Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
kaede
2025-04-02 14:09:07
5609文字
Public
Clear cache
燐音くんに抱きしめられたい一彩くんのはなし
燐一
⚠️以前にも似たようなはなしを何度か書いてますが関連性はまったくないです
⚠️わたしのヘキなので同じテーマで何度も書いてるだけです
⚠️大好き
抱きしめられること、と、抱きしめてもらうこと、には、明確な違いがある。そのことに気づいたのは、都会に来てからだった。
僕が兄さんの胸に深くもたれかかると、僕の背中に回されていた腕の温かさの輪郭がはっきりして、嬉しくなる。
「兄さん」
僕は今、別段、兄さんと口頭でのコミュニケーションを取るための動機はない。から、これは特に意味のない呼びかけだ。と理解しながらそれでも口をついて出てしまったそれに兄さんは、んー、と間延びした声を上げた。喉を鳴らした、の方が近いかもしれない。
「好き」
「ん、おう」
ちょっと、びっくりした。兄さんのことではなくて、僕自身が。兄さんも少し驚いたみたいで声が軽く跳ね上がっていたけれど、僕も。
こんな言葉が出てくるとは思ってもいなかったので、驚いた。嘘ではないし本当のことなので、心にもないこと、ではまったくないのだけれど。今、それを伝えなければいけない理由が、僕にあったろうか。
今でないといけない理由はなかったとしても、伝えてはいけない理由もない、から、まあ、別段、気にすることでもないけれど。
僕は今、その言葉でとても幸せな
……
幸せな気持ちが肺を満たしてだから呼吸がうまくできなくて少し息がつまりそうで、そのせいなのかはわからないけれど目の奥の方、近くはないけれど遠くもないところに涙の気配を感じている、みたいな。からりと晴れ渡った昼間のまばゆい光みたいなものではなくて、暗闇をしっとりと照らし寄り添う月の光みたいな。わかりやすく感じ取れるわけではないけれどそれでも確かに幸せだと感じられる、そういう気持ちで胸がいっぱいになっているから。
「好きだよ、兄さん」
もう一度、今度はちゃんと兄さんに伝えるという目的意識を持って言う。口にするだけでまた幸せな気持ちがふくらんで、このままだと空に浮かんで飛んでいってしまう
……
とか、本気で思ったわけではないけれど、僕の肺どころか意識がはじけてしまいそうな、そんな気はしたから、僕が飛んでいって僕でないものにならないように、しっかり兄さんにしがみつく。
その瞬間、兄さんの身体がこわばったのを感じて、ごめんね、と。驚かせてしまったことを謝りつつ顔を上げると、兄さんは僕から視線を外して、変な顔をしていた。変、と言うのも失礼な話かもしれないけれど。他になんて言えばいいのか、的確な言葉がすぐには思いつかない。
「
……
苦しかったかな」
「いや、別にこれくらい、どうってことねェっしょ」
「でも兄さん、
……
そう、困ってる? よね?」
そうだ。それだ。今の兄さんに相応しい言葉は。
兄さんは文字通り、困っているのを笑ってごまかそうとしているみたいな、苦しそうな顔をして、軽い否定をした。
「いや」
「というか今さらすぎるけど」
「ん?」
「迷惑だったかな」
「何が」
「僕が、兄さんに、ええと
……
どう言えばいいのかな。抱きしめてもらいたい
……
と要求することが?」
今まで口に出せるかたちにまとめたことはなかったけれど、それは、ずっと、思っていたことだ。
故郷にいる頃は兄さんに抱きしめられるのが当たり前だったから、当たり前すぎて、なんとも思っていなかったけれど。
離れて暮らして、大きくなって、再会して。兄さんと同じ場所で、都会で暮らすようになって、ある日、気づいた。何の脈絡もなく
……
ということはこの世には多分ないと思うけれど、少なくとも僕が現在進行形で積み重ねている経験をベースに無意識下で演算されていた思考の答えにある日、気づけた。
僕が、兄さんの温もりを欲しがっていることに。
今までは兄さんがいつも先んじてそれを与えてくれていたから、自発的に考えることがなかった。考える必要がなかったから、気づかなかった。気づけなかった。
でも、離れた時間と対立する時間と新しい価値観の世界で一緒に生きる時間のおかげで、気づけた。
僕はこれまで兄さんに抱きしめられていたのではなくて、抱きしめてもらっていて、今は、抱きしめてもらいたい。
僕は、兄さんに、抱きしめられたい。
そう結論づけた僕の足が向かう先なんて一つしかなくて、でも本人を前にした途端、妙な気持ちになってしまった。求めていることがあるなら率直に伝えるのが一番歪みがない。そんなことわかってるはずなのに、兄さんに呆れられたらとか嫌な顔をされたらとか、拒まれたらとか、都会の兄さんが今まで散々僕にしてきたことが急に気になってしまった。僕を適当にあしらうのは都会での兄さんの外面的な流儀にすぎなくて、本質は何も変わってない、僕には優しい兄さんだとわかっているのに、たとえ演技だとしても、そういう反応をされるのは嫌だ
