ちよど
2025-04-03 19:04:47
16300文字
Public わし様など
 

練習1P 2025年2~3月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2025/03/30 No.576
生前アシュヨダ
「あなたに捧げるもの」

 クル国の王子ドゥリーヨダナは特別扱いをとても好む。そして青年になったばかりのアシュヴァッターマンは彼の歓心を得ようと必死だった。
 冬の寒さが和らぎ暖かくなった夜風に押されて、美しい籠を抱えたアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナの宮殿を訪れた。
 月が天上に昇ろうとしている時刻。門前払いされてもおかしくないが突然訪ねたアシュヴァッターマンはするするとドゥリーヨダナの寝所に通される。
 特別扱いに胸が熱くなるアシュヴァッターマンに寝支度をしていたドゥリーヨダナは上機嫌に笑った。
「おまえがこんな時間に訪ねてくるとは。よっぽどわし様を喜ばす物を持ってきたのだろう?」
 アシュヴァッターマンは持って来た籠を差し出した。溢れるばかりに摘んで来た薄い黄緑色の花がふわりと柔らかな芳香を放つ。
「咲初めの夜香花だ。寝所にでも飾ってくれ」
「おまえがそう言うなら、今年その花を見たのはわし様が初めてだということだな!」
……旦那は初めてが好きだろう?」
「もちろんだとも!!」
 自ら籠を受け取ったドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンはごくりと喉を鳴らし。意を決して口を開いた。
「身を、清めて来たんだ」


■2025/03/29 No.575
わし様+弟達
「僕達は喜んで魔性になろう」

 僕達は目なのだ。
「父上、こちらの皿の方が彩りが綺麗です」
 まだ幼さの残る長兄の言葉に宴に興じていた人々は息を呑んだ。
 当然ながら僕達の父上と母上は目が見えない。彩りを楽しむ事など出来はしないのだ。
 青い顔をした給仕が長兄の下げた皿を受け取る。これから毒見の元へ運び直すのだろう。
 僕達は離れた場所でそれを見守っていた。王子とはいえ王と王妃の同じ席に座れるのは世継ぎの長兄しかいない。
 毒見が確認したはずの何の変わりもない皿をまたしても見抜いた長兄に人々が囁く。
 ──あの子供は魔のモノだから人には見えないものが見えるのだ。
 そうとも、長兄は一対の目では見えないものを見ている。
 僕達は長兄の目なのだ。子供だから男の子だからやんちゃだから。どこで隠れ鬼をしていても、どこを探検していても誰も不審に思わない。
 僕達は見ていた。下男が金を握らされるのを。給仕の娘がその男と抱擁するのを。大臣の息子が父上を見ていつも眉をしかめるのを。
 僕達は同じ肉から分かれた100対の目。
 幼さに乗じて王宮を隅々まで見ている僕達を、それを統べる長兄を魔性だというのならば。


■2025/03/21 No.574
生前わし様+弟
「友達ぐらいひとりで作りなよ」

「まずはお前を褒めよう。ドゥフシャーサナ。ちゃんとわし様の言葉を覚えていたな」
 兄の言葉に次兄は顔を輝かせた。その横の侍従が捧げ持つ金杯がきらりと輝く。
 ゴテゴテと宝石が飾られ持つことも飾ることも難しい代物だ。次兄はそれを付き合いのある他国の王子に贈ろうとして僕と掴み合いの大喧嘩になったのだ。
 昼寝から叩き起こされた長兄はゆったりと微笑みかけた。
「次におまえを褒めよう。ヴィカルナ。よくドゥフシャーサナを諌めた」
 一番上の兄は兄弟の揉め事に関わらない。だが、それが他に影響することなら別だ。当事者で話がつかない時は何時でも相談に来るように僕達は言い含められていた。
 兄は金杯を手に取りぐるりと眺めた。
「ところでドゥフシャーサナ。おまえはあの王子にクル国の財を見せつけたいのか、礼でもしたいのか?」
 兄の問いに性格の悪い次兄は珍しく言い淀んだ。
「もう一回あいつの弓をみたい。すげぇんだ」
 最後は顔を輝かせたひねくれた次兄に長兄は金杯を返した。
「ならば良い弓を二対作るがいい。ひとつは相手に、もうひとつはおまえが持ち。技を競い合いたいと言うのだ。──ヴィカルナもそれでいいな?」
 僕が頷くと兄は寝台に潜り込んだ。話は終わりだ。


■2025/03/19 No.573
生前わし様+モブ
「あなたが教えてくれたとおりに」

「父上と母上に舞いを見せてやりたいのだ」
 世継ぎの王子の命に私は額づいた。
 王宮に勤める踊り子の中からひとり呼び出された私は一番踊りが下手で美しくもない。だが。
「褒美はなんでも与える。──おまえは賢い女だろう?」
「では、なめした牛の皮だけを張った大きな台と音色の違う二十程の鈴。そして私を側女にしていただければ。お望みの舞いを披露いたしましょう。──私は賢い女なので」
 打ち据えられてもおかしくない返答に王子は手を叩いて笑った。
 そして数カ月後。鈴を体中に散らし、張られた皮の上で跳ね踊った私は王と王妃からお褒めのお言葉を賜ったのだ。
 頭を下げ弾む息をなんとか抑えている私の背中に王子の手がまわされる。
「さすが賢いと評判の舞い手だ。わし様も鼻がたかーい!」
 いつかと同じ仕草に私は目を閉じた。
 彼はきっと覚えていない。何一つ上手く舞えない見習いの少女が王宮の隅で泣いていた時。通りすがりの王子がこうやって背中を撫でてくれたことを。
 身分の違いも分からず泣きながら事情を説明する私に王子は言ったのだ。
「踊りが下手なら他のもので勝負すればいいのだ。話していて分かるがおまえは賢い。その賢さで邪魔なヤツは蹴落としてやれ!」


