヒーローになったみたいだ」
「俺はヒーローだろ?」
「んんっ、これ以上は供給過多だからいったんお口チャックしてくれる? ……はっ、もしかしてせっかくの料理冷めちゃってない!? すぐに温めるから座って待ってて」
「手伝う」
「仕事終わりで腹ぺこだろ? それにすぐにすむよ」
……わかった」
「あはっ、不服そうな顔! せっかくのパーティーなんだぜ、めいっぱい楽しまなきゃ。まずは食前酒からいっとく? 今日は特別な日だからいつもみたいに酒量のことはうるさく言わないから安心してよ。……なんとサラダにも肉が入ってる。生ハムの原木を買っちゃったから今後の消費を手伝ってくれると助かる。一時のテンションで買い物をするのはよくない。いつまで覚えてるかわからないけど次は気を付けなきゃ」
「次の買い物には俺も連れて行け」
「来てくれんの? なら重いのいっぱい買っちゃお」
「いいぞ、持ってやる」
「あらあらサービス精神旺盛なクズリちゃんですこと」
 おしゃべりしながら温め直した料理を手際よくテーブルへ並べていく。やっぱり全部乗り切らなくて即席テーブルとなった木箱の上にも皿を置いた。
「お待たせ。では、失礼して。――アンタがこの世界きた半年記念と同居半年記念に、乾杯」
「乾杯」
 ローガンの正面に座って互いのグラスを軽く合わせる。なんだか気恥ずかしくて笑ってしまった。
「さ、食べよ! さっきも言ったけどこれ全部ローガンのために作ったんだ」
「あぁ、美味そうだ」
「んふふっ、腹いっぱい召し上がれ! あ、ちゃんとデザート分の余裕は残しといてね。とびっきりのデザート用意したからさ」
「デザート……?」
「そ、なんだと思う?」
……パンケーキか? お前が作るやつは好きだ」
「おーっと、まさかの予想的中? 当たったのは俺の予想だけど」
「違うのか?」
「半分あたりかな、パンケーキも用意してるからね。正解は――お、れ、ちゃ、ん♡しかもちゃんと下拵え済み! ぼっこぼこなアボカド肌もしっとりもちもちで思わず触りたくなっちゃうてざ、わ………………あー、ごめん。冗談だよ。よくあるジョークだろ? 『デザートは俺』ってやつ。アンタと仲良くなれたと思ってたからちょっと悪ふざけし過ぎちゃった。だから、そんな怒んないでよ」
 俺のジョークを聞いて、さっきまで笑ってたローガンから急に表情が消えた。こっちからじゃ感情が読めない顔でまじまじと見られんの本気でいたたまれない。あーあ、やっちゃったなぁ。もしかしたら今日限りで出てっちゃうかも。
……怒ってない」
「嘘だ。だったらなんでそんな顔してんの」
……デザートはお前なんだよな?」
「いや、だからそれは冗談だって」
「お前なんだよな?」
「なに? どうしたの? 急にバグった?」
「奥手なお前に遠慮してたがその必要はなかったらしいな」
「まって、なんの話――
「ウェイド。デザート、楽しみにしてるぞ」
 今度はローガンがなにを考えてるのかがハッキリとわかった。色気だだ漏れ過ぎんだろ! どちゃくそエロく舌舐めずりしやがって! ……え、マジで? マジでデザートとして食べられちゃうかんじ?
……本気?」
「当たり前だろ」
「わぁお、バッキバキなおめめ! ……もしかして俺ってばやらかした?」
「ははっ、もう遅い」
 俺が今世紀で一番焦ってるってのに、ローガンは満足気な顔をして俺が作った料理を頬張っていた。