彼は食事に出る前に、相棒の猿を宿に繋いだ。宿といっても部屋や風呂や畳が用意されているわけではない。用意されるのは物置小屋のような場所である。そこに家から預かった一張羅を、金目のものに見えないように隠し、藁を集めて寝床を作るのである。時には厩が宿になることもある。
抱きしめれば暖かいから、馬や牛とともに眠るのは嫌いではなかった。
猿を連れていき、呼ばれた場所で芸をする。それが男の生き方だった。
獣と生業をともにする彼は、どんなに高貴な身分のものから重用されても、穢れたものとして扱われる。身に不浄が染み付いているというのである。
何を持って穢れとするのか、彼はわからなかった。
ただ相棒の猿の毛は撫でれば気持ちが良かった。今は冬だから余計にふわふわとして、抱いて眠れば暖かい布団がないことにも耐えられた。一番親しくしてくれる友人が相棒の猿だったのである。だから、それと同じであることが、穢れだというのならそれでもいいという気がしていた。
仕事がつつがなく進み終われば、他のことは何も望まなかった。
そのために、正月になる前に、郷に辿り着かなければならない。そうでなければ厩祭りに間に合わないからだ。一年の最初に、悪いものが大切な財産である家畜に害をなさないように、追い払う。その祭りには、猿楽が必要なのである。
猿を連れていると、流石に飯屋には入れてもらえない。泊まる場所を貸してくれた人が、芸を見せたお礼に食事をくれることもある。しかし今回はくれなかったので、相棒を置いていくしかなかった。
ちょうど近くにうどん屋がある。報酬をもらうまで旅費に余裕はない。無料でつけてもらうことができる天かすばかりをたくさんかけて、食いでを増やした。猿回しであることがバレて、獣臭さに気づかれる前に出ていく必要がある。
彼らはそれまで何もいっていなくても、猿回しだと気づいた瞬間に、獣臭いと行ってくるのである。それが不思議だった。
依頼をした人がいい人であって欲しいと思うのだが、彼にはよくわからなかった。
その人柄については、依頼を代筆した者からの手紙に略載があった。しかし文字を読むことができる彼の父親は、その内容を読み流し、金払いが良さそうだというところしか、重要視しなかった。
だから彼は、依頼人のことを名前しか知らなかったのだ。
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