雪成はす子
2025-04-06 23:59:47
2784文字
Public 💛関連
 

いつもみんなの為に頑張る君へ

🎸🐬くんとシャチ生誕祭2025
いつもみんなのために働く🐬に💛のみんながサプライズを仕掛ける話
作中歌はビートルズの名曲「Yellow Submarine」です。💛ちゃんにぴったりな名曲なので是非とも聴いてみて下さい✨
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 いつもの宴で乾杯の音頭を取り、ぐいとジョッキのエールを煽る。
「誕生日おめでとう、シャチ!」
「おう! みんなありがとな!」
 口々に言われるお祝いの言葉に応えながら、俺は焼けた肉を頬張った。俺の為に俺の好物を揃えてくれたコックにはいつも頭が上がらない。ケーキも美味しくて、俺は仲間たちと杯を交わしながら楽しく笑う。
 今日という日を、またみんなと迎えられた。その事が嬉しくて堪らない。
 腹ごしらえを済ませた所で、俺は愛用のギターを取り出す。ジャン、とかき鳴らすと、仲間たちからヒュウ、と歓声が上がった。
「それじゃ、また歌うぜー! 何がいい?」
「そうだな。この間の島の酒場で教えて貰った曲はどうだ? 俺らにぴったりの」
「いいなペンギン! あれ、まさに俺らの為に作られたみたいな曲だったモンな」
「だよなぁ。――あ、それと」
 言いながら、ペンギンはそっと席を立つ。何故だろう、他の仲間もぞろぞろと席を立ち始めた。

……えっ?」

 周りを囲んでいたみんなが一斉に席を立ち、何処かへ去っていく。何事なのかと思い戸惑っていると、「よっと」と隣にキャプテンが座った。
「キャ、キャプテン、あの」
「ああ、気にするな」
「気にするなって、でも」
 宴の最中にみんなが居なくなることは初めてで、俺はおろおろとしながらキャプテンを見た。けれどキャプテンはぐいとエールを煽り、俺の顔を見てニヤリと何だか悪い笑みを浮かべる。キャプテンが何か企んでる時の顔だ、なんて思っていると。
「俺も一緒に歌っていいか?」
「も、勿論ですよ。でも、みんなが」
「ペンギンならそこに居るだろ」
――へ?」
 キャプテンに示された方を向くと、俺の逆隣りには何時の間にかペンギンが座っていた。その手にはヴァイオリンによく似た、けれど鍵盤が沢山ついた楽器が握られている。ペンギンがちょっと前に訪れた島で買ったニッケルハルパだ。
 次いでその隣に、バリトンサックスを構えたウニがやってきた。その隣にはティンホイッスルを持って得意げに笑うイッカクもいる。何が起こったのか分からない俺を他所に、他の仲間たちもまたぞろぞろと手に楽器を持って現れた。ぱちぱちと瞬きをする俺に、「シャチ」と耳に馴染んだ声が届く。
「この間の島で出会ったあの四人組から楽譜を貰っててさ。お前に内緒で練習してたんだよ。お前と一緒に演奏したくて」
……え?」
「お前はいつも俺たちの為にギター弾いてくれるだろ? 偶には俺たちから演奏し返したっていいんじゃねえかって思ったけど、ただ俺たちの演奏聞いて貰うだけじゃ芸がねえだろうなって思ってさ。――それに、お前にはこっちの方がいいんじゃねえかって思って」
 ペンギンはニッケルハルパを構え、すっと弓を引いた。ヴァイオリンに似た、けれどそれよりも深く染み渡る音が辺りに響く。
「この間一緒に演奏した時、凄く楽しかっただろ? ギターを弾いてるお前はいつも楽しそうだけどさ、どうせならみんなと一緒に演奏してみるのもいいんじゃねえかって思ってさ。お前の誕生日にどうかって相談してみたんだ。――そしたらさ、」
「おれも同じ事を思ってたところだったっワケ」
 そう言ってウニはバリトンサックスを一音吹く。隣で、ドラムロールに似た派手な音をかき鳴らしてクリオネがタンバリンを構えた。
……ふふ。ようやくオレのタンバリン捌きを披露する日が来たぜ」
「お前、練習し始めたのつい一週間前じゃん」
「うっせーバラすなウニ!! あと一週間だからってバカにすんじゃねーぞオレは真剣に――!!」
 ウニとクリオネの言い合っている姿が、少しずつ見えなくなっていく。どうしよう、俺の為の祝いの席なのに、どんどん視界が滲んでいく。

