らぎ
2025-04-01 13:09:16
514文字
Public モノノ怪
 

坤猫

ボタ+坤

あら」
とある昼下がり、御年寄に与えられるひと部屋の赤い玉簾を見上げる白猫がいた。
「誰かの飼い猫?」
ボタンが口に出した考えを、猫は否定も肯定もせずに苅安色の瞳でじいっと見据えている。白い毛並みには、朱の紋様が浮かんでいた。
「まさか」
その紋様と瞳、それからクワっと欠伸をする横顔に、見覚えを感じて言い募る。正確に言えば、ボタンは心当たりの男が呑気に欠伸をする所など見たことは無いのだが。
「貴方なの、薬売り」
白猫はぐるると喉を鳴らした。細めた目は、ご明察とでも言いたげだ。微かにボタンを苛立たせる太々しいその佇まいは、やはり件の薬売りを彷彿とさせる。と言うよりも、あの薬売りが猫のような男なのだったか。
ボタンが僅かに意識を逸らした隙に白猫は四つ足で彼女の足元に歩み寄り、猫らしからぬ低音で鳴いてみせた。ほとんど唸るような声だ。
「分かりました分かりましたから、擦り寄るのはおやめ。毛が付くでしょう」
仮にも人の姿をした者が猫になるなど聞いたことがないが、ボタンは先日人の情念が火鼠の形を成す所を見たばかりであるからして、多少の不可思議な現象では驚かなくなっていた。慣れた、とも言う。


続くかもしれない