饂飩粉
2025-04-09 08:24:17
6103文字
Public
 

伊右衛門送人夢小説

pixiv投稿時のタイトルは"もっと近くで夢を見て"です。
夢主は既に送人と付き合っている設定です。チームZの中でブルーロック入寮前から恋人と真剣交際してそうなのって送人ぐらいしかいないと思います。
でもそうなると、入寮後は離れ離れになるんですよね。あくまで夢小説なので寂しくなり過ぎないようにしたつもりです。気が向いたら後日譚とか描きたいですね。

 昼休み、送人が放課後の部活前に話したいことがあるって言ってきた。神妙な顔つきだったから少しだけ胸がざわついたけど、後でスマホのメッセージアプリに「別れ話とかじゃないから!」と来ていたので安心した。
 放課後、屋上に出られる扉の前で送人と待ち合わせた。雰囲気的には屋上に出たい気分だったが、残念ながら普段は施錠されている。
「大事な話って、コレのこと?」
 送人から渡された封筒は日本フットボール連合からのものだった。中の手紙を読むと、どうやら送人が強化指定選手に選ばれたらしい。それは結構。送人はウチの学校で一番サッカーが上手いのだから、選ばれるとしたら送人以外いないだろう。
 っていうか送人、一旦読んだ手紙を律儀に封筒に戻して私に渡してきたの? 几帳面過ぎてちょっと面白い。
「手紙、もう一枚あるだろ?」
 送人の言う通り、手紙は二枚重ねになっていた。もう一枚の方には日時と集合場所の地図が記載されている。
 集合場所は日本フットボール連合が所有するビルの三階、多目的ホール。名前からしてそこそこ広そうな場所だ。
「送人の他に何人くらい呼ばれたんだろうね?」
「いやそこじゃなくて、場所。もっとちゃんと読んで」
「場所……場所…………東京!?」
 送人の言われた通り住所をよく読めば、見慣れない郵便番号の後に「東京都〜」と続いている。
「送人、東京行くの!? てか十一月二〇日って平日じゃん!」
 ついでに言うと送人の誕生日の翌日だ。
「そう、そうなんだけど」
「お父さんお母さんの許可取った?」
「うん」
「妹さんの許可は?」
「妹にもちゃんと話したよ」
 話したんだ。やっぱり律儀だな。
「いいなあ、東京かあ」
 去年の修学旅行でディズニーランドや横浜のみなとみらいや中華街には行けたが、池袋や渋谷には結局寄る暇がなかった。次行くならサイゼはマスト。ミラノ風ドリアの写真をストーリーに上げて自慢したい。東京のロフトやドンキもちゃんと見たい。高知は四国の中でも、いや全国的にもチェーン店からハブられすぎてる!
 送人がわざとらしく咳払いして、私をまだ見ぬサイゼリヤのボックス席から学校の階段へと引き戻した。
「そのことで、お前に提案がある」
「何? あ、送人だけでサイゼリヤ行くのは絶対ナシだから。私より先にサイゼデビューするのだけは許さない」
……一緒なら、どうだ?」
——え?」
 送人の声が小さすぎて、よく聞こえなかった。私の聞き違いでなければ、一緒に、って言った気がする。
「だからその、俺と一緒にサイゼデビューってのは、どうかなって……
 送人、耳まで真っ赤。隣にいる私のことちゃんと見ろ。私達付き合ってるんだし、デートくらいもっと堂々と誘え——ん、デート?
「それってつまり、一緒に東京行こうって、そういうこと?」
「そういうこと、です」
 いきなり敬語。
 待って、送人と東京旅行? 送人とサイゼ? 嬉しい。嬉しいけど急。急過ぎ。一緒に新幹線だか飛行機乗って、地下鉄とかモノレールとか乗って、渋谷歩くみたいな?
「え……ええ…………えーっ!」
「おい、声が大きいって!」
「あ、ごめん。なんか理解追いつかなくって」
「おう……
 今、私の耳も赤いだろうな。二人して顔真っ赤にしてる。これで付き合い始めて一年も経つの? こんな関係が許されるのって付き合って三ヶ月くらいまでじゃない?
…………
…………
 沈黙。
 なんか、なんか話題。送人との東京デート。何が必要だろうかと考えた時、まず真っ先に確認しなきゃ行けないことがあるのを思い出した。
……私、両親に相談しなきゃだ」
「そ、そうだな。そう」
 送人も普段の冷静さを取り戻したみたい。でもまだ何か言いたそうにしている。
「何?」
 私が聞いても、しばらく目を逸らしたりうなじを掻いたりして、送人はたっぷりと時間をかけてから、ボソッと呟いた。
……あの、言っとくけど、日帰りだから」
「はい? そんなの当たり前——
 日帰りってことは、泊まったりはしないってことで、ホテルとか予約する必要はなくて——
 気がついたら私は送人の頭をどついていた。
「バカ! 送人それセクハラ! 変態!」
「はあ!? いやそんなつもりじゃないって! ごめんってば!」
 送人にそんな意思がないことはわかってる。でも色々想像させるようなこと言う方も悪い。もっとサラッと言ってくれればいいのに、さも大事なことのように言うんだから!