■2025/03/17 No.572
転生現パロ アシュヨダ
「俺は泣きながら額に手をあてた」

「旦那にもらえるなら、そこらの石ころでも嬉しいぜ」
 誕生日の祝いにそう言うと旦那はしてやったりと言わんばかりにボーイに両の手のひら程の大きさの金庫を持ってこさせた。
 貸切のグランメゾンに生演奏が滑らかに流れる。精緻に織られたテーブルクロスは俺達の前世インドの吉祥模様だ。
 燭台の横に置かれた小さな金庫にはタッチパネルが付いていて数値が入力出来るようになっている。
「パスワードはわし様が一番嬉しかった日だ」
 開けてみろ、と促され俺はとりあえずドゥフシャラーの誕生日を入力した。開かない。
 旦那の弟達の誕生日を全て試してから、俺は少し自惚れてみた。──自分の誕生日を入力する。
 開かない。
 旦那がチェシャ猫のように笑う。そこに否定の色がないのを見て、俺はもう少し自惚れてみた。
 ピッ、金庫が開く。
「正解。──おまえとわし様が再会した日だ」
 思わず吐いた息までが幸福に染まっていただろう。震える手で蓋を開ける。
 そこには手のひら程の楕円形をした金色の宝石が輝いていた。
「おまえが昔つけていた石ころが現存していたなら、わし様がどんな手を使っても取り返してやったのだが。──こんな石ころですまんが受け取ってくれるな?」


■2025/03/14 No.571
アシュヨダ
「この勇敢な戦士の名だ」

「ありがとうございます。旅のお方。──どうかこの子に祝福を」
 差し出された赤子にアシュヴァッターマンは息を止めた。
 小さな村だった。群れから逸れたのだろう小さなワイバーン1体に無造作に蹂躙されていた村だった。
 通りかかったマスターとアシュヴァッターマン。そしてドゥリーヨダナが難なくワイバーンを退治して、蒸し焼きにしようか煮込みにしようか話し合っている最中だった。
 頼んだ鍋を持ってきてくれた何人かの女性のうち、ひとりが抱いていた赤子をアシュヴァッターマンに差し出したのだ。
「あ、ぅ」
 どんな大軍相手でも怯まない戦士が無力な赤子に足を引く。その横から逞しい腕が赤子を取り上げた。
「うむうむ。この騒ぎでも泣かないとはなかなかに肝が座っておる。──男か?女か?」
 慣れた仕草で赤子を抱くドゥリーヨダナに女性は顔を綻ばせる。
「男の子です。名はパリスと」
「賢そうな良い名だ。たしかこの辺りでは親しい者がミドルネームをつける風習があったな。この教養に溢れるわし様が加護となる名前をつけてやろう」
 ドゥリーヨダナの提案に母親が表情を輝かせるのを確認して、ドゥリーヨダナは重々しく口を開いた。


■2025/03/08 No.570
彷徨アシュくん+モブ
「生きてさえいれば」

 咄嗟に唱えた経に微動だにしない怪異。そのすぐ側にいる友人。無力な少年は奥歯を噛んだ。
 山の木々の向こうでは都市の光が空を焼いている。少年が寺院に入るまであと数日。それを嫌がって山に入って行った友人を少年は探しに来たのだ。
 裕福な友人の側に立つ薄汚れた男。それが怪異であれ、よくない人間であれ、少年が僧侶だと分かれば退散する、はずだった。
 人影が場違いに白い歯を見せて笑う。
「今の時代の経典はそう唱えるのか」
 興味深そうな響きに、何故か友人が胸を張った。
「こいつはすごいんだぞ!大人よりもたくさん何でも覚えるんだ!!」
 でも運動はあまり上手くない。友人ほどの機敏さがあれば男から友人を引き剥がす事が出来るのに。
 落ち込んだ少年はふと気づく。友人は怪我などしていない、逃げるのを躊躇する性格でもない。何故。
 注意深く観察を始めた少年に男が頷く。
「だからこの年で寺院に選ばれたのか」
「──こいつなら、僧侶じゃなくても何でもなれるのに」
 快活な友人が俯く。その肩に男の手が乗せられた。
「手紙はやり取り出来るんだろ?離ればなれになっても互いが忘れねぇ限り、いつかは会える」
 そう励ましてアシュヴァッターマンは言葉を飲み込んだ。