 ギターを弾くのは、俺が弾きたいから。ギターを弾くのも歌うのも好きで、素人齧りの演奏でも、それでも俺がギターを弾くとみんなが喜んでくれるからだ。
 たまに誰かが歌に混じったり、適当な潤滑油の空き缶を持ち出して叩いたりするのも楽しかった。そうやってみんなが楽しんで、笑ってくれるならそれでいいって思ってた。

「ちょっと男子ィー、シャチ泣いちゃったじゃん。だからサプライズなんて止めろって言ったのに」
「馬鹿言えお前が一番乗り気だっただろうが。シャチ絶対泣かすって言ってた奴は誰だよ」
「最初に提案したのはペンギンじゃない」
 イッカクと言い合いながら、ペンギンは俺の頭を撫でる。差し出されたハンカチを受け取り、ぐず、と俺は鼻を鳴らした。

「み"、んな、ありがと……

 ずび、とまた鼻を鳴らす。胸の奥がじんわりと温かくて、ぽかぽかとして、幸せだった。
 ギターを弾くのは、俺が弾きたいから。好きなように弾いて、好きなように歌う、それでいいと思っていた。
 けれど今日は、今日だけは違う。
 楽器を持って、みんなが笑っている。ほら、とペンギンが俺の背中を叩いた。
 俺は促されるままに涙を拭い、ギターを構える。スリーカウントの後に、俺は歌い出した。

 ――僕らが生まれた街に 海の男が住んでいた

 俺の歌に、キャプテンの澄んだ歌声が重なる。こんな風にキャプテンと歌う事も初めてだったとふと思い出した。ギターを鳴らすと、それぞれのパートに合わせてみんなが楽器を演奏し始める。少しいびつに音がずれる事もあったが、それも味だ。みんなが一生懸命に、俺と一緒に演奏してくれる、その事が何よりも嬉しくて、楽しかった。

 ――僕らはみんな黄色い潜水艦で生きている
   黄色い潜水艦で 黄色い潜水艦で

 前の島でこの曲を演奏していた四人組を思い出す。
 彼らもまた、みんなで演奏するのがとても楽しそうだった。
 曲を教えて欲しいと言ったら快く教えてくれた、彼らの事は決して忘れないだろう。
 ――そして、今日という日の事も。


 やがて演奏が終わりに差し掛かると、ジャンバールが肩に大きな大砲を担いだ。
 演奏が終わると同時に、ドォン! と空砲を放つ。大きな轟音に、みんなは一様に耳を塞いで硬直した。
 大砲を下ろし、ジャンバールは俺の方へと向き直る。

「誕生日おめでとう、シャチ」

 ジャンバールに礼を言う前に、「予告しろバカヤロー!」と仲間たちから怒声が上がった。
 済まない、と小さくなるジャンバールの姿に、俺は込み上げてきたものを堪え切れずにはは、と笑う。
 こんな風に俺の誕生日を祝ってくれるみんながいる。それが、俺にとっては何よりも嬉しい。
 みんながいるから頑張れる。
 みんながいるから、俺は。

「それじゃ、次の曲行こうぜー!! みんなも自由に演奏してくれよな!それじゃ、何がいい?」

 俺はいつだって、みんなの為に歌いたいと思うんだ。