su7ga0
2025-03-31 21:18:08
8230文字
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三途の河原で捕まえて

以前他所で上げていた刀さにです。山鳥毛、日本号、大般若、小豆が出てきます。審神者の性格がクズ寄りです。刀たちも割と倫理観が無いです。全体的にうっすら胸糞で下品です。下ネタが出ます。地雷のない方だけお願いします。

 は。と気が付けば、目の前にはお約束のように大きな川が流れていた。
 佇む河原は砂礫に混じってごろごろと石が転がっており、遠くの方はうっすらと山が見えるものの、一帯は薄いもやに包まれて景色は判然としない。
 素足に寝間着を着ている。右腕がむず痒くてバリバリと掻きむしった。
 そういえば刺さっていた邪魔な管がない事に気が付いた。腕を見れば、青と黄色の混じった色の痣の上に、翼状針の痕とテープにかぶれて赤くなった痕が残っている。
 この景色と様子から察するに、多分私は死んだ。私は政府の医療機関に入院し、重度の昏睡状態に陥っていたはずだ。
 最後に覚えているのは、「この人、どっちにしろ近いうちに死んじゃうから練習で護符交換してみよっか」という政府付きのベテラン術師の言葉と、緊張した面持ちの新人の顔だった。
 ——私はまずまずの成績の本丸を運営する審神者だった。それなりの人生を送って、それなりに寿命を終えていくのだろうと思っていた矢先、何らかの呪詛を受けて私は死んだ。本丸の刀剣らの神気を持ってしても祓いきれなかった呪詛だ。この呪詛を送ったものは余程強い恨みを私に抱いていたのだろう。
 しかし、死んでしまったものは仕方がないのでさっさとコンティニューした方が良いはずだ。彼岸はどっちだろうと思いながら、新たな人生への一歩を踏み出そうとした。
「小鳥」
 懐かしい声を聞いて振り向いた。
 後ろにいたのは、私の本丸の山鳥毛だった。
「山鳥毛!」
 嬉しくなり、彼の名を呼びかける。すると山鳥毛の眼差しから険しさが消え、瞳は溶け出しそうに優しい色を帯びた。
「ああ、またお前の声が聞けるとは……
 低い声は切なく震えたように聞こえた。
 私に駆け寄った山鳥毛は長身を屈め、身の内に収めるように私を抱き締めた。背中に回った腕は私を二度と離さないと言わんばかりに力強い。
「なんで山鳥毛がここにいるの? 他所に譲渡されるの嫌だった? もしかして、もう折れちゃった? ……着いてきちゃダメだよ」
 山鳥毛の胸に擦り寄ると、彼が愛用していた香水の香りがした。込み上げるいとおしさに瞼を閉じる。
 呪詛を受けてすぐはまだ意識があった。その時に、私は万が一に備えて初期刀に本丸の始末の付け方を伝えておいた。中でも、「供は要らぬ、一人で逝く。戦以外で折れることは許さぬ」それだけは守れと本丸の刀らに伝えろと固く言ったはずなのに、どうして山鳥毛がここにいるのだろう。
——お前の最期の命に背く気は無いさ。だが、お前の手を引いてこの川を渡る役目だけは果たさせてくれないか。私がお前にしてやることができる、最後の役だ」
「なに? それ」
 山鳥毛は穏やかに笑っている。
「女が三途の川を渡る時は、その女を最初に抱いた男が手を引いてやるものだ」
……えっ?」
「俗信やもしれぬが、最期にお前に会える機会を逃したくなくてな。馬鹿な男だと思ってくれて構わない」
 山鳥毛の眼差しは優しく穏やかだった。その穏やかさの裏に、途方もない悲しみと切なさを抱えているのが透けて見える。私は俯いた。
「お前を送った後は、きちんと在るべき場所へ戻るさ。……いつか戦場で折れる日が来るまで、必ずお前の最期の言葉を守ると誓おう」
