スサ
2025-04-04 23:29:07
3289文字
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【成長鬼水】おめでた

書きたいとこだけ書こうとしたのですが前夜的な内容に…これは産めるタイプの水さんです。苦手な方はスルーしてください。

 最近どうもうっすら体調が悪い。
 歯を磨きながら水木は眉をひそめる。心なしか鏡に映る顔は白っぽく見える。つまり顔色が良くない。
……
 極めて長寿になってから、いやそうなる前も、水木は基本的に風邪ひとつひかない丈夫な人間だった。唯一体調を崩したのはあの村に行った後しばらくの間くらいで。
 そのため、水木は体調不良というものに慣れていなかった。実年齢としてはそろそろ百に手が届くのだけれど、未知のものはやはり少し恐ろしいし、どうしていいのかわからない。
 葛根湯とかを飲めばいいのか?、と考えてから、人間じゃなくても漢方って効くのか?と疑問を抱く。
 水木はため息をつき、とりあえず口をゆすいだ。倒れる程に悪いわけではないし、熱もない。いや、少し微熱が続いているかもしれないが、誤差範囲。
「季節の変わり目かな。あいつに気づかれないようにしないと」
 呟いて、水木は思わず肩をすくめて笑ってしまった。
 そう。水木のことに関して世界で一番心配性な存在が水木にはいる。お酒飲んでそのまま寝たんでしょうとか、風呂上がりに髪をちゃんと乾かさないからとか、腰に手を当てくどくど小言をくれる姿は容易に思い浮かぶ。
元気かな」
 そういえば生業─といっていいかはわからないが、妥当な呼び方に見当がつかない─が忙しいのだろう、彼と最後に会ったのは一ヶ月くらい前の気がする。
 ちゃんと飯は食っているか、寝ているか、怪我をしていないか、傷ついていないか心配は尽きることがない。ただ、心配なだけでもなかった。単純に寂しいというか、顔が見たいというか、まで無意識に考えて水木は頭を振った。何かとてつもなくらしくないことを考えた気がして恥ずかしかった。

 その日の夕方。
 結局会社でも心配されてしまい、定時より早く帰宅した水木が玄関を開けている時だった。
「水木っ」
 カラッと音がした、と思った時には後ろから抱きしめられていた。
鬼太郎」
 自分を後ろから抱きしめる手に手を重ねて、水木はそっと名前を呼ぶ。鬼太郎の手は震えていた。
「会社で倒れたって」
……大げさだなあ、大丈夫だよ」
 その日水木は、とうとう会社で立ち眩みを起こした。倒れる程ではなかったけれど、最近顔色が良くないからと同僚達にも心配され帰された。
 鬼太郎はどうにかしてそれを知って飛んできたようだ。カラスか、ネズミや虫か、はたまた何らかの妖怪からか。とにかく何かしらの情報源があるのだろう。
「大丈夫だよ。最近ちょっとだるくて
「最近?」
 鬼太郎の声が大きくなる。わ、と声を上げる間もなく、強い腕が水木を一度離した後に正面から抱きしめ直してきた。
おい、あの中に入らないか」
 誰ともすれ違ってはいないし、まだ誰の視線も感じないけれど、玄関前で抱き合っているのはいささか外聞が憚られる。
………
 いつの間にか水木より大きくなった男の目は真っ直ぐこちらを見つめていた。