 付き合って一年。送人とは、まだちゃんと手を繋いだこともない。

———

 送人との東京日帰り旅行にあたって、両親から提示された条件は三つあった。

 一つ、サボる日の授業分は必ず予習すること。
 二つ、東京に向かう時、着いた時、両親から連絡があった時、必ず無事かどうかを返事すること。
 三つ、引率してくれる送人のお父さんの言うことをちゃんと聞くこと。

 送人も私も、三つ目の条件があることを完全に失念していた。よく考えたら高校生だけで高知から東京に行かせる親なんてほとんど居ない。東京でのコンサート遠征する友達だって、誰かの親と一緒に行くのが当たり前だ。
 それにしても、私の両親は思ったより寛大だなと思った。模試の結果は良かったし、少し早めの卒業旅行ということで納得してくれたらしい。
「それじゃあ、よろしくお願いいたします」
 そして当日、別にまだ結婚とか全然そんなことじゃないのに、私の両親は迎えに来た送人のお父さんに深々と頭を下げていた。送人のお父さんも同じくらい頭を下げて、私は送人のお父さんの運転する車に乗り込んで高知空港へ向かった。
 飛行機は三人がけの席で、通路側から送人のお父さん、送人、私。
 なお、車の中からずーっと会話はない。たまに送人のお父さんがあとどれくらいで着くよとか、フライトの時間は何時だよとか、必要最低限のやり取りだけ。当たり前でしょ、送人のお父さんの前で何を話せと? ていうか送人のお父さん、本木雅弘にかなり似てるな。送人もまあまあ似てるけど、お父さんはそっくりさんとしてテレビ番組とかに出れそう。
 送人も私と何話したらいいかわかんない感じになってて、その様子はちょっと面白かった。フライト中に送人のお父さんがトイレ行ってる間にちょっかいかけたら、笑ってくれた。
 成田空港に着いた。まだここは千葉県。電車を乗り継いで東京に向かう。送人が招待された集合場所の最寄りまでは地下鉄だった。昔の携帯電話は地下鉄だと電波届かなかったらしい。電車での移動中は、送人とこっそりメッセージアプリで会話していた。

『送人のお父さん、めっちゃ本木雅弘に似てない?』
『実はそれは俺も思ってる』
『www』
『ごめんな。俺の父親寡黙で』
『イケオジだから許す』
『人の父親のことイケオジ言うなよ』
『私のお父さんと比べたら超イケてるよ』
『それは、そうかも笑』
『おい!!w』