 腕の中に閉じ込めた私へ紡ぐ言葉は、低く優しい響きをしている。俯いた私のことを、山鳥毛は「照れている」と思ったようだ。
 だが違う。私は照れているのではない。どうしようもない危機を感じている。
 ——山鳥毛は、私の処女を捧げた相手ではないのだ。
 私が初めてセックスをしたのはまだ審神者になる前のことで、相手は中学の先輩だった。まさに処女を棄てるという言い方が似合うような最悪な初体験だった。だから、本来ならばこの場にいるのはそのクソみたいな先輩であるはずなのだ。
 なのに何故山鳥毛がここにいるのだろう。嫌なわけではない。山鳥毛のことは好きだし、相性も良かったと思う。彼は頭の芯が蕩けるような、とろとろに甘やかす抱き方をしてくれた。低い声で睦言を何度も囁かれ堪らなく体が疼いた。一度始まったらなかなか終わらなくて、寝かせてもらえなかったのは辛かったけど。
「小鳥?」
 私の様子がおかしい事に、山鳥毛は気付き始めたようだ。
「山鳥毛。嬉しいけど、やっぱり一人で行くよ」
「小鳥。頼む。私の最後の我儘だ」
「ううん。このままだと、未練があり過ぎて渡りたくなくなっちゃうから……
「小鳥……
 見上げた山鳥毛は、悲哀に暮れていた。
 嘘をついてごめんなさい。大変申し訳ない。
 しかし、私へ思いを告げてきた時の山鳥毛は少し怖かったのだ。刀剣男士として顕現された役目を放棄し、私を隠してしまうのも止む無しかという瀬戸際で彼は危うく揺れていた。
 そんな山鳥毛に、人間相手に既に経験済みだなんて言ったら、きっと私もクソ先輩も祟られていた。保身に走って処女の振りをしてゴメン。今更反省している。
 この川を渡ってしまえば、後は多分地獄へと繋がっている。自分が極楽へ行けるとは更々思っていない。私はさっさと人生のコンティニューへの歩みを進めたかった。
 山鳥毛がここに来たという事実から考えるに、「女が三途の川を渡る際は、初めて抱かれた男に手を引かれ渡る」というシステムは、恐らく男性側の個人的な感情で決定する。男が、こいつの処女を貰い受けたのは自分だ。と認識していたら勝手にそのシステムが作動するのだろう。
 ——ヤバい。
 どうにかして早く川の向こうへ行かねばと思っているが、山鳥毛は私を抱き締めたままだ。身動きができない。
「なあ、そこで何やってんだ」
 やや間延びした低い声が聞こえた。山鳥毛とは質の違う、どこか粗さを含んだ低音の声の主には大いに覚えがある。
 もやの中から姿を現したのは日本号だった。
「おいおい。折角こんなところにまで来てやったのによ。……他の男とお楽しみ中なんて、流石に笑えねぇぜ?」
 日本号は不敵に笑っていた。
 私は在りし日のことを思い出す。
 本丸で開かれた宴会で飲み過ぎ、そのまま眠りこけてしまった時のことだ。目を覚ますとそこは日本号の私室の布団の中で、彼の逞しい二の腕を枕にしていた。もちろん互いに何も着ておらず、日本号は私を抱き締めて眠っていた。
 酒の過ちを謝罪した私のことを、日本号は離さなかった。
 恥ずかしがっていたのに無理をさせて済まないというようなことを言われたけれど、それは恥ずかしいのではなく飲み過ぎて気分が悪かったのだ。必死に顔を隠して声を押し殺していた私の事を、日本号は初物だと勘違いしていた。処女とは思わず、酒の勢いでつい浮かれて抱いてしまったけれど、こうなったことに後悔はしていないと言っていた。私は話をややこしくする必要はないと思い、日本号の勘違いを訂正せずにしおらしく頷いた。
 それから彼とは度々そういう関係を持ってきた。「無理は言わない」と彼が約束した言葉通り、日本号から求められるようなことは無かった。が、私から訪った時は待っていたと言わんばかりに熱く求められ、激しく抱かれた。
