whityyokko_hkg
2025-04-07 03:30:39
2879文字
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春山淡冶にして笑うが如く

現パロ弓槍と食材話。隠し味程度の村グリを添えて

「お前さ、最近食い物の趣味変わった?」

向かいでパスタを咀嚼し終えたランサーの台詞にエミヤは顔色を変えた。

「口に合わないものはどれだ?君が食べられないものは出してないと思っていたのだが、すまない。すぐに取り替えよう」
「いやいやいやいや!全部美味いし全部好物だって!とりあえず皿は置いておけ!かたづけるな!オレまだそれに箸つけてねぇんだぞ!」

今にもテーブル上の皿を総取っ替えしそうな勢いの恋人にランサーは慌てた。常に旬の食材を取り揃え、栄養価や食べる側の体調や健康に留意し、最上のタイミングで極上の一品を提供するエミヤの料理に、目も舌も甘やかされきったランサーである。
エミヤが自分のためだけに作った料理が自分の口に入らないなんて有り得ない。クオリティオブライフの損失である。

「野菜が山菜類に変わった気がしただけだって!オレに好き嫌いないの知ってるだろ」
「ホットドッグはダメじゃなかったか?」
「あれは食い物カウントに入らねぇからいいんだよ」

独自の持論を展開しながら、ランサーは目の前の食べかけのパスタ皿の確保に勤しんだ。
菜の花とアサリのボンゴレ・ビアンコからはオリーブオイルとニンニクの芳醇な香りが漂い、ランサーの鼻腔をくすぐる。

「昨日は菜の花の辛子和えで晩酌しただろ?」
「あれは仄かな苦味と辛子醤油の配分が絶妙だったな。お猪口片手に君の箸が止まらなかったので会心を叫びそうになったよ」

「その前はせりと鰹節の混ぜご飯おにぎりと筍の旨煮持って花見デートしたし」
「桜の下で私の弁当に舌鼓を打つ君は花よりも美しくて目が離せなかった」

ありがとよ。過労で視力落ちてないことを祈るぜ。そんであの日は晩飯に天ぷら食っただろ。揚げたてだと葉っぱもサクサクしてんのびっくりしたわ」
「あれはふきのとうだ。葉が開いて花のように見えるから見映えるんだ。個人的には昆布塩をかけるのがおすすめなんだが、君は天つゆも好きだろ?火が通った真ん中がほくほくしてるのにたっぷりつゆを染ませて、飯茶碗にワンバウンドさせてたな」
「タレつきを米と食いたかったんだよ!天丼美味いだろ」
「丼ものでもいいのか?たらの芽とサヨリでよければ来週にでも取り寄せられるな」
「いいねぇ!サヨリはオレ達で釣りにいくってのはどうよ?久しぶりに海釣りを楽しみたくないか?」
「では来週あたりで日程を調整しよう。船の予約は任せていいかね?ラックピットから釣竿を出しておくとして、そうだ、キャスターに連絡しておかないと」

珍しく勢いで決めていくエミヤの浮き足立ちぶりに、ランサーは引っ掛かりを覚えた。

「なぁ、なんでそこにキャスが出てくるんだよ?」

キャスターはランサーの一卵性双生児の兄弟である。常日頃からどっちが兄か弟かで小競り合いを繰り広げる程度には遠慮のない仲だが、ランサーとエミヤが暮らす住宅街からはそれなりに離れた山間部に住んでいて、月一ペースで会えればいいくらいの距離がある。

「あぁ、それこそ君の疑問の答え合わせになるかもしれん」

ひとり納得顔のエミヤはキッチンに引っ込み、しばらくすると発泡スチロールの箱を持って戻ってきた。

「これが最近の山菜尽くしの種明かしだ」

箱の中には、うどとわらびと野蒜(のびる)、大きめの傘が広がった椎茸が所狭しと敷き詰められていた。

「山の幸詰め合わせセット?」
「キャスターからのいただき物だ。正確に言えば彼の彼氏からだがね」
「村正のじいさん来てたのか!」
「ご名答。朝イチで物だけ置いてすぐ帰っていかれたよ」

ランサーの脳裏には自分に瓜二つの兄弟とその連れである一見年下風の年齢不詳な青年のどや顔が浮かんだ。

「彼の山で育った採りたてらしくてな、新鮮さも違えば、毎回、量も種類も豊富なんだ。市場でこれだけ集めようとしたらどれだけのコネと金がかかることか!」
「そういや、採ったはいいが消費が追いつかないってキャスターがぼやいていたんだったな」

LINEで愚痴を溢すキャスターに自分達への横流しを勧めたのは他ならぬランサーだ。さっきまでその事をすっかり忘れていたが、キャスターは律儀に提案を聞いてくれていたようだ。
自分に何の連絡も来なかったのは、食材に関心の薄いランサーではなくエミヤと情報交換をしていたからだろう。何がほしいか訊く相手としては非常に正しい選択だ。雑なくせにトータル真面目なキャスターらしい。そして実際の往来は村正が担うあたり、ランサーの妬心を理解しきっている。

ランサーは自分が介在しない場所でエミヤとキャスターが仲を深めるのを許容できるほど心が広くないのだ。同じ顔をしているからこその狭量である。

「そのおこぼれで我が家の食卓も潤ったし、うちの店でも出したがこれが評判でね。ランチの単価もなんとかお値段据え置きでいけて本当に助かったよ」

個人経営の洋食屋店長であるエミヤが、経営者の顔になって頬を綻ばせた。
年々上がる食料品代に加え、冬の野菜価格高騰に頭を悩ませていたところでの拾う神の出現に感謝しないわけがない。

「お陰で野菜類は殆ど買わずにすんだし、季節ものは栄養豊富だからいいことづくめさ!」
「そいつはよかった」

エミヤのテンションに思わず棒読みで返事するランサーである。

「次の週末にはたらの芽と土筆を持って来てくれる手筈だったんだが、せっかくだからサヨリの釣果と日を合わせたい。ふたりにもお礼がてら御馳走したいしね」
「そりゃあいつらも喜ぶわ。物々交換としちゃ上出来よ」

キャスターの土禁SUVに山菜が山と積まれた画を想像し、俄然現物を視たくなったのはさておき、確かにそれはいい考えだった。
几帳面なエミヤは食品の置き配など言語道断の口だし、ああ見えてせっかちな村正はすれ違いも待ちぼうけも嫌がるだろう。

「まずはキャス達の予定を確認するかね」
「よろしく頼む」
「任せとけ」

ふたりとふたりのことであれば、兄弟間で連絡を取り合うのが暗黙の了解となって早数年。いい年になってようやく巡り会えたライフパートナーと大事な兄弟との関係を、ランサーもキャスターも常日頃からお互いに気にかけていた。

ランサーがエミヤを紹介したときの、エミヤを値踏みするキャスターの厳しい眼差しを覚えているし、ランサーもまた、村正と顔合わせした際に散々挑発して試してみせたことを忘れることはない。

誰よりも兄弟の幸せを願う彼らは、同時に恋人との仲を例え兄弟であっても誰にも邪魔されたくない似た者同士であったから、ランサーは少しだけ自分の恋人と半身の恋人に罪悪感を覚えながら、キャスターに連絡を入れるためスマホを取りにベッドルームへと足を向けた。

なお余談ではあるが、エミヤと村正が、双子が並んだときの圧倒的な輝きを楽しみにしており、毎回その片割れが自分と相思相愛である事実を互いに自慢しあっているのをキャスターのみが把握していることを、ランサーはまだ知らずにいる。