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ヨジ🔞
2025-04-04 13:40:19
5355文字
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jjba
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【DIOプチ】Eat The Apples
運命の相手からのキスで目覚めるスタンドの話。
※独自解釈・独自設定
※荘軸
幽闇な住宅街は、不気味に閑静だった。
玄関から漏れるあたたかな灯りが、薄汚れた外廊下と、そこに立つきらびやかな男を照らしだしている。金の光がその毛先や爪先で踊り、あたかも妖精の鱗粉をふりまいたようだ。
「やっと帰ってきたか、DIO」
吉良がわざわざ出迎えるとは、珍しいことだった。つまり、トラブル発生である。
吉良吉影はここ荒木荘の仕切り屋であり、血の掟その二「働かざる者食うべからず」を司っていた。(ちなみに、血の掟その一は「弱肉強食」である。)
社会に溶けこむスキル持ちで稼ぎ頭の吉良なしで荒木荘は立ちゆかず、ゆえに、彼はその働きに見合った権利を有していた。一、吉良吉影の平穏をさまたげるべからず。二、異常事態発生時、住人どもは吉良の指示にしたがって、すみやかに問題を解決すべし。
DIOは「食事」をとってきたところだった。そこらの女の血を吸い尽くしたあと、ホテルを出て戻ってきたのだ。朝帰りならぬ夕方帰りである。
「何があった」
「とりあえず見てくれ」
六畳一間の安物件に、廊下と呼べるものはない。狭いキッチンを通り抜けると、すぐに共用スペースである。
畳の間ではいつものように、荒木荘で暮らす野郎どもがゴロゴロ、せまい縄張りの中で思い思いにすごしている。のどかに見えるが、互いに干渉を避けているだけだ。その実態は、万人の万人に対する闘争、一触即発とも累卵ともいうべき自然状態である。協調性の欠片もない。野蛮な秩序でも、ないよりましだった。
DIOが帰ってきても完全に無視か、チラと目線を上げる程度で、特に挨拶などもない。DIOとて彼らと馴れ合うつもりはないが、妙だった。
この中には唯一、DIOと親しくしている人間がおり、彼からの挨拶がないのは初めてのことだったのだ。
「おい、プッチ。起きろ」
DIOの「友人」は部屋の隅で眠っていた。神の下僕を象徴する首輪
――
純白のローマンカラーは着けず、私服にカソックを羽織ったラフな姿である。
直に畳に転がっている彼を、DIOはかるく揺すった。が、目覚める様子はない。
「スタンド攻撃か?」
吉良は頷いた。
「出会いがしらに攻撃されたのか。防ぎようがないな」
「宅配業者に偽装してたんだ」
ここ荒木荘の住人は、たびたび妙なスタンド攻撃に見舞われる。アレッシーのセト神の暴走などはあまりにも頻発するので、住人をうんざりさせていた。他には、対象者を密室に閉じ込めるだの、部分的に猫化するだの、色々あったが、どれもくだらないスタンドばかりだ。DIOに言わせれば、どんな者だろうと人にはそれぞれその個性にあった適材適所があるとのことだが、彼はその持論を改める必要があるだろう。
そのDIOは慣れた様子で、プッチの状態を確認した。目覚めない以外、特に異常はなさそうだ。が、問題は、攻撃を食らったのが彼である点だった。
「プッチがやられたとなると、犯人探しが面倒だぞ。ホワイトスネイクが使えない」
「いや、犯人はもう捕まっている。相討ちでね」
プッチはスタンド攻撃を食らったのを悟った瞬間、きっちり反撃していたらしい。さすがは百戦錬磨、一騎当千のスタンド使いである。
攻撃を受けたプッチが昏睡状態に陥ると同時に、記憶を抜かれたスタンド使いも卒倒した。全ての記憶を奪われた人間、すなわち魂を抜かれた人間は、死人と同じなのだ。
経緯を説明した吉良は、青い光を帯びた円盤をDIOに差しだした。
「これがその記憶DISCだ。どんなスタンド攻撃か確認するなり、犯人に戻して尋問するなり、好きにしてくれ」
「吉良は確認したか?」
「まあ、興味本位でちょっとな。だからお前が帰るのを待っていたんだが
……
」
本来、スタンド攻撃の解除方法まで説明してやる義理は、吉良にはない。だが彼はやや思案をめぐらせると、口を開いた。
「どうも犯人の彼女、結婚相手探しが上手くいかなかったらしくてね
……
