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tonami
2025-04-04 16:59:21
3409文字
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ホラー
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混ざりもの
湿気組。怪異耐性ある人達と⚔️そういうところだからなという話。
視界の端を白が横切った。ひらひら揺れる白色が廊下の角を曲がっていく。無意識に視線でそれを追ってしまって、すぐさま我に返る。そうして、またか、と溜め息をついた。
クライガナ島のシッケアール王城。荒れた島の中に建つ城の中は広さゆえに手が行き届いていないところもあるが、城主が日々こまめに掃除をかかさないため一人で暮らしていたにしては清潔さを保っていた。そこにペローナはある日突然飛ばされた。わけがわからないまま、同じく飛ばされてきたらしい重傷の男を拾い城主含めて三人で暮らし始めて一年ほど経つ。城としての雰囲気はスリラーバークには敵わないが、ペローナはそれなりに気に入っていた。同居の男二人は揃って剣やら刀にしか興味がなく、城主に至っては暇が過ぎて農業に凝り出す始末である。食べ物に困らないのはありがたいのだけれど。
島には何もないので時折暇を持て余したり、別の島にまで買いに行かなければならないためココアが気軽に飲めないことが不満と言えば不満だったが、それ以外は特に困ったことはなかった。ただひとつ、どうにも厄介な事象がたびたび起きる。
鷹の目に報告だな、と曲がり角を無視してまっすぐに進む。用があるのはこの先の鷹の目の部屋だ。いまの時間なら師弟揃って部屋にいるだろう。
廊下の角を白色が曲がっていく。そちらとは反対側の角をペローナは曲がった。
ゴーストプリンセスの名を冠する通り、ペローナはいわゆる幽霊やらの類には恐怖はない。ミホークはそもそもあまり寄りつかれない。問題があるのはゾロだった。最年少の男は、あの手の類に好かれやすい。
ゾロは死に近かった。この島に飛ばされた時しかり、鷹の目に受けた傷しかり。聞けばスリラーバークでも死にかけていたという。何度も生死を彷徨っては、死神すら跳ね除けて此岸に戻ってくる。そのうちあちらの空気が魂に混ざり込んで、どちらに戻るのかわからなくなってしまうのではないかというほどに、ゾロの存在は曖昧だった。本人が対処できるのと、死を感じさせる行動とは真逆のからっとした性質でこれまで重篤な状態には至っていなかったが、これはいっそ奇跡に等しい。あちらから見ればゾロはこの世で連れて行きたい男No.1を独走している。二位は同じ一味の長鼻だ。ペローナ調べなので私怨を多分に含んでいる。
「やっぱり傷残っちゃうな」
「有能な医者を探せば消すこともできると思うが」
「別にいい。逆に箔がついて結構じゃねェか」
にやりと口角を上げるゾロに呆れて息を吐く。左目の上を走る引き攣れた傷跡が痛々しい。修行の最中に負ったそれは相手がミホークだったこともあり、傷口は綺麗なものだった。しかしいくら加減していたといえ威力は充分で、潰れてしまった眼球は元には戻らない。
片目を失ったゾロは最初こそ戸惑ったものの、すぐに順応してみせた。距離感を掴んだり死角になってしまった左側に慣れるのにはさすがに時間を要したが、現在はほぼほぼ両目が揃っていた頃と変わらない動きができるようになっている。こいつのこういうところだよなあ、とペローナは
三度
みたび
呆れを吐き出した。みずからの傷に頓着しないところがあちらに好かれる要素であり、どれだけ傷を受けようが抱え込んで前を向いて歩いていける強靭さが死を跳ね除ける。
「そういえば鷹の目、廊下に妙なのがいたぞ」
「またか。どこだ」
曲がり角を過ぎていく白色の話をすると、ミホークはあとで見ておくと頷いた。そのうち見えなくなるだろう。係らない限りは危険なものではない。だがそこに爆弾を落とすのが、ロロノア・ゾロという男だった。
「白色って言やァ、時々窓の外に女いるよな」
思わずミホークと揃ってゾロを凝視した。ゾロの私室は一階にある。変に階段を上らせるとこの広い城で迷子になるからだ。なので窓の外に人が立つのはなんら問題はない。この島で生活しているのは、城主であるミホークの他に、そこへ転がり込んだペローナとゾロの三人だけという点を除いて。
