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ゆ~
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【蛸王ドロ】浸透して
蛸王ドラロナ。
続くので、書いたら上げていきます。終わりますように。R18になる予定。R18シーンに入ったらフォロ限になると思います。
「どうしよう
……
見つからねぇ
……
」
一体いつ失くしてしまったのだろう。ロナルドは今日一日の行動をもう一度頭の中で繰り返し、浜辺を走って昼間に遊んでいた場所へ向かった。
走りながら、絶望的な気持ちで自身の左耳に触れる。しかしやはり、いつもそこにある筈のトライアングルピアスの感触は指に伝わってこず、そこにあるのは少し窪みのある柔らかな耳朶の感触だけだった。
なんてことだろう。焦燥にドクドクと心臓が早鐘を打って、ぎゅうっとみぞおちの辺りが引き絞られる。あれは、この国で一番偉いロナルドの兄とロナルド自身、そして年の離れた妹だけがつけることを許される物だった。
それが一体何なのかまでは、幼いロナルドには理解出来ていなかったが、大切なものであるということだけは分かる。そして何より、尊敬して止まない兄と大切な妹との繋がりを示すものの一つだ。
ぐっ、と顔が強ばって、涙が出そうになりながらロナルドは昼間遊んでいた辺りへと辿り着き
——
ここに来たのはもう七回目だ
——
打ち寄せる波打ち際を隈無く、目を凝らして探した。僅かにきらりと光るものを目端に捉えればそちらに手を伸ばし、けれどそれが砂浜で磨かれた小石が月光を反射しただけだと分かって肩を落とす。それをもう、何時間も繰り返していた。
とうに日は沈んで、まん丸い月が雲一つない空にぽかりと浮かんでいる。満潮の時間帯が迫り、小さな浜辺の大部分が間もなく沈もうとしていた。
もう既にあの小さなピアスは波に拐われてしまったのだろうか。考えてみれば妥当な結論が頭を過ぎる。今はまだ、ロナルドがあれを失くした事を知る者は無口な幼い妹だけだ。どうか兄や周りの大人には言わないで欲しいと頼み込んできたが、あまり遅くなれば、ロナルドが城に戻っていない事が知れてしまう。そうなれば、今度は一緒に遊んでいた妹が責められてしまうかもしれない。
八方塞がりになって、ロナルドは波打ち際で膝をついた。どうしよう。見つからない。ロナルドが家族の証を失くしたと知れば、兄はどんな顔をするだろう。もしかすると、城から追い出されて帰る場所を失くすのではないかと、最悪の結果を想像したロナルドはますます追い詰められていった。冷たくなった手も足も、もうくたくたに疲れている。お腹も空いて、こんな時にまで腹が空くのが酷く情けなく感じ、ついにロナルドの真っ青な瞳からボロリと涙が溢れた。
「っひぐ、うっ、うう
……
」
「
……
あのー、どうしたんですか?」
「
……
へ?」
ここはロナルド以外、誰も居ないはずの場所だ。ロナルドらが住む城の裏手にある浜辺に、城の者以外が入ることは出来ない。
顔を上げ、声のする方へ視線をやると、岩場から怖々こちらを覗き込んでいる少年の姿が見えた。ロナルドはますます驚いた。この城には妹のヒマリと自分以外、子どもと言われる年頃の者は暮らしていない。
「あの
……
もしかして、失くし物しましたか?」
「えっ」
何者かと問うべきところを、戸惑っているうちに先を越されてしまった。しかもその質問があまりに的を射ていたので、ロナルドは思わず何度も頷く。すると、少年は恐る恐る岩場から短い腕を伸ばし、手の中にあるものを見せてくれた。
そこにあったのは、正しくロナルドの探していたトライアングルピアスだった。
「そ、それ! どこに!」
ロナルドの声に少年はビクッと肩を揺らしたので、あっとロナルドは口を両手で抑えた。驚かせてしまったかもしれない。
「ご、ごめん。それ、俺のなんだ。見つけてくれて、ありがとう」
「海の中でキラキラ光ってました。君のなんですね」
「うん
……
うん?」
海の中? ロナルドは少年の言葉に違和感を覚えた。それに、少年はピアスを差し出してくれてはいるが、一向にロナルドのいる浜辺には来てくれない。
「え、えっと
……
返してくれる?」
「ええと、私はそっちに行けなくて
……
」
こっちに来れない、というのはどういう事だろう。不思議に思ったが、ロナルドは立ち上がり、岩場へ近付くと危なげなく登り、少年が身を隠している影の方へぴょんと降りた。
「
……
えっ!」
そこでロナルドは、漸く少年の姿を目にする。
目深にローブを被った少年は胸元をリボン結びで留めているのだが、その半身は海の中に沈んでおり、月で照らされた波間には蛸のような脚が見えて、そのいくつかが岩場に吸盤を使って張り付いていた。
「半魚人?」
「その呼び方はちょっと
……
」
「ご、ごめん」
そんなやり取りを交わしつつ、ロナルドは少年に近付く。随分と体が小さく見えるが、海中に見える蛸脚はロナルドの足よりずっと太い。少し恐ろしく感じたが、しかしどうにかピアスは取り戻さなければならない。ロナルドは怖々少年に近付いた。
「えっと
……
見つけてくれて、ありがとう」
「
……
」
「
……
?」
