望月 鏡翠
2025-04-08 23:17:21
978文字
Public 日課
 

#1675 「エスキス」「童形」「状通」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 石畳の街をかけていく子供は、時代遅れの童形だった。街の人がその後ろ姿を目で追ったのは、物珍しさゆえではない。それがどこの誰であるのかは、みんな知っていた。
 それは人ではない。式神である。この街には珍しく、陰陽師がいるのだ。安倍晴明の再来と謳われる高名な術師である。式神は郵便屋に任せることができない最も大切な書状を任されるのである。
 では、街にたった一人の陰陽師の使役する式神はかけていく先はどこか。
 なんと、レストランなのである。そこのメインシェフが、探ね人である。街一番のレストランの味を先代よりもワンランク上に持っていった、名物シェフである。
 ランチタイムが終わり、ディナーが始まるまでの時間に、シェフは一仕事終えて休憩を取る。ずっとフライパンやら鍋やらが熱せられていて蒸気が満ち満ちて、さまざまな匂いに包まれる。自分が味付けをされているように感じられてしまうくらいの、熱くて狭くて過酷な職場である。
 休憩の時間になると、仕込みを見習いたちに任せて、レストランの最上階の半分屋根裏部屋のような自室に戻る。そこで水圧が弱くてお湯を溜めながらでないと使えないシャワーを浴びて、汗と油と食べ物の匂いを洗い流すのだ。
 式神の子供はそこにやってくる。窓から入ってくる。その懐には大切な手紙が入っているのだ。街一番のレストランではあるが、食事を運ばせているわけではないらしい。
 どちらも、街の中では有名人だった。
 しかし、親しくよしみを交わす理由があるようには思えなかった。
 街の有名人である二人の状通は、街の中で注目の的だった。
 なんの話をしているのやら。
 式神の手に委ねた手紙は、メインシェフ以外の誰の目にも触れることがないから、どんな便箋に書かれたものなのかすらわからなかった。
 シェフは風呂上がりに、式神の手を借りて髪の毛を乾かすことに使いながら、手紙に目を通す。
 陰陽師からの手紙の内容はシンプルだ。料理を教えてもらっているのである。式神に教えれば完璧に再現できるのだが、陰陽師は自分で式神を作り上げるように、手づから料理をしたいと思っているのだ。
 だからシェフは、料理のエスキスを書いて送り返す。それは門外不出の秘伝のレシピなのだが、絶対に外に漏らさないとわかっているから、躊躇いなく教えることができるのだった。