akinoshiroihana
2025-04-07 11:47:21
3502文字
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バナナの日

名刺サイズオーバー隼ミチのつもりがミチ隼くさくなり竜馬も顔を出し(ノ∀`)アチャー
東映ミチルさんは自尊心強め、隼人は原作含め表面はともかく根は絶対がっつかない人格であるのがとても大事だと思う。

ミチルさんのパイスーはありゃ石森先生のデザインがルーツだろう、というのも少々、IG研究所はアイザックギルモア研究所。
(竜馬のは009やロボット刑事、ミチルさんはビジンダーや蜂女で、本当は別ものだと思いますが。)

「あらやだ」
暗い厨房からそんな澄んだ声がした、
春の朝の急にあたたまってくる強い日差しを避けてタイル張りの三和土に逃げ込んだ隼人が、鳥目になった視界の戻るまで、ひやりとしたそこに立ち尽くしていれば。

「ミチルさん、いたのかい」
何度かまじろいで視力を取り戻そうとしつつ、彼は冷たい土間の空気を揺らし呼びかける。
目の奥にまだ広がる緑色の闇の切れ端の向こうに映るのを見付けたのは、
厨房に、いつもの白と赤のパイロットスーツで立ち、頬を膨らませ何かを急ぎ咀嚼しているらしい、片手で口許を覆うミチルであり、もう一方の手で握っているのは、半ばまで皮を剝かれ歯形の残る一本のバナナだった。
「ああこりゃあ、失礼」
言えば何やら突然ぴしりと空気が凍ったので、彼と彼女しかいない空間で、隼人は内心小鳩のごとく首を傾げた、表向きは飄々とした緩い笑みを見せながら。

*

彼の、隼人の反応は、あくまでマドンナ的少女が盗み食いなどというお転婆な真似をしていたのを見てしまった事への申し訳なさでしかなかったのだが

待って、待って行かないでここにいて
腰に手を遣りふーっと息をついて、彼女は
「そう」わかっちゃう男の子が居合わせたんだもの、慎みを持っていただきましょうよ、とっても面倒だけど
など言うと、戸棚の一つに向き直り抽斗を開け、何かを取り出す。
皿の上に置かれた先ほどまでのバナナの脇にナイフとフォークを置き、隼人にもどうぞ、と向かいの椅子に掛けることを求め、調理作業用テーブルの下の椅子を引いた

「お母様も口を酸っぱくしておっしゃってたのよ、バナナだけは気を付けて食べなさいって。それをパトロールの後お腹がすいてたからって私ったら」
コマンドマシンの非常時の急降下や急旋回など考えたら、乙女の早朝の軽食は、更にとてもささやかなものだったのだろう
「お母様―――早乙女夫人か。俺達には『おばさんでいいのよ』って繰り返し言われる方だけど」
『ここ、普段はどなたのお席だい?失礼するぜ』そう言ってから腰掛けた隼人が、テーブルに肩肘をついて応じる。軽い笑みと共に。
「ええ、そうですともその方。とっても淑女なんだから。」
ざくざくざくかちん、と音を立て、横倒しになったバナナの尻尾部分が切り落とされた。ミチルのきめ細かに日に焼けた顔がすいと上がって、大きな目が隼人を向いた。だから隼人は言葉の続きを待つ。だが、少しして彼女は微笑みと共に目を伏せた。

(なんだ、そっちの「こりゃ失礼」じゃなかったのね)
隼人はファリック・シンボルの、男根を想像させやすい物体のいかにも敏感そうな先端を切り落とされても何も、微塵も、連想しなかった!「早乙女研究所のお嬢さん(17)が薄暗い台所で一人反り返ったバナナを咥えてた!」やそれ以上の詳しくなりたくない何かではなく、ただのはしたなさを目にしてしまった事への詫びであったのだ、とホッとした後、次いで彼女の中に勃るのは、その意外なまでの紳士的な反応に対する若干の落胆と心外。

「お母様ったら家に帰ってきたら、まずはお部屋できちんと着替えておいでなさいっていうの、学校帰りの時だけじゃないのよ、パトロールの時でもね―――
「わかるよ、うちの姉貴も小学校の間はお袋に文句タラタラだったさ」
「あら」
胸のボタンがどうにも目のやり場に困る場所に見事に当たって付いている、彼女のパイロットスーツの話に言及しようとしたのに、隼人はそれを流そうとさえしたような。
「いつもありがとうよ、お疲れ様」

両端を切り落とされたバナナの皮の、一片にフォークを突き刺して、リボンのようにくるくる巻き取る。改めて整然とした様子であらわれた薄黄色の可食部と皮の間にナイフを差し入れ剥がしていけば、子供でも猿でも真似できる、無造作に剝かれてあった皮が、脱がれた手袋のようにしとやかにたたまり皿に這った。そこまでの間、ミチルは次の台詞を思いつけない。

