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傘道
2025-04-07 23:05:46
4377文字
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ビリイト
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デートのスパイスはシナモン
znzrの🔫🔦小説です。🔫と女体化🔦(先天性)が映画&カフェデートするお話です。
ベッターのバックアップです。
ビリーはデートの待ち合わせ場所に向かって走っていた。
ルミナスクエアの映画館の前にたどり着くと、スマホを弄っている恋人の姿が見えた
腰まで届く深緑色の癖っ毛。
翡翠色の瞳を隠す洒落たサングラス。
猪を形どったスタッズがついたジャケット。
ポーチをベルトで留めたズボンは右足だけショートパンツのように短くなっており、健康的な太腿を晒している。
そしてビリーから継承した赤いマフラー。
何処かダウナーな雰囲気を持つ美女がビリーの恋人、ライトだった。
よかった、今日は絡まれていない。
ビリーはほっと安堵のため息を吐いた。
待ち合わせ場所にたどり着いた瞬間にナンパされている恋人を助けるのはよくあることだった。
「よう、待たせてたな。」
スマホを見るために俯いている恋人が見れるように屈んで手を振る。
「ん?パイセン。」
ライトはスマホから目を離し、ビリーの方を見た。
「なんとか映画始まる前に間に合ったぜ。さ、行くか。」
ビリーはスマホをポーチにしまったライトの手を取る。
ライトは緊張した面持ちで赤と黒の鋼鉄の手を見つめた。
「
……
どうした?」
「いや、なんでもないっす。」
ライトは少し躊躇いを見せた後、握り返し指を絡めた。
それを見たビリーは動揺してライトから顔を背けた。
そして突然ライトに話しかけた。
「今日、観るやつはアンビーのおすすめなんだ。」
「なるほど、それならハズレはないっすね。」
ふふっとライトは笑みを浮かべた。
いわゆる恋人繋ぎの状態で二人は映画館に入る。
適当に飲み物を買い、予約していたチケットを受付に見せて入場した。
チケットに書かれた席に二人は並んで座った。
数分後に館内が暗くなり、映画が始まる。
今回観る映画はリバイバル映画であり、とあるカフェにスポットライトを当てたのどかなストーリーであった。
血も暴力もない映画をライトは入場前に買ったオレンジジュースを片手で飲みながら穏やかな表情で観ていた。
ジュースを持っていない手はビリーの席側の肘掛けに置いてあった。
手袋に覆われた手は女性にしては筋肉質かもしれないが、ビリーからは華奢に見える。
苛烈なラッシュを敵にお見舞いしているとは思えぬ手だ。
視線を上げるとジャケット越し方でわかる胸の膨らみ、ストローを咥える薄い唇、翡翠色の瞳を飾るまつ毛。
やっぱり女の子なんだよなぁとビリーは後輩をチラリと見ながら心の中で呟いた。
『いくら無敗のチャンピオンとは言え、女の子なのよ。ちゃんとエスコートしてあげなきゃ。」
ニコの言葉が頭をよぎる。
今までのデートはゲーセンで一緒に対戦したり、郊外でライトのバイクに乗せてもらいドライブしたりしていた。
それを聞いたニコが「たまにはお洒落なカフェに行くとか買い物デートしなさいよ。」と呆れた。
インスタントコーヒーとカフェで出てくるコーヒーの味の違いがわからないビリーはお洒落なカフェに行くのにどう誘導すればいいんだ?と頭を抱えた。
それを見たアンビーが「この映画を観たら貴方の恋人、カフェに行きたくなると思う。」と1本の映画を勧めてくれた。
翡翠色の瞳がフィルムに釘付けになったのを見て、ビリーは視線を恋人からフィルムに戻す。
フィルムの中でカフェの店長と従業員がシナモンロールを作り始めていた。
伸ばした生地にシナモンパウダーとバターをたっぷり入れたフィリングを塗り始める。
そしてクルクルと成形し、鉄板の上に並べて映画の中の店長と従業員は今か今かと焼き上がるのを待っていた。
場面が変わり、オーブンから取り出されたのはこんがり焼けてバターの匂いを纏っているのが想像できるシナモンロール達だった。
少し冷ました後、飾り付けとして白いアイシングをかけて完成だ。
出来上がりに満足した店長と従業員は淹れたコーヒーと一緒にシナモンロールをテーブルに並べて味見する。
これはちょっと食べてみたいなぁとビリーは片手を顎に添えながら心の中で呟いた。
自分は食べられないから味を想像することしかできない。
しょうがないと半ば諦めていると、ゴクリと唾を飲み込む音が隣から聴こえた。
隣を見ると恋人がジュースを置き、サングラスをかけ直していた。
そう言えばライトは甘党ではないと自称しているが、ぶどう味のキャンディやかぼちゃのラーメンなど甘いものが好きだった。
今も映画に出てきたシナモンロールが気になってしょうがないのだろう。
『私、あの映画を観たらハンバーガーじゃなくてシナモンロールが食べたくなったの。だから映画を見終わった後、シナモンロールのあるカフェに行ったわ。』
映画を勧めてくれた同僚の言葉がようやくわかった。
ビリーもシナモンロールってどんな匂いがするかちょっと気になってきた。
これはカフェに行く口実ができたなとビリーは再びフィルムに視線を戻した。
初めから最後まで穏やかで平和なストーリーだった。
ホロウやエーテリアスの脅威から戦っている自分達からしたら何処かお日様のように眩しくて温かい物語だ。
「いい話というか
…
