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荒野ハチ
2025-04-05 18:19:46
3932文字
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小話
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月影やどし
宵のナホビノとして共に戦い始めて間もない頃の二人
※本編捏造
「
……
あの
…
、大丈夫
…
?」
「
…
? 私か?」
「うん
…
、だって言われてたでしょ。長官に疲れが見えるって」
同じベンチに腰をかける新たなパートナー___
彼の様子は、共に行動するようになって間もない僕の目から見ても
かなり消耗しているように見えた。
「ああ、問題ない。気を遣わせてしまうな」
「い、いえ
…
」
ベテル日本支部の長官であり、日本国総理大臣でもあるこの男。
ついこの間まで、迷いのない判断とテキパキとした指示で
組織と国の両方をまとめるという人間離れした統率力を発揮していた。
…
もっとも、人間ではないのだが。
しかしそんな彼の今の姿は、視線を地に落としてやや項垂れており、
あの時のカリスマ性や威厳はあまり感じられない
…
どこか不安定で、臆病で
…
少し頼りなさすらある。
僕はこれから、この人と上手く戦っていけるんだろうか。
そんな不安も感じていた____
「
…
少年」
「Σっ!」
「君は無理をしていないか?」
「えっ
…
」
「貴重な休息時間だ。今のうちにゆっくり心と身体を休めてくれ」
「う、うん
…
」
突然自分に投げかけられた労いの言葉に、露骨に動揺してしまった。
さすがに失礼だったかもしれない
…
「私は、恐らく」
「?」
「弟
…
アオガミと同じようにとはいかないだろう」
「どういうこと?」
「アオガミにできていたことができない。アオガミになら気づけていた事に気付けない。至らない点は多い筈だ」
「そ、それは
…
」
不安に思う気持ちが伝わってしまったのか、よからぬ事を言わせてしまった
…
でも、そう思う気持ちは僕だって同じだ。
「だって僕たちは、一緒に戦い始めて間もないしお互いのこともまだよく知らない。
それに、そんな事を言ったら僕の方こそ
…
」
「
……
」
「
……
…
」
会話が続かない。気まずい
……
つい先日まで、組織の最高責任者とその構成員の一人、もっと言えば総理大臣と都民だった関係だ。
そんな人から「君に従うと誓う」なんて言われて、今はこうして同じベンチに一緒に座っている
僕もいきなりどう接していいのか分からない
…
「
……
…
」
少し俯くその横顔をこっそり横目に見る。
本当によく似てる。アオガミに
……
今までここまでちゃんと見られる機会はなかったけど、
髪と眼の色が違うだけで容姿はほぼ同じなんだな
…
そんなことを考えていると
「
…
? どうした」
「Σあっ!;;」
ど、どうしよう
……
目が合ってしまい、より気まずくなる。
けどそこから目を逸らすこともできず、この凍りついた沈黙をどう切り抜けるか、どう誤魔化そうかと
一人で一生懸命考えていると
「君は」
「は、はい!?」
「君は、アオガミとどんな会話をしていたのだろう」
「
……
。
…
え?」
予想だにしない意外な言葉が飛んできた。
僕の勝手なイメージから、この先ベテルとどう渡り合うか、カディシュトゥの目論見にどう抗うか、
きっとそんなことを難しくいろいろ考えているんだろうと、そう思っていたのだが。
「アオガミは普段、君の何を気に掛け、何を想い、どのように君と接していたのだろう」
「えっ
…
? と
…
」
「話せればでいい。聞かせてくれないか」
「
……
どうして?」
「どうして、とは」
「どうしてそんなことが聞きたいの」
単純に疑問だった。
ベテルのことでもない。カディシュトゥのことでもない。
では一体この人は真剣に何を考えているんだろう
どうしてそこで
…
アオガミが出てくるんだろうと。
「どうして、か。
…
そうだな。ならば、少し私の話を
…
考えを聞いてもらえるか」
「うん
…
」
彼はやや項垂れていた姿勢を正し、話を始めた___
「東京を守るためには王座を目指さねばならぬ。
だがそれを良しとしないベテル、その王座を破壊しようと動いているティアマト
…
これらは無視できない。そう話したな」
「はい」
「奴らに対抗しながら、且つ目的を為すためには
…
やはりナホビノという方法の他ない。君の協力が不可欠だった」
「
……
」
「目的を為すための間に合わせだと、そう君に受け取られても仕方がないだろう。
…
だが、あの時君はアオガミを失った哀しみに苛まれながらも、前へ進もうとする意思までは失っていない。
…
私にはそう見えたのだ」
「
…
!」
「アオガミが身を呈して君を守ったその気持ち
…
そしてその意味を、ただ自分が救われたというだけの結果で終わらせたくない。
君の目から、そんな想いが感じられた。
アハギハラシステムまで共に付いてきてくれたのも、可能性があるならばと
