いつの日だったか思い出せないが彼はたばこをふかしていて、私は本を読んでいた。
特に話をするでもなく彼の自室でそう過ごしていた。
たまに何かをふと考えるようなそぶりをしたかと思うとまた何事もなかったかのようにたばこをふかす。
私も特にそれを聞くでもなく本のページをめくる。
そういえば、もう何時間経ったのか。彼のお茶は冷めてる様子だった。
たばこの煙で輪っかを作り遊び始めた彼は少ししたらそれに飽きたのかこちらを向いた。
「ばーそろみゆ、」
「ん?なんだい」
「おまん、ばっさりいたねえ」
「ばっ?」
「失敗するいうことちや。」
いきなりなんなんだ。しかも私が失敗するとは何を?できれば避けたいのだが。
「私は何を失敗するのだろうか、いぞー。教えてくれないか。」
吸っていたたばこを灰皿にぐりぐりと押し付ける。
そしてまた新しいタバコを取り出し机の上のマッチで火をつけた。
「それ私のアロマキャンドル用の、」
「しらん」
マッチを軽く降り火を消す。それをまた灰皿へ
ぽいと入れる。
「おまんのことなんぞしるか。」
彼の表情を注意深く見ても怒りの色は見えない。
「いぞー、どういう意味だいそれ」
こちらに煙がかからないよう俯きがちになりながら煙を吐く。そして彼の宝具を思い出させるような下からの角度で私を見た。
「なに、それでも間違うとは意味が違いますから。ね、船長さん。」
一瞬呼吸が止まったかと思った。
体がこわばり言葉に詰まる。
彼の普段隠れている目が少しだけ姿を現す。
見慣れた夕焼け色の瞳があの時は血のように紅く見えた、そんな気がした。
「誰が庇えと言った!!!!!!」
彼が目の前で崩れ落ち、そのまま動かなくなる。致命傷だと嫌でも分かってしまった。
倒れて動かない彼の体が光の粒子となって消え始めていく。
「ふざけるな!!!いぞー、勝手な、」
「おまんが先にした。」
「は?」
「おまんが散々先にしてきたじゃろ」
傷を受けた部分を押さえ、真っ白い顔をしてそう言う。
「はっ、ばっさりいたねえ。」
失敗だ、ざまあみろ。
そう言っているのだ。彼は。
最善の選択っちゅうんは取らせんぞ」
ぼけなす、とでもつけそうな勢いで。
「でもおまんのそれは間違いではにゃあ...」
「....」
「ま、今回はわしの勝ちじゃ。」
ふ、と笑ってみせてから彼は倒れ完全に光の粒となって消えた。
いつの日だったか。彼がタバコを吸っていて、私が本を読んでいた日。
お前は失敗する、と言ったあの時の彼の顔を思い出していた。
むかついた。むかついたからそうしただけだ。
いつも飄々としていて当たり前かのように淡々と選択するあいつのことが自分にはよく分からなかったから。
なんにも考えずに自分を犠牲にしている訳では無いことは分かっている。あいつなりにちゃんと考えてのことだろう。でも、それでも1人くらいそれに抗ってみせてもいいだろう。言うことを聞いてやらなくてもいいだろう。
だって、腹立つし。
自分にはそんな難しいことは分からないのだから。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.