■2025/03/06 No.569
生前アシュヨダ
「俺達の場所まで奪うんじゃねよ!!」

「おまえは兄貴の弟じゃねぇだろ!」
 ドゥフシャーサナに突き飛ばされてアシュヴァッターマンはよろめいた。
 彼とドゥリーヨダナの間に割り込んだドゥフシャーサナに彼の兄は困ったように眉を下げる。が、何も言わない。
 ドゥリーヨダナは弟達の間のいざこざに口を出さない。それが次男と弟のように可愛がっているアシュヴァッターマンとの間の諍いでも。
 アシュヴァッターマンは唇を噛み締めた。弟ではないのは変えようもない事実だ。
 同じ肉から分かたれた似通った兄弟達に、赤い髪で金の瞳のアシュヴァッターマンは混ざることは出来ない。
「あー、ドゥフシャーサナ。そのくらいにしてやれ」
 黙りこくったアシュヴァッターマンがあまりに哀れだったのか、ドゥリーヨダナが弟の肩に手を置いた。
 ドゥフシャーサナの顔がくしゃりと歪む。
「兄貴が呼んだのは俺達なのに、なんでこいつが来るんだよ」
 自分の厚かましさを指摘されてアシュヴァッターマンは俯いた。そんな彼にドゥフシャーサナは追い打ちをかける。
「こいつは兄貴の弟じゃねぇ。そうだろう?兄貴!」
 ドゥリーヨダナはため息をついた。
「知っていたのか、ドゥフシャーサナ」
 兄の言葉に弟は叫んだ。


■2025/03/04 No.568
生前アシュヨダ
「おまえが着たかった服だろう?」

 現れたクル国の世継ぎの王子は戦装束を身に着けていた。
 と、いっても黄金の王冠は額にまで輝きを伸ばし、深い赤に染められた衣装は同じ色の髪を際立たせている。
 きらびやかな装いで国力の差を見せつけられただけでなく、背丈でも我が国の王は小さく見えた。
 ため息が漏れる。
 ちょっとした反乱を自力で収める事が出来なかった我が国はこれからクル国の属国になるのだ。
 俺はバラモンの衣装に身を包んだまま王座へと近づいた。
 国同士の誓いはバラモンが神へと伝える。だからバラモンならばクル国の王子に刃がとど
 王子の金の瞳が俺を射抜いた。
「なぁるほど、こいつが刺客か!」
 世界がまわり、ぐしゃりと潰れる。歪む視界。王子の近衛が棍棒を手に笑った。
まっとうなバラモンならその服をそんな風に着ねぇよ」
 王子らしくない口調がぼやけた耳に届く。顔を上げた。
 驚いた顔を隠せない素朴な我が王。あなたではこの国を守れない。だから、俺がやらなければならなかったのに。
 だが、俺の計画は事前に察知されクル国の王子は身代わりを用意していた。力尽きる俺の横で言葉が交わされる。
「旦那、なんで俺なんだよ?身代わりなら幾らでもいただろ?」
「分からんのか?」


■2025/03/03 No.567
生前アシュヨダ
「地獄の果てまでついてくるのだろう?」
※地下通路のアレ

「あやつらはおまえが毎夜、どこからともなくわし様のところに忍んで来るのを夜這いだと思っておるようだぞ」
 下半身をビーマに潰されたせいで体を起こすのもやっとの旦那がおかしそうに笑う。
 旦那が横たわるのは粗末な寝台。その横に俺は立っていた。小さな部屋にはふたりしかいない。
 戦場から逃れてきた俺達を匿ってくれたこの村の人々は王子であった旦那のために小さな寺院を建ててくれた。
 純朴な村人に俺もそこに住むように促されたが
「俺は村の外にいねぇと駄目だろ?」
 そう言うと旦那は唇の端を吊り上げた。
 もう、この国はパーンダヴァのものだ。大義名分を得たあいつらはカウラヴァの旗頭である旦那と夜襲を行った俺を血眼で探しているだろう。山の向こうのこの村だって、いつかは見つかる。
 今は旦那に同情的な村人達も、その時どう動くか分からない。──逃げ道が必要なのだ。
 俺が隠れ住む村の外から、旦那が匿われているこの寺院まで。地下に通路を掘った。いざという時旦那を抱えて逃げられる大きさの。
 だが、そうやって。──どこまで逃げればいいのだろうか。
 視線を落とした俺を旦那は手招きする。顔を寄せると唇が重ねられた。


■2025/02/28 No.566
生前カルヨダ
「わし様が教えてやろう」
※厳密にはカルヨダではないかも

 ドゥリーヨダナは飲みかけの果実酒を吹き出した。
 親友のカルナと実質ふたりで酒を酌み交わしていた最中のことだ。
 給仕があわててドゥリーヨダナの口元を拭い、汚れた皿を取り替える。それが終わるのを待ってドゥリーヨダナは彼らを下がらせた。
 今度は本当にふたりきりになる。
カルナ。わし様の優れた耳でも聞き間違えることはある。もう一度言うがいい」
「よく獣が重なって揺れているが何をしているのだ?」
「おまえ、この前子供が生まれたばかりだろう?」
 ドゥリーヨダナの問いかけにカルナはほんのわずかに首を傾けた。質問の意味が分からないらしい。
「はぁ。はっきり言わねばならんのか。どうやって孕ませたのだ?」
 今度の質問にカルナは立ち上がりドゥリーヨダナの腹部に細い手を置いた。
「願えば出来る」
 ドゥリーヨダナは思い切り後ずさった。神話では男が子を孕まされた例はいくつかある。半神であるカルナが同じ事が出来てもおかしくない。
 なるほど。脱げない金の鎧を纏っていて不自由がなさそうだったのは、人としての営みを知らなかったからか。
 ドゥリーヨダナはにたりと笑った。


