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彼方
2025-04-05 12:52:31
3243文字
Public
お題箱より
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【001】こたつむり(全年齢)
【いただいたお題】
・こたつ仕舞いになやむbkak(同棲)
「また来週、気温下がるかもしれませんし……」
こちらをアレンジしました。DD3×DD2の春あたりの話です
ーー
お題は引き続き募集中なので、キーワードやシチュエーションなど
入れていただけると嬉しいです
https://odaibako.net/u/Kanata_owlet
「あかあし、あかあしってば!」
ゆさゆさと揺さぶられて、ハッと目が覚める。うっすら寒さを感じるのは室温が下がっているからか
……
いや違う、入っていたこたつの電源が切れているからだ。
「ねえあかあし、聞いてる
……
?」
「ん
……
あ、はぁ
……
」
「もーーーー、まだ寝ぼけてる!」
いつの間にかメガネは顔から外れていたらしく、ぼんやりとする視界の中に手を伸ばしてなんとかメガネを探し出す。寝ぼけまなこがクリアになったとたんに飛び込んできたのは、怖い顔で俺を見る恋人の姿。
「あんだけこたつで寝るなって言ったのに、あかあしってば全然俺の言うこと聞いてないじゃん!」
こたつに突っ伏して寝ていた俺の肩にバサっとフリースのブランケットを掛けてから、木兎さんは俺の目を見て『ダメじゃん!』と改めて怒りの声を上げた。
「
……
お帰りなさい、ずいぶん遅かったですね」
眠い目をこすりながらじっとりと木兎さんを下から睨め付ける。そもそも俺がこたつでうたた寝をしてしまったのは、飲み会で遅くなる木兎さんを寝ずに待っていたからだ。
……
まあ読み始めた小説が面白くてついつい熱中してしまって、気がついたらこたつのタイマーが切れてしまっていたのは俺が悪いんだけど。
「今日の飲み会は絶対に遅くなるからって最初から言ってたし
……
それに俺べつに起きて待っててってなんて言ってないでしょ」
「それはまあそうですね」
同棲を始めて最初の冬。大学2年生の秋に二十歳になった木兎さんは、そこそこお酒が強かったのが運の尽き。飲み会に誘われることがぐっと増えた。忘年会だの新年会だの送別会だの、名目はいろいろだ。所属するバレーボール部だけではなく、学部の友達とか他大学との合同飲み会とか、とにかくあちこちに呼ばれる。元来陽気なひとで場を盛り上げるのも上手いし、長くスポーツ系の部活をやってたから上下関係もきちんとしてる。ガンガン飲まされても潰れないし都合がいいんだろう。最近はかなり体格も良くなってて力も付いたからか、酔い潰れた人を担いでタクシーに乗せたりする役目なんかもしているらしい。
「べつに木兎さんを待ってたわけじゃないです。いま読んでた本が面白かっただけで
……
」
「今日はそうかもしれないけど、それまでだって何回も俺が遅く帰ってきた時にこたつで寝落ちてたじゃん! だから早くこたつ布団は片付けてベッドで寝るようにって言ったのに
……
」
こたつ、それは貧乏学生には必須の家具──なにかと節約したい大学生の同棲生活。古くて電気代のかかる部屋備え付けのエアコンよりも、電気代が安くて居心地のいいこたつは使い勝手が良い。春夏はこたつ布団を外せばちゃぶ台になるし、秋以降はくつろぐのもレポートを書くのもご飯を食べるのも全部こたつでだ。なんなら後期の試験勉強中の仮眠もほぼこたつだった。これは木兎さんにかなり怒られて渋々諦めたけど、うとうとし始めた時のこたつの温かさは何物にも変えがたい心地よさがある
……
それで何度か風邪をひいて木兎さんに怒られたから、俺も大概懲りてないんだけども。
「だいたい、実家からこたつを持ってきたのは木兎さんのほうじゃないですか」
俺が高校を卒業して進学するタイミングに合わせて寮を出ることになった木兎さんと同棲を始めた。なにかと物入りだからと新しく買った家具はダブルサイズのベッドだけ。シングル二つは部屋に入り切らないし、かといってデカい男二人の同棲だからベッドのサイズは譲れない。普通にシングルを買うよりもお金がかかってしまった分、他の家具の大半は同じタイミングで実家を出ることになった木兎さんの下のお姉さんから譲ってもらった。