だが少年はいざ渡せるほどの距離まで近づいた時に、ロナルドを見上げて大きく目を見開いた。そうして、どうしてかそのピアスを持った手を引っ込めてしまった。
「えっ、あの、それ返して欲しいんだけど
……
」
「こ、交換してください」
「へ? 交換?」
一体何と。ロナルドは今ロクなものを持っていないので焦ってしまった。それに、高価なものなど一つも持ち合わせていない。お金は、城に戻れば毎年兄から貰っていたお年玉を使わずに取っといてあるけれど。
「さっき、貴方が目から出していたものと交換して欲しいです」
「は? 目から?」
「さっき出していたでしょう。目から沢山、宝石みたいに綺麗なもの。それと交換がいいです」
「目
……
それって、もしかして、涙のことか?」
「?」
少年はきょとんと目を瞬かせる。もしかして人間じゃないから、涙を知らないのだろうか。
「ええっと
……
ご、ごめん。あれは涙って言って、その、悲しい時とかに出てくるしょっぱい水で、宝石とかじゃないんだ」
「しょっぱい水
……
」
「ごめんな
……
」
「
……
いえ、いいんです。貴方の目から出てる涙が、とっても綺麗だったから、つい」
「ほ、他に欲しいものないのか?」
「うぅん
……
今は、特に」
「そ、そっか」
そうして、少年は今度こそピアスをロナルドに返してくれた。手の中にころんと乗っかったピアスに大した重さは無いが、ロナルドは今度こそ、二度と無くすまいとそのピアスを慣れた手つきで左耳に嵌める。
「痛くないんですか?」
「ああ、もう穴が空いてるから痛くないんだ」
「へぇ、穴を
……
」
「うん」
「
……
」
「
……
」
言葉が途切れてしまい、静けさと気まずさが流れた。じゃあさよなら! という訳には行かないような気がして、ロナルドは必死に話題を探す。
そうしてハッと気がついた。ロナルドは少年の名前も知らないし、自分も名乗っていない。恩人に名乗らず、名前も知らないのでは礼のしようもないではないか。
「あ、あのさ!」
「は、はい?」
「俺ロナルドって言うんだ! お前は? なんて言うんだ?」
「私は、ドラルクです」
「どらーく
……
?」
「ドラルクです。ドラルク」
どうにも発音が難しい。特有の発音が使われており、ロナルドの国で使われるものとは少し違うようだった。
「じゃあ、ドラ公」
「ど、どらこう!?」
「うん、ダメか?」
「
……
うん、まぁ。いいですよ」
「よろしくな、ドラ公」
そう言って、ロナルドは手を差し出した。ドラルクはそのロナルドの手を見てぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「
……
よろしく?」
「うん。あのさ、涙はあげられないけど、他にドラ公が欲しいものあったら、お礼にあげたいから。それまで時々ここで遊ぼう」
「遊んでくれるんですか? 私と?」
「うん、ドラ公と遊びたい。ドラ公は、嫌か?」
ロナルドの言葉にぽかんと口を開けて惚けるドラルク。その小さな赤い瞳孔が徐々に輝いていくのが見えた。
「わ、私も遊びたいです。ロナルド君と、遊びたい」
「うん。今日はもう帰らなきゃだけど、またここに来る。ドラ公は来れるか?」
「あ、でも私は夜しか
……
」
それを聞いてロナルドは少し首を捻った。夜に部屋を抜け出すのは本当はよろしくないのだが、けれど
——
。
「わかった。毎日は無理だけど
……
今度は月が半分になる日に来るから」
「半月の時ですね」
うんうん、とドラルクは沢山頷いて、今度こそロナルドの差し出していた手を握る。その手はひんやりと冷たい。
「約束しましょう、ロナルド君。半月の夜に、また」
「うん、約束する。またな、ドラ公」
その言葉を交わした時、ロナルドの手に何かがチクリと刺さったような気がしたが、ほんの僅かな痛みだったこともあって、ドラルクの手の冷たさに紛れてすぐに痛みはかき消えてしまった。
そうして、ロナルドは岩場をまた登り、浜の方へと降りたところで振り返ると、岩場からすっかり姿を見せたドラルクが手を振っているのが見えて、やがて海の波間に姿を消した。
城に戻るといつもは優しい兄にかんかんに怒られてしまったが「無事でよかった」と抱き締められたところで、またロナルドはわんわんと泣いてしまった。そうして、もう既に眠っている妹のところへ行くと目元を赤くしているのが分かって「ごめんなヒマ」と小さな声で謝り、いつも兄がしてくれるように額にキスをした。
探し物が見つかって、秘密の友達ができた。現実離れした出来事だったが、ロナルドはベッドの中でひんやりとしたドラルクの手の感触が残る右手を胸に当て目を閉じると、疲れからかすぐに眠りに落ちてしまった。
そうして、ロナルドは海の中で誰かに手を引かれ、どこかへ向かっている夢を見た。真っ暗な海の中で、キラキラしたものが奥に見えたかと思うと、流星のようにロナルドの横を過ぎ去っていく。
「約束ですよ、ロナルド君」
分かってる。次は、月が半分になった時に、きっとお前に会いに行くから。
ロナルドの手を引いているのはドラルクだった。繋いだ手が、ぴったりとくっついて離れない。
ドラルクと交した約束が、右手を介してロナルドの中に、深く深く、浸透していくようだった。
🌊WB
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