■2025/02/27 No.565
アシュヨダ
「全部、俺のせいにすればいい」
※小スカではないです

 小さな唇が引き結ばれて、アシュヴァッターマンは慌ててその体をシーツごと抱きしめた。
 霊基異常になっても変わらない甘やかな花の香りだけが強く匂う。
 腕の中の子供はアシュヴァッターマンの半分ほどの背丈しかなく、その細い肢体は大柄な戦士になるまでの鍛錬の厳しさを思わせた。
「だドゥリーヨダナさま」
 声をかけても腕の中の少年は恥辱に震えている。
 ひとり息子として育ったアシュヴァッターマンは途方に暮れた。
 きらびやかなドゥリーヨダナの部屋を見渡しても助けになりそうなものはない。当然だろう。寝ていた子供が下着を濡らしてしまった時にかける言葉など、聖杯知識をひっくり返しても出てくるはずがない。
 しかも、悪いことに。この幼いドゥリーヨダナはアシュヴァッターマンの額の宝珠を見て、自分を慕ってついてまわっていた年下の子供と同一人物だと分かってしまっているのだ。
 これ以上の恥はそうそうない。
 小さなドゥリーヨダナは唇を震わせて恥辱に耐えている。
「旦那。あんたは何もしてねぇ」
 アシュヴァッターマンは覚悟を決めて、小さな体に手を這わせた。


■2025/02/27 No.564
ビマヨダ
「召喚祝いだ」

 先輩サーヴァントから投げ渡されたペットボトルに召喚されたばかりのドゥリーヨダナは内心眉を寄せた。
 恥をかくのを嫌う彼の勘はこれが罠だと告げている。
 だが、どんな罠なのかが分からない。聖杯知識をフル回転させるがペットボトルの中身は炭酸ではなくただのオレンジジュース。軽く触れた蓋は開封された形跡がない。
 ドゥリーヨダナは本体を片手に持ち、もう片手でゆっくりと蓋を回す。
 辺り一面に液体が飛び散った。
 オレンジジュースに塗れて立ち尽くすドゥリーヨダナの手の中でペットボトルが握りつぶされている。
 蓋を開けようとほんの少し力を加えた。ドゥリーヨダナの主観ではそうだが筋力Aのほんの少しに安いペットボトルが耐えきれず変形し、蓋を開けた途端内圧が弾けたのだ。
 ドゥリーヨダナはにやにやと笑う先輩サーヴァント達を黙って見回す。なるほどこれは新人の通過儀礼なのだろう。サーヴァントとしての力の加減を忘れるな、と。
 ドゥリーヨダナはゆったりと微笑んで手を差し伸べた。
「おかわりだ」
 怪訝そうに手渡された新しいペットボトルをドゥリーヨダナは片手で受け取る。そして親指のみで蓋を飛ばしてみせ、1滴も零さず悠々と中身を飲み干したのであった。
 そして数カ月後、新たに召喚されたビーマにドゥリーヨダナはペットボトルを投げ渡した。


■2025/02/24 No.563
生前カルヨダ
「おまえには言えん」

 カルナが一言発すると集められた人々の中から顔を真っ赤にした男が勢いよく立ち上がった。
「貴様!スータの分際で!」
「この男が間諜だ」
 カルナの言葉にドゥリーヨダナが顎をしゃくると男が引っ立てられていく。
 それをざわざわと見送る集団にドゥリーヨダナは人好きのする顔で笑いかけた。
「皆すまなかったな。わし様も疑いたくはなかったのだが確かな筋からの情報だったのだ。我が友のおかげで速やかに皆の無実は保証された。手を煩わせた詫びを受け取って持ち場に戻ってくれ」
 ざわめきは『詫び』を持った奴隷がやってきた事で収まった。思わぬ臨時収入に顔を綻ばせる人々を眺めて、ドゥリーヨダナは傍らのカルナを見る。
「──なんと言ったのだ?呪文か?」
 間諜を炙り出したカルナの言葉をドゥリーヨダナは聞いたことが無かった。
 好奇心に満ちた視線を向けられてカルナは珍しく顔を背ける。
 間諜は下層民であることが多い。
 彼らの間では彼らにしか通じない言葉が多く、そのほとんどは罵倒語だ。
 スータと蔑まれる育ちのカルナはぼそりと呟いた。


■2025/02/22 No.562
生前?アシュヨダ
「おまえだけは、許さない」

 ボロ布越しに見る世界は色褪せて果てがなかった。
 戦場からクル国に背を向けて、大きな傷ひとつない俺はひとり歩く。行く当てなど無い。旦那が居なければ俺が居る意味などない。
 ──苦しい、と言ってくれれば俺は何だってしたのに。
 虫に刺されただけで大騒ぎしていたあの人が、下半身と顔を潰されても弱音ひとつ吐かずに俺に手を伸ばした。
 カウラヴァ最後の司令官、なんて。もう意味のない地位。
 献身には必ず対価を与えなければ安心出来ない旦那が、助け起こした俺に差し出せるものがそれしかなかったのだろう。最期まで信じてもらえなかった。
 苦しい、つらい、助けてくれ。
 そう言ってくれれば、俺はどんなことだって。一番やりたくないことだってしたのに。
 ことごとくを殺し尽くした夜襲ですら震えなかったこの両手で、その苦しみを終わらせたのに。
 太陽は乾いている。息が凍りそうだ。砂埃に汚れた体を抱きしめると、聞き慣れた音が聞こえた。
 戦車が近づいてくる。パーンダヴァだ。
 顔を上げた。意味のない司令官だとしても俺が旦那から貰った最後のモノだ。
 遠くに見える戦車の輪郭が段々とはっきりしてくる。旗が見える。世界が変わる。俺は剣を握りしめた。


