けろか
2025-04-06 19:02:36
3963文字
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睡眠姦竹くく③

[追記]完成しました✨ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24694716

付き合いはじめたらセ…がなんだか上手くいかない二人。ある日あることに気づいた🎋が寝てる間に📛開発チャレンジして自己嫌悪なってすれ違いのターンです!今回は全年齢!
次は兵助視点の予定です☺︎
完成品はごっぱれに展示予定。
①→ https://privatter.me/page/67dfd20aa690f
②→ https://privatter.me/page/67e909543ba72
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いつもうぇぼすごく励みになってます、ありがとうございます✨🙇
感想、応援もらえたらめちゃくちゃ嬉しいです!!
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「ん、あさ……うわ、八左ヱ門?!  どうしたんだ」
 兵助の素っ頓狂な声が頭上から降ってくる。顔は見えない。なぜなら今、八左ヱ門は土下座をしているからだ。
「え、なに……どうした?」
「昨日、悪かった」
「何が……昨日?  って――、昨日おれ、あのまま寝たか?  ……っ、すまない、八左ヱ門」
「え」
「またあの、後始末とか……ごめん」
 兵助の声は焦りに染まっていた。慌てて顔を上げると、彼は耳まで赤くして口元を押さえている。視線が合うと、ぱっと目をそらされた。
 ――気づいてない? 尻の違和感とかで分かりそうなものだけど。いやでも薬の影響が残っていたとか、後ろを柔らかく慣らしてたからとか……? そういうこともあるのかと自分を納得させて、もう一度頭を下げ直す。
――っじゃなくて、あの……その、俺もいろいろ……兵助、昨日、裏裏山のあそこ行きたいって言ってたのに、無理だったし」
「?  八左ヱ門が悪いわけじゃないだろう。……さっきからなんなんだ、哀車……?」
 純粋な困惑を浮かべた瞳が八左ヱ門を捉える。うう、と小さく呻いた。まさか、昨日の夜寝てる兵助を犯しましたごめんなさい! なんて言えるわけがない。
 ぎゅっと彼の肩を掴む、兵助の体がぎくんと強張るのがわかる。緊張が指先から伝わるようだ。
「ちっ、違う!  違くて……あの、明日の午後、空いてるか?」
「明日は空いてない」
「なら明後日は」
……明後日なら空いてはいるけど」
「行こう! 裏裏山!」
 少ししてああ、と兵助が肯定の声を上げる。その穏やかな声に八左ヱ門はほっと息をついた。
 ――どこか腑に落ちない響きだったのは耳を塞いで。
 よかった、これで約束を取りつけたことになる。少なくとも、あの夢のような――間違った夜をやり直すことはできるのだ。 
 それから、何度も健全なデートを重ねた。
 でも、付き合って初めに見たような兵助の笑顔を見ることは叶わなかった。
 
 裏裏山には行った日には道半ばで八左ヱ門の体力が尽きた。例の実習で使った眠り薬が祟り返事が返せないくらい睡魔に襲われたのだ。ちょっと昼寝をしようという兵助の提案に甘え木陰で爆睡し、気がつけば夕方だった。最終的には彼の肩を借りて帰る始末だ。兵助は文句も言わず、ただ静かに八左ヱ門を気遣ってくれていた。

 また別の日。二人並んで宿題をしていた時、きゅっと袖口に小さな力がかかった。顔を上げると、兵助は顔を赤くして、言葉なく視線を泳がせている。その仕草があまりにいじらしくって、八左ヱ門はつい彼の頬に手を伸ばした。彼がぎゅっと目を閉じて身を固くする。理性がぐらりと傾いだ。
 ――押し倒して舌入れてそれで兵助の中にも入りたい、ぐちゃぐちゃにかき回して、それから――て、だめだ!それはしないって決めたじゃないか。欲望をぐっと押し込んで、八左ヱ門は兵助の頬をむにゅっとつまんだ。「ん?」と彼の顔を覗き込むと、彼はますます顔を赤くして視線を逸らした。
 そこから口吸いも無く、八左ヱ門は兵助に一方的に抱きついたり髪を撫でたりでその日は終わった。彼はただされるがままになっていた。

 街で評判の豆腐料理の店にも行った。
 評判通り美味くて兵助もご機嫌で、でもどこか反応が薄い。
 箸を運ぶ手つきも、普段ほど楽しげではない。気のせいかと思いながら話を振ってみるが、どうにも噛み合わない。
「美味いよな?」
「うん、美味い」
……
「なんだよ」
「いや……
 以前なら、この大豆の風味がうんたらかんたらと食レポじみた感想を語っていたのに、今日はそれもない。
 ダメダメだった抜き打ちテストを心配された他は兵助は八左ヱ門が何か言う度に、うん、とかああ、とか気のない返事を返すだけで、帰り道もどこか上の空だ。いつもは学園に帰っても八左ヱ門が兵助を部屋の前まで送るのが暗黙の了解になっていたけれど、それも断られた。一人で戻れるから、とそっけなく言って彼は踵を返した。その背中は妙に頑なだった。
 距離は近いのに、心は遠い。 
 夜は素直じゃなくても昼は素直で、八左ヱ門の前でいろんな顔を見せてくれたのに。
 ぐるぐる心の奥で膨らむ曖昧模糊な気持ちは彼に触ってないのも相まって、明確な質量をもって八左ヱ門の股間を重くした。抜く気にもなれなくて、かといって他に気を逸らすものもなく。悶々とした日々が続いたある日、事件が起こった。
 