終始リラックスして観れましたね。」
映画館から出るとライトはそう感想を述べた。
「アクション映画もいいが、ああいうのも悪くないなぁ。」
「途中でパイセンが寝てないか不安にはなりましたけど。」
「あ、それで時々俺の方をチラチラ見てたのか
…
」
ちらっとお互いの視線が重なる瞬間が何度もあり、その度にちょっと可笑しくて2人は笑みを浮かべていた。
「あと、あの映画、その
…
」
ライトは咳払いをしてビリーから視線を逸らし俯く。
自分より頭一個分小さい恋人がもじもじし出したのを見て、ビリーは来た!と心の中でガッツポーズを決めた。
シナモンロールが食べたい。
そう言いたいが、食いしん坊と思われるのが恥ずかしいのだろう。
「そういや、映画に出てきたシナモンロールだけどよ。」
なかなか切り出せずにいる恋人のためにビリーから話題に出すことにした。
シナモンロールという言葉にライトはガバリと顔を上げた。
「映画の中でバターとシナモンのいい匂いって言われただろ?ちょっとどういう匂いが気になってよ。」
翡翠色の瞳がサングラス越しに期待で輝く。
「でも俺食べられないだろ?そこで提案なんだが、カフェに行ってシナモンロールを注文する。んで俺が匂いを嗅いだらライトが食べてくれないか?もちろんディニーは出すぜ。」
「
………
パイセンの奢りならいいっすよ。付き合ってあげます。」
しょうがないなぁと言わんばかりにサングラスをかけ直しているが、口元の緩みを隠しきれていない恋人が可愛らしい。
「えっとシナモンロールがあるカフェは
…
あ、ここだ。」
事前にノックノックでアンビーから送られていたURLを開く。
ちなみにノックノックは以下のメッセージが記されていた。
『ここのカフェのシナモンロールが映画に出てきたものに近かった。』
『シナモンパウダーがかかった飲み物もあるから貴方も楽しめると思う。』
『素敵なデートになるよう健闘を祈るわ。』
本当に教えてくれたアンビーには感謝しかない。
「よっしゃ!それじゃあ行こうぜ。」
ビリーはご機嫌な様子でライトの手を掴み、カフェに向かう。
ライトは一瞬戸惑った後、映画を観る前と同じように握り返した。
握り返した感触にビリーは一瞬歩を止めるが、嬉しそうな笑みをライトに向け再び歩き始めた。
木の温もりを感じるカフェで暖色の灯りに照らされた席に2人は座っていた。
映画の感想を話していると、待ち望んでいたものがテーブルに運ばれた。
「ほら、パイセン来ましたよ。」
ライトは運ばれてきた温かいシナモンロールを手袋を外した手に持ち、ビリーの顔に近づけた。
バターの芳醇な香り。
シナモンの上品な香り。
アイシングの甘い香り。
それらの匂いが調和して、嗅覚のモジュールをくすぐる。
「なんというかコーヒーが飲みたくなる匂いだなぁ。」
「確かにコーヒーと合いそうですね。」
ライトも自分の顔に近づけてシナモンロールの匂いを嗅いだ。
「サンキュー、あとはライトが食べていいぜ。」
「それじゃ、ありがたくいただきますね。」
パイセンの奢りですしと言いながら、ライトはシナモンロールをちぎり口に入れた。
ビリーも注文していたシナモンパウダーがかかったカフェラテを飲み始める。
お目当てのものが食べられて嬉しいのであろう。
向かいの席で恋人に見られているのにも関わらず、ライトはシナモンロールを目を輝かせながら夢中で食べていた。
あぁ、今日映画を観てこのカフェに来てよかったとシナモンのスパイシーで繊細な味を楽しみながらビリーは思った。
アンビーには何かお礼をしなきゃなとお礼の品を考えていると、ふっと映画を勧めてくれた日のことを思い出した。
『なんだかシナモンロールを食べたくなってきたわ。ビリー!デート終わりでもいいわ。シナモンロールお使いお願いね。』
ニコから頼まれていたお使いを思い出した。
「そういやこのカフェ、テイクアウトできるらしいぜ。」
指についたアイシングを舐めていたライトにビリーはそう言った。
「あー確かに大将やお嬢様が好きかもしれないですね、これ。」
「俺も邪兎屋用にお土産で買うかー。」
お互い家族とも言える場所に思い馳せ、温かな飲み物を飲んだ。
幸せの甘い匂いが2人を包み込んでいた。
シナモンロールが入った紙袋を抱え、2人は解散した。
バイクを停めたパーキングに向かいながら、ライトは抱えている紙袋を見下ろす。
シナモンの上品で繊細な匂いが鼻腔をくすぐった。
「まさかパイセンとこんなデートができるとはなぁ。」
いつもはゲーセンやバイクの音で賑やかなデートをするため、今日のデートは新鮮だった。
それと
…
『恥ずかしいのはわかるけど、ちゃんと握り返さないとダメだぞ。』
普段は照れてビリーに手を握られても、握り返せない自分が居た。
それをシーザーに話すと、先程の言葉を返された。
だから今日のデートでは握り返してみた。
動揺していたが嬉しそうな恋人を見て、勇気を出してよかったと心の底から思う。
手を取ってくれ、恥ずかしくて言い出せなかった自分のために提案までしてくれた。
今日もパイセンかっこよかった。
絶対本人の前では言えない言葉。
帰りを待っているカリュドーンの子のメンバー用以外にも自分用に購入したシナモンロール。
今夜、これを食べながらかっこよかった恋人の姿を思い出そう。
無敗のチャンピオンではなく1人の恋する女性になったライトは夕日に染まる道を晴れやかな気持ちで歩いた。
賑やかなデートもいいけど、たまにはシナモンが効いた穏やかなデートもいい。
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