■2025/02/18 No.561
生前ビマヨダ
「おまえはおまえのままで」
※シャク叔父さんがひどい人です

 スヨーダナが川面に何かを投げ込んだのを見てビーマは声を掛けた。川辺では王子たちの宴が続いている。もうすぐ皿いっぱいの菓子が運ばれてくるだろう。
 ビーマの声に振り返ったスヨーダナは不思議な笑顔を浮かべていた。笑っているような泣いているような。
スヨーダナ。誰かに何か言われたのか?」
 鈍い従兄弟にすら自分の出生の噂が伝わったのだろう。スヨーダナは川に背を向けて宴へと向かった。
「──叔父上から特別な菓子をもらったのだ。分けてやる」
 喜びの声を上げてついてくるビーマをスヨーダナは振り返らない。顔を向ければ嘘を気づかれてしまう。
 狡猾な叔父はスヨーダナに菓子を渡して言ったのだ。
『敵の武力を我が物にする方法などいくらでもあるが子供相手ならこれがいいだろう。この菓子を一度でも食すれば誰もが虜になる。欲しいのは頭脳ではなく力だ。──おまえが手ずから食べさせてやればいい」
 跳ねるような足音を立てているビーマはスヨーダナが珍しい菓子を差し出せばいくらでも食べるだろう。そうして叔父の菓子を食べて暴れるだけの道具になるのだ。
 スヨーダナが拒否したところで叔父は他の方法を考える。
 だからスヨーダナに出来るのは、菓子を差し替える事だけだった。
「ビーマ。俺はおまえのことが好きだった」
 だから死ね。


■2025/02/15 No.560
ビマヨダ+カルさん
「たからもの」

 カルナがドゥリーヨダナの部屋で丁寧に折りたたまれた小さな紙を見つけたのはバレンタインの次の日だった。
 ドゥリーヨダナは周回に駆り出されており、カルナはその間にドゥリーヨダナのベッドを整えておこうとしたところ枕の下からピンクの格子模様の小さな紙が出てきたのだ。それにカルナは見覚えがあった。マフィンの紙カップだ。
 昨日はカルデア中がバレンタインに浮足立っていた。
 それは食堂も例外ではなく、食事を注文した者全員に小さなチョコレートマフィンが配られていた。
 カルナとアシュヴァッターマンと共に珍しく食堂に食べに行ったドゥリーヨダナは、ビーマが食事のトレイにマフィンを乗せた時に盛大に文句を言っていたものだ。
 カルナは知っている。
 普段ドゥリーヨダナが食堂に近づかないのはビーマがいるからだと。
 普段ビーマはドゥリーヨダナを避けていることも。
 その二人が『偶然』食堂で出会い、他のスタッフがいるというのにビーマはドゥリーヨダナにチョコレートマフィンを渡し、拒否する事も出来たはずなのにドゥリーヨダナはそれを受け取った。
 バレンタインの日に。
 今、カルナが見つけたこの紙は何も知らぬ者にはただのゴミに見えるだろう。カルナは一度目を細めると、そっとその分かりにくい愛情を元の場所に戻した。


■2025/02/15 No.559
オルジュナ+モルガン陛下
「ぜひ、」

「先輩なら当然の事です」
 新入りのモルガンの礼に、同じバーサーカーのアルジュナ・オルタは応えた。
 彼らの眼の前ではオベロンが宝具でエネミーを渦の中に巻き込んでいる。おぞましい虫の姿はしかし女王の瞳には映らなかった。アルジュナ・オルタが目を塞いでいたので。
 編成の並びも、アルジュナ・オルタは必ずオベロンとモルガンの間に入るのだ。
 その心遣いに女王は唇を綻ばせた。
「ドゥリーヨダナが言っていました。バーサーカーによるアタッカーは受け継ぐもの。ドゥリーヨダナがナイチンゲールから受け継いだように、あなたがドゥリーヨダナから受け継いだように。次は私がこのカルデアの要となるのですね」
「ええ、そうです。私が『卒業』した後はあなたが次のバーサーカーを育てるのです。しかし、それまでに私は決めておかねばならない」
 真剣な口調にモルガンはその先を黙って促した。
「ドゥリーヨダナは友とバカンスに行くのだと言っていました。──私は『卒業』した後に何をすればいいのか」
 途方に暮れたような響きにモルガンは少女のようにころころと笑った。
「もし、私が『卒業』してもやりたいことが見つからなかったのなら。一緒に本を読みましょう。先輩」


