ぎんちき
2025-03-31 19:59:52
2195文字
Public ブン木手
 

おまじない

こういうのあったな〜と思い出したので。
台詞はありませんが、木手妹が出ます。

――ここはこういう考え方をすればいいんですよ」
「へー。そっか。なるほどな。……で、答えは?」
「自分で考えなさいよ……
「しょうがねぇな〜」
 何故こっちがわがままを言っているかのような表情をされなくてはならないのか。丸井くんが「数学の課題を手伝ってほしい」などと言うものだから、まぁ今日は特にもう予定もないしいいだろうと親切心で快諾したらこの調子だ。明日の自主練に付き合ってもらう……だけではなく、もっとこちらに有利な条件をつけるべきだったか?
「わかった! こうだな」
「どれ……? ああ、正解です。やればできるじゃないですか。私の教え方が良いおかげだと思いますけどね」
「ま、それもあるかもだけど、なんてったって俺だからな」
「ならもう少し……
 ふと、丸井くんの繰り出しているシャープペンの芯が長めであることに気がつく。4、5回は出しているのではないだろうか。
「何?」
「いえ、その……芯、長いですね、折れないんですか?」
 尋ねてみると、丸井くんの視線はペン先と私の顔とを往復した。そして、笑う。
「こんなもんじゃね?」
「そんなことないですよ」
 今持っているシャープペンの芯を1度全て収納してから、2回ノックする。
「これくらいで十分ですから」
 丸井くんがじっと私のペン先を見つめた。その後再び彼のペン先に視線は戻り、また、笑った。
「言われてみりゃそーかも!」
……
「確かに長ぇと芯折れるもんなー。いつからこんなにやってたんだろ、俺? 気づいてくれてサンキューな、キテレツ!」
「はいはい」
 長い芯。それによって何かを思い出しそうになっている感覚がする。彼との記憶ではないはずだ。何年か前に……

「ねぇ丸井くん。こう……今のアナタよりも芯をたくさん繰り出してやる何か、ありませんでしたっけ」
「さぁ? そんなのあったっけ?」
 丸井くんは首を傾げる。いやしかし何かがあったはずだ。誰かがやっているのを見て……
「んなことよりさ、腹減んね? 今からたじまにでも行って……そうだ! プリンでも作ろうぜ。な、いいだろい?」
「アナタ……勉強したくないだけでしょう」
「だ〜、バレたか!」

 そんなこんなであれから一時間ほどして、彼の課題も終わり部屋に戻ってきた。しかし、まだ先ほどのモヤモヤが晴れていない。
 別に何の記憶だって構わないが、このままではスッキリしないので少し、考えてみることにした。ベッドに腰掛け膝の上にノートを広げる。そして、適当に芯を長く出す。
「確か……
 何か、を描いていたはずだ。……ああ、そうだ。そうでした。妹がやっていたんでしたっけ。描かれていたのは確か、ハートマークだ。何故あんなにも長いのかも聞いたはずだ……――本。図書室で借りてきた本を見た、と。私も見せてもらった。
 絡まった毛糸を解いていくように、記憶が整理されていく。そう。名前の音の数分、芯を出すのだった。まず自分の名前……私なら、7回。それに、好きな人の名前……えぇと……6回か。計13回分、芯を出して、これでハートを描いてその中を塗りつぶすと良いとか、そんな風な所謂おまじないというやつだ。
 ペン先を見る。これで塗りつぶしていくというのは中々難しそうだ。……ひとつ、試しに少しやってみましょうかね。本気にしているとかではなく、あくまで思い出しついでに……。6回? 6文字? 何が? だ、誰が? 誰を!?
「あっ」
 芯が折れてしまった。それは別にいい。問題はそこではないからだ。私には今、『好きな人』なんてものいない。なのに、どうして、間髪を入れず6文字を数えたのか? 無意識下にあって……――いや、だから、どうして彼が浮かぶんですか、ありえないですよ。これはそういうのではなく……そう。そもそも、このおまじないの存在を彼との勉強中に思い出したから。それで、私の意思とは関係なしに、脳が勝手に紐付けてしまって……そのはずだ。そうでないと、困る。
 だから別に私が彼のことを好きだとかそんなことはなくて全く好意がないと言えば嘘になってしまうがそれは信頼してみてもいいだろう人間という意味でしかなくて決してまさかそんな浮わついたことは考えているはずなくて第一今の私にとって一番大切なのは沖縄の力を
「永四郎」
「わーーーーーッ!! あがっ!」
「あぎじぇ!?」
 思わず、立ち上がろうとしてしまい、二段ベッドの上段に頭を激突させてしまった。痛い……が、今はそれが私を冷静にさせてくれた。

「田仁志くん! 部屋に入る前にノックしなさいよ!」
「やったやんに!」
 ……彼の表情を見るに、嘘はついていないらしい。しかし今は、それどころではない。とにかく一刻も早く、この場から去りたい。
「何ですか、平古場くんが何かろくでもないことをしたんですか。そうなんでしょうね。呼びに来てくれてありがとうございます、では行きましょう!」
「い、いや……俺が永四郎に……
「早く行きますよ!!」

 この時の私は、どうしてきちんとノートをしまわずに出ていってしまったのか。
「永四郎〜、ハートなんか描いちゃって。ちゃーしたぁ?」
 用を済ませた後、部屋に戻ったところでニヤつく平古場くんと甲斐くんの表情を見るまで、そのことに気がつけなかった。後悔先に立たず……