流れザメ
2025-04-02 08:02:10
3558文字
Public ビマヨダ
 

ハッピーエイプリル

エイプリルフールのアプリに登場したリヨビマヨダに滾って書いた話。
正直ヨダに揉みくちゃにされてるリヨビマが書きたかっただけなところある。
めちゃくちゃイチャラブ時空のビマヨダです。

四月一日。エイプリルフール。
年に一度、嘘をついても良いとされているこの日は、カルデアでクリスマスと並ぶ一大イベントの日とされていた。
その理由は──

「ふふっ、クルミも殻も難なく割ってみせるか。大したものだ」

上機嫌に笑うドゥリーヨダナ。そんな彼の手元には、十センチにも満たないヌイグルミのようなものがいた。
それはドゥリーヨダナに頭を撫でられると照れくさそうに紫色の髪を揺らし、トテトテと小さな歩幅で近くに置かれたトレーへと駆けていく。
ポットやお茶請けのクッキーが載っているトレーの縁を乗り越え、自分と同じサイズのジャムの小瓶へと近づく。褐色の逞しい両腕で小瓶を抱え上げると、それは再びドゥリーヨダナの前へと戻ってきた。
瓶の蓋に抱きつくように腕を回し、力を込めて上体を捻る。
パキョ、と独特な音を立てて外された蓋を見て、ドゥリーヨダナはますます瞳を輝かせた。

「ジャムの蓋も開けられるのか!偉いっ、偉いぞ!流石はわし様のビーマだ!」

ドゥリーヨダナは興奮した様子でそれ──ヌイグルミサイズのビーマを持ち上げると、両手で包み込むようにして親指でその小さな身体を撫でさすった。
ジャムを掬って紅茶のカップへ入れようとしていた小さなビーマは、慌てて持っていたスプーンから手を離す。
自分をやすやすと覆う大きな手の平に挟まれ、何本もの指に揉みくちゃにされているにも関わらず、小さなビーマが暴れ出す様子は無い。それどころか、嬉しそうな顔でドゥリーヨダナに良いようにされ続けている。
先ほどスプーンを手放したのも、突然の事に驚いたからではなく、ドゥリーヨダナの手を汚すまいとしてのことだったのだろう。
それに気づいたドゥリーヨダナはますます気分を高揚させ、一層激しく手の中の恋人を愛撫し続けた。
その光景を、背後からしかめっ面で眺める人物がいる。
先程からずっと小さな自分と恋人がイチャイチャしている所を見せつけられているビーマ本人だ。
昨夜、弟であるアルジュナから前もって『こういう事』が起こるかもしれないと聞いていたビーマは、目を覚ますなりカルデア中を歩き回って小さなドゥリーヨダナを探した。
けれど何処を探しても影も形も見当たらず、もしや本人の所に居るのかとドゥリーヨダナを部屋を訪ねてみれば、その時には既に今の光景が繰り広げられていた。

「おい!テメェばっかりズルいぞ!」
「仕方なかろう。この手の者達は元になったサーヴァントの性格が行動に如実に現れると、マスターも言っていたではないか。このサイズのわし様が、小人と巨人ほど体格差のあるお前の前にのこのこ現れると思うか?」

小さなビーマに向けていた蕩けきった笑顔を一転させ、ドゥリーヨダナは冷めた表情で肩越しにビーマを振り返る。
負けるのが嫌いなドゥリーヨダナは、自分が不利になる条件下には決して身を置こうとはしない。
十全に戦える力を持った普段ですらそうなのだから、手のひらに収まるほど小さなドゥリーヨダナなら尚更だろう。
ましてやそれが、宿敵である自分の前にというなら余計にだ。
頭では理解出来るが、どうにも諦めがつかない。
ビーマが唇を引き結んで小さく唸ると、ドゥリーヨダナはため息ともに身体をこちらへと向けた。

「まぁ、姿を一目見るだけで良いというのなら手はある」
「本当か!?」

弾けるように顔を上げたビーマに、ドゥリーヨダナは紅紫の瞳を細めて頷く。

「何、簡単なことだ。お菓子を作って食堂に置いておけばいい」
「はぁ?そんなんで本当に現れんのか?」

食べ物で釣るなど、まるで獣でも捕まえるようなやり方だ。
訝しげなビーマに、ドゥリーヨダナは口角を吊り上げてニンマリと笑う。

「必ず現れるとも。姿は変われどわし様だからな。お前に見つかりたくないだけで、お前に興味が無いわけでは無い。何か関わりを持った証が欲しいのなら、お菓子の横に代金を入れる器でも置いておけ。何かしらを対価に残していくだろうさ」
……分かった、やってみる」

