こゆ
2025-04-01 11:53:23
2887文字
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うそのうそにおわりを

うそのうそ(毎年四月一日に告白したりチューしたりする「嘘」をついてたペンシャチの両片思いの話)の続きでハピエンに向かってますの話。

※付き合ってない
※過去作の両片思いのままでいたい人はそのままでも大丈夫です!!特異点的に書いたので

  

うそのうそにおわりを




「シャチ顔も瞳も真っ赤」
「ペンギンの手ェ冷たくて気持ちいー!もっと触って?」
酔っ払ってべろべろなシャチ。
べろべろ、という言葉を考えた人間は凄いとクリオネは思った。まさにべろべろと表現する他ない程に、シャチは泥酔していた。甲板でのいつもの宴会の席である。
シャチのペースは普段と変わらなかった。好き勝手飲んで、食べて、歌って、踊って。
しかし、遅れて宴会に混ざったペンギンが隣に座ってから酔いの回りが顕著だった。
シャチは鎖骨の辺りまで肌を真っ赤にして、ペンギンの肩に腕を回し、自身の首を触らせている。「指つめてー、きもちいい」と大口開けてケラケラ笑っている。ペンギンもビールを片手にシャチの手に導かれるまま、熱い肌に触れては微笑んでいた。
「誰か止めないの……あれ。ほっといたらアイツらここでおっ始めるでしょ」
「お前行けるか? あれに突っ込めるか?」
「無理」
ハートの海賊団の他のクルーは酔いがすっかり醒めた顔で囁き合った。中でもクリオネは完全無視を決め込んでいて、頼みの綱であるベポも自室に篭っているローを呼びに席を立ってから戻って来ない。


ウニの隣で飲み物を水に切り替えていたハクガンが呟いた。
「ペンギンが素面であれ相手してるのがおれは怖い」
「え」
「素面?」
「うん、ジョッキ持ってるだけ。ペンギン今日ぜんぜん飲んでない」
相棒の介抱を引き受けるつもりなのだろうか。
それよりも、素面でそれなの? とは誰も言い出せない。一同絶句というやつである。

「シャチ酔い過ぎじゃね? あんまり気を許して他所でべろべろになるなよ? 心配する」
「まさかぁ……ペンギンがいるときだけだよ」
「そっか、そーだよな」
ペンギンは微笑んで手の甲でシャチの首筋から下顎を撫でて、チビっとジョッキに口をつけた。

……ペンギン?」
「ん?」
……ペンギン、ペン、……ペンギン、ペーンギン」
「ふふ」
「ペンギンすき」
「俺も好きだよ」
熱の籠った声で呼ばれたペンギンは、直ぐにシャチの火照った頬を下から掴んで、むにむにと揉んで笑った。シャチは瞳を閉じて、されるがままに「んー、む、あにすんのー?」と声を出してクスクス笑っている。
居た堪れない。
完全に周りが見えていなかった。
加入して間もないクルーは目のやり場に困り、慣れてるクルーは頭を抱えて、付き合いの一番長いハクガンは「ほっといていいんじゃないかな」と言って冷めた厚揚げを口に放った。
「わ〜、シャチべろべろだね〜? 体調は大丈夫?」
戻って来るなりべったりくっついたペンギンとシャチを目にしたベポは程々のボリュームで叫んだ。シャチは「だいじょーぶ」とにぱっと歯を見せた。
ベポの後ろから顔を出したローは大きくため息を吐いた。ローの登場に喜んだのはクリオネで、今日一番の声の張りで「キャプテン待ってました!」とやっと騒動の中へ視線をやった。

「キャプテン、芽キャベツとベーコン蒸したやつ眼精疲労にいいですよ」
「ああ、助かる」
「あと、シャチは意識障害、血圧低下、このまま行くと脱水も起こしかねないので部屋戻ります。片付けは免除でいいですか」
と、ペンギンは簡潔に状況説明をした。
「手際がいい」
「あれは素面だな」
「でしょー」
ウニ、クリオネ、ハクガンの会話にペンギンも笑って頷いた。千鳥足のシャチを支えながら全員の顔を見渡して、今日だけだから。と言った。

