Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
haru_haru0704
2025-04-07 18:29:58
2589文字
Public
Clear cache
将軍が見た亡霊
哥舒臨&忌炎 CPなし
亡霊を見た将軍の話
雨が降っている。
俺の行く手を阻む、陰鬱で忌々しい雨が。
俺は得物を握りしめた。今日もまた、あの亡霊が現れるかもしれない。
──その予想通り、背後に『それ』は現れた。
少しだけ言葉を交わした後、どちらともなく得物を掲げる。
数度の切り結び。だが今までの経験から、『それ』が俺に傷を与えることはできないと知っている。
ゆえに、あまり気が乗らない。本気で戦っても、無駄に体力を消耗するだけだ。
俺には、こんなまやかしと遊んでいる暇はない。今日も勝ちを譲ってやるとしよう。
わざと隙を晒してやれば、『それ』の得物が俺の心臓を貫く。
だが、それは見た目だけの話だ。俺の体には何のダメージもない。
勝利を得て満足したのか、『それ』はすうっと消えていった。
しんと静まり返った基地に、雨の降りしきる音だけが響いている。
そろそろ、出陣の時間だ。
隊の先頭に立ち、北落野原を駆ける。
残像を斬り捨てて、前へ。前へ。北落野原の最奥へ。
やがて、俺は辿り着く。
ここは、北落野原の最奥。鳴式のねぐら。
女のような見た目をした巨大な敵が、鎌を振りかぶる。
それを大剣で受け止め──思い出す。少しずつ。
そうだ。俺は以前にも、こいつと戦った。
戦って、そして。
俺は、敗けた。
「ッ・・・!」
哥舒臨は完全なる暗闇の中で、びくりと体を震わせた。
そう。彼がいるのは破陣基地でも、北落野原でもない。
ここは、鳴式によって作られた空間の中。
彼はずっと、鳴式が見せる夢の中で戦い、そして最後にはこの暗闇へと戻る・・・そんなことを繰り返し続けているのだ。
「はぁ・・・くそったれ。相変わらず悪趣味な奴だ」
哥舒臨は独り言ちた。
ここには、彼の言葉を聞き届ける者は誰もいない。彼を閉じ込めた鳴式ですら、おそらく聞いていないのだろう。
彼は黒炎で闇を照らし、あてもなく歩き出した。
しかし、行けども行けども先にあるのは暗闇ばかり。誰もいないし、何もない。
歩きながら、彼は先ほどまで見ていた夢の内容を思い返した。
夢の中の哥舒臨は毎回毎回、呆れるほどに寸分違わぬ行動を繰り返している。
次こそは違う行動をしてやる、といつも思うのだが・・・いったん夢の中に入ってしまうと記憶がリセットされ、自分が夢の中にいるという認識ができなくなってしまうのだ。
夢は、基本的には哥舒臨の過去をなぞっている。
雨が降り、北落野原へ出陣し、鳴式の元に辿り着き、そして敗れる。しかし、実際に起こった過去とは違うところがひとつだけあった。
それは、あの亡霊だ。
哥舒臨は、あんな亡霊は見たことがない。それなのに、夢の中ではよく見知っているという風に記憶が改竄されている。
まったく、妙な話だ。不気味と言ってもいい。
「誰なんだろうな、あいつ・・・」
亡霊の姿はいつも朧げで、顔もよく見えない。
髪はなんとなく花浅葱色のように見えるのだが・・・見覚えがあるような、ないような。
「・・・駄目だ。また眠くなってきた・・・」
強烈な睡魔が哥舒臨を襲う。
眠ればまた、あの夢を見るのだろう。
癪ではあるが、彼に抵抗の術はない。
彼はその場に腰を下ろし、ゆっくりと目を閉じた。
夢から醒め、また暗闇の中を歩く。
ずっとその繰り返しだ。
「はぁ・・・疲れたな」
哥舒臨がそう呟いた時、不意に背後から形容しがたい破壊音のようなものが聞こえた。
「!」
彼は驚き、後ろを振り返る。すると、そこには──
暗闇に開いた穴と、差し込む光。
それから、花浅葱色の槍先があった。
「哥舒臨さん!」
穴の向こうから、誰かが哥舒臨を呼ぶ。
そして差し伸べられた手。哥舒臨はその手を掴んだ。
そのまま、ぐいっと引き上げられる。
暗闇の世界を抜け出して、光あふれる世界へ。哥舒臨はとうとう、あの忌々しい空間からの脱出を果たしたのだ。
「哥舒臨さん、大丈夫ですか」
「眩しい・・・目がちかちかする」
哥舒臨はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
次第に目が慣れ、目の前の人物の姿が鮮明になっていく。
ふわふわと揺れる花浅葱色の髪には、見覚えがある。いや見覚えしかない。
何度も何度も繰り返される夢の中で見た、あの亡霊のものと同じ色だ。
「・・・お前、名は?」
哥舒臨が尋ねると、花浅葱色のその男は緊張した面持ちで名乗った。
「忌炎です。あなたの後任として、将軍を務めています」
「忌炎、か。・・・悪いが、よく覚えていない。こんなに目立つ兵がいたら、覚えているはずなんだがな」
「あなたの在任中は、軍医でしたので・・・」
「ああ、軍医だったのか。俺が医務室にいる時は、大抵寝ていたからな」
だから、よく覚えていなかったのか。なるほど腑に落ちた。
忌炎は苦笑しながら、「寝ていたんじゃなくて、気絶していたんですよ」と訂正する。
「・・・ともあれ、助かった。礼を言うぞ」
哥舒臨が軽く笑みを浮かべつつそう言うと、忌炎は目を丸くした。
なんだ?何か変なことを言っただろうか?
助けてもらったのだから、礼を言うのは当然だと思うが。
「・・・俺を、責めないんですか」
「はは、責められると思っていたのか?俺はそこまで心の狭い男ではないぞ」
「あ・・・そう、ですよね、すみません」
何故だかはわからないが、忌炎はおどおどしている。兵はともかく、軍医にはあまり厳しくした覚えはないのだが。
哥舒臨は忌炎の胸をドンと拳で突いた。さすがに将軍を務めているだけあり、忌炎はふらついたりしない。いい体幹だ。
「自信を持て。今はお前が将軍なんだろう」
「・・・!はい、ありがとうございます・・・!」
「ひとまず、破陣基地に帰りましょうか」
「ああ」
忌炎に促され、哥舒臨は歩き出す。
──くん、と不意に髪を引っ張られたような気がして、彼は後ろを振り返った。
そこには、昔と比べて随分と明るい雰囲気になった北落の地が広がっている。
「哥舒臨さん?どうかしましたか?」
「・・・いや。なんでもない」
今のは鳴式だろうか。この身はもう将軍でも何でもないというのに、しつこい奴だ。
哥舒臨は心の中でこっそりと悪態をつくと、再び破陣基地に向けて歩き出した。髪を引っ張られる感覚は、もう無い。
帰る道中、忌炎にあの夢の話でもしてやろう。案外、こいつも似たような経験をしていたりするかもな──。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内