双炎と鎧

ルヴィニとサフィロに新しい仲間が加わる話です。
こちらの話【https://privatter.me/page/67b357e276514 】から繋がるストーリーです。

 バトルフィールドの両端に立つ二人の青年が指示を出す。一方は拳に炎をまといかけるもすぐに消え、もう一方も両目を瞑ってめちゃくちゃに拳を振り回している。まるで子供同士の喧嘩のようにぽこぽこと殴り合うような、世辞にも高レベルとは言えない稚拙なバトル。それでもポケモンもトレーナーも皆楽しげに戦っていた。姿形は同じであるが、瞳に宿す炎の色が二人の青年の髪色とよく似ている二体のポケモン。ぜぇぜぇと息を荒げながらも繰り出した最後の拳が互いの頬にめり込み、同時に地に臥したことで決着がついた。
「そこまで!」
 審判をしていたパパラチアが両手を上げる。引き分けの合図だ。
「引き分けかぁ」
「小さいのにガッツがあって良い戦いっぷりだったな!なぁウル?」
 長い赤毛を後ろにまとめた青年、ルヴィニが隣にいるピチューに目を向けると、向こうは大層面白くなさげに吊り上がった目を細め、フンと鼻を鳴らす。自分の方が強いと言いたいのだろう。やれやれと笑いながらルヴィニは目を回すポケモンの方へと歩いて行った。
「お疲れ、ニイド」
 ルヴィニの声で目を覚ましたポケモンはハッとして起き上がり、まだ戦えるぞと目の赤い炎を燃やしながらファイティングポーズでアピールする。
「引き分けだってよ、どっちも頑張ったよなぁ」
 ニイドと呼んだポケモンの頭を撫でながらルヴィニが笑う横で身なりの良い蒼髪の幼馴染、サフィロがもう一体のポケモンを抱き上げた。向こうもまだ戦えるという意志があるのか、薄っすらと開けた目からはチロチロと蒼炎が漏れ出ている。
「この子……色違いのカルボウ、少し気弱だけど実力はニイドと同じくらいかな」
「だな。手合わせした感じ、ずっと一緒に過ごしてきたんだろうなって感じるぜ」
「ふふ、もしかしたらこの子達も僕らと同じ幼馴染なのかもね」
 サフィロがカルボウを撫でれば、素直に身を擦り寄せて控えめに甘えている。そんな様子に笑みを浮かべ、サフィロは持っていた鞄からオボンのみを取り出すとカルボウとニイドに渡した。
「この子達、二人の試合動画観てからずっと夢中なの。今日だって二人に会いに行くって話したら連れて行けって大騒ぎするもんだから……ねぇ、相談というかお願いなんだけど。もし良かったらこのままこの子達と一緒にいてくれない?その方がいいと私は思うんだけど……
 パパラチアの言葉に二体のカルボウはぱぁっと目を輝かせた。憧れのトレーナーのポケモンになれるかもしれない、と理解しているのだろう。期待を込めた目でそれぞれの青年を見つめると、向こうも嬉しそうに微笑んでいた。
「俺もコイツが仲間になってくれたらな〜って思ってたぜ。もう名前もつけちまったしな。じゃあ、改めてこれからもよろしく、ニイド!」
「僕はもう現役のトレーナーじゃないけれど……それでも良かったら一緒にいて欲しいな、カルボウ」
 二人の言葉にカルボウは嬉しそうに飛びついてきた。ただ一匹、ウルだけは不服そうに頬袋からパチリと電気を零していたが。
「それじゃあ、二人共。ついてきて」
「今日は何処に行くんだ、パーチ?」
 カルボウの引取先に安堵して一息吐いたパパラチアがさっさと歩き出すので、ルヴィニがニイドを肩車して追いかける。ウルは抱き上げようとすると放電したり噛み付いてくるのを知っているので、後ろからついてきているのを確認しながら置いて行かない程度の速度で歩く。更にその後ろをサフィロがカルボウを横抱きにしたまま歩いてくる。
「カルボウを育てる上で大事なものを見せたいの」
 パパラチアはそれだけ言って眼前に見えてきた建物を指差した。
「ここって……
「ウィグリド博物館?」
 パパラチアに案内されるまま入館する二人。古い石造りの外観に反して、中は普通の博物館らしい小綺麗な内装だ。広々とした展示スペースに並んだショーケースや高い天井に吊り下げられた古代ポケモンの骨格模型や剥製など、興味を引くものが多く展示されてある。それらを素通りしていき、パパラチアは博物館の奥へと向かう。やがて「ここよ」と立ち止まって「ほら」と前を指さす。
 目の前にはポツンと二つの鎧が展示されていた。一つは金を基調とした鎧で胴部分には赤の装飾があしらわれており、心なしか光をまとっているかのよう煌めいている。もう一つは紫紺を基調とした鎧で、胴部分にはオリエンタルブルーの装飾があしらわれているものだ。隣の鎧と違い、離れていても不気味で禍々しい気配を感じる。どちらも綺麗に手入れはされているが、古いものなのか相応に年季の入ったような痛み方をしていた。周囲にはこの鎧以外に展示物がなく、寂しげにスポットライトが当てられているだけの殺風景な景色。しかしそれ故に何故かこの二つの鎧から視線が離れない。何とも不思議な鎧だ。
「これはイワイノヨロイとノロイノヨロイと言ってね、パルデア地方ではカルボウと二つのヨロイにまつわる話があるんだけど──」
 パパラチアが話している途中でニイドはルヴィニの方から飛び降りてヨロイに近づく。それを見ていたカルボウは慌ててサフィロの腕を飛び出してニイドの腕を掴む。嫌そうに首を振っているところを見ると、近づいては行けないと警告しているみたいだ。腕を掴まれたニイドは煩わしそうにカルボウの手を振り解くと再びヨロイに向かって歩き出す──……手前でルヴィニに捕まった。