。その屈折した心理が、スタンドパワーの源らしい。スタンド名は『Eat The Apples』。対象を永遠の眠りにつかせる能力だそうだ。この呪いを解くには、運命の相手からのキスが必要らしい」
「ふん、なるほど
……
」
「気の毒だよ、美しかったのに性格が歪んでしまって。まるで白雪姫の女王じゃあないか」
「白雪姫? 茨姫の間違いだろ」
「ああ、元ネタの『グリム童話』は結末が違うって聞いたことがあるな
……
だがまあ、そんなことはいい」
そう言う吉良は、ちゃっかり新しい「恋人」を手に入れて機嫌がよかった。もちろん、スタンド使いの女から奪ったものだ。
「というわけだ。これでこの問題はわたしの手を離れたということで
……
引き継ぎはしたからな。あ、そこのゴミ袋に入ってるヤツ、あとでカーズかDIOが食っといてくれ」
体のいい死体処理係みたく扱われたDIOは極めて不快だったが、この手の争いはもう何千何万回と繰りかえしていたので、何も言わなかった。都合の悪いものはキラー・クイーンで爆破してもいいが、どうせなら人外どもの餌にして食費を浮かせよう。と、吉良は考えているらしい。まあ、倹約家という称号をくれてやるようなものだ
……
とDIOは思う。
これ以上の会話は不要だった。DIOは「世界」でプッチを抱えあげると、むさくるしい部屋からふたたび出ていった。野郎二人の接吻を見せることは、吉良の平穏を妨げる行為なのだ。
DIOは荒木荘にほど近い、ある一軒家に移動した。そこは彼が住民を追い出して、ねぐらにしている場所だった。DIOはそういう隠れ家をいくつか持っており、ここにはプッチも何度か連れてきている。
「君は贅沢な男だ」
眠る「友」をベッドによこたえ、DIOがつぶやいた。
エンリコ・プッチ。DIOの選んだ、「信頼できる友」。DIOを受けいれる奈落の魂をもつ人間。
「天国」から門前払いされた二人は、奇妙な六畳一間で再会したとき、役に立たないイチジクの葉の道義を捨てた。かくしてプッチは二度堕ちた。一度目は悪に。二度目は肉体の快楽に。どちらも、DIOの薫陶の賜物であった。
「このDIOと、こう何度も共寝をした人間はいない。君はわたしを恐れもしない
……
」
DIOはリンプ・ビズキットによって魂の一部を呼び戻されたが、ついぞ主導権を握ることはできなかった。もしもプッチがDIOを恐怖する人間であれば、その心理の間隙に漬けこむ隙もあっただろう。だが、そんな仮定を考えても無駄だ。協力者は強い精神力を備えた者でなくてはならなかった。一巡した宇宙が証明するように、運命はたらればを許さない。プッチしかありえなかった。それが「引力」だった。
三十九で老いることをやめた男は、DIOの知らない表情をしている。生前交際していた当時、何回か彼の寝顔を見る機会があったが、常にうなされていたおぼえがある。死後でさえ、これほど安らかに眠っていたことはない。
鼻をつまんでやろうか、という思いつきが一瞬よぎったが、すぐに振りはらう。
「吉良が起こせと言っているからな。熟睡しているところ悪いが、君には目覚めてもらう」
DIOは体を傾げ、「友」に口づけた。
「
……
どういうことだ」
DIOがいくら待てども、プッチは目覚めなかった。
吉良が何か勘違いしているのかと思い、渡された記憶DISCを確認したが、これで合っているはずだ。
手順が間違っていないのなら、原因は明白だ。DIOは、プッチの「運命の相手」とやらではないのだ。
「
………………
」
DIOよりも、プッチとの「引力」が強い人間が、どこかに存在する。そして、彼はその相手に心当たりがあった。
背教してからも、プッチが羽織っているカソック。その胸ポケットに、DIOはそっと手を差しこんだ。案の定、彼は持ち歩いていた。
ウェザー・リポートのスタンドDISCを。
「
……
DIO」
顔や首元に何かが刺さる、くすぐったい感覚で、プッチは目覚めた
――
と彼は思った
――
まぶたを開ければ、すぐそこにある友人の頭から、黄金の髪が豊かにこぼれ落ちているではないか。その流れのひとすじひとすじが、プッチの肌の感覚にいたずらを働いている。
倒れる前のことは覚えていた。きっと、目の前の親友が、助けてくれたのだ。
美しい彼の白い頬に、手をあてがう。
「ありがとう」
だが彼が相対していたのは、友人の真顔であった。その表情を注視したプッチは、下で渦巻く激情を見てとった。
「DIO」
「君にとって、わたしは一番ではないのか」
