河童の皿箱
2025-04-02 09:03:30
2384文字
Public 遊戯王:短め(2024年度)
 

爛漫

娑楽斎とファイアとラゼンとデモンスミスが桜を見ながら酒飲んでわちゃわちゃしてるだけ

 ポポンとゆかいな鼓の音。チャンチキちゃかちゃか、浮かれ浮かれてよよいのよい。木々に膨らむ蕾がほころび、ぱっと開いた桜、桜。
 それは、その国伝統の春の訪れ。ぱっと開いた花々が、風に揺られて花弁をひらり。どっしり構えた桜の木の下、真っ赤な敷物大きく広げ、桜吹雪にひらひら舞うは、3人の幼き能楽師たちと、3人のうら若き御巫たち。よってらっしゃい見てらっしゃいの立ち会いを、音にて彩る雅楽師の陽気な歌声、気ままに奏でるその音に、降りしきる桜色に身を任せ、ドドンと決めれば拍手喝采。その合間、広げられた重箱の、豪勢な料理にまた舌鼓を打ち、飲めや飲めやと注がれた酒やれジュースやれをあおったり。はたまた飯には目をくれず、桜を眺めてぼうっとしたり。その人だかりは賑やかなものであったが、それぞれ思い思いに過ごしていた。

 さて。宴会の様相を呈した花見の席の、少し離れた場所に、それぞれしっかりと体を鍛えている男が4人、屯していた。ひとりは青き髪の浮世絵師、娑楽斎。この花見を計画し実行に移した所謂主催者であり、始まってすぐは東奔西走。けれど場がノって来れば、もう彼の仕事は終わったようなものだった。彼自身もまた、友人たちと共に花見を楽しみ、酒瓶を握りしめては、その頬に桜色をのせていた。
 「なあなあ、酒ってどんな味なんだ?」と、炎の様な赤髪の男が絵師に身を乗り出した。コミックヒーロー、ファイアスターターと云う。自分を漫画の中から引っ張り出した相棒の少年を引き連れて、花見に遊びに来たのだが、酒という飲み物に触れる機会がとんとない。先ほどから友たる絵師と、ずっと同席しているらしい鍛冶師が飲んでいるそれを、飛び出した戯画は望んだ。
 「おうおう、なんだ飲んだことねぇのか。いや、そうか。お前はたいていあいつと一緒だろうしなぁ……うっし、飲め飲め!」。絵師は真新しい猪口ふたつに、なみなみと清酒を注ぎ込んでは、戯画と闘士へすすいと勧めた。戯画が喜び勇んで猪口を持つ間、その隣に陣取っていた青き髪の闘士――ラゼンは忠告した。「おい、イッキすんなよ」、と。「あ? こんだけ透明だし、水みてぇなもんだろ?」、と一気にあおったその姿に、同席する鍛冶師――デモンスミスと名乗る男は額を抑えた。
 直後、ゴフゥと噴き出たとめどない酒の噴水に、絵師は腹を抱えてゲラゲラ笑い、戯画は大きくむせ返りながら、その身のあちこちから爆発するかのように炎を上げた。あーあ、いわんこっちゃねぇ。闘士と鍛冶師の思いが一致するもつかの間、酒を盛大にぶちまけた戯画は、その顔を炎よりも真っ赤にさせていた。
 「おいてめぇなぁ!」、と。我関せずと視線を努めて桜に向け、良い葡萄酒をちびちび飲んでいた鍛冶師が、とうとう口を出す。構えていた闘士が反射的に戯画の向きをそらしていたおかげで重箱と料理は無事であった。燃え盛る戯画を横目に、一仕事を終えた闘士もまた、清酒に口をつける。唇を濡らす程度。だが、闘士もまた「ングゥッ!」と激しく噎せては、酒を急いで鍛冶師に手渡し、受け取った鍛冶師はそれには口をつけず、全ての元凶、絵師の酒瓶を取り上げた。
 「あー! 俺の酒!」なんて手を伸ばす絵師を片手で抑え込み、鍛冶師はその度数を確認しては、あーあーと肩をすくめた。「酒初心者にのませる度数じゃねぇよこのバカ野郎が!」。
 絵師の清酒、アルコール度数21%。対して、鍛冶師の葡萄酒、度数11%。鍛冶師はため息をついては、猪口に残った酒を絵師の口へと流し込み、代わりに葡萄酒を注いでやった。

 ああだこうだとしている間に、宴もたけなわ。ぱぱん、ぱぱんと手拍子数多。エーヤ、エーヤ、ホイ、ホイ。ひゅうと吹かれた口笛に、さらに足踏み、ひとつやふたつ。悪ふざけの過ぎる絵師の代わりに、仕方がないので鍛冶師が戯画と闘士に酒の飲み方を伝授して、煮豆や卵や海老蟹帆立。酔っ払い一歩手前の戯画はスモークステーキやハンバーグにぱくつき、酔わないようにと自制する闘士は山菜の煮物を好んだ。「上物ではあるんだよな。この酒もたけぇのだし。一体どこからこんな金が出てくるのやら」。鍛冶師のぼやきに、絵師は笑った。
 「知りてぇか?」。絵師の不穏な言葉に、鍛治師はわずかに身構える。「てめ怪しい商売してんじゃねぇだろぉな?」。けれど、それには戯画がプププと笑い、「いやぁ、こいつに限ってそりゃあないない」、と。続いて闘士は絵師に向いて尋ねた。「そういやぁ娑楽斎。お前、そろそろ祭りの時期だろ。今年も人手いるのか」、と。清酒をまたひとくちぐいとあおり、絵師は喜色満面とばかりに笑った。「覚えててくれたのか! やぁ実はよ、今年も計画立ててるところなんだが、お前らの手を借りてぇなぁって思ってたところなんだ。もちろん、報酬ははずむぜ?」。
 こいつら、祭りの最中に次の祭りの話をしてやがる。鍛治師が喉まででかかった言葉を酒で洗い流す間、戯画も闘士も首を縦に振った。そして戯画と闘士は、あくまでも目を逸らす鍛治師に、両脇から肩を組み固めた。

 「は? おいこんのパリピども! ふざけんじゃねぇぞ! 俺はやんねぇからな!」。「いやいや、彼女と桜デートしに来てる奴が、なぁに言ってんだよぉ」、「あいつは彼女じゃねぇッ!」、「いーじゃねーか、2週間働くくらい」。「額は俺が保証するぞ」。

 額。その一言で鍛治師は暴れるのをやめた。絵師は鞄を漁り、ファイルに綺麗に綴じられた3枚の契約書を取り出し、それを各々に手渡した。左右の2人がサラサラとサインをする中、鍛治師もまた、その内容に目を通す。……確かに、割りの良い仕事……では、ある。
 「気ーーーに食わねーーー」。口ではそう文句を垂れ流しながらも、鍛治師もまた、絵師の契約書にサインをした。