■2025/02/14 No.558
カルヨダ、アシュヨダ、ビマヨダ+ピオ先生
「チョコレート 適量」

 連れ込まれた患者を見てアスクレピオスは眉を寄せた。
「霊基異常だと?どうみても健康体だが?」
「わし様はどこも悪くなーい!!」
 カルナ、アシュヴァッターマン、ビーマと珍しい組み合わせに押さえつけられてバタバタと暴れるドゥリーヨダナ。彼を無理やり連れてきた彼らは次々と症状を並べ立てる。
「矮小な企みを行うのが常だというのに見間違える程に大人しい」
「あんなに嫌がっていた鍛錬に毎回参加するんだ」
「どんだけうまいものを食わせても必ず残す」
 訴えにふむふむとアスクレピオスは壁のカレンダーを見た。2月14日。ドゥリーヨダナの症状はこの時期特有のものだ。
「診断は終わった。明日には治る。念の為処方箋を3枚書いてやろう。1日1回必ず服用させるように」
「だからわし様は病気ではなーい!!」
 封筒に入った処方箋をそれぞれ渡された3人が首を傾げるのに、まだジタバタと暴れるドゥリーヨダナの耳元にアスクレピオスは唇を寄せた。
「事前に体調を整えておくのはいいが僕の手をわずらわせるな。必ず服用し、それでもまだ具合が悪かったら再診するがいい」
 ふたりの横で封筒から処方箋が取り出される。そこに書かれていたものは。


■2025/02/13 No.557
わし様+邪ンヌ
「苦しかったわ」

「あんた、それを私に聞くの?」
 ジャンヌ・オルタが皮肉げに唇を歪めた。その手が酒が注がれたコップを持ち上げる。手首がひねられる前に大きな手がそれを押さえ込んだ。
「こんな質問をしておいて酒を浴びるぐらい安いものじゃない?ねぇ、ドゥリーヨダナ」
 悪属性の飲み会は多少の騒ぎでは誰も気に留めない。それでもドゥリーヨダナの質問が聞こえたサーヴァントはみな眉を寄せていた。
 ──焼け死ぬとはどんな気持ちだ?
 そう質問したドゥリーヨダナは言い募る。
「誓って言うが、揶揄するつもりなどない」
「じゃあなに?火炙りになった感想でも聞きたいの?」
 嘲笑にドゥリーヨダナはらしくなく視線を落とした。
「──父上と母上は焼け死んだらしいのだ」
 ジャンヌ・オルタの目が細められる。サーヴァントは聖杯から知識を授けられる。その中には自分の死後の親しい人達の顛末もあるらしい。──作られたジャンヌ・オルタには関係のない話だが。
 ジャンヌ・オルタは息を吐いた。
「どうせなら、あの聖女に聞きなさいよ」
 言いながらも彼女はドゥリーヨダナが自分を選んだ理由を予想出来た。
 ジャンヌ・オルタは慰めで嘘をつかない。


■2025/02/11 No.556
現パロ アシュヨダ
「おはよう。旦那」

「おまえなら死んでも無くさんだろう?」
 そう言われて旦那に与えられた指輪。らしくなく飾り気のないそれを俺は左手の薬指に嵌めている。深い意味は、ない。利き手の逆の方が傷がつかないと思っただけだ。
 まだ眠っている町中からジョギングをして30分。丘の上の森を抜けると旦那の別邸がある。警備員に会釈をして門を抜け、大きなドアの横のパネルに左手の甲をそっと触れさすと自動ドアが開いた。駆け寄ってきた使用人に軽く手を振ってシューズクロークのいつもの場所から柔らかい靴を取り出す。
 ロビーを抜けてエレベーターに。階数ボタンの下のパネルにまた指輪を触れさせれば表示されていない階へと到着する。厚い絨毯が敷かれた広い廊下を抜けた突き当り。
 隠されているパネルにまた指輪を近づければ重厚なドアからカチャリと音がする。
 ドアを押し開ければまたドア。それも全て旦那から与えられた指輪が開けてくれる。
 固く守られた中へと静かに進んで俺は最後のドアを開けた。
 薄闇に沈んでいた部屋に光が差し込む。フルオープンの窓に掛けられたカーテンはそろそろ昇り始めた朝日を完璧に遮っていた。中央の大きなベッドに俺は静かに歩み寄る。
 俺が来たことで目が覚めているだろうに寝た振りをしている恋人に、俺は俺にだけ許された言葉を掛けた。


■2025/02/11 No.555
現パロ カルヨダ
「なるほど、これが作法なのか」

 紙コップのコーヒーなど飲んだことがあるに決まっておるだろう!!と豪語したドゥリーヨダナを信じてコンビニのレジへと送り出したカルナは数分後、コーヒーメーカーを前に呆然と立つその背中を見つめていた。
「介錯が必要か?」
 手助けしましょうか?と言うとドゥリーヨダナが振り返る。困ったように下がっていた眉尻がきりっと上がった。
「うむ。わし様にコーヒーを献上する名誉を与えよう」
 渡された空の紙コップを受け取りコーヒーメーカーに挑むカルナにドゥリーヨダナは場所を空ける。その期待に満ちた眼差しにカルナは少し微笑んだ。
 相対するコーヒーメーカーはどこのコンビニでもあるものだ。ただ新しい店舗のせいか説明がない。
「まずはここを開ける」
「ホルダーが無いと熱いだろう?」
 箱入りな事を言いだしたドゥリーヨダナにカルナは首を振った。その視界の端には提供されている紙製のホルダーがあるがドゥリーヨダナが取り付けられるかというと。
「基本を知らぬ者に真の勝利は訪れぬと知れ」
 言いつつカルナはボタンを押す。コーヒーが流れ落ちる。
「音楽は?」
「俺が歌ってやろう」
 カルナが歌うと終了音が鳴った。取り出した紙コップをカルナはドゥリーヨダナに渡す。