……
そう、嫌だ、と、思ってしまった。兄さんが僕に都合よく振る舞ってくれることを期待することこそおこがましいのに。
「どうしたよ」
僕が黙り込んでしまったからだろう。少し屈んで、視線を僕に近づけてそう訊いてくれた兄さんの声は故郷でよく聞いたのと同じ声で、心配させてしまったことを申し訳なく思ったのに、気にかけてくれたのが嬉しいとも思ってしまって、そんな身勝手な自分がとても恥ずかしい。のに、やっぱり嬉しい。兄さん。兄さん。
気づくと僕は兄さんに抱きしめられていて、いや、先に抱きついたのは僕だったけれど、結果的には僕が望んだ通りになって、兄さんは最後まで何も聞かないでいてくれた。
聞かないでいてくれたのをいいことに、僕は今まで同じことを繰り返すだけで伝えることを怠ってきた。
から、遅くなってしまった。
抱きしめられたい、と、ただそれだけのことを伝えるのが。
「そんな回りくどい言い方しなくても」
ため息混じりだった割に、兄さんの声音には心地よい柔らかさしかなかった。
「甘えるのが、でいいだろ」
「甘える?」
「甘えてンだろ」
甘い、という言葉に相応しい笑顔を浮かべた兄さんの手が、僕の頭の上でぽんぽんと弾む。
「そんなつもりはなかったのだけれど
……
」
甘える?
あまりピンと来ない。
だいたい、甘える、とは守るべきか弱い存在のみに許される行為だ。僕は日々、君主補佐として、兄さんの隣に立つのに相応しくあるよう心身ともに鍛えているから、少なくとも弱くはない、から、甘える必要はない。
今の僕にわかるのは、兄さんの手がこのまますべり降りて、僕の頬を撫でてくれたらいいのに、ということくらいだ。
「
……
ええと、ただ、抱きしめられたかっただけなんだけれど」
僕が訂正すると、兄さんが呆れたように、でも、僕を軽んじてもいない、僕を慈しんでくれている、僕の人生の中で一番よく見てきた顔をして笑った。
「抱きしめてほしかった、だろ」
「
……
意味は同じじゃないかな?」
「全然違ェよ。お前の言い方は受動的すぎ。もっと能動的に考えろ」
「なるほど
……
?」
言葉の意味としてはわかるけれど、感覚としてはやっぱり、ピンと来ない。
のが、兄さんにはお見通しだったらしい。
「わかんねェなら、お兄ちゃんが手伝ってやろう。俺が今からする質問に、お前は素直に答えればいい」
命じる、とはほど遠い、まるで、答えてほしい、と請われているみたいな、そういう眼差しで僕を見つめながら。
心臓と一緒に、思考がぐらぐら揺れて、少し崩れて、奥にあった感情が顔を出す。
そんなところにあるなんて知らなかった感情が。
きっとずっとそこにあったのに、僕が必要としなかったから、見ようとしなかったから、ないのと同じになっていた、んだと思う感情が。
僕はもう何度も、その感情に突き動かされていたのに。
どうして気づかなかったんだろう。
気づいて良かったんだろうか。
僕は兄さんに迷惑をかけたくない。
でも、僕はもう、これを、この感情を、知らずにいた頃の僕にはもう、きっと、戻れない。
兄さんの手を煩わせるだけの役に立たない人間にはなりたくないのに。
でも、兄さん、にいさん、ぼくは。
「一彩、お前は俺に、どうしてほしい?」
「
…………
」
「一彩」
「
……
頭じゃなくて」
「うん」
「頭も好きだけど、でも今はそうじゃなくて」
「うん」
「
……
頬、を、撫でてほしい」
「おうよ」
僕とは違う体温なのに、僕と溶け合おうとしてくれる、僕の寂しさを溶かしてくれるその優しい手で、僕の頬を。
頬に添えられた手が僕が顔を上向かせて、僕はそこで初めて自分が兄さんの顔をろくに見ていなかったことに気づいた。自分勝手な振る舞いを咎められたくなかったからだろうか。よくわからない。でも実際は兄さんは咎めるどころか幸せそうに笑ってくれていて、それは僕も同じで、今の僕と同じ気持ちだから。だからそんな顔をしてくれるのだろうか、と考えただけで吐く息の温度が上がった気がする。
少し、どきどきしているから、だろうか。
だから本当は聞かなくたってわかっていたのだけれど、疑いようもないのだけれど、それでも、万一ということもある。というか、僕の何に問題があったのか、それは、知りたい。から。
「あとね」
「うん」
「迷惑だったかな、の回答がほしい」
おかしいな。
どうして僕の声は少し、上擦っているんだろう。
兄さんは、はっとしたように目を瞬かせたあと、その目をゆっくり、柔らかく、細めた。
「そっか。当たり前すぎてもう言った気になってたわ。ごめんな」
兄さんの手が頬から離れて、でも、僕からは離れない。
ぎゅう、と僕を抱きしめてくれたから。
「かわいい弟くんが甘えてくれてンのに、迷惑とかあるわけねェだろ」
「じゃあ何に、困ったのかな?」
「困った?
