えぬを
Public MCU
 

バキサム_20250406

『別アースでサム喪ったバッキがアース616に襲来して、616バッキの目の前で616サムが掻っ攫われる』という呟きをバキサム小話にしました
バキ&バキサンドサム
書きたい所だけ書いたので展開が早い…多分この後邪魔が入って任務に駆り出されて、互いの告白タイムは数ヶ月持ち越されると見た

動きは同時。速さも同じ。次に相手がどう動くかも、手に取るように分かる。
額に突きつけられた銃口。翻って、バッキーも相手の額に銃口を突きつけている。
気を抜けば恐らく撃ち抜かれる。もちろんバッキーも同様に、相手の額を撃ち抜くつもりだった。
互いにそれをしないのは、間に挟まれているサムが『STOP!』と叫んだから。
忙しない呼吸──息切れしているのは、二人の男に挟まれたサムだけだ。
バッキーの眼前、サムを抱え込んだ男の腕に力が入り、サムのシャツに強い皺が寄る。それを見たバッキーの腕に、怒りで血管が浮かび上がった。サムを抱きかかえる〝バッキー〟の額に、一層の強さで銃口を押し付ける。
「待て、待てって!撃つなよ、バック!バッキー!」
「サム、お前どっちのこと呼んでるんだ、返答次第でこいつ撃つぞ、いや、もう撃っていいか、いいな」
「だから待てって!バック!」
……俺がお前を先に撃てば、こっちの〝サム〟は俺のだ」
サムを抱きかかえる〝バッキー〟が低い声で告げる言葉。
バッキーは、眼前の自分と同じ顔をした男が現れ、サムを攫った瞬間に全てを悟った。
自分と同じ顔をしながらにして、暗い瞳、目の下に深く刻まれた隈、無精髭と、恐らくは泣き叫んで枯れた声。
これは、〝サムを喪ったいずれかの世界の自分〟だ、と。
業腹だが、どこかの男爵と同じと称されようとも、バッキーは皮肉げに首を傾げて見せた。サムがバッキーを止める発言が理解できない。バッキーは額に血管を浮き上がらせ、むしろサムを責めた。
「〝撃つな〟だと?お前が俺の前から掻っ攫われそうなのに?目の前で!今、お前が連れていかれるかもしれないってのに!?」
「だから落ち着け、バック!あと、離せ!バッキー!あんた、バッキー、だよ、な?」
……あぁ、そうだよ、サム、サミュエル」
「、っこ、の!」
サムを抱きかかえた〝バッキー〟がサムの問いかけに返事をし、愛しげにその頭に口づけを落とすのを見て、バッキーの怒りは頂点に達した。
再度、バッキーと〝バッキー〟二人同時に銃の引き金に手がかかる。
「バック、バッキー!ふざけんな!同時に脳漿撒き散らす気か!?どっちも死んだら殺してやる!」
バッキーと〝バッキー〟の本気の殺意にサムが叫ぶ。混乱の極地であることも相まって、サムの必死の引き止めは若干矛盾している。