 日本号の部屋にいる間だけは、彼は私を伴侶のように扱った。しかしひと度部屋の外に出ると、私に向けていた恋情など嘘であるかのような振る舞いをし、頑なに主従関係を守ろうとした。その行動の裏に隠されていたのは、私の邪魔にはなるまいという日本号なりの優しさだったのだろう。
「に、日本号……
 山鳥毛の腕の中から覗き見た日本号は、視線が合うと呆れたように溜息を吐き、自分が手を引くのは至極当然であるという風にこちらへ手を差し伸べてきた。しばらくその手を見つめて日本号の表情を伺っていると、彼は仏頂面を緩めて少し笑った。
「あんまり妬かせるなよ。ほら、さっさと行くぞ」
……何故貴様がここにいる?」
 私を抱き締めたままの山鳥毛が、日本号を遮るように問いかける。その声音は不審を隠そうともしていない。
「何故って? そりゃあ、この嬢ちゃんを向こう岸まで送り届けるのは俺しかいねぇだろ」
 沈黙が降りる。
 あまりの気まずさに下唇を無意識に噛み締めていた。誰も、何も言葉を発そうとしない。
 その時。遠くの方から声が聞こえた。
「おぉい、誰かいないのか?」
 この場にそぐわぬ、やや間延びした軽やかな声は、度々こちらへ語りかけて様子を探りながら段々と近付いてくる。
 ややあって、もやの中から大般若がひょっこりと現れた。
「やあ主。なかなか修羅場ってるじゃないか」
 現れた大般若は笑っていた。この状況でよく笑えたものだと思ってしまう。
「ところで、俺もあんたの手を引いて向こう岸に渡りたいと思っているんだが……
 大般若は面白そうに面々を見回す。
「ははぁ。こりゃ、あんたの好みが何となく分かる面子だな」
 俺も含めて。大般若はそう付け加えた。私はもう何も言えなかった。
 過去、私は一度だけ大般若に頼み事をした事がある。
 運が良い事に、私の本丸の大般若は割と早期に顕現した。
 彼は物分かりの良い気質をしており、主である私にも軽口を叩く飄々とした性格だった。彼をそんな性格だと知っての頼み事だったのだが、大般若がここへ現れたことで、その認識は誤りだったのではと疑念が湧いた。
 本丸にいた頃、私は一度、深刻な霊力機能不全に陥りかけたことがある。
 審神者業をしていれば大なり小なり経験するのだが、その時は何をしても霊力が回復せず、このまま低下の一途を辿れば本丸解体というところまで悪化した。誰にも相談する事ができず、私は一人で悩んでいた。
 恋仲の刀がいれば、交わる事で足りない霊力を補うことができる。だが、その頃はまだ本丸を起こしてすぐであり、成人の身を得た刀は初期刀以外にいなかった。本丸を運営していく今後を考えると、刀らの精神の要になる初期刀にこの役目を頼むのは躊躇ってしまった。そんな中、鍛刀で現れたのが大般若だった。
 低下した霊力は、一定値まで上昇させることができれば後は自然と回復していくことが多い。「大変申し訳ないが、それまで相手をしてくれないか」と大般若に事情を話すと、彼はあっさりと頷いた。
 それから大般若と数回関係を持ち、低下し続けていた霊力値は無事に回復した。
 誰にも他言しない、回復したら無かったことにする。嫌な役を頼んで申し訳ない。私は度々そう口にして、大般若も了承していた。そしてそのあとも彼とは特に何事もなく、私は呪詛を受けて死んだ。だから、後腐れなくこの問題は解決したのだと思っていた。なのに。
……俺はあんたのこと、ずっと好きだったよ」
 大般若はポツリと呟く。普段の彼からは想像できない、どこか頼りなさげで寂しそうな響きの声だった。