……
あー」
兄さんは数秒で心当たりに見当がついたらしい。困っているのを誤魔化すような、さっきと同じような顔で笑った。
「いつもは『愛してる』なのに、『好き』だったから、びっくりしただけ」
「本当?」
「ほんとだって」
「でもどちらも意味は同じだよ?」
「なら訊くけどよ」
僕を見つめる兄さんの目は、困っていて
……
ううん。
兄さんは兄さんの言う通り、本当に、困ってはいないのかもしれない。
困っているのではなくて、もっと別の、他の
……
?
だって僕はその目に見つめられても、申し訳ない気持ちにはならない。
少し、落ち着かなくはなるけれど、嫌なんてちっとも、思わない。
兄さんの手がもう一度、僕の頬を包んで、その温かさで、僕の表情が溶けそうになるような、そんな感覚というか、実際僕は今、自分がどんな顔をして兄さんを見ているのか、よくわからなかった。
変な顔をしていないといい。
「同じなのに言葉を変えたのは何でだ? 一彩」
「変えたというか自然と出ただけなんだけれど
……
その方がより正しく僕の気持ちを表現していたからじゃないかな、多分」
「多分、なのか」
「ウム。明確に回答できなくて申し訳ないけど」
「謝るようなことじゃねェだろ」
「兄さんが気にしているようだったから」
僕が言うと、兄さんはまた、困った
……
ような顔で笑った。
「あー
……
まァ、気になるだけで、気にしてるわけじゃねェから」
「
……
その二つは少し意味合いが違う、と考えていいんだよね」
「うん。いつかお前が回答を見つけられた時にでも聞かせてくれれば、それでいいから」
「見つけられないかもしれないよ?」
「気にしてないから構わねェよ」
気になる、と、気にしている。
似ているけれど、少し、違う言葉。
それなら僕のこれは、どちらだろう。
「兄さんのその表情は、どういう意味?」
僕は気になっている? 気にしている?
あ?と短く声を上げて、兄さんが首を傾げる。
「表情? 別にいつも通り
……
いや、まァ、お前には変に見えるってことか」
「変、ではないけど」
初めて、ではないかもしれないけれど、最後に触れたとしたらそれはもっと幼い頃だったろうから。
だからだろうか。
だから、まるで兄さんの頬に初めて触れたみたいな感覚になっているのだろうか。
多分、僕は、少し、緊張している。
僕の手に触れて、撫でて、包み込んでくれた兄さんの手は、まるで僕をなだめるみたいに優しかった。
「兄さんは別に、困っているわけではないのだよね、多分」
「
……
困ってはいねェよ。照れくさかった、みたいな?」
「照れる
……
?」
兄さんにとって価値のない人間になってしまったと思っていたのに、愛してる、と真っ直ぐに伝えられた夏のあの日、僕は初めて、照れる、という感情を知った。
少し居心地が悪いような、感情があちこちで引っかかってなかなか心に落ちてこなくて戸惑うような、でも少しも嫌な気持ちにはならない、不思議な感覚。
あれが、困る、という感情に結びつくというなら、納得できる。
「
……
つまり、僕はそれをいい意味合いに捉えても問題はない、ということかな」
「そういうこと」
「ウム。理解したよ。ありがとう、兄さん。
……
好きだよ」
そう言いながら、というか勝手に飛び出したそれごと僕が兄さんに抱きつくと、予想外だったからか兄さんは驚いたみたいだったけれど、すぐに僕の背中を温かくしてくれる。
「おめェ、いい性格してンなァ」
「お褒めに預かり光栄だよ」
「褒めてねェよ」
兄さんは呆れた声を僕の頭の上で踊らせて、それから。
「一彩。好きだよ。愛してる」
祈るようにそう言って、僕の髪に口づけた。
だから僕はその唇を髪だけじゃなくて、口にもほしい。
そう思ったのだけれど、言えなかった。
きっと兄さんを困らせてしまうから。
ではなくて、ただ単純に、照れくさかったからだ。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内