 そんな他愛のないやり取りをしてる間に、目的地に辿り着いた。

———

「まだ、集合時間まで余裕あるな。お昼ご飯にしようか」
 送人のお父さんが時計を確認しながら言った。送人の集合時間まで、あと九〇分以上もある。
 駅から集合場所までの道すがら、サイゼリヤがあったことを私は心に刻みつけている。
 私は考える。どうやってサイゼリヤに送人のお父さんを誘導するか。さっきの道に色々あったんで戻りながら探しましょうか〜的な感じで自然にサイゼを見つけた風を装うか?
「父さんはちょっと一人で行きたいところがあるから、一旦別行動にしようか」
「えっ? あっ、ハイ」
 それから送人のお父さんは送人に三〇〇〇円くらい渡して、送人は一度断ったけど、結局受け取った。
 それから送人のお父さんは「送人の集合時間三〇分前になったらまたここで」と言い残して、来た道とは反対方向の雑踏に消えて行った。
 私と送人はあっけに取られたまま、送人のお父さんの背中を見送った。姿勢綺麗だなあ。猫背のうちのお父さんとは大違い。
……気を利かせてくれたのかな?」
「みたいだな……
……
……サイゼリヤ行くか?」
「行く!」
 それから私は送人と初めてのサイゼリヤを堪能した。小エビのカクテルサラダで例のドレッシングの味を知った。温玉乗せミラノ風ドリアは温玉別につけなくても美味しかった。辛味チキンはリピあり。イタリアンジェラートはフツー。ドリンクバーは頼まずに水で我慢。どちらかと言えば美味しさよりも、行ったという実績が解除できたことの喜びが大きかった。全部写真撮ったから後でストーリーに上げよっと。
 食べ終わってもまだ少し時間があったが、朝からずっと移動していたためこのまま休憩がてら時間を潰すことにした。
 私は座席についたまま、他のお客さんが写らないように内装の写真をコソコソ撮りながら送人に聞いてみた。
「そういえばさ、あの集合場所で何すんの?」
「それが俺にもわからん」
 送人は水の入ったコップを傾けながら眉間に皺を寄せてる。
「問い合わせとかは?」
「したけどお答えできませんの一点張りだった」
 そんなことあるか? 思わずカメラを起動したスマホをいじる手が止まる。
「なんか怪しくない?」
「俺もそう思う。けど、日本フットボール連合はちゃんと実在するし、強化指定選手選抜の件は事実なんだと」
 私は送人がちょーっとだけニヤけているのを見逃さない。
「選ばれて嬉しい?」
「嬉しいさ。うちのサッカー部で選ばれたのは俺一人だし」
「送人は我が校のエースだもんねえ。フォワードもミッドフィルダーもディフェンダーもなんでもできちゃうし」
「それほどでも、あるかな」
 送人が冗談めかして笑う。送人は意外と冗談を言うのが好きだ。真面目そうな印象持ってる人が多いけど、ノリがいい一面もある。
「そのうちゴールキーパーもやっちゃったりして」
「ゴールキーパーはさすがになあ、どんなに頑張っても点取れないからなあ」
「でも部員からもキーパー顔って言われてるんでしょ?」
「俺そんなにキーパー顔かなあ」
「ん〜?」
 送人と見つめ合う。大人びた顔つき。スーツ着てたら完全に社会人。告白された時はびっくりしたけど、実際両想いだったからめっちゃ嬉しかったな。第一印象は真面目で実直って感じだったけど、二人きりの時はふざけることだってある。なんでゴールキーパーやってそうに見えるんだろう。その大きな体で包み込んでくれそうだから? そういえば私、手繋いだこともないし、送人とハグしたこともない。さすがにちょっと恥ずかしいっていうか、私も送人もそういうところは奥手なんだよな。
 そんなことを考えてたらなんか恥ずかしくなってきて、私は目を逸らす。
「どの辺がキーパー顔なんだろ俺?」
「うん、そうなんじゃない?」
「?」
 送人は私と、手を繋いだりハグしたりしたいって、思ってるのかな。
 今まではなんとなく恥ずかしかったけど、旅行がもたらす開放感が、私に少しだけ勇気をくれた。
「ねえ、送人」
「ん?」
「集合場所戻る時さ……手、繋ごうよ」
…………おう」
 サイゼリヤから集合場所までの、五分にも満たない短い道のり。
 私は送人と初めて、マジで初めて手を繋いで、そんなに恥ずかしがるようなことでもないかもって思った。
「ねえ、緊張してる?」
「ちょっとな」
 手を握る力が少しだけ強くなって、私も思わず握り返す。
「私も、ちょっとだけ」
……
……高知に帰っても、手繋ごうね」
…………おう」
 私はその時、ちゃんと送人の顔を見てなかったし、何か含みがありそうな雰囲気を察することもできなかった。