ミチルが機体から下りて、研究所誂えのパイロットスーツのまま人と長く話すのはあまり良い気がしないだろう、と隼人は察している。男の竜馬でさえ体の線と隆起がよくわかり、ときに逞しい臀部の迫力ある質感を見せ付けられてぎょっとすることさえある。胸のアレも古代の甲冑よろしく乳首を生やしたのかまさかと内心戦慄していれば、どうやら宇宙開発チームならではの白衣を原型としてデザインしたことでダブルのスーツの6ボタンの意匠が残り、今現在ああなっているという。なんでも畑違いながら提携しているロシア系ユダヤのI・G研究所とやらと同じらしい。隼人自身そこまで調べ、得心もしくはほっと胸を撫で下ろすほどに気にした過去はあったが、既に過去のことである。だから何も言わないし二度と心も揺らさない。

「美味し―――旨いかい?」
「『最上のソース』が効いてるわ。それにたまに食べると美味しさがわかるわね」
「柿やナツメヤシみたいにねっとり甘いけど、あっちにはない仄酸っぱさだな。ときたまのお付き合いは何でもいいところに気が付けていい―――牛乳かお茶を出すかい?」
「えっ、ええありがとう」

(いま隼人くんはなにか、リョウくんだったらやりそうなのにけっしてやらないようなことをした、気がする)

*

「ねえ隼人くん、」
「うん、何かな―――
私はあなた達の中にちゃんといるかしら、
あなたと竜馬くんと、武蔵くんがどんな風に隣り合っている中に私はいるの?
箱庭療法みたいな聞き方じゃないか、怖いよ
そう?浅間学園の神隼人くんが怖がるだなんてそれって自慢していいくらいのことができてるってことじゃない。でも、そうねこの聞き方はもう少し先にしましょうか、わかって来たわ、隼人君は傲慢な自信家の洒落者じゃなくお利口で注意深く、そして怖がりよね

わかるのよ?さっきのことにしても、隼人くんの私を見るのははそういう、ううん、性的な目じゃないって改めて思ったわ。たまに見られていると感じて目が合った時や他の子を見る時でも、あなたが目をあずけているのは「そういう」場所じゃないもの。髪とか手とか姿勢、転ばないか歩き方を見ているのが心配げだったり、私と目が合った時の「ああ、早乙女ミチルだ、あのひとじゃない」っていうような。
(「触られ」た感じがしないのよ)

「見られたのがリョウ君だったら違ったかも」
彼の目は生きているものをみんな喜ばしいと強い手で全部触れて、ケガはないなだいじょうぶだなうん、って確かめていく笑顔のような目線。臆病な癖に触れることにすぐ夢中になる男の子っぽくないの

「でも彼、きっと隼人くんのことだってそうやって見てるんだわ」

バナナの最後の一片が、可憐な唇の奥に消えて行った。

*

「あれれ昼飯には早いよな、おやつかい?」
リビングに入って来た武蔵が目を大きく広げる
「さっき通りかかったらミチルさんと出くわしてよ、台所でおやつ食ってたとこだったんだ、一人じゃ申し訳ないからどうぞって」
(とまでいうほど甲斐甲斐しくもない話だが、言われてバナナヨーグルトよりも生クリームの方があいつらには取り扱い方法不明の物体だから絶対はしゃぐ、と提言したのも隼人だが)
「ひゃあバナナサンデーだあ、バナナにちょっとレモンかけてある?すっぱいなオシャレなのかな!?」
「バナナの黒ずみ防止なんじゃないかな、さすがミチルさんだ」
竜馬がソファに深々と座り、とても光属性成分多めのオーラを撒きつつそれを寿ぐ。
「ああでも甘いしフワフワにまっ白いやぁ、ミチルさんの味がする」
「おいおい武蔵。どうせお前も彼女を手伝ってあげてくれたんだろ隼人?」

サイドチェアの方で長い脚を持て余すように座る人影からうん、だかふん、だかいう口を開けもしないままの返事が返るのを聞いて、竜馬は目を細めた。
「やっぱりそうか、お前の気遣いの気配も―――お前の味もするよ!」
ミチルがまな板のバナナにファリック~ファルス~ファリックシンボル~など謎の即興歌を歌いつつ包丁を躍らせ、何やらレモンを振りかけていた姿が、竜馬の言葉を聞いた途端に何やらどこぞが「痛そう」に「しみそう」に感じられてしまったのに、何が何だかわからないまま隼人はぶわりと背中の産毛を逆立て、
(『触られ』た?今?)
せんだって春の日差しの猛々しいような熱を避けていた彼は、また目が眩みつつ

―――よかったじゃねえか」

精々そう絞り出したのだった。


一皮剝けば、真っ白で、甘ちゃんな彼にも
いずれにしても春。



(了)