 とにかくだるいこと、食欲があまりなく、特に脂っこいものはにおいだけで吐気がすることもあること、等の症状を白状させられ、水木はらしくなくしおしおと鬼太郎に抱えられていた。何としたことか、そうされると妙に安心もしてしまって
すぐ知らせてくれたら」
 眉をひそめて言った後、鬼太郎は首を振った。
「いえ、僕がもっと早く顔を見に来てれば」
でも、忙しかっただろ」
 鬼太郎は困ったように首を振った。
そうなんですけど、あなたが寝てから顔だけ見たりはしていて、その
「起こせよ」
 元妖怪少年、現青年に不法侵入も何もない。だからそこは気にせず、水木はそれだけ言った。
……、起こしたら、何もしないで我慢できる自信がなくて」
「!」
 あまりにストレートな物言いに、パッと水木の顔が赤くなる。
 そう。
 鬼太郎がまだもっと少年らしい姿をしていた頃、一途に口説く彼に頷いてしまったのは水木で、それから長い時間が経った今は深い仲になった。
……そうかよ」
「でも、あなたが起きてる時に来られるようにしなくちゃいけなかったのに」
 頬ずりされて、普段ならやめろと言うはずなのに、今の水木にそれを言う元気がなかった。
あの。何日かでもいいので、森に、いや、僕がこっちに泊まった方がいいか」
 ゲゲゲの森には霊気がある。既に人の寿命を外れた水木にも居心地は悪くないはずだが、しかしそれはそれとして文明化されてはいないので、ガスや水道、電気は使えない。その生活を弱っている水木にさせてもいいのか?と鬼太郎は迷った。
「泊まる?」
 ガバ、と水木は顔を上げた。なんだか無邪気な顔をしているように見え、鬼太郎はドキリとした。
「はい。あなたが許してくれたら」
 言い切る前に抱きつかれ、鬼太郎は目を丸くした。こんなわかりやすい愛情表現、本当に子どもの頃にしかされたことがない、ような
「嬉しい」
………っ、はい」
 額や眦に口づけ、鬼太郎は急いで来て良かった、と噛み締めた。先週様子を見に来た時に起こせば良かった、とも。
 いったん服を着替えさせてやってから、鬼太郎は水木を横抱きに抱え上げ、ベッドに寝かせてやった。
そこまで悪くない」
 むくれる水木に笑って、具合が悪い時は寝るのが一番って言ってたのは水木さんですよ、と言う。むむ、と黙り込む顔は不満げで、けれども、そこで丸め込もうとしてこないあたり、本当に弱っているのかもしれない。でなければ、鬼太郎に会いたくて寂しかったか
 元々義父と養い子の義親子関係だったから、水木は弱い所を見せるのを極端に嫌う。だからこんなに素直なことは少ない。
 心配しつつも得をしたような気になりつつ、「夜はおかゆにしましょうか、うどんがいいかな」なんて言った鬼太郎に、水木は幾分考えた後こう言った。
 酸っぱいものが食べたい、と。

 心当たりというか、身に覚えはたくさんあるが、かといって水木は男性体だし、幽霊族が何でもありだったとして、まさかでも、いやしかし。鬼太郎は昆布を土鍋に敷きながら、内心の混乱を鎮めるよう深めの息を吐いた。
 水木の体調不良の症状を確認しながら、鬼太郎は戸惑いを覚えていた。ある症状に近い気がしてならず
 その後、ふたりは意を決して妖怪病院の外来を訪れ、どうやら純血でこそないが、幽霊族の家族が増えようとしていることを告げられた。
 あまりのことに、今度は本当に水木は倒れたが、しかしこれは致し方ない。

………なんだあの分厚いの」
 あの時勤めていた会社は思い切って退職し、こんなあばら家に妊夫を置いとけるか!と砂かけ婆筆頭に女妖怪達にどやしつけられ必死で改造したゲゲゲハウスに水木はいる。
 未だ腹が膨らむ兆候は見られないが、どうもゆっくり育ってはいるらしい。今はのんびりミカンを食べながら、何かやたら分厚い本を睨むように開いている鬼太郎を見やり、水木は心の底から不思議に思って尋ねる。
「命名辞典を読んどるようじゃの」
………妖怪にもそういうのあるんだ」
「失敬なわしらにも縁起の良い名をつけてやろうという親心が
 おまえが?
 水木は疑問に思ったが言わないでおいた。
……いっちょ前に考えてやがって」
「一人前でなければ困るわい。わしの相棒孕ませておいて」
 ぶは、と水木はむせた。
 ぐるん!と鬼太郎が振り返る。
「父さん!水木さんをからかうのやめてください」
 ほいよ、とあまり真剣でない声が返ってきても、鬼太郎はあまり気にしなかった。それだけ真剣に読んでいるらしい。
………別に、元気に生まれてくれれば」
 それで、とぽつりと言う水木は幸せそうな顔をしていて、もうとっくに受け入れているのだと目玉のにもわかった。
「まあまあ、めでたきことなのだから」
 なだめる目玉だったが、その後息子が挙げてくる候補が個性的なものばかりだった時にはさすがに声を大きくするのだった。