饂飩粉
2025-04-08 14:36:58
3792文字
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五十嵐栗夢夢小説

ブルーロック五十嵐栗夢の夢小説です。
本人との会話はありません。
イガグリの名誉のために言うと本作の一番最初のセリフは単なるモブのセリフです。
pixiv公開時のタイトルは"Any way 0→1"です。

「今度どっか遊びに行こーよ」
 嫌に決まってんだろクソが。二度と話しかけてくんな。馴れ馴れしく肩触んな。胸やスカート見てんのバレバレ。多少顔が良くても無理。こういう奴はマージで無理。
 ……っていうのを丹精込めてオブラートに包んであげる。
「うん、暇だったらね」
「絶対よ? 絶対だかんね?」
 指差してくんなし。ヘラヘラしやがってよ。前見て歩け迷惑だろ。そのまま信号無視して車轢かれちまえ。
 ムカつく男子生徒はそのまま雑踏に消えていった。
「何アイツ。必死過ぎ」
「金髪似合わなっ」
「でも確かバスケ部じゃん。一年の後輩に超イケメンいるらしいよ」
「それ知ってる! 背高くて超有望なんでしょ」
 正直いうと、こういう会話もあんまり好きじゃない。友達二人は楽しそうに喋ってるけど。私はスマホ弄ってるフリしてる。ホーム画面を右に左にスライドさせてる。帰ってAPEXやりたい。今使いたいのはヒューズ。だけどこうしてある程度はつるんでいないと、学校での立場が危うくなる。学校での友達関係の構築は、社会科の勉強をするよりもずっと政治的だ。きっぱり断定することを避ける。最近の国会議員もだいたいそんな感じ。公約には掲げたけど実現するとは言ってません的な。遊びに行く約束も似たようなものだ。行くかもとは言ったけど絶対行くとは言わないし、逆に行かないとも言い切らない。付かず離れずの距離感を保つことが大事。お堅い奴だとも、軽い奴だとも思われたくない。その方が自分の価値を高めやすい。
「やば、今日シフト早いんだった!」
 私は今気づいたかのように驚いてみせる。今日はバイトだと伝えていたがそもそもバイトの日だというのが嘘だ。
「え、やば大丈夫?」
「大丈夫。今からならギリ間に合う。またね!」
 そう言って私は繁華街から足早に抜け出す。とにかく家に帰ってゲームがしたかった。くだらないおしゃべりと、それ以上にくだらない男子とのやり取りでどれだけ私の時間は削れてしまっただろう。一番慣れてるブラハ使えば多分ブロンズからシルバーには上がれたと思う。ランクマはそんなにやらないけど。
 本当はこんなことリソースを割きたくない。私には私のやりたいことがあるのに、マイペースに行こうとすれば「付き合いが悪い」と言われる。実はあの子達も同じこと考えてるのかもしれない。もしかしたら本当に私に対して友情めいたものをら感じてくれているかもしれないけど、残念ながら私はあまり感じていない。一緒にプリ撮ったり自撮りしたりフラッペ飲んだり恋バナしたりするけども、特別親しい仲かと言われるとなんか違う気がする。こんなこと考えてるってバレたら絶対ハブられるだろうな。

 自宅の最寄駅に向かうまでの電車に乗り込むと、同じ車両に他の学校の男子生徒グループがいた。シューズケースみたいなのを提げているから、多分運動部だ。その証拠に、そんなに近づいてないのにちょっと汗臭い。最悪。それにさっきからガヤガヤうるさい。もっと最悪。他の車両に移ろうにも絶妙な混雑具合で身動きが取りづらい。無理やり人の隙間を通ろうとすると嫌な顔してくる奴もいるから、甘んじて受け入れるしかなかった。
 ってか、喋るのはギリ許すけど声のボリュームもう少し落とせよ。

