Adaps_A
2025-04-06 20:29:01
1012文字
Public ダングリのはなし
 

ダングリと光がぼーっとしてるはなし


生身の挑戦者というのは、非常に穏やかなヤツだ。
いつ見かけたって柔らかく微笑を浮かべているし、どんなことがあってもにこやかに対応している。
それだってのに、ふと目を逸らすとすぐに消えてしまう。
SNSでの目撃情報だって、数分後には全く別の場所で上がる。
それだけならともかく、情報も少ない。
公開されているのは「障壁の外からやってきて、アルカディアに生身で挑戦している」ということだけ。
だからこそ、ファンはこぞって彼を追いかけていろんなことを聞こうとした。
しかし彼はそれに一切答えることはなかった。
「さあね」「どうだろうね」「ひみつ」「公式に問い合わせてみてね」……
そんな言葉で追及をかわす彼を、何度も見かけた。

なので、今、とても驚いている。
生身の挑戦者が、人気のない路地裏で、電池の切れた人形のように座り込んでいるので。

エナドリの切れた若者がぼんやりと座っていることは、たまにある。
だからその若者が彼とは思わず、二度見してしまった。
声をかけるかどうか少しだけ迷ったが、今は自分も「ダンシング・グリーン」ではない。
たまには静かな場所もいいだろう。
すぐそこの自販機でミネラルウォーターを2本買って、「よう」と片方を渡した。
大通りから隠すように横に座って、ミネラルウォーターのふたを開けた。
そのまましばらく、何を話すでもなく、ぼんやりと並んで座っていた。

「ヴァンガードから、汽車に乗るんだ」
ぽつり、と、彼がつぶやいた。

「シャーローニ駅に着いたらシェシェネ青燐泉に向かう」
「そこから、フーサタイ宿場町へ向かうの。徒歩でも、ロネークに乗ってもいい」
「着いたら少し歩いて、トライヨラに入る」
「そしたらそこからオールド・シャーレアン行きの船に乗るの」
「オールド・シャーレアンから、リムサ・ロミンサへ渡れるから」

そこでいったん言葉を切って、ミネラルウォーターを煽る。
彼は、空を見上げた。

「そこが、おれの原点なんだ」

眩しそうに目を細める。
聞いたことのない地名ばかりが並んだその言葉を、3割も理解できた気がしない。
それでも、その遥か遠くの場所を、大事に思っていることはわかった。

「そっか」

障壁の外の、遥か先。
想像もつかないその場所には、どんな踊りがあるのだろう。
想いを馳せながら最後の一滴を飲み干して、空を見上げる。
エレクトロープの輝きが、少し目に沁みた。