 城への潜入を指示され、五年生全員で夜半に城へと忍び込む課外実習。学園からそう離れていない距離にあるその城は、戦好きの領主が治めているということもあってか警備が厳重だ。
 ――矢が放たれる音は、一度聞いたら忘れられない。風を裂くそれが背後から迫った瞬間、八左ヱ門の体はほとんど無意識に動いていた。殿を務めていた兵助の手を強く引いて、彼の体を腕の中に抱き込む。
 瞬間、乾いた衝撃、焼けるような痛み、どくどくと脈打つ心臓。血は巡るが体が冷えていく。腕の中の兵助を見ると、彼はただ目を見開いたまま固まっていた。わななく唇が血の色をしてるのを見て、無事でよかったと笑った自分にぶつけられたのは思っていたような言葉ではなかった。

「作戦、あれだけ話し合ったよな? なんでこんなことした」
……兵助に怪我がなかったし、俺のも軽い。いいだろ、もう」
 冷たく尖った声音に、痛むのは腕じゃないよう気がした。
 兵助の眉間の皺がますます深くなる。苦虫を噛み潰したような顔をした彼は懐から手ぬぐいを出して八左ヱ門の腕に巻きつけた。圧迫されてぐ、と呻き声が漏れ、彼ははっとしたようにこちらを見る。
「俺を庇うって――考えた上でやったのなら浅はかすぎるし、無意識ならなお悪い。八左ヱ門、お前はいつも――
「兵助!  ……落ち着け。お前の方が私情に流されてる風に見える」
「勘右衛門」
 勘右衛門の声が横から割って入る。穏やかな口調ではあったが、兵助はぎくりとしたようにそちらを振り向いた。彼の頬にあたる勘右衛門の指。冷えた空気から、すぅっと温度が戻る。
 ――わけもなく、胸の奥がじくじくと痛んだ。腕じゃなくて、胸だ。
 兵助に強い言葉で諌められるよりも、勘右衛門に触れられて、まるで自分の存在などなかったかのよう彼がいつもの彼に見る方が堪えた。
……そうだよ、俺がやりたくてやったんだよ。兵助ってどうしていつも、そうなんだよ。……もういい」
 兵助の顔は見えなかった、見たくなかった。彼の横顔に何を見るか、自分でもわからなかった。だから言葉を吐き捨てて踵を返す。背後で兵助が何か言った気がしたけれど、振り向くことなく歩き続けた。傷は痛んだし息も切れたけど、とにかく逃げ出したかった。もうこれ以上あの場に居たくなかったのだ。
 
 実習から帰ってきても、兵助との冷戦状態は続いた。
 いつもならちょっとした喧嘩は三日と持たず仲直りしていた。どちらからともなく歩み寄って、ついさっきの喧嘩が茶番だったみたいに、笑い合えていた。
 でも今回は違う。というか、八左ヱ門が兵助を避けているのだ。
 ――思えば、付き合ってから一度もまともに喧嘩をしていなかったことに、今さら気づいた。というか、そうならないようにしていたんだ、自分が。
 兵助が嫌がりそうなこと、怒りそうなこと、全部先回りして避けていた。
(兵助には笑っててほしかった、のにな……
 虫籠が積まれた自室で、大きくため息をついた。小さな羽音やかすかな蠢きの生きた気配はあるのに、今日は一人部屋であることが不思議と寂しかった。
 兵助だって何か言いたそうならいいのに、その素振りもない。
 目が合ってもどう返せばいいのかもわからなくて結局彼から目を逸らすくせに、自分勝手な目が彼の姿を追うのを止められない。条件反射で探す彼の輪郭はどこか沈んで見えた。
 最近はもっぱら八左ヱ門行きだった彼の豆腐と豆腐料理は最近は勘右衛門、雷蔵、三郎に振る舞われているようだ。作る量だっていわゆる豆腐地獄ではなくちょうどいい量らしい。それを自分に話す三人からの早くなんとかしろ圧もすごい。
 ――彼に暗い顔をさせているのが自分であることは分かっている。分かっているから胸の奥に生まれる、仄暗い満足感。あのきれいな生き物を傷つけたのは自分なのだ、癒せるのも自分しかいない。そんな都合のいい支配欲に、少しだけ酔いそうになる――けれど、傷ついた顔だけじゃ全然足りない。
 兵助には、笑っていてほしい。けど、怒ってる顔も、楽しそうな顔も、見たくないけど哀しい顔をしていたら受け止めたい。彼の全部が知りたい、見たい。でもそれは自分のエゴで――ふと、告白した時の記憶が蘇った。あと、初めて体を重ねる時のこと。どちらも八左ヱ門は自分だけが自分だけがと思い込んでいたが、いざそれをぶつけたら兵助はどんな顔をしたのだったか。
 澄んだ瞳で、でもぽわぽわと赤い顔をして俺もだよと言ってくれたのではなかったか? 
 うまくいかないセックスだって、彼が素直じゃないだとか彼に負担をかけたくないことを言い訳にして寝てる間に――じゃなくてちゃんと本人の目を見て、やらしい顔とか声とか聞きたいって言えばよかったんだ。喧嘩になってでもだ。
 ぐるぐる渦巻いたもやもやが確かな形に変わっていく。八左ヱ門は腹を決めた。たとえ彼が怒ったりしても、全部ひっくるめて兵助のことが好きだから、それごと受け止めたいと伝えなければ。八左ヱ門はふいに立ち上がった。
 
 ――よし、思い立ったが吉日だ。
 
 動かなきゃ、何も変わらない。そう思った瞬間には、すでに部屋を飛び出していた。