金の瞳から放たれる視線が、プッチの眉間を刺しつらぬく。
「話がわからない、DIO」
友人が時折見せる不安定さへの対処を、プッチは心得ていた。受けいれる。呑みこむ。うわばみのように。真摯であること
……
嘘はだめだ。
DIOはプッチの首元に顔をうずめた。プッチは子どもをあやすように、のしかかってくる巨躯の男を抱きしめる。
「わたしよりも、こいつの方が、君にとって重要というわけか」
そう言ってDIOは、手に持っていたものをプッチに押しつけた。
「
……
とったのか、これを。ぼくから」
「必要だった」
その言葉が真実かどうかくらいのことは、プッチにも看破できる。とっくの昔に、ただDIOに憧れているだけの子どもではなくなっていた。王の挫折を目のあたりにし、二十三年もの間、運命という圧倒的な壁を見続けた彼だった。
一瞬取り乱しかけたが、心の中でいくつか素数をかぞえる。
「返してくれて、ありがとう」
大きく息をついたプッチは、DIOの後頭部をなでた。艷やかにうねる髪に、褐色の五指を差しこみ、地肌から梳いていく。十六のプッチと話していた頃よりも、今のDIOは素直だと、彼は思う。
静かに荒れ狂うDIOをなだめながら、ぽつぽつと質問をするうち、プッチにも事の次第が見えてきた。
出会いの力、「引力」。それは、神が運命を操作する力である。
DIOとプッチは「引力」に導かれて邂逅した。共に「引力」を信じ、世界の秘密を共有した。
だが彼ら二人は、最初の林檎を、別の相手と食べたのだ。
「そんなに大事か、兄弟というものは」
「君ほどではないけどね」
正面から刺してきたDIOを、プッチは同じだけの刃渡りをもった言葉で刺しかえした。
先に攻撃してきたくせに、DIOはプッチの厳しさに面食らっていた。曖昧なままにしておくことを双方望むと思っていたのか、無際限に八つ当たりを受けとめてくれるとたかをくくっていたのか。
それとも。それとも彼が目を瞠ったのは、自分の言葉のナイフに傷つけられて、その刃物が自らにとってこそ凶器であることを、悟ったからか。
プッチは一度決壊したものをせき止めるすべを持たなかった。結局、何もかも話してしまう。損得勘定も、言いたくないことも、それどころか、言うべきではないことまで。全てさらけだすことを、DIOは一方的に要求する。心も体も奪い、支配する。それが彼の本性なのだ。
「こんなこと、言いたくないけど」
躊躇いがちに切り出された言葉は、しかし淀みなかった。プッチがそれを秘めてきた年月が、彼をそのように語らせるのだった。
「ぼくは君のことを一番大切な人だと思っているけれど、君には『一番星』以外、ないだろう」
そう言ってプッチは、覆いかぶさるDIOの首の傷をなぞった。ひとさし指は喉仏を通りすぎ、左肩の痣にとん、と着地した。とがめるような正確さで。
ゆっくりと手を引いたプッチは、やや顔を背けた。
「
……
不可侵領域を侵犯してしまったかな。でも、最初に言いだしたのは、君だから」
DIOは歯噛みした。プッチがあらぬ方向へ目をやっているのが気に食わず、咆えようとする自分自身をかろうじて抑え、改めて問いかえした。
「君はどうなのだ。肌身離さずそれを持ち歩いたりなんざして、君こそどうなんだ」
「このDISCか? これは
……
因縁が切れなかっただけだ」
プッチの頭の中に、敗北の記憶がよびおこされる。
人が敗北する原因は恥のためだ。彼は後悔する恥と引きかえに、ホワイトスネイクを得た。あの出来事がなかったら、プッチが「引力」を知ることもなかった。しかしプッチがスタンド能力に目醒めたから、ウェザーもまた目醒めた。
結末にいたるまでの、よく計算された運命の連鎖をたぐっていく。どこから始まっていたのかといえば、全ての「始まり」からとしか言いようがない。
続く言葉がDIOを総毛立たせることを、プッチは知るよしもなかった。
「双児だから。ふたりでひとりというだけなんだ
……
」
こらえきれなくなったDIOは、苛立ちまかせにプッチの唇にかぶりついた。有耶無耶にしようという魂胆は見え透いていたが、プッチはあえて乗った。乱暴な唇が離れていくや否や、たくましい首を両手でつかむ。そして、人を強く誘惑してやまない、尖った喉仏に歯を立てた。
こうして彼らは、この地獄でも「友人」を続けてきたのだ。これからもそうするだろう。二人の関係が続く、そのかぎりにおいて。
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