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ひがあぎういな
2025-04-01 22:33:03
2068文字
Public
トシカイ小説
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【廻あざ】コウサイ
ネタバレのない部分だけを抜き出したもの。全年齢。完成版はネタバレ有R18になる予定。
センター長さんは、まるでダンスにでも誘うようにそっと右手を差し出して私に問いかけた。
「あざみさん、私と交際していただけますか」
「
…
はい?」
「おや、聞こえませんでしたか?交際して下さいと言ったのですが」
「いえっ
…
ちゃんと聞こえてますけど、コウサイって
…
ひょっとしてお付き合いのこと
…
ですか?」
「はい。決して瞳孔括約筋と瞳孔散大筋からなる虹彩の話はしていませんよ」
その説明は逆に分かりづらいんですけど
…
。
ただでさえ表情の裏が読めない人なのに、話題が逸れてもその目はずっと真剣そのものだから本気なのか冗談なのかまったく分からない。
「えっと、その
…
そう言っていただけるという事は
…
せ、センター長さんは私のことを
……
?」
「好いています。いえ、愛しいと言ったほうが適切でしょうか」
「ひゃ
…
いぃ、いとし
……
なっなんで、ですか!?センター長さんは、えっと
…
ぉ、おモテになりますよね?私なんて
…
」
指先をモジモジと遊ばせて、何とか紡いだ自分の声は上擦ってしまって、上手く言い切る前に語り慣れているセンター長さんの明瞭な声にかき消された。
「人は自身に理解を示そうとしてくれる隣人を愛するものです、理由などそれで充分。それより私がモテるなどと、恋人のいない成人男性を相手に何を?何か誤解があるのでは」
「あ
…
ごめんなさい、SNS調査をしていた時にセンター長さんのガチ恋?っぽい人を見掛けたのでそう思いました
…
」
それは谷原きのこさんの配信に巻き込まれた時の事。
センターに女性スタッフがいる事にショックを受けているコメントがあった。解体センターチャンネルの視聴者には、少なからずオカルト目当てではない層がいるっぽい。
「なるほどガチ恋勢ですか。確かに居たようですが
…
その様な面の下の素顔すら知らない視聴者の向ける好意が果たして、本当に私自身に向けられているものか
…
はなはだ疑問ですねぇ」
「そんな風に言うのは良くないですよ
…
きっと本気の人もいるはずで
…
っ」
拳を握って咄嗟に諭そうとして、しまったと思った。
あんな過去があったら、ネット上の好意も悪意もどっちだって無責任な視線にしか感じられないかも
…
嫌悪してしまうのも無理はない。その可能性が脳内で組み上がる一歩前に言ってしまった。
配慮に欠けた発言だった
…
と口を噤んだけどもう遅い。
「随分と惨いことを言いますね」
「ご、ごめんなさ
…
」
「たった今、本命の女性にフラレたばかりの男に顔も知らない相手を推薦するとは」
「フ!?フってない!フってないですから!!」
センター長さんの目が伏せられて、日の光を浴びた事がないかのような白い肌の上で長い睫毛がくっきり見える。口元は薄く笑んでいるけれど、何故だか悲しんでいるように感じたから、悲しみを取り除いてあげたくて必死に否定した。
「ではYesと?」
「あぅ
…
それは
……
ちょっと考えてもいいですか
…
?」
「えぇもちろん。何秒ほど待ちましょうか」
「秒!?」
パニックになっている私をセンター長は楽しそうに追い詰めてくる。やっぱりからかわれてるのかな。
「こんな事を言うのも何ですが、異性との交際が初めてなら練習のつもりでも構いませんよ。ご覧の通り、この体で私が貴女に無体を働く事はあり得ませんから。初心者向けです」
「練習だなんて、そんな不誠実な
…
」
「おや
…
そもそも男女交際とは伴侶を選ぶための見定める期間では?何度も交際を重ねて人付き合いを学んで行くのですから、すべての交際は練習であり、本番であると言えるでしょう」
「た、たしかに
…
」
ものすごい勢いで畳み掛けられて押し切られそうになる
…
でもこれは大事なことだから、押しに弱くたって流されて決めちゃダメだ。自分で決めなきゃ
…
!
そう思って、こめかみを指で押しながらムムムと唸った。
「まだ何か、不安や不満がありますか?」
「いえあの
…
ただ、本当に私で良いのかなって
…
」
つい脳内センター長さんと頭の中を整理する時のように、心の中を正直に口に出してしまった。美桜みたいに可愛くもなければジャスミンさんみたいに頼りにもならない私では、とても釣り合わない。
「その事ですが、さっきから気になっていました。私が初めて交際を申し込んだのは他ならぬあざみさん
…
貴女なのですよ」
「えっ
…
」
「貴女“で”良いはずがありません。貴女だけが良い」
ずっと余裕のある口調でスラスラと語っていたのに
…
私の発言に眉尻を下げた後のその声には、からかう調子が微塵もなかった。
あ
…
本気の言葉なんだ。メガネを掛けなくても、その言葉だけは文字が浮かんで視える気がした。
いくら胡散臭いからって、疑ってしまった自分を恥じた。
「交際の申し出、受けていただけますか?」
「
…
はい!ふ、ふつつかものですが!」
よろしくお願いします!と握手のつもりで差し出した手の平は握られる事なく掬い取られ、恭しい口付けをその甲に受けた。
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