なかみゑ
2025-04-08 16:57:46
2739文字
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(雑&伏+尊)手のひらの真ん中に(9.29改稿)

雑渡さんに伏木蔵くんというお気に入りができて良かったな、と思っている尊奈門さんのおはなし。別途、短くオチがつくギャグ版もあります。



「組頭、それは?」

 諸泉尊奈門は不思議そうに首を傾げた。彼の上司である雑渡昆奈門が、己の手のひらを見つめていたからだ。
 ちゃぶ台を前にゆるりと座っている雑渡の大きな手のひらには、小さな花びらが一枚乗っていた。おそらくは桜。今の季節、行くところに行けばいくらでも風に舞っていそうな、なんの変哲もない小さなひとひらに見えるそれを、雑渡は大切そうに手のひらの真ん中に乗せて眺めていた。

「花見でしたら、良い席をご用意しますが」
「んーん。これがいいんだよ」

 雑渡は尊奈門に首をふって見せると、包帯だらけの頭から唯一出ている目をゆがめた。かなり機嫌がいい時の表情だ。

 ああ、もしかして。

 尊奈門はようやく察することができた。雑渡にこんな顔をさせられる存在は多くない。

「これはね、伏木蔵くんの額についていたんだ」

 やっぱり。

 鶴町伏木蔵。それは雑渡が、想い人もかくやというほど熱心に目をかけている子供の名前である。

 まだ尊奈門の半分ほどしか生きていないその子供は、一言で言えば変わり者だった。
 見た目も立場も畏怖される存在であるはずの雑渡にあっさりと懐いてしまい、雑渡からもすぐに気に入られてしまった。怖がりなのに剛胆で、旺盛な好奇心と回転の速い頭で雑渡とのやりとりを楽しんでいる。

 そのうえ雑渡と呼吸も合う。雑渡のほんの少しの動作だけで、伏木蔵はまるで最初から意図を知らされていたかのように動く。雑渡が軽く視線を向けただけで、抱き上げやすい姿勢をとったり、両手を差し出したりするのだ。

 気づけば膝の上に座っていた。そんな風に感じてしまって焦ったことすらある。

 膝の上……他ならぬ組頭の懐にタマゴとは言え忍者が入りこむのを見過ごしたのだから、たとえ雑渡本人がうながしたのだとしても尊奈門にとっては不覚であったし、人の隙を突くような動きを無意識にしているかと思うと末恐ろしい。

 雑渡と会話をはずませ、プロの忍者の目を盗んで動く。伏木蔵の底知れなさはそのまま忍者としての素養とも言えそうで、忍術学園の中でも注目に値する子供なのは間違いないだろうと思える。

 そうだとしても雑渡の入れ込みようは極端で、あまりにも伏木蔵をかまおうとする姿に当初は尊奈門も戸惑ったものだったが。すぐに納得のほうが大きくなって、止めようとする気などなくなってしまった。

 なにしろ雑渡が楽しそうなのだ。

 雑渡はかつて大火傷を負い、生死の境をさまよったうえ、三年も足踏みをすることとなった。そして、忍者として返り咲き、以前よりも高い組頭の地位にまでのぼりつめたはいいものの、なにかが変わってしまっていた。
 表面的には気さくで時に気ままな雑渡昆奈門だったが、そのふるまいはよくよく見ればただただ『組頭』として在らんとする、個を捨てたもののようで。
 三年間看護をし、尽くしてしまった自分。復帰を心から待ち望んでいた面々。そんな自分たちの思いに報いるために生きているように見えて、尊奈門は後悔に似た気持ちになることすらあった。

 私は本当に良いことをしたのだろうか? 組頭には今、嬉しいと感じることがあるのだろうか。

 揺れる心のままに尊奈門が見つめても、雑渡はあいまいな笑みを浮かべるばかりでその心中は知れなかった。
 そんな、尊敬できてもどこか悲しい存在だったあのころの雑渡より、面白い子供に興味を持ち、共にたわむれ、目の前にいなくとも笑みを浮かべるほど喜びを感じている、今の方がずっと良いと思う。

 本当に良かった。組頭が笑ってくれるようになって。

 だが伏木蔵は、本来ならば縁を得るはずもなかった敵対勢力、忍術学園の生徒だ。
 雑渡とのつながりは、雑渡自身が懸命につなごうとし続けなければすぐに失われてしまうだろう。

 それこそ、手のひらに乗っている小さな花びらのように。

 少し目を離せば風に吹かれて消えてしまいそうで、強く握ればくしゃくしゃになってしまうであろうはかない縁を、雑渡は大切に大切に守ろうとしている。

 今は静かに手のひらに乗っている花びらが、いざ風に吹かれたなら雑渡はどうするのだろう。その拳を閉ざしてしまうのか。握りつぶしてしまう危険を冒すくらいなら風にさらわれたほうがましなのか。それはわからない。わからないけれど。
 風はなく、雑渡が穏やかな顔をしていられる今が、できるだけ長く続いて欲しい。

 ……あの手のひらの真ん中に、無粋なものが寄り付きませんように。

 大きな手のひらの上の小さな花びらにもう一度目を落として、尊奈門は願った。





 - 了 -










あとがき:
 例の桜の絵の伏木蔵があまりに可愛くて、見つめているうちに浮かんできたお話です。
 この花びら、雑渡さんのふところにおさまりそうだなあ、と。
(桜の絵2025.4.7にアニメ公式アカウントより発信された春のイラスト。元は2016年カレンダーの絵だったようです。)
ttps://x.com/nep_nintama/
status/1909079662644637715

 雑渡と伏木蔵は、観ているほうが「なぜ?」と首をひねることがあるほど仲良しですけれど、映画『軍師』であやうくそうなるところだったように、いつなにがあって交流を断たれるかわからない仲です。断たれた交流を力づくでつなぐことはできても、もしもそうなったら伏木蔵の気持ちなり個性なり可能性なりはどうなるかわからない。尊奈門はそういう心配をしています。
 そんな、雑渡が力を持っているからこその心配も、伏木蔵が育つにつれ方向性が変わっていくのですけれど(笑) それはまた別のお話。
 それから、尊奈門は伏木蔵が雑渡を人に戻してくれたように思っていますが、伏木蔵への感情を吐露されているくらいですから尊奈門もかなり心を開かれています。そのあたりの自覚はしにくい尊、というのも書きたかったもののひとつでした。

 ではでは、お読みいただきありがとうございました。少しでも好き要素がありましたら、ぽちっと応援していただけると嬉しいです。









おまけ:後日談






更新:2025.9.29 加筆修正。

 この話では尊奈門の『後悔のような迷い』も書きたかったのですが、あまり伝わりそうな形にできていなかったので、そのあたりを中心に加筆しました。未熟で申し訳ない。

 あと、「雑と伏は別に『カプ』じゃなくてもこの程度の執心はあるでしょ」と思ったのでカプ分類をやめました。原作もアニメも仲良しすぎてワンダー楽しいです。