時刻はとっくに日付をまたいでおり、四月一日を迎えていた。
「シャチ、部屋まで歩くぞ」
お互いに抱きつくように歩き出すペンギンとシャチ。シャチがペンギンの耳元で何かを言って、ふたりで見つめあって、そっとふたりが唇をつけたように見えた。唖然として見送る新人クルーの背中をクリオネが叩いて、気にするなと言った。
……え? あれって持ち帰りとかそういうこと?」
気にするな、それ以上の言葉を誰も発しはしなかった。







意識が浮上して、ガンと襲いかかった頭痛と吐き気に、シャチは何かを考える前に唸り声を上げた。酒は生まれた土地柄、子どもの頃から嗜んで、ここまで酷い朝を迎えた事はない。起き上がることも出来ずに唸っていると、段々と頭が動いてきて、これが二日酔いか、と酷い気分の中自覚する。
「起きたか、シャチ」
静かな声が頭上から聞こえた。そこでやっと自分が寝ている場所が、自分のベッドでは無い事に思い至った。ゆっくり目を開けると、低い天井と深く澄んだおれだけが映る瞳。
「はよ……ペンギン」
「おはようシャチ」
ペンギンは微笑んで水飲むか、と言った。
……昨日、おれ何かした?」
いつもの酒の席、隣で笑うペンギンの顔の記憶だけがある。触れた指が心地よくて、ずっと繋いでいた気もする。
「好きだ、って告白された」
後頭部を強く殴られたような気分だった。
シャチは絶句して、なんでもないように続けるペンギンを見つめた。
「エイプリルフールの毎年やってるあれだろ? ふははっ、本気にしてねーよ」
「ちょっ……と、待って、そうだ、今日はエイプリルフールだな、日付またいでた、よな? へ、変なことしてない?」
「あんだけ酔っ払ってて何ができンだよ、ははっ、何度かちゅーしそうにはなったけど」
「へ」
「部屋戻るまでと、ベッド入ってからと……
「それだけ? あとは……!? 」
シャチはシーツの上でなんとか寝返り、重い頭を上げた。キスだけなら、それなら毎年のお遊びだと。去年もした。エイプリルフールにふざけて告白したり、キスしたり。まだ誤魔化せると思った。ガンガンと響く頭痛で吐き気がしてくるが、今はそんなこと構っている場合ではない。
ずっと好きだった。
誰にも言ったことはない。物心がついた頃から、好きで、好きで、隣にずっといたいからなんとか関係が変わらないようにと必死だった。どうにかなろうなんて気持ちは無かった。
ただペンギンの一番近くに、仲間として、相棒として、ペンギンの中に自分の居場所があれば、それだけで満足だったのに。
ペンギンとの間で、一年に一度、四月一日のエイプリルフールに「好きだ」って言うことがお約束になっていて。もちろん冗談で。でも、それだけで幸せだった。変わりたくないし、知られたくない。
シャチは無意識に顔を下げてしまい、真っ白なシーツだけを見つめた。

……すまん、嘘ついた」
ペンギンはシャチの肩に触れて、顔を上げさせた。恐る恐る見上げると、ペンギンは困ったように微笑んでいた。
「本当は、俺からキスした」
ペンギンの言っている意味が、わからなかった。
意図を図りかねて困惑していると、ペンギンはシャチの肩から、首を撫でて、頬に触れた。
冷たい手だった。
心臓が五月蝿い。
……なァ、シャチ」
静かな囁きだった。
強い意思を持った瞳がシャチを見つめている。
顔が近付いて、息を飲む。
ペンギンの息がかかる距離。


「シャチ、エイプリルフールは今日でおしまいにしよう」