数十分前のことだ。馴染みある魔術師の移動ゲートに似た輪が突然出現した。同居する室内のキッチンで、サムがコーヒーを淹れている後方に、それは突然現れた。
ゲートからは見覚えのありすぎる義手が出現し、サムの腰に腕を回しながら、手の主が輪の中から姿を現した。
バッキーはすぐさま反応し、相手に殴りかかった。予測していたかのように、攻撃は躱されてしまう。同じように、なにが起きたか最初は分からず暴れていたサムが、抱えられた腕を振り解いて肘鉄を喰らわせるも、相手の手の平に止められてしまう。その時に、サムは後方の人物が誰かに気づき、動揺のまま攻撃の手を止めてしまった。
その隙を逃さず、ゲートから現れたバッキーと同じ顔をした〝バッキー〟が、サムを抱え上げ、ゲートに戻ろうとする。
──サムを連れ去るつもりか。
バッキーは瞬時に怒りに燃えた。
部屋の至る所に隠してある銃──キッチンのテーブルの下にあるそれを鷲掴む。と同時、なにが起きているかようやっと気づいたらしいサムが、無意識か意識的にか、助けを求めるようにバッキーの方へ手を伸ばした。
それを見てバッキーはすぐさまサムの手首を掴んだし、〝バッキー〟は尚もサムを抱え込んだ。
そして、反対の手で、バッキーと〝バッキー〟は、互いの額に銃口を押し付けている事態に相成るわけだが。
……お前は俺だろう。喪う辛さを知っているくせに、俺からサムを奪う気か」
……お前こそ。喪う辛さを知っているならサムを俺に寄越せ」
「俺はものじゃない!」
バッキーと〝バッキー〟の間に挟まれたサムが、二人の言葉を聞いて叫ぶ。
そうしてサムは抵抗しながら後ろを振り返り、〝バッキー〟の顔を見て動きを止めた。
〝バッキー〟が静かに涙を流していた。バッキー同様に、サムも全てを悟る。
いずれかの世界線に在るこの〝ジェームズ・ブキャナン・バーンズ〟という青年の前から、〝サム〟は永遠に喪われたのだろう。
サムの瞳に同情の色が浮かんだことを察し、バッキーは焦った。
「おい、サム!」
バッキーがサムの名を呼ぶ声を手で制し、サムは〝バッキー〟を静かに見据えて言葉で説いた。
……俺はあんたの知るサム・ウィルソンじゃない」
……俺の寄る辺はお前だけなんだ。お前だけでいい、サム」
〝バッキー〟が深い悲しみを湛えた瞳で、サムに請う。
……でも、俺は、あんたを知らないんだ。俺が知っているジェームズ・ブキャナン・バーンズは、あの目つき悪男だけ」
そう言って、サムは苦笑しながらバッキーを指差した。バッキーは込み上げる想いを耐えた。痛いほどに伝わる、世界線を越えてまで〝サム〟を探す、いずれかの世界の〝ジェームズ・ブキャナン・バーンズ〟の気持ち。そして、バッキーをただ一人のジェームズ・ブキャナン・バーンズとして認めてくれるサムの心持ちに。
バッキーは銃口を降ろした。
「俺のサムを返してくれ」
率直に伝えた。
〝バッキー〟は、バッキーを見据えたのち、一度だけサムを強く抱きしめてから、サムを抱える腕を離した。
胴回りから離れた腕から、躊躇いながらサムが一歩踏み出すのを待てずに、バッキーはサムの腕を引いた。勢い、サムがバッキーの肩にぶつかる。そのままバッキーは、サムを抱え込んだ。
〝バッキー〟は、枯れることのない涙をはらはらと流しながら、バッキーを見て、サムを見た。
サムが、バッキーの肩越しに告げる。
……死んでないと思う、俺。案外しぶといから、どっかにいると、思う」
慰めにもならない労わいの言葉であっても、サム・ウィルソンの言葉には力がある。それはどの世界でも共通事項なのかもしれない。〝バッキー〟が微笑んだ。
……そうだな。何年かかっても探すよ……俺の〝サム〟を」
そうしてゲートが閉じる前に、〝バッキー〟は吸い込まれるように帰っていった。
残されたバッキーとサムは、呆然とそのゲートが消えていくのを眺めた。そのまま無言で数分が過ぎる。先に口を開いたのはサムだった。
……もうそろそろ離せよ、バック」
サムの言葉に我に返ったバッキーは、そのままサムの体から腕を解こうとして──やめた。
……サミュエル、」
「待て待て待て!バック、お前、この空気に充てられてなんか言おうとしてるなら俺聞かないからな!」
「そうじゃない」
……ならいいぞ。あと、お前だけだと不公平だから俺も言う」
バッキーは面食らった。そして、真面目なキャプテン・アメリカらしい物言いに、苦笑した。
……後悔しないか、サム」
……お前こそ。じゃあ同時に言うぞ」
バッキーとサムは改めて向き合った。
「サム、俺は、」
「バッキー、俺は、」