「なあ、お前のそれマジのやつ?」
「当たり前だろ! 日本フットボール連合からの正式な招待状よ」
 どうやらグループ内の坊主頭の男子が他の部員達に何かを見せびらかしてるらしい。坊主頭ってだけでないわ。ないない。
 坊主頭は何やらサッカーの偉い人たちに実力を認められた、ということみたいだ。ってことはあの中でサッカーが一番上手いのはあの坊主頭なのだろうか。サッカー上手くても坊主頭だし、マッチョでもなさそう。マユゲも太いし、なんか本当にお寺のお坊さんって感じ。ナシ。ナシ寄りのナシ。
「それ集合場所東京? 金はどうすんの?」
「学校休むってこと? いいなー」
「ま、俺の才能にお偉いさん方も気づいちまったってことよ……
 坊主頭、鼻高々。まさか本当に人差し指で鼻の下擦る人間がいるとは。なんか褒めたらすぐ浮かれそうな感じ。
 ……まあこうやって電車の中で聞き耳立てて黙って値踏みしてる私も私だけどさ。
「そもそもこれ何のために集まんの? 合宿?」
「さあ? わっかんね」
「知らねーのかよ。大丈夫かそんなんで」
「合宿だとしたら、イガグリの親父さん許してくれんの?」
 坊主頭の名前はイガグリというらしい。流石にあだ名?
「親父は俺が夢を諦めるまでは辛抱強く待つっての。そこまで頭固くねえっ」
「でも坊主じゃん」
「坊主だからって頭固くねえよ南無山ッ!」
「ンフッ——
 やば、思わず吹き出した。イガグリくんはマジでお坊さんのとこの生まれらしい。サッカーよりお経読んだり境内を掃除してた方が似合いそ。
 あー、恥ずかし。変な汗かく。
「とにかく、俺はプロのサッカー選手になるんだよ。寺を継ぐのだけは嫌だしな」
 ……
「うぃ〜、イガグリカッコ良〜」
「茶化すな。俺は本気だ」
 …………
「でも就職先決まってんのいいな〜」
「住職になるなんて絶対嫌だね! 寺を継がないためなら何だってやってやらあ」
 …………案外、物事をハッキリと言うんだ。
 私とは大違い。なんか印象だけで決めつけて内心笑ってた自分が惨めに思えてくる。逆にムカつく。坊主頭でイガグリなくせに。
「でもプロになれなかったら継ぐんだろ?」
「そうだよ。だからプロになって人生変えんのよ」
 イガグリくんは例の招待状を、夢への片道切符か何かのように掲げている。電車内ではちょっと迷惑。
 実際、イガグリくんはサッカー上手いのだろうか。高校サッカーで有名な人って言えば、埼玉の吉良君とか? 確かモデルの雪宮君もサッカーやってたんじゃなかったけ。ここ愛知だって、霧隠学院がサッカー強豪なんじゃないの? 友達が霧隠のエース選手(確か乙夜って名前のチャラ男)とデートしたことあるって自慢してたっけ。その人達よりも上手かったら、ルックスは完全に負けてるけどもっと有名になってる気がする。実際どうなのかは知らないけど、プロになれそうなのはそういう人達なんじゃないの?
 でも、イガグリくんのことが、少し羨ましい。
 私はあんな風にハッキリとした物言いができないから。イガグリくんは一体どんな根拠があってあんなに胸を張ってるんだろう。
「俺はプロになるためなら寺を継ぐこと以外はなんでもしてやる」
 うわ、すっごい悪そうな顔してる。でも、私も顔に出さないだけで似たようなことして今家に帰ってんだよね。
 ……逆に、あのイガグリくんにできて、私にできないなんてことある?
 スマホが振動する。友達とのグループチャットだ。私宛にメンションしている。時間的にはバイト中のため、既読をつけてしまわないように通知欄から内容を把握する。

『さっきのバスケ部がイケメン後輩連れて来てくれるらしいけど、土曜日遊び行くっしょ?』

 土曜はゲームの先約がある。親も用事で家空けるらしいから、中学の同級生とAPEXやる予定——いや、それも行けたら行くって言ったんだった。でも中学の頃の友達は深夜アニメの話とかめっちゃしたし、久しぶりにそういう話めちゃくちゃしたいんだよな。鍵垢で独り言するんじゃなくて。でも高校での立場考えると、なんとも言えない。
 ……私はイガグリくんより弱いのかも。当然だ。会話を盗み聞きして、勝手に値踏みしてるんだから。いやでも負けたくない。覚悟を決めろ。絶対断ってやる。土曜はオタク友達とゲームする。決定。でも今はバイト中ってことになってるから返事は夜にする。オーケー。これでイガグリくんと少なくとも同等。私だってやれる。変われる。高校ではイケてるグループに入ろうと背伸びした結果がこれ。自分で自分の首を絞めながら息苦しさを感じている。解放されるためには、自分の手を離す勇気が要る。
 自宅の最寄駅に電車が到着した。
 なんと、イガグリくんも同じ駅で降りた。そういえば家とは反対方向だけど、ちょっと離れたところにお寺なかったっけ?
 イガグリくんと私は、ホームの両端にある改札口への階段を目指して別々に歩いていく。向こうは特に私のことなんて意識してないだろうけど、私はほんの少しだけ気になって後ろを振り返った。
 イガグリくんの背はそこまで高くないが、坊主頭ですぐに見分けがついた。
 ごめんね、そしてありがとう。君のおかげでちょっとだけ勇気が出た。君を踏み台にして、私は私のやりたいことをやる。次のバレンタインに、義理チョコくらいなら上げてもいいかも。って、いきなりそんなことしたら変か。

 それが高二の秋のこと。あれから翌年のバレンタインまで何度かイガグリくんのことを見つけようとしばらく駅で時間を潰したりもしたけど、結局再会できていない。あの時一緒にいた他のサッカー部の人達は、たまに電車で見かけるのに。
 やっぱりムカつく。なんでこんなことに時間を割いているんだ私は? 会ったところで話しかけるわけでもないのに。
 ただ、何故かあれっきりイガグリくんのことを見かけないのが、ほんの少し、ほんの少しだけ、寂しい。