ろきのや
2025-04-03 02:33:33
1836文字
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ナイフの正しい使い方(Chasriel)

※死亡表現が含まれます
そんな使い方してたらアズゴア泣いちゃうよ


‪目を開けると、そこはいつものベッドの上だった。‬

‪まだぼんやりする視界も、数回瞬きをすればはっきりしてくる。‬

‪体を起こすと、既に起きていたアズリエルが声をかけてきた。‬

‪「キャラ、おはよう!」‬

‪「……おはよう、アズリエル」‬

‪アズリエルはベッドを整えながら、いつもと変わらない調子で話し始めた。‬

‪「今日は父さんも母さんも仕事で家に居ないから、ボクらでお弁当持って出かけようよ!この前、いい場所見つけたんだ」‬

‪嬉しそうに提案するアズリエルに頷き、服を整えて靴を履き、トリエルの作り置きをバスケットに詰め込んだ。‬

‪準備を終えようとしたその時、アズリエルの視線が机の上に置かれた園芸用ナイフに釘付けになっている事に気が付いた。‬

‪その表情はどこか不安げで、これまで見た事のないものだった。‬

‪「キャラ、それ……」‬

‪アズリエルが恐る恐るといった様子でナイフを指差す。‬

‪「アズゴアに貰ったんだ。園芸の手伝いに使うし、爪も牙も無いのは不便だろうって」‬

‪初めてアズゴアにそれを渡された時は、この王様は一体どういうつもりなのかと正気を疑ったものだ。‬

‪ニンゲンに凶器を渡すなんて、普通じゃない。‬

‪それなのにアズゴアはナイフを私の手に握らせて、「キミならこれの正しい使い方が分かるはずだよ」と言ってきた。‬

‪その言葉に込められた信頼は、正直、悪い気はしなかった。‬

‪「別に大したものじゃないけど、見てみる?」‬

ナイフの柄をアズリエルに差し出してみたが、アズリエルは一向にそれを受け取ろうとしない。

‪じっとナイフを見つめたまま、「……なんかヤダ」と小さく呟いた。‬

‪「怖がる事ないだろ?使い方次第じゃないか」‬

‪「こ、怖がってなんかないよ!」‬

‪ちょっとからかってやるとアズリエルはすぐに反論してきたが、ナイフへの不安感は隠しきれていなかった。‬

‪(……覚えてるのかな)‬

‪心の中でそう呟く。‬

‪「前回」はこんな反応じゃなかった。‬

‪私はナイフを腰のベルト裏にしまい、前の出来事を思い出す。‬

‪その時のアズリエルはナイフに興味津々で、かっこいいと羨ましがっていた。‬

‪だからナイフを手渡してやった。その瞬間、チャンスだと思ったのだ。‬

‪ナイフの柄を握ったアズリエルの手を上から押さえ込み、私は勢いよくそれを自分の腹に突き立てさせた。‬

‪何が起きたのか理解したアズリエルがやめてと叫ぶ。私はそれを無視してナイフを引き抜いた。‬

‪溢れ出た血がアズリエルの白い毛並みを汚していく。‬

‪アズリエルは真っ赤に染まったナイフを落とし、混乱しながら私に泣きすがった。‬

‪なんで、どうして、嫌だ、死なないで。取り乱し泣きじゃくるアズリエル。‬

‪私は熱が体から失われていくのを感じながら、次に気付いた時には、再びベッドの上で目覚めていた。‬

‪地上に出るにはモンスターとニンゲンの魂が必要だと知って以来、私は何度も命を絶とうとしていた。しかし、こうしてまた戻ってきてしまう。‬

‪時間が巻き戻る現象に気付いてからいろいろと試してきたが、分からない事だらけだ。‬

‪結局、今回も失敗に終わったわけだ。‬

‪アズリエルに殺される必要があったのかといえば、別にそんなものはない。‬

‪やれそうだったからやってみた。‬

‪それだけだったが、私の死に際のアズリエルの泣き顔を思い出すと、心が何かで満たされた。‬

‪アズリエルと二人で家を出る。‬

‪「キャラ、何か面白い事でもあった?」‬

‪表情に出ていたのか、アズリエルが私の顔を覗き込みながら尋ねる。‬

‪「ううん。楽しみなんだ」‬

‪アズリエルの問いかけに、私は微笑んだ。‬

‪私は愛されてる。‬

‪しあわせだ。‬

‪地上で神様について教えられた事がある。神様は祈る人々を救ってくれる存在だと。‬

‪でも、結局。地上で私を救いに来る神様はいなかった。‬

‪誰も来なかった。‬

‪だからここに落ちて、アズリエルが私を助けに来た時、確信があった。‬

‪アズリエルこそ私の神様なのだと。‬

‪だからアズリエル。‬

‪キミを本物の神様にしたい。‬

‪私の足取りは軽く、アズリエルはどこか不安そうにしていた。‬

‪私たちの計画が始まるのは、それから暫く後の事だった。‬