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望月 鏡翠
2025-04-09 01:30:25
1221文字
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日課
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#1678 「葦簀」「じゃがりこ」「仏壇」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
神も仏も信じていないが、人が死んだときだけは自分たちが何の宗教に属していたのか思い出す。
故人は今は仏壇に納められて、部屋の一部と同化している。俺は自分と従兄弟が日本人であったことを思い出した。こんな風の一部に溶け込んでいる今はいない誰かのことを、俺は実家や親戚の集まりや、あるいは友達の家などで生活の一部としてあたり前に受け入れていたものだ。
東京と比べれば十分に涼しいが、それでも夏の暑さが張り付く部屋には、エアコンが付いていなかった。葦簀のかかった窓は開き、風が通るようになっていたが、対して涼しくはない。
先に到着していた年の近い従兄弟は、仏壇に酒とじゃがりこを備えて、苦い顔をされていた。昔の俺は、その振る舞いと大人の反応を見て、やってはいけないことや身につけるべき常識を予習して、うまく立ち回っていたことを思い出した。
しかし、今はもう大人に怒られることを怖がる年ではない。子供のときは馬鹿だと思っていたけれど、気取らず自分のやりたいようにやる従兄弟の振る舞いが、気持ちよく感じられるようになっていた。
座布団を持ってきて、隣に腰を下ろす。従兄弟は自分の家であるように、歓迎してくれた。
「カジュアルなお供えものだな」
「あの世で食べるなら、味が濃い方がいい。もう塩分過多を気にしなくていいんだら」
そうかもしれない。スナック菓子をつまみに酒を飲むのが好きな人だった。
ただ、俺ならじゃがりこじゃなくて堅あげポテトのブラックペッパーを供えただろう。
「駄目だったかな」
駄目だったら自分で食べようと言い出しそうだ。
「酒は駄目な場合もあるらしい。食べ物は腐りにくいものが好ましいんだと」
俺は、スマートフォンの知識を披露する。
「その基準なら、良さそうだ」
満足そうに頷くと、従兄弟は立ち上がり、隣の席が空いた。何となく気が合うような顔をして隣に座ったが、従兄弟と俺は特に親しいわけではない。今どこで何をしているのかも、知らない程度の仲だった。
部屋から辞すのかと思えば、窓に向かう。手をひらひらと振るっている。
何をしているのかと思えば、窓にかけてある葦簀にカマキリが張り付いて、従兄弟を威嚇している。外に出してやろうとしたらしい。
ハンカチでそっと包んでやろうとしたのだが、カマキリは意外と立派な羽を広げると飛翔して、仏壇に飛び込んだ。
「カマキリって飛ぶんだな」
飛べるという情報を得てしまうと、虫感が強くなって気持ち悪い。
カマキリは仏壇にぶつかり、落下してじゃがりこの蓋の上に着地した。ちょうどいい台座になっている。
それを見て従兄弟は首を傾げた。
「供えた扱いになるか?」
「お前がお供えする気持ちで乗せたんなら、なるのかもしれない。生き物はアウトかな」
「面白そうだから、お供えの気持ちでいよう」
酒とじゃがりことカマキリが届いたら、じいちゃんあの世でびっくりするだろうな。
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