…
君もそう思ってくれていたからだろう」
「
……
」
「だから私は君に手を伸ばしたのだ。そんな君ならきっと、共に戦ってくれる筈だと」
驚いた
……
何故なら、この人の推察に間違いはなかったからだ
ここまで僕の気持ちを紐解き、そして汲んだ上で、
この人は「共に戦おう」という申し出をしてきていたのだった。
“神造魔人は心を持たない”___
アオガミも言っていたことだけれど、
他でもないそのアオガミと一緒にいた僕だから分かってた
…
それは嘘だ。と。
アオガミに守られ、今ここに僕だけが居る状況が
その何よりもの証明
……
そしてこの人も、また
…
共に行動するようになり、彼の話を聞く機会が増えたことで、
当初彼に対して持っていた事務的な印象はやや変わりつつはあったが
今の話でこのツクヨミという神造魔人も、そうなのだと知る。
他人の気持ちを紐解くということは、
自身も相応の感受性を持たないことには為せないことだからだ。
「
……
だがな」
「?」
「不安だったのだ」
「不安?」
「それでももし、君にこの手を拒まれたら
…
と」
分からなかった
…
そうだったんだ
…
あの時の彼の表情からは、そんな様子は一切感じられなかった
…
あの申し出は、彼なりに意を決した判断だったようだ。
「君も、不安だったろう」
「えっ?」
「私の手を取ろうとしてくれたあの時
…
一瞬だが、躊躇う気持ちが君に見えた」
「そ、それは
…
」
「無理もない。ナホビノの知恵と生命の関係に無い者同士の常軌を逸した合一。
理論上可能だと言われても、あまりにも未知数ゆえに信用するには心許なかった筈だ」
「
……
。うん
…
」
これほどまでに観察力に長け、且つ非常に察しのいい相手だ。
僕が迷った一瞬の挙動を見逃すわけがないだろう。
否定したところで気遣いからの嘘だと見透かされるに違いない。
ここは素直に肯定し、頷いた
…
「
…
ありがとう。それでも、私の手を取ってくれて」
「ツクヨミ
…
?」
「東京を救うために王座を目指す。これは我々の当然の目標だが、その前に私は
…
私を信じてくれた君に報いたいと思うのだ」
「
…
!」
「せめて私と共にいることが、君の負担にならないようにしたい。
アオガミが君に為そうとしたことが、私にもできれば
…
とな」
ああ、そうか。この人も
…
この人も僕と同じなんだ
……
難しく考えていたのは僕の方だった。
総理大臣や支部の最高責任者という表向きな立場だけで、
越水ハヤオという人物に難しいイメージを勝手に持ってしまっていた
…
本当の彼は、もっと____
「
…
ふふっ」
「? どうした」
「ううん。ごめんなさい。少し、意外だったから」
「意外?」
「うん。ツクヨミも、僕と同じように不安になるし、今だって僕と同じことを考えてたんだなって。
僕もね、あなたとどう接すればいいのか分からなくて
…
あれこれ考えてた」
「
……
」
「つまり、あなたもそうなんでしょう?」
「
……
。
…
ああ」
少しばつが悪そうに肯定する。
僕と同じようなことで悩んで、考えて、まるで神よりも人に近しいその様子に、
彼に対する不安は親しみに変わっていった。
「もっと難しい人なんだろうって思ってた」
「
…
そうか」
「アオガミが言ってたんだ
…
“共に理解し合えるよう、こうして言葉を尽くしていこう”って。
それこそ、こんなふうに一緒にベンチに座って」
「アオガミがそんなことを
…
」
「実際こうして会話をしなければ、僕はあなたのことをずっと誤解したままだったと思う。だから
……
話しをしよう?これから、もっとたくさん
「! 少年
…
」
意外な申し出だったのか、やや目を見開いてこちらを見る神造魔人。
総理大臣で長官だった彼の時にはなかった表情を見せたが、
すぐに察した様子で「そうだな」と納得したようだ。
初めて出会った時の難しく事務的だったイメージは、
国のトップで、且つ組織のトップという立場上必要だったほんの一面
…
ただの外殻だったのだろう。
「それが今の君の望みであり、そしてアオガミもまたそれを望んでいたというのならば
それは間違いなく、これから私が心掛けていくべきことなのだろうな」
「この先ツクヨミともそうして付き合っていけたら、僕もうれしい」
「
…
そうだな。私もそう思う」
一度は片翼を失い、大空を羽ばたく力を失った者同士
…
今はまだ、歩く速さも歩幅も違うけれど
これから少しずつお互いを知り、歩み寄ることで次第に
どちらのものでもない、二人の歩幅になっていくんだろう
“一心同体”
…
僕とアオガミが、そうだったように___
「
……
。ツクヨミ」
「ん?」
左手を差し出す。今度は僕の方から
「改めて、よろしく」
「
…
ああ。私の方こそ、よろしく頼む。少年」
二人の間ではこれが2度目の手繋ぎ___
そのとき僕は、新たにナホビノの関係を結んで初めて
月神の名を持つ神造魔人の柔らかい表情を見た。
🌙
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