ウォーターフェルの湿った空気の中、ほのかに青白く光るエコーフラワーに向かって、アズリエルとキャラは何事か囁いてはクスクスと笑っていた。
エコーフラワーが繰り返す言葉は、至近距離に群生するエコーフラワーに伝え広まって、だんだんと囁くように消えていく。
やまびこのように言葉を返すその花を、キャラは珍しそうにじっと見つめていた。
「地上にエコーフラワーは生えてなかったの?」
アズリエルが尋ねると、キャラは考えるまでもなく即答した。
「全然。喋る花なんて初めて見たよ」
地上で見た金色の花は生えていないが、地下には地下で面白い花が生えている。
キャラはエコーフラワーに、「今日アズリエルが水をこぼしまくってトリエルに叱られてたよ」と耳打ちした。
アズリエルがやめてよ!と抗議するが、エコーフラワーは「やめてよ、やめてよ」と繰り返し、キャラは声を抑えて笑い出した。
キャラはこの愉快な花を持って帰ろうと考えて、一本のエコーフラワーを根本から引っ張ろうとした。
「あっ」
アズリエルが何か言いかけたその時、キャラが掴んだエコーフラワーが「ギャァァァァァ!!!」と絶叫を上げた。
至近距離で放たれた突然の断末魔に驚いたキャラは手を離したものの、エコーフラワーの叫び声は止まらない。
一本から発せられた叫び声が周囲のエコーフラワーにまで伝播し、絶叫の波が広がっていく。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
最初の一本が静かになっても、呼応したエコーフラワーが次々に絶叫を引き継ぎ、悲鳴は増えていく。
まるでエコーフラワーがキャラの行いを責め立てているかのようだった。
「キャラ!」
アズリエルは絶叫の大合唱の只中で呆然と立ち尽くすキャラに駆け寄り、声を掛けようとしたが、エコーフラワーの叫びに掻き消されて届かない。
アズリエルはとっさにキャラの頭を腕で覆い、音から守るようにぎゅっと抱き締めた。
……やがて悲鳴の波が収まり、アズリエルはキャラの様子をそっと伺った。
キャラは目を大きく見開き、青ざめた顔で震えていた。
ひどくショックを受けたようで、呼吸も不安定になっている。
「ご、ごめんなさ──」
震える声でようやく絞り出そうとしたキャラの言葉を遮って、アズリエルは「びっくりしたぁ!」と改めて抱き付いた。
キャラの心臓が激しく鼓動してるのが聞こえ、それを落ち着かせるように優しく背中を撫でた。
「エコーフラワーは強く触ろうとするとあんな風になっちゃうんだ。ちゃんと教えとけば良かったね、ごめんね」
そうアズリエルが言えば、周囲のエコーフラワーも「ごめんね、ごめんね」と繰り返す。
先程とは打って変わって穏やかで優しい声が響き合い、キャラの鼓動も徐々に落ち着いていった。
抱き締められたまま無言でいるのが気まずくなったのか、しばらくされるがままだったキャラは、ようやくアズリエルをひっぺがした。
「別に、急に変な事しようとしたボクが悪かったよ。ごめん」
再び周囲のエコーフラワーが「ごめん、ごめん」と繰り返すのを聞いて、2人は顔を見合わせた。
さっきまでの緊張が解けたせいか、急に笑いが込み上げてくる。
やがてウォーターフェルにはアズリエルとキャラの笑い声が響き渡る事になった。
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