■2025/02/09 No.554
アシュヨダ+叔父
「そう言えたぞ!!」

「ああ、アシュヴァッターマンには気取られぬなよ」
 叔父の言葉にわし様は丁寧に筆を滑らせていた招待状から顔を上げた。インドラプラスタのユディシュティラが骰子賭博にのこのこと来るように考え抜いた文面が途切れる。
「アシュヴァッターマンはわし様の味方だが?」
 お硬いところもある男だがわし様に向ける感情に偽りはない。そう言うと叔父上は皮肉げに片眉を上げた。
「おまえはあの男に何を与えた?馬か?地位か?パーンダヴァがそれ以上のものを用意出来ないと思うのか?」
「アシュヴァッターマンは物では動かぬ」
「なおのこと悪い。物で動かぬ奴は予測が出来ない。どんなタイミングで裏切るか分からん」
 あまりの言い様に声を荒げようとして、わし様は叔父の瞳が遠くを見ているのに気付いてしまった。
昔、三方を山に囲まれた難攻不落の国があった。豊かな土地、勇猛な民。くだらない理由で大国に攻められた時も誰も負けるとは思わなかった。──敵の兵士に惚れ込んだ娘が抜け道を教えるまでは」
 その国がどこかわし様は知っていた。母と叔父の故郷だ。
「抜け道を知られ丸裸になったその国はただの属国に成り果てた。たったひとりの裏切り者のせいで」
「──アシュヴァッターマンはわし様を裏切らない」
 言い切ると叔父は口元だけで嘲笑する。
「死ぬ間際までそう言えるといいな、我が甥よ」


■2025/02/07 No.553
わし様+マスター
「こういうのは、魅せ方、だ」

 着飾るのなんて似合わないよ、傷だらけだし。
 贈られた帯を手に俯いて小さく呟くと、大きな手が頭に乗せられた。それが思いのほか優しくて私はそっとドゥリーヨダナを見あげる。
わし様には99人の弟がいたが、同じ肉から生まれたゆえにわし様以外はみぃんな似たような顔をしていた」
 贈り物を受け取らなかった事に怒るでもなくドゥリーヨダナは弟の話をし始める。
「しかし、その中でも飛び抜けて女にモテた奴がいた。ヴィヴィン・シャティ。奴が微笑むだけで女たちは花を捧げ、美形だともてはやしたものだ」
「同じ顔なのに?」
 思わず疑問を投げかけた私からドゥリーヨダナはそっと帯を取り上げる。
「奴は負けず嫌いでな。昔、名前負けしているとからかわれてから見栄えにこだわるこだわる。訓練で顔に傷がついた時は治るまで自分の宮殿から出てこんかったぐらいだ。見えないところは傷だらけだったというのに」
弱かったの?」
「まあそこそこ強かったぞ。見栄えにこだわるせいで動きを読まれやすかったが」
 ドゥリーヨダナが苦笑する。私もつられて苦笑した。
 らしくない遠回しな言い方で私を肯定して、ドゥリーヨダナは私に帯を巻き付ける。


■2025/02/06 No.552
生前カルヨダ
「それはオレの連れだ」

「わしさ私の事をいっておるのか。カルナ?」
 ヴァイシャの酒場で粗末な服に身を包んだドゥリーヨダナは首を傾げた。その手を派手な衣装の女が掴んでいる。踊り子の細い手など簡単に振り払える彼が動こうとしない事にカルナは眉を寄せた。
「好奇心で摘む価値もない花だ」
 語彙力が悪い忠告に女が血相を変える。その彼女の手を今度はドゥリーヨダナが軽く叩いた。
「そう怒るな。こやつは嫉妬しておるのだ」
 言いながら女の手を両手で包み込む。手の中に握らされた硬貨の感触に女は笑みを浮かべた。
「少し叱ってやらねばならん。席を外してくれ」
 促された女は微笑んで彼らから離れていく。それを見送ったカルナはゆっくりとまばたきをした。
「オレは嫉妬しているのか?」
「しておるだろう? ──あの女に」
 そう言われてカルナは考え込む。真面目なカルナの様子にドゥリーヨダナはくつくつと笑った。
「このわし様を『それ』呼ばわりしたのはお前が初めてだぞ」
「不快だったか?」
 カルナの問いにドゥリーヨダナは晴れやかに笑った。
「そうでなかったから驚いておる。おまえ以外にそう呼ばれたなら永久に口を塞いでやるが。──おまえなら許そう」