「俺はあの時のこと、仕方ないとか役目だからとか思っていなかったし、ましてや、嫌だなんて思わなかった。……いつかまた、あんたが俺を見てくれるんじゃないかって、ずっと思ってたよ」
 そう言って、大般若は屈託なく笑ってみせた。その笑みが儚い微笑に変化する様を見て、私は大般若へしたことの業の深さを思い知ってしまった。
「大般若……
 思わず切なくなってしまったが、三途の川に現れた三振りを前に、途方に暮れる状況は変わらない。
「なんだか訳の分からない事になっちまってるけどよ……。で、どうするんだ?」
「どうするもなにも無いだろう。小鳥を連れて行くのは私だ」
「おいおい旦那ァ、そりゃあちょっとナシだぜ。じゃあ、多数決で決めるのはどうだ。ちょうど三振りだから文句は無しだ」
 大般若の提案に日本号は頷き、山鳥毛も少し考えて渋々肯定の返事をした。……というよりも、私に決定権が無いのが気になる。多数決から自然と省かれている。
 私抜きで纏まっていく話に呆然としていると、大般若は指を二本立てて見せた。
「俺が二つ案を出そうか。一、斬り合って決める。二、……
「それで決まりだ」
「望むところだ」
 話は早々に決まってしまった。何とも物騒な決め方である。
……小鳥。すまない、すぐに戻ってくるからここで待っていろ」
 山鳥毛は腕の中から私を解放すると、他の二振りに向き直った。
「ほお。すぐに戻って来れるのかよ。大層な自信だねぇ」
「いやいや、すぐに折れて主の足元に転がるって話だろ?」
「戯言を聞いている時間が惜しい。早く始めるぞ」
 三振りはそれぞれ抜き身の本体を手にした。
 茫洋としたもやに包まれた河原に殺気が満ちていく。
 山鳥毛が日本号に斬りかかったのを合図にして、大般若も日本号へ白刃を向けた。恐らく、リーチの長い日本号から先に潰す作戦を二振りは暗黙のうちに交わしたのだろう。
 ——勝機は我に有り。
 私はすかさず川に足を踏み入れて向こう岸を目指して走った。幸い、川の深さは膝下辺りまでしかなく流れも緩やかだ。剣撃の音が徐々に遠ざかる。
 向こう岸はもやに包まれてよく見えないか、早く渡らねばならない。
 山鳥毛は言わずもがなだが、あの三振りのうちのどれに捕まっても、私はきっと隠されてしまう。そうなれば、刀も私も輪廻の輪から外れた異物になってしまう。そんなのは御免だ。地獄で己の業を悔い改めたほうがよほど健全だ。
 私が消えたことに気が付いた日本号の怒声が遠くで聞こえた。振り向いても、三振りの姿は既にもやで見えない。このまま逃げ切ってやると笑みを浮かべた私の顔は、運動不足の息切れも相成って悪人そのものだろう。彼らと来世で再開する可能性も過ったが、その時はその時だ。
 次に人間として生まれてくることがあれば、その時はもう少しちゃんとした貞操観念を持とう。そう反省しながら夢中で川を走っていると、踏み出した右足が突如現れた深みに落ちた。
 嘘でしょ。そう思った次の瞬間には、私は大きな深みに落ちていた。
 そういえば、犯した罪の重さによって川の深さが決まるとか何とかという話を昔話で聞いた。今思い出しても遅いのだが、やっぱり私は善人ではなかったようだ。己の所業を省みて納得した。
 深みを回る水流は激しくて、私は流れに巻かれて何度も浮上と下降を繰り返した。水面が見える度にもがいて脱出を試みるけれど、水流に呑まれて底に引きずり込まれる。やがて上昇する流れに乗って再び水面近くまで体は浮くけれど、またすぐに下降する水流に押し流された。それの繰り返しである。
 呼吸が続かなくて苦しい。かなり水を飲んでしまった。もうダメかもしれない。……私は死んだはずなのに、ここでまた死んだらどうなるのだろう。ふとよぎり、視界が真っ暗になって苦しさが消えた。
 