ヒューマンドリル達は人間の真似事をするが、あれはあくまで動物だ。人間じゃない。だから三人以外で人間がいるとすれば、漂流者かミホークを討ちにきた賊か、──もう死んでいる人間か。
「
……
いつからだ」
頭が痛むのか、こめかみを指先で押さえながらミホークが問う。ゾロは少し考えるように斜め上に視線を投げた。
「この間、ペローナと買い出しに行った時くらいからだな」
「ひと月前か。何か変わったことは?」
今度の問いはペローナに対してだ。先月の買い出しを思い出しながら、ペローナは首を横に振る。生活必需品のための毎月恒例の買い出しはゾロと行くことが多い。たまに目を離した隙にゾロが消えることはあるが、大きな問題は起こっていない。前回もいつも通りに必要なものを購入して、せっかく島にきたのだからと少し寄り道もした。その間ゾロはペローナのそばにいた。いちいち能力を使うのも手間で基本ゾロの腕を抱え込んで移動しているため、一人でどこかに行く時間はなかった。
「
…………
あ」
ふと、思い当たることがあった。ある程度買い物を終えて、休憩したくて店を探していた時だ。なんとなしに覗いた路地で、女性が一人、ガラの悪い男連中に絡まれていた。ごろつき越しにこちらを見た目は助けを求めていて、咄嗟に能力を使おうとしたペローナより早くゾロが動いた。抱えていた腕をするりと容易く抜いたかと思えば、持ってきていた一振りであっという間にごろつき共を倒したのだ。腰を抜かして座り込む女性に駆け寄ったペローナは、彼女の目がゾロに釘付けになったのを間近で見てしまった。
ゾロは存外、異性に好意を寄せられやすい。助けられて恋に落ちるなんてベタもベタだが、ゾロのような一見強面でとっつきにくい男が自分のために危険を顧みず助けに入ってくれた上に、怪我がないか案じるぶっきらぼうな優しさを見せられるととんでない効果を発揮するらしい。しかも見目も悪くないとくれば、吊り橋効果も相まってあっさり落ちる女は、ペローナが知る限りこれまで何人かいた。本人はただの修行馬鹿で刀馬鹿なのに、とペローナは思う。極度の方向音痴を見れば恋も冷めるだろうか。それすら受け入れられれば特大に厄介なものを生み出しそうだから黙っておこう。同居人の色恋沙汰に関わりたくない。
「
……
そんな奴助けたっけか?」
「お前そういうとこだぞ」
本人は女性を助けたことなんてこれっぽっちも覚えていないのだから、これに惚れた女性がいっそ憐れだ。
「窓の外にいんのはその女ってことか?」
「白いワンピース着た金髪の女なら、そうだな」
「
……
黒髪ではないのか」
ぼそりと呟いた鷹の目を胡乱に見上げる。東だったかどこかの海では白いワンピースとくれば黒髪が定番だと何かで聞いた覚えがある。ゾロが
東
イースト
出身だからそう思ったのか。鷹の目は素知らぬふりでワイングラスを傾けている。
「その女っぽいが、金髪かどうかはわかんねェんだよな。そいつ、首ねェし」
「生き霊どころの話じゃねえじゃねーか!」
「なぜもっと早く言わない」
「いや
……
明らかに死人だし
……
いざとなったら斬りゃすむし」
口ごもりながら気まずげに目を逸らすゾロはそれに、と続ける。
「おれしか興味ないみてェだから、お前らに害がねェんならいいかって」
──さすがに我慢ができなかった。忍耐の限界だ。
ペローナのゴーストがゾロの体をくぐり抜ける。反射的に飛び退くも、同居人はあっさり床に崩れ落ちた。ダン、とペローナ用に注がれたワインを飲み干して、グラスをテーブルに叩きつける。割れたら危ないだろう、と嗜める声は無視した。
「ロロノアお前!! そういうところだからな!!」
まったく、と
憤懣
ふんまん
やるかたないと始まった説教にミホークは騒ぐのなら他でやれ、とグラスにワインを注いだ。口では煩わしいと言いつつ、どうせ酒の肴にする気満々なのはわかっているので、ペローナも額面通りに受け取らない。証拠に、ミホークは呑んでいたワインボトルを一本空けたし、説教はゾロが素直に謝るまで続いた。
窓の外の存在については次に現れた際にゾロ本人の手で処理されたため、正体はあの女性だったのか、それとも別のものなのか詳細は不明なままだ。
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