Why not?(洛と魚蛋妹/洛信)

恋人の存在を誰かに言いたい攻めはかわいいよね……

 にこにこと燕芬姐を見つめる魚蛋妹に「何かいいことでも?」と洛軍は問いかけた。
 もちろん、作業の手は止めない。豆腐に魚のすり身と卵が混ざったもの。それをれんげですくって形を整え、すばやく木の板に落としていく。

 揚げ物用の大鍋が空くまでにやりきらないと油の温度を維持するためのガスが無駄になってしまう。
 だから魚蛋妹と洛軍はほんの少しだけお互いのタイミングをずらして、お互いの手がぶつからないように豆腐のボールをつぎつぎ木の板に落としていった。
 魚蛋妹は小声になって言う。
 ひそひそと。
 うれしそうに。
 気づいてしまった喜びを、とかく分かち合いたい可愛らしい瞳で。
「あのね、燕芬姐と信一がいいかんじかもしれないの」
 えっと……、いや、それはない。
 あぶないあぶない!
 断言してしまうところだった。
「どうしてそう思うんだ?」
 洛軍は内心の動揺、というか、居た堪れなさというか何というか。とにかくできればこの会話を断ち切りたいのだがそうもいかない気まずさを抱えて魚蛋妹の稚いつむじを見下ろした。
 信一と燕芬姐が?
 それはない。いや、たぶん、ぜったいに。
 もしかしたら洛軍がこの砦に来るまでに、信一が口説いたとか、周囲が見ていてお似合いだなとか思うような瞬間があったのかもしれない。あったのかもしれないが。
「だって、話しにくる回数が増えてるもん!」
 それはそう、かもだが。
 たしか信一の右指が王九によって切り落とされてしまった時、噴き出す鮮血を手当てしたのは燕芬姐だったか。あとで聞いた話だ。
(でも信一と燕芬姐がいい感じってことは、たぶんない……
 それを魚蛋妹にどう伝えるべきか。この幼くも頼りになる先輩に。
 たとえばだ。
 燕芬姐は信一には勿体なくないか? と、自分なんかが言うのは妙だし。
 燕芬姐は他に好きな人がいるんじゃないか? などと言うのもいっそうおこがましく変だ。
 それとも、これは単に身近な人がちょっと仲良くしていて面白いとか「発見」の興奮からくるものなのか?
 う~~んと渋い顔をして悩む洛軍に、魚蛋妹は「あっ」という顔をして、小さな小さなつみれに言い聞かせるくらいの小声でこんなことを言い出した。
「わたしったら……。洛軍も燕芬姐がすきだった?」
「魚蛋妹……、じつは、その、な?」
「やっぱりそうなの?!」
「いや違うんだ」
「わたし秘密にできるよ!」
「本当か? 約束してくれるか?」
 洛軍は目の前の信頼できる瞳を覗き込んで、ボールを作る手を、一瞬だけ止めて彼女の体に向き合った。
「魚蛋妹は俺の大事な、尊敬できる仕事仲間だから伝えておく」
 洛軍の言葉に、魚蛋妹の頬は好奇心でみるみる紅くなって。
 続きを急かすような子供のつぶらな瞳。
 秘密は守ると決意しているような勇気ある唇。

「燕芬姐と信一が付き合うことはたぶん無い」
 なぜって?
 沈黙する子供の、思わず責めるような眼差しに申し訳なく微笑んで洛軍はつぶやく。
 なぜって?
「俺が信一を、誰にも渡さないからだ」

 目をまるくする魚蛋妹に、洛軍は緩んでしまう口元を覆いながら項垂れた。
 この優越感と劣等感で見境なくなってしまいそうなのが『恋』なんだって、俺は最近知ったんだよ。





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