 ***
 
 目を覚ますと、私で護符交換の練習をさせていた術師の顔が目に入った。
 視線が合い、驚いた様子の術師の顔を睨みながら舌打ちをする。が、口の中がカラカラに乾いていて、思ったように舌打ちできなかった。術師は慌てた様子でどこかに連絡をし、病室を出て行った。
 どうやら三途の川から戻って来たようだ。
 川での出来事は鮮明に覚えている。
 争っていたあの三振りはどうなったのだろうと考え、あれは夢だったのかもしれないとぼんやり思った。
 痒みを覚えて右腕を見た。点滴に繋がれて痣だらけになった腕。翼状針を固定するテープが貼られた箇所が痒くて、左手でその箇所を掻こうとした。——そして驚いた。上手く力の入らない左腕には、くっきりとした大きな手形が残っていた。一体これは何なのだろう。
「主」
 自分の腕に残る手形に気を取られて、私は傍に座っていた人物に気がつかなかった。簡素なパイプ椅子に座っていたのは、小豆長光だった。
「めざめはどうかな?」
 私は小豆をまじまじと見つめた。何か彼へ声を掛けようとしたのだが、長らく発声していなかったので喉の震わせ方を忘れてしまったようだ。
「ずいぶんとながいあいだねむっていたね。でも、もうだいじょうぶだ」
 小豆は私の額を撫でながら前髪を整えて微笑む。
 昏睡している間も、動けないだけで意識はあった。彼は度々ここへ通って私のそばにいてくれた。変わり果てた私を目の当たりにするのが辛いと言う刀が多くいる一方で、小豆は呪詛を受ける前と変わらない様子で話しかけてくれた。そのことが嬉しかった。
 小豆は私の左手を取って、大きな掌の中に大事そうに包み込む。
「おかえり。主」
 笑みを浮かべる小豆へ感謝を伝えようとしたが、彼は私の声を遮って続けた。
「けさ……、とてもふかかいなことがおきたのだ。からだがまだつらいだろうけど、きみにもたずねたいから、すこしだけきいてくれないか?」
 柔らしい物言いながらも、小豆の声は有無を言わせないような硬質さを含んでいた。固まった首を少しだけ動かして頷いてみせる。
……きしょうじかんをすぎても、へやからでてこないものがさんふりいた。山鳥毛、日本号、大般若長光。日本号と大般若はまだしも、山鳥毛がじかんになってもおきてこないのはめずらしくてね。おなじとうはのものが山鳥毛の部屋をみにいくと、かれはなぜかじゅうしょうをおってふとんのなかでうめいていた。……ふとんはひどくちみどろで、だれにやられたのか、なにがあったのかをたずねても、かたくなにくちをとざして、日本号と大般若のところにもようすをみにいけというばかりだった。べつのものがようすをみにいくと、日本号と大般若も、山鳥毛とおなじじょうたいだったよ。いま、せいふからひとをよんでていれをしてもらっている。……さんふりとも、なにがあったのか、みなにおしえてくれなかった。ただ、大般若がひとことだけわたしにこっそりこういったのだ」
 小豆は私を見つめながらなおも続ける。
「『俺たち。兄弟だけど、兄弟だったんだな』……どういういみなのか、主はわかるかい?」
 小豆はするりと私の左腕に掌を這わせた。腕に残っている手形と、小豆の掌はぴたりと重なった。
 それを見て、私はあの夢が夢でないことを思い知った。私をあの川の深みから引き揚げたのは小豆だった。彼は私を深みから引き揚げて、彼岸ではなく此岸に戻したのだ。
 血の気が引いていく指先に、小豆はそっと唇を寄せる。
「わからないのなら、わからないままでいい。はやくたいいんできるように、しっかりたべてちからをつけるのだぞ。みんなきみをまっている。ほんまるにもどったらおいわいをしよう。……あのさんふりもきっと、きみのきかんをまちのぞんでいる」
 たのしみだな。と、小豆は瞳に影を宿して微笑んだ。
 初めて小豆と寝た時も、同じような顔をしていたことを思い出す。
 ——退院したら、おそらく私はとんでもない目に遭わされる。いや、そもそも自業自得だ。あとは誰に嘘をついていたんだっけ、と小豆の顔を見ながらどこか他人事のように考えた。








【補足】

呪詛を掛けた奴→審神者とワンナイトして本気になってしまった万屋街の人間の男。何らかのきっかけで審神者が本丸の刀と懇ろだと知り、嫉妬に狂って呪いをかけた。本丸の誰かに消されている。

審神者その後→刀らにガイドラインを作られてシェアされた。

山鳥毛その後→本当は同担拒否だけど渋々受け入れている。審神者に謝られても絶対に許さんと思っていたけど、今は審神者を責めて泣かせるのがちょっと楽しくなってきた。

日本号その後→なんかよく分からんがまあ良いかと思っている。この中では審神者に一番優しいのでよく泣きつかれる。でも自業自得なのであんまり慰めはしない。

大般若その後→審神者に対して実は割と怒っている。本音を伝えたので遠慮はしなくなった。兄弟と兄弟になってしまったことは面白いなあと思っている。

小豆→審神者のことはずっと狙っていた。何となく人恋しそうにしていた気配を察知してやや強引に夜戦に引き込んだ。河原で三振りが戦っているところを眺めつつ、漁夫の利を得ようとしていた。審神者が自分の手元から逃げ出さない限り、彼女が誰のものとか割とどうでも良い。大般若が兄弟ネタを振ってくるのはすごくイヤ。

その他にも審神者と関係した刀が割といる。