三毛田
2025-04-08 08:52:51
1071文字
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56 16. 初めから掛け間違ったボタン

56日目
ならば掛け間違えなければいい

『穹。お前、やはり』
『ごめん、丹恒。俺、あっちに戻らないと』
『逃がすか』
 目の前に水の龍が現れ、振り返ると飲月の姿の丹恒。
 初めから掛け間違ったボタンは、少しずつズレていき。最終的に、致命的な間違いを起こす。
ああ、でも。
 彼にとどめを刺されるのであれば、きっと幸せなのだろう。
 今にも泣きそうな顔で、俺に向かって術を使う。その姿を最後に、意識は途切れた。
「はっ」
 飛び起きると、心臓がうるさいくらい速く鼓動を打つ。
 一糸纏わぬ姿の丹恒は、俺が飛び起きても眠り続けていて。
 それにホッとしつつ、ゆっくりと、そっと、ベタアドを抜けて水を飲む。
 あれは夢だ。だけど、嫌な夢。
「俺はもう、ナナシビトだ」
 彼らの元へ戻ることはない。俺をしてたのは、彼らなんだから。
 過去は過去。今は今。
 割り切っているつもりでも、そうではないのだと突きつけられた気がして。
 下着とズボン、シャツを身に着けて階下へ。
 シャラップが俺に気づいて声をかけようとしたけれど、それを制止して適当にシロップとかジュースを用意する。
「グラスはどれを使いますか?」
「適当だから、そこらのグラスでもいいよ」
「飲むのが貴方でも、カクテルなりモクテルなりを作るのであれば、きちんとなさってください」
「はいはい」
 まともなこと言えるんだ。なんて言っても、そこまで響かないのだから大人しくグラスと氷を用意してモクテルを作っていく。
「慣れていますね」
「ピノコニーの特殊なバーでバイトしたことあるんだ。その時に、店主に仕込まれた」
 シヴォーンは、元気にしてるかな。たまにはみんなで会いに行こうか。
「よし」
 色々考え事をしていたから、出来上がったのは変な色のモクテル。
 コンセプトも何もない。
 でも、今はそれでいい。それがいい。
「悩みがあるなら聞きますよ」
「お前のアドバイスはあてにならないから、遠慮する」
 ああ。美味しくない。
 このモクテルは、俺の迷う心。そのものだ。
 こういう時は、温かくて甘いものがいい。
「ご馳走様でした。グラスの片付けだけお願い」
「わかりました。良い夢を」
 まさかそんな事を言われるとは思わず、驚いて足が止まる。でも、すぐに階段へ向かい歩く。
「穹……
「起こしちゃったか?」
「違う。起きた。でも、寝る」
 シーツを頭から被り、寝ぼけ眼で俺を呼ぶ丹恒。靴を脱いでベッドへ上がり、腕を伸ばせば再び夢の世界へ。
「俺はお前と、みんなと旅をするから」
 そう耳元で囁くと、嬉しそうに笑うのだった。