———

 送人のお父さんと合流して、日本フットボール連合のビルの前に私たちは立っている。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
 送人が一歩踏み出した時も、私は何の疑問も抱いてなかった。
「そういえば何時ごろ終わるの?」
「それが、俺にもわからん」
「私が気まずくなるから、早めに終わらせて来てよ?」
 私は送人に近寄って、送人のお父さんに聞こえないように囁いた。
……サッカーに関わることだから、どうだろうな」
「え……?」
 いつもなら「はいはい」と済ませてくるはずなのに、この時だけは、なんていうかマジレスだった。
 その時ようやく、嫌な予感というやつが私の中に芽生えたのだが、問い詰めるにはもう、遅過ぎた。
 送人は集合場所のビルの中に消えていき、送人のお父さんと私だけが残された。
「あの、送人くん、帰って来ますよね?」
……実は、君にも送人にも、話していなかったことがある」
 私の縋るような問いかけを、送人のお父さんは優しく払い除けた。残酷なくらい、正直な人だ。
 それから送人のお父さんに話を聞いた。
 日本フットボール連合からの封筒には、強化指定選手となった高校生の保護者向けの同意書が含まれていたという。
 その同意書とは、日本をワールドカップ優勝に導くためのストライカー育成プログラムへの参加を了承するか否かだった。長期間の合宿のようなプログラムで、詳細も終了時期も未定。参加にあたっては本人の意思を尊重するが、保護者の同意が得られない場合は後者を優先すると書かれていたらしい。
 送人の両親は、同意書にサインしたという。
「送人には何も言わなかったんだが、あいつも薄々気づいていたんじゃないかと思うよ」
「どういう、ことですか?」
「同意書には、そのプロジェクトの開始日が書かれていた——今日からなんだ」

———

 帰りのフライトは、送人の分のチケットはキャンセルになった。
 高知空港に戻ってくると両親が迎えに来てくれていた。高知に帰って来たんだという実感と合わせて、送人がいないことの寂しさが雪崩のように押し寄せて来た。私はお母さんに抱きついて久しぶりに号泣した。はたから見たら親子の感動の再会っぽく見えただろう。好きな人が突然目の前からいなくなったことの悲しみで、年甲斐もなく泣いているだけなのに。
 こんな形で置き去りにされるなら、ハグでもキスでもしておけばよかった。でもしていたら逆にもっと寂しくなってたかもしれない。
 それから三日後、日本フットボール連合が開いた記者会見で、送人が参加したプロジェクトが大々的に発表されていた。
 青い監獄(ブルーロック)プロジェクト。
 目的は、三〇〇人の高校生達の中からたった一人のストライカーを生むため。
 送人は今、そのプロジェクトの中にいる。
 たった一人になるまで、どれくらいの時間がかかるんだろう。
 送人が自分の夢を叶えて欲しいという気持ちと、そんなすごい存在にならなくていいから早く帰って来て欲しいという気持ちが、私の中で大きな渦を巻いている。
 本当は、その両方がいい。
 私のそばで、夢に向かって頑張ってよ。