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sousakuyamamusume
2025-04-09 18:34:48
2296文字
Public
一次創作
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彼岸警邏隊6
※リボルバーを片手で撃つと反動で大変な事になるので真似しないように
鳥居をくぐる。
足は俺の意志に背いて勝手に動いている。1つ鳥居をくぐるごとに、1つ思い出せなくなる。忘れたくないこと。忘れちゃいけないこと。
「俺には妻と娘がいる。職場には相棒と上司がいる。」
呪文のように繰り返し呟く。幸い、声に出してさえいれば忘れることはない。顔も、名前も、声も、姿も、よく思い出せない。それでも、これだけ繰り返し呟いているということは、俺にとって大事な人達だったのだろう。
「
……
俺には妻と娘がいる。職場には相棒と上司がいる。」
繰り返す。
立ち止まろうとする努力は早々に諦めた。どんなに止まろうとしても操り人形のように歩かされるなら、せめて記憶の保存を試みる方が賢明だろう。大丈夫、あいつらの性格はまだ覚えてる。
「へぇ、壊れてないんだ。ここまでたどり着けたのは3人目。でもみんなここで壊れちゃった。」
声がした。思わず顔を上げる。
「お前は?」
「遊ぼうよ。」
「帰らないといけないんだ。」
何故帰らないといけないのかはよく思い出せない。だけど、俺は帰らないといけない。
「どうして?」
「どうしても。」
「ふうん。大事な人でもいるの?」
「いるさ。俺には妻と娘がいる。職場には相棒と上司だな。」
「名前は?」
「名前、は
――
」
……
思い、出せない。言いよどんだ俺を見て、目の前の少年(?)はくすくすと笑った。
「顔も名前も思い出せないんだ。そんな薄情な君の帰りを待つ人なんていないよ。」
「そんなわけがあるか
……
!」
顔も、名前も、声も、思い出せないけれど。
あいつらがそんなことをしないことだけは、よくわかる。
「名前が思い出せないぐらいで娘と妻を諦められる男と思うか!?死線をくぐった相棒を!叱咤激励してくれる上司を!信用しない男だと思うか
……
!」
ポケットに入っていたのは、銃だった。とりあえず片手でもってみる。持ち方は、あまり覚えていないけれど、そこまで間違っちゃいないはずだ。
「
……
ねぇ、君さ。」
「なんだ!」
「自分の名前、覚えてる?」
「忘れたが、それがなんだ!俺には勿体ないほどの妻と!俺なんかよりしっかり者の娘と!俺を庇ってくれる相棒と!導いてくれる上司の存在さえ覚えていれば十分だろう!」
そう。
俺には、大切な人がいる。帰るべき場所がある。それだけわかっていれば、十分だ。俺の名前は、きっと誰かが覚えてる。仮に誰からも忘れられたとしたら、新しい名前で生きていけば良いだけだ。
「君、狂ってるよ。」
「気狂いで結構!」
狙いを定め、そして
「
――
よく耐えた、少し休め。」
「
……
だ、
……
?」
「それにしても、随分と熱烈に呼んでくれたわね、おかげで助けられるからよかったのだけれど。」
セーフティも外してないリボルバーを片手で撃とうとするスギナを後ろから制止し、ゆっくりと引き倒すように座らせる。その間に『かみかくし』を捕縛したのはツルギだ。
「ええと
……
もしかして、相棒と上司?」
「そうだ。俺が相棒で、あっちが上司。」
「女性だったのか
……
。」
こりゃ相当もってかれてんな。てかその状態でよく俺らと家族のこと覚えてたなこいつ。
……
いや、こいつはそういうやつか。
「ここからでたら全部思い出せるけれど、多分倒れるから覚悟しておきなさいね。」
「ああ、はい
……
倒れる?」
「そりゃお前、自分が思ってるより相当もってかれてるからな。多分割れるような頭痛がするぜ。」
「勘弁してくれ
……
。」
こうして話してると記憶喪失が嘘みたいだが、こいつ、割とずっと素だったんだな
……
。ま、いいことだ。
「こっちよ。コール、スギナを抱えておけ。」
「
……
スギナってのが俺の名前?変わった名前だな俺。」
「そりゃコードネームだからな。」
「コードネーム?俺の職業って一体
……
」
まともに会話ができたのはここまで。ひょいと境界を越えて現世に帰った途端、スギナの奴は何も言わずに気絶した。
「
……
痛みを感じる暇すらなかったのは不幸中の幸いかしら?」
「どうだかな
……
。」
目を開けたときに視界に入ってきたのは、一人の男。目のピントがいまいち合わない。
「お、お目覚めか?」
「旦那
……
?ッ、旦那!ミツキは!ユミはッ!?くそっ、なんで忘れてたんだ俺
……
!」
全部思い出した。忘れていた家族の顔も、名前も、目の前に居る旦那のこと、助けに来てくれたツルギさんのこと。あの鳥居での出来事のことと、その前の出来事も。
「落ち着け落ち着け、二人ともなんともねぇから。」
「本当か!?」
「嘘なんかつかねぇっての
……
だいたい、お前のかみさんが狙われたときにお前が咄嗟に庇ったからこうなったんだろうがよ。」
そう。連続記憶喪失者事件を追ってる最中、犯人の『かみかくし』に狙われたのはユミだった。箱に吸い込まれそうになってたのを咄嗟に突き飛ばして、代わりに俺が箱に入って、気がつけば鳥居だらけのところにいた。あとは知っての通り。
「
……
よかった。」
「よかねーっての、この。」
「いッ!なにすんだよ旦那!」
「ったく、心配かけさせやがって。」
それは
……
「
……
悪かったな。」
「いいさ、おかげで大金星だったからな。奴さん、取り調べの最中もお前のこと怖がってたぜ?『あんな人間初めて見た』って。」
「そうか?別に俺は普通だが
……
。」
「お前のような普通がいるか。」
俺は、青葉 茂生。コードネームはスギナ。俺には、妻の由美と、娘の美月と、相棒のコール(亘)と、上司のツルギさん(藤原さん)がいる。
……
大丈夫、今度は全部思い出せた。
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