「こら、展示物に勝手に触るんじゃない。この場合はあっちのカルボウが正しいんだからな」
 ルヴィニに叱られたニイドが不服そうに頬を膨らませるが、尊敬しているトレーナーの言葉なのか、渋々とそれに従う。後ろではウルが小馬鹿にしたようにクスクスと笑っているのが見えたらしく、今度はそっちに怒って突撃していってしまった。
「やれやれ、何か気が合わなさそうなんだよな。アイツら」
 取っ組み合いの喧嘩を始めた二人をカルボウが慌てふためいた様子でサフィロを見上げるが、彼は困ったように笑って「すぐ終わるから大丈夫」と言うだけだった。
「それでパーチ、話の続きは?」
 サフィロが促すとパパラチアが少し咳払いして話を続ける。
「えーとね、パルデアに伝わっている話の通りにカルボウには二つの進化先があって、このヨロイに触れることで進化した時の姿が変わるの」
「だからニイドやカルボウは本能的に気づいて反応していたのか……
「ニイドは好戦的だから力を求めてヨロイに近づき、僕のカルボウは進化に対する未知の恐怖心からニイドを止めに入った……ってところかな」
「私には分からないけれど、きっとそうなのかもね」
 三人は後ろにいるニイド達を見る。ウルとの取っ組み合いは既に力尽きていて、両者共にぐったりしているところをカルボウが目を潤ませてサフィロの服の裾を引っ張り何かを訴えている。
「はい、これ」
 サフィロから差し出されたオボンのみを受け取ると、カルボウはそれを半分に割ってまた二人の元へと駆け寄る。
「優しい子だ。ニイドと比べると戦いにはそんなに積極的じゃないのかもね」
「だな」
 カルボウがニイドとウルを介抱している様子を眺めてから、三人は再びヨロイの方へと向き直る。
「本来、カルボウが進化した後はヨロイは消えてなくなるんだけど、この二つのヨロイだけは何故だか消えてなくならないの。不思議でしょ?」
「ん?ということは、このヨロイで進化できるか試したのか?」
「ちゃんと館長さんには許可取ったからね!?」
「分かっているよパーチ、君はルヴィニと違ってその辺はしっかりしているからね」
「いつの話してるんだよサフィロ!そりゃ子供の時の話だろ!流石に俺もちゃんと許可取るようになったからな!?」
「そうでなくちゃ困るよ、チャンピオン」
 ルヴィニとサフィロは少し見合った後に吹き出す。子供の頃に無許可でやらかした事件の数々を思い出すとおかしくなって堪らなかったからだ。あの頃は無知故に無謀なことも恐れずやれた時代だったと笑っていると、話を続けたそうにパパラチアがもう一度咳払いをした。
「話を戻すね。何人かのカルボウを連れたトレーナーに協力を依頼して試してもらったんだけど、何度やってもヨロイは消えなかった。でもね、連続して進化できた訳じゃないの。最低でも丸一日は時間を空けないと次の進化ができなかったんだ。まるで空になった容器をエネルギーで満たすように……。それに合わせてカルボウの反応や惹かれ具合も違っていたしね」
「へぇ……いつでも進化し放題って訳じゃないんだな」
「それで、僕達にこのヨロイを見せたってことは、いつかはこの子達もそうした選択を取るかも……という意味かな?」
「えぇ。知っておいて損はないでしょ?このヨロイ、盗難防止に普段は展示していないんだけど、館長さんにカルボウを見せに行って許可が取れたらこの展示スペースに入ることができるから。その時が来たらまた連れてきたらいいよ」
 パパラチアそう言って話し終えると、よれていた白衣の襟を片手で直した。
「分かった。教えてくれてありがとう、パーチ」
「サンキュな。ニイドはまだこのままバトルの経験を積ませるから進化はお預けだけど」
「僕も。何よりカルボウがそれを望んでいないからね」
 礼を述べつつ言うルヴィニの言葉にサフィロも頷く。蒼い炎を不安そうに揺らがせてニイドを介抱するカルボウを眺めていると、幼少から付き合いのある日々を思い出す。大人になってしまった今は気軽に遊べるような関係性ではなくなったけれども、彼らを見ているとその根底にある感情が思い出されるようで、酷く懐かしく思えた。
「ルヴィニ」
「ん?」
「今度またバトルしよう」
「お互い時間ができたらな」
 他愛のない、取り留めのない小さな約束事。それだけで互いの気持ちは十分に伝わる。それだけの会話で十分だった。そんな二人の姿をパパラチアは微笑ましげに、そして僅かに羨望の気持ちを含んだ眼差しで眺めていた。

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※カルボウがグレンアルマとソウブレイズに進化する為に必要な道具である『イワイノヨロイ』と『ノロイノヨロイ』はウィグリド博物館にあります。普段は盗難防止に展示スペースの最奥(立入禁止区域)に置いてあり、館長にカルボウを見せて進化させたい旨を伝えることで入れるようになります。

また、1日に1度しか進化できず、複数のカルボウを進化させたい場合は翌日以降もウィグリド博物館へ訪れる必要があります。
公式HPにも後日掲載する予定ですが、作業優先度は低いので気長にお待ちください(この公式ストーリーの投稿以降であれば進化が可能となります)。

※ルヴィニとサフィロに新しくカルボウが仲間に加わりました。手持ち詳細は後日投稿予定です。