僅かな不安を残しながら、ビーマは笑顔のドゥリーヨダナに見送られて食堂へと向かった。
厨房の面々に事情を話すと、丁度つまみ食い防止のためにカウンターに置くお菓子を作るところだと言う。
これ幸いとビーマもそこに加えてもらうことにした。
白い服に着替えて袖をまくり、さて何を作ろうかと考える。
小さなドゥリーヨダナに食べてもらう為に作るのだから、そのサイズに合わせて小さめに作ったほうが良いだろうかと思ったが、それはそれで弟達の分もと欲を出してある分全てを独り占めしようとするかもしれない。なので、ようやく一つ持てるぐらいの大きさにする事にした。

(ボール型のドーナツとか良いかもれねぇな)

中にクリームを詰めれば重さもそこそこになる。
もしかしたら運ぶのを面倒くさがってその場で食べてくれるかもしれない。
そんな期待も少し込めて、ビーマは小ぶりなドーナツを作ることにした。

「よしっ。これだけあれば足りるだろう」

一つ一つ丁寧に包装紙に包まれたボールドーナツの山。うず高く積まれそれらを見上げ、ビーマは一人満足げに頷く。
カルデアにはビーマに負けず劣らずの健啖家が大勢居る。彼らを模した小さいサーヴァント達も、おそらく人より沢山食べる筈だ。
小さいドゥリーヨダナが現れる前にお菓子が底が尽きないように、念には念を入れてたくさん作った。
少し作り過ぎた気もするが、余ったら自分が食べればいいだけの話だ。
他の皆の作業も手伝い、いよいよカウンターにお菓子を並べる。
ドーナツはそこそこな大きさの為、カウンターの隅に置く小ぶりなカゴには十個程しか載らなかった。

(ちょくちょく様子を見て補充しねぇとな)

ビーマはお菓子のカゴの横に長方形の小さな箱を置いた。箱には『代金入れ』と書かれたテープが貼られている。これについても厨房の皆には説明済みだ。

「小さなドゥリーヨダナさん、来てくれると良いですね」
「あぁ、そうだな」

手元を覗き込んできたパッションリップに笑顔を返し、ビーマは食堂の入り口をじっと見つめた。


カウンターにお菓子を置いて五分ほど経った頃。いったいどこで話を聞いてきたのか、わらわらと小さなサーヴァント達が食堂に押しかけてきた。
次々にカウンター前のお菓子を持っていく彼らに圧倒されつつ、ビーマは小さなドゥリーヨダナの姿を探す。
だが、いくら目を凝らして見ても見つからない。
やっぱり駄目なのか。
落胆がビーマの胸をかすめる。それで諦めきれずにカゴが空になる度にドーナツを補充し続けていると、五度目の追加の後に見覚えのある薄紫が視界の端に映った。
思わず声を上げそうになったが、寸での所でそれを飲み込む。
横目にさり気なくカウンターの方を伺うと、カゴの中を覗き込むと小さなドゥリーヨダナの姿が見えた。
小さくデフォルメされていようとも、あの何か企んでいそうな顔は健在だ。
ビーマが堪らず吹き出すと、その笑い声が聞こえたのか、小さなドゥリーヨダナが突然顔を上げて厨房の方を見た。
ビーマは慌てて顔をそらして作業に没頭しているフリをする。
姿だけでなく内面もオリジナルと同じなのであれば、きっとビーマに見られていると知るなりあのドゥリーヨダナはお菓子も持たずに姿を消すだろ。
心の中で一分ほど数えて、そっとカウンターの方を見る。
そこにはもう、小さなドゥリーヨダナの姿は無かった。

(本当に一目しか見れなかったな)

カウンターに近付き、カゴの中を見る。補充したばかりのドーナツが九個しかない。
どうやらちゃんと持って帰ってくれたらしい。
遠目にしか見れなかった残念さと、自分が作ったものを食べたいと思ってくれた嬉しさ。複雑な気持ちで居ると、ふと代金入れの器の中に視界が吸い寄せられた。
中にはQPの欠片や小さな花、ビー玉、どんぐりなど、思い思いの代金が入れられている。
どこか幼さを感じるそれらに混じって、場違いなほど大きなアメジストが付いた指輪が一つ、ぽつんと確かに置かれていた。


「小さなわし様には会えたか?」
「あぁ。これが置いてあったんだが……
「代金代わりに置いていったんだろう。わし様の指輪が一つなくなっていたからな」
「ドーナツ一つに指輪は貰い過ぎじゃねぇか?」
「いいから受け取っておけ。小さなわし様はそれが対価に相応しいと思って渡したのだ。まぁ、お前に対する見栄も半分ぐらいはあるだろうがな」
「そうか」
「ところで、小さなビーマがわし様の腕にしがみついたまた離れなくなったんだが」
「あんだけ甘やかせば離れなくもなんだろ。自業自得だ」
「えー」