その中にあったのがこのこたつ。一人暮らしサイズで男二人が入るにはちょっと狭いけど、こたつ布団はコンパクトで場所を取らないし、なによりも対面で座っても隣同士で座っても距離が近くていいんだよなぁ。いや別に近いから何かをするわけではないんだけども。
「寝落ちするのはあかあしだけでしょ! 俺はこたつで寝落ちたことないからね」
俺はお怒りモードの木兎さんにこたつから引きずり出されて、メガネを奪われそのままベッドに押し込まれた。俺は風呂も済ませてパジャマだったし、木兎さんも寝る支度は終わってたからそのまま寝ても特に問題はない。でも納得がいかないのか木兎さんのお説教はまだ続くらしい。
「俺が何回言っても寝落ちするし、寝落ちして風邪ひくし、寝落ちした後は体バキバキになってるし、あかあしもうそんなに運動してないんだからバキバキになったら長引くし、とにかくこたつで寝落ちしていいことなんて何もないでしょ!」
「木兎さんが珍しくちゃんと俺に説教してる
……
」
説教される気まずさもあって、俺は布団を被り直して壁の方を向いた。飲み会帰りで体温の高い木兎さんの足が俺の足に絡まってすごくあったかい。
「俺真剣に怒ってるのに
……
」
ふわ、とあくびを噛み殺した俺の背中側で、だんだんトーンダウンしていく木兎さんの気配がわかる。俺に釣られたのか、木兎さんもふわぁっと大きなあくびをした。
「先週から気温が乱高下してて、あったかくなったかと思ったら雪降るし」
三寒四温とはよく言ったもので、今年の春先はとにかく気候が安定しなかった。だんだん暖かくなるんだと思って何度かこたつ布団を片付けるタイミングをうかがったものの、雨が続いたり季節外れの雪が降ったり判断に困る日ばかりだったのだ。
「まあなあ」
じわっと背中が温かくなった。にじり寄ってきた木兎さんが俺を抱き込んだからだ。俺の首元に木兎さんの鼻先が当たって、すりすり擦り付けてくるのは大型犬がじゃれてるみたいで嫌いじゃない。
「今日はちょっと暖かかったから寝落ちしても風邪ひくとこまではいかないと思うけど、また来週気温下がるかもしれませんし
……
」
「それもわかるんだけど」
俺を抱く木兎さんの腕に力がこもる。ああでもこのまま寝たら木兎さんの大事な腕が下になってしまうから、それはよろしくない。仕方がないからいったん木兎さんの腕の中から脱出して、向きを変えた。不満そうな、でもそろそろ眠そうな木兎さんの顔が目に入ってきて、ああ好きだなあって改めて思う。俺はたぶん、この顔に弱いんだ。
「こたつだと、木兎さんも入ってくるでしょ」
平均よりも身長が高い男が二人一緒に暮らすと、なんとなくお互いに動きやすい距離感みたいなものができてくる。狭いキッチンには二人であまり並ばないとか、ちゃぶ台を使う時はちょっとタイミングをずらすとか。
でもこたつの時期は、狭くても木兎さんは俺と一緒に入ってくれる。こたつに二人で入った時の絶妙な近さが好きなんだよな、面と向かって木兎さんに言ったことなかっただけで。
「
……
ん? まあ入るでしょ、寒いし」
俺の言ったことがよくわからなかったのか、眠そうだった目を一瞬見開いて驚いた顔をする木兎さん。この顔も好き、ちょっと幼く見えて可愛いから。高校時代に少しだけ残ってた子供っぽさもすっかり無くなって、最近木兎さんは本当に格好良くなった。それがほんの少し癪だなと思うのも、まだ本人に言ったことはない。
「桜が散るまでには片づけますから
……
もうちょっとだけ、こたつにしときたいんですよ」
いよいよ眠くなってきたから、もう目が開けていられない。俺の好きな木兎さんの顔が見えなくなるのがちょっと残念だけど、眠気には勝てないなあ。
「なんかよくわかんないけど、もう寝落ちしないでよ
……
」
木兎さんの声も眠そうだ。いつものように木兎さんの腕を下にしないよう気をつけながら、俺は木兎さんの胸に顔を埋めて目を閉じる。そっと背中に回ってきた手の温かさが俺を心地良い眠りへと誘ってくれる。
「はぁい」
返事だけは良い子でいよう。だからもう少しだけ、こたつを使っても許してね木兎さん。
2025.4.5
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