■2025/02/06 No.551
ビマヨダ+ユディ
「ためらいなく弟を選んだ」

 クル族王子の中で最も弱いのは私。
 法の神を父に持つ私は戦う事を禁じられ、弟たちが武器を手に訓練するのをただ眺めているしか無かった。
「おっと、手が滑った」
 従兄弟のわざとらしい言葉と共に棍棒が上の弟に飛んでいく。私なら避けることすら出来ないそれを、風の神の息子は容易く叩き落とした。
「ふざけんなよ!ドゥリーヨダナ!!」
「ふざけてないでーす!事故でーす!!」
 言い合うふたりは当然私の事など眼中にない。
 いつも不思議に思う。ドゥリーヨダナがああやって王位を競うべきなのは弟ではなく、半神達の長子であるこの私ではないだろうか、と。
 だから、骰子賭博に誘われた時やっとドゥリーヨダナは競うべき正しい相手が分かったのだと思ったのに。私の前に座ったのはシャクニ殿だった。
 パーンダヴァの旗頭としか見られなかった数十年。
 そうして私は最期にカウラヴァの長子であるドゥリーヨダナに問いかける。
「私たちの誰かと一騎打ちを行い、勝てば勝利を返してあげよう」
 私はクル族王子の中で最も弱い。
 それを知っているだろうに、ドゥリーヨダナは、私の競うべき相手は。


■2025/02/02 No.550
アシュヨダ+次男
「もちろん一度ですますつもりはない」

 堅物のアシュヴァッターマンを動かす魔法の言葉をドゥフシャーサナは持っていた。
「厩舎に新しい馬が入っただろ?遠乗りに行こうぜー!!」
「あれはアルジュナの馬だ。ダメに決まってんだろ」
 ドローナの練兵場には王族達が競うように名馬を並べていた。となると、他の馬が気になるのがろくでなしだ。
 そのろくでなしはにまにまとアシュヴァッターマンの肩を抱く。
「今度兄貴の時間がある時に王宮に呼んでやるからさー」
 アシュヴァッターマンの肩が震えた。
 バラモンとはいえ軍事指南の息子でしかないアシュヴァッターマンは王宮に自由に出入り出来ない。だが第二王子が招けば王族達が住む宮殿まで行けるのだ。
 忙しいドゥリーヨダナはそれでも時間があるなら必ずアシュヴァッターマンの顔を見に来てくれる。
 アシュヴァッターマンはろくでなしの顔を見た。兄によく似た男は勝利を確信してにっこりと笑う。
 ドローナの息子のアシュヴァッターマンであれば厩舎からどんな馬でも連れ出せるのだ。
「──今回だけだぞ」
「やったぁ!!よくやったぞ、アシュヴァッターマン」
「旦那の口真似はやめろ!」
 文句を言いながら歩き出したアシュヴァッターマンにドゥフシャーサナはついて行く。


■2025/02/01 No.549
カルヨダ+マスター
「お前だ」

 マスターは間男だった。
 正確にはカルナの部屋で遊んでいたところ、突然のドゥリーヨダナの来室にベッドの下に押し込まれたのだ。
 物語なら帰って来た恋人に浮気相手を隠しているシチュエーションだがカルナに限ってそれはないし。マスターとカルナはただの親しい友人だった。
(でもカルナとドゥリーヨダナはただの友達じゃない?)
 マスターの上でベッドが2人分の重さに軋む。寄り添っている足がベッドの隙間から見えた。そしてマスターは気づく。あの喧しいドゥリーヨダナが部屋に入ってから一言も発していないことを。
「──足音ひとつ、おまえはオレに隠せないのだな」
 カルナ語検定準2級のマスターは、この言葉をカルナの惚気だと翻訳した。確かにカルナはドゥリーヨダナがドアを開ける前、足音を聞いた瞬間にマスターをここに隠したのだから。
 そして、それはドゥリーヨダナがマスターに見られたくない状況にあるということだろう。
 息を潜めるマスターの上。答えないドゥリーヨダナにカルナは囁く。
「欲しいものは何だ?国か?首か?黄金か?おまえが世を儚む前にオレは何でも揃えるだろう」
 どさり、と音がしてマスターの視界からドゥリーヨダナの足が消える。


■2025/02/01 No.548
アシュヨダ
「迎えに来たぞ!」

「この前、新しい宮殿でドゥフシャラーが迷子になって大騒ぎだったんだよ。──だからさぁ、頼むって」
 伴もつけずに家に転がり込んできた第二王子にアシュヴァッターマンはため息をついた。夕暮れは終わり夜になろうとしている。少人数で王子を送り出せるはずがなかった。
 険しい顔になるアシュヴァッターマンにドゥフシャーサナは兄そっくりに小首を傾げてみせる。
「おまえだって、兄貴に見つけてもらいたいだろ?」
 その時、家の外でざわめきが起きた。ドゥフシャーサナが喜色を浮かべて耳を澄ませる。果たして。
「迎えに来たぞ!ドゥフシャーサナ!!」
 長兄の大声に最初の弟は跳ねるように家の外へと駆け出していった。
 ──それをうらやましいとアシュヴァッターマンは思っていたのだ。三千年もの間ずっと。
(迎えに来たぞ!アシュヴァッターマン!!)
 呪いを受け彷徨っている間、何度幻がアシュヴァッターマンを迎えに来ただろうか。その度に虚空を抱いて、思い知るのだ。ドゥリーヨダナはもう死んだのだと。
 カルデアに来てもそれは同じだ。マスターはドゥリーヨダナを召喚すると言うがそれが必ず叶えられるものではないと分かっていた。
 なのに、アシュヴァッターマンの自室にどたどたという足音が近づいてくる。


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