零ミリ
2025-04-05 18:50:42
1057文字
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春の夜の瞬き

むてらん 現パロ 无諦が桜に攫われそうと思ってる藍桐

「電車が同じになるなんて偶然だねえ!」
 同棲している部屋の最寄駅で降りた藍桐は電車に乗っている間、封じられていた分大声で隣を歩く无諦に話しかける。年度始まりで何かと忙しく残業をしていた二人は電車内でたまたま乗り合わせた。部屋に戻るより早く无諦と会えた藍桐は残業の疲れなど吹き飛んだかのように上機嫌になった。
「あ、明日の朝食買っていこう、牛乳も切れているし!」
「分かった」
 駅の近くのスーパーに行き、必要なものをカゴに入れていく。酒売り場を通りかかった時、无諦が缶ビールを藍桐が持っているカゴに入れた。
「あれ、ビール飲むの?」
 无諦は基本的にビールを家では飲まない。缶ビール一本程度では酔えた感じがしない、と言って日本酒やワインを好むためだ。
「公園に寄って少し花見でもしようかと。それならビールかと思って」
「ああ、いいね! 僕はアイスでも買っていこうかな!」
 スーパーから二人の部屋に帰る道を少し遠回りしたところに小さな公園がある。普段は子供が遊ぶような公園だが、何本か桜の木が植っている。无諦の提案に藍桐は大きく頷いた。
 スーパーを出て公園に向かうと公園には誰もおらず、ただ薄紅色の桜が満開で咲いていた。二人はブランコに腰かけ、それぞれビールとアイスを手にとる。ブランコの隣には大きな桜の木が植っており、公園の外の街灯と月明かりで薄紅色の花弁がぼんやりと発光しているように見える。風が吹くとひらひらと花弁が散り、春の光景を作り出している。
 藍桐が大きな声で喋り、无諦が適当に相槌を打つ、二人のいつもの時間を桜の下で過ごす。そうしていると、无諦が缶を振って話しかける。
「飲み終わった。そっちの袋に入れていいか」
「いいよ!」
 无諦が立ち上がり、藍桐に近づいて空き缶を差し出す。その時、夜風が強く吹き薄紅色の花弁が无諦の身体を包んだ。その幽玄の光景の先に无諦が掻き消えそうに思い、藍桐は思わず无諦の手首を掴んだ。
「藍桐?」
 必死そうな顔で自身の手首を掴む藍桐に无諦は首を傾げる。
「あっ、ごめん! でもなんか……
「桜に攫われそうに見えた、か?」
 无諦はくすりと笑って、藍桐の前髪をくしゃりと撫でる。
「私はそんな簡単に攫われたりしないよ」
 无諦は空き缶を藍桐が持っていたレジ袋に入れて藍桐を立たせる。そして屈んで額を合わせて優しく囁く。
「私が君の前から消えると思うなんて君らしくないな」
 无諦が藍桐の手を握って歩き出す。二人には珍しく、手を繋いだまま春の夜の街を歩いた。