紫輝
2025-04-05 08:19:24
1665文字
Public リオヌヴィ
 

着飾る龍はお好きでしょうか

凝った衣装を頑張って着ているヌ様と全部分かってて毎回甘やかしに来ているリ殿の話です。リ殿は抜け目ないので至近距離で堪能しつつメリュ達に頼んでお写真もゲットしています

 ふう、と溜め息をついてソファに沈むと、部屋の入り口からここまでエスコートしてくれていた手が離れていく。
「お疲れさん」
 それを残念に思う間もなくすりと頬を撫でられて目を細め、配慮を感じる手つきで常より豪奢で重い髪飾りを外されるのに二度目の息をついた。
「今日のご希望は?」
「こうちゃ
 背中を受け止めてくれるクッションに埋もれるまま呟けば、お、嬉しいね、と喉奥で笑ったリオセスリがグラスに注いだアイスティーを差し出してくれる。その手ごとグラスに手を添えてストローを咥えアイスティーを吸い上げると、熱気と感情にさらされて波打った心がやっと凪いだ心地がした。
「今回の衣装も豪華だな」
 ソファに懐くヌヴィレットに目を細めたリオセスリがしみじみと言う。『青』を複雑に染め分けられた布、端々にあしらわれたビジュー、縁という縁に施された金刺繍、小物の一つ一つをとっても手をかけられた品とわかるつくり。国家元首サマは大変だな、と。
「このような衣装を纏う必要性を、理解も、納得もしているのだが、」
 つかれる。
 ぽそりとこぼした本音に、髪飾りを丁寧に箱に収めたリオセスリは吐息で笑う。
「そうだな。あんたこういう服得意じゃないもんな。ただまあ、デザイナー連中の気持ちもわかる。あんたみたいな美人を飾り立てる機会に恵まれたら張り切っちまうだろう」
「そういうものか」
「そういうものさ」
 それにあんた、要因がなんであれ喜ぶ国民を見るのは好きだろう?
 くつくつと笑っていたかと思えば不意にそれを収めたテノールに穏やかに口にされてぱちりと瞬き、それからうなずいた。今や慈しむべきものとなったフォンテーヌの民たちが笑顔を絶やさず健やかである様を目にすると、ヌヴィレットの心は穏やかになる。正直理解は及んでいないのだが、自分がやたらと豪奢な衣装を纏うことが彼らの幸福の一助となるならまあそれも構わないか、と、そんな思いで手を替え品を替え差し出される窮屈な装いを受け入れているのだ。
「君は?」
「うん?」
「君は……君も、嬉しいだろうか。私が、このように装うのは」
 慈しむべき民で、何より愛するつがいである彼も、人間特有の、この奇妙な行為を喜んでくれるのだろうか。
「あんたには申し訳ないが、そりゃあ嬉しいさ。どんだけ豪華な衣装でも着こなす美人の恋びとがいる幸せを噛み締めてるよ。毎回」
 であるならば『これ』にも今以上の意味が生まれる。考えつつ投げた問いに「実はいつもどんな衣装を見せてくれるのか楽しみにしてるんだ」、と愛おしげに答えられて、胸がじわりと熱を持つ。
そうか。君が喜んでくれるのなら、今後はもう少し前向きにこれらの衣装に袖を通すことができそうだ」
 彼に褒められるのは誇らしいし。
 『これ』のあとはいつも、こうして控え室で待っていてくれる彼が甘やかしてくれるから満たされる。
 それに「リオセスリが喜んでくれる」が加わるのなら。
 正直なところ憂鬱だった次の式典予定日が楽しみにすら思えて。
 喜んでもらえて嬉しいと微笑むと、一瞬フロスティブルーを見開いた彼は困ったように笑う。
……あんまりそういうことを口に出すもんじゃない」
 調子に乗っちまうだろ、と、頬を掻いて口にされた言葉に少しだけ眉を寄せた。
「君はもう少し調子に乗っても良いと思う」
 リオセスリはヌヴィレットの唯一無二のつがいで、愛する恋人だ。そこで躊躇う理由がわからないし、必要性を感じない。彼がヌヴィレットの前で常に纏う、あたたかくやさしく穏やかに包み込んでくれるような気配とそこから為される振る舞いは大好きだけれどもそれはそれとして――もう少しくらい龍王のつがいとして傲慢になってもいいのでは、なんて思ったりしているのだが、残念ながらそれをうまく伝えられる話術に、ヌヴィレットには持ち合わせがない。
「じゃあお言葉に甘えて」
 そんなことを言いながら落とされた口づけはいつも通りにやさしくて、乗りが悪いとその鼻にそっと噛みついた。