クル国の王子ドゥリーヨダナは特別扱いをとても好む。そして青年になったばかりのアシュヴァッターマンは彼の心を得ようと必死だった。
冬の寒さが和らぎ夜風は暖かさを帯びている。ドゥリーヨダナの宮殿の回廊からは天上に昇ろうとしている月が見えていた。
豪華な装飾を施された煌びやかな通路を召使いに先導されてアシュヴァッターマンは進む。
彼が抱えている美しく編まれた籠にはドゥリーヨダナへの贈り物がある。滑らかな布を被せられたそれを求めて青年は昼食を終えてから日が沈むまで森に潜んでいたのだ。
たどり着いた部屋の前に立つ顔見知りの衛士がアシュヴァッターマンの顔を見て武器を下げる。
小心な部屋の主が衛士にそうするように言い含めているのは、アシュヴァッターマンを含めて数人だけだ。その特別扱いをまた確認して緊張に強張っていたアシュヴァッターマンの顔が少し綻ぶ。
通された部屋は主しかいない寝室だった。
本来ならこんな時間に突然訪問すれば宮殿の門をくぐる事さえ許されない。だというのに夜着のまま来訪者を出迎えたドゥリーヨダナは上機嫌に笑った。
「おまえがこんな時間に訪ねてくるとは。よっぽどわし様を喜ばす物を持ってきたのだろう?」
アシュヴァッターマンは持っていた籠に被せていた布を外した。
ふわりと柔らかな芳香がふたりきりの寝室に広がる。
「咲初めの夜香花だ。…寝台にでも飾って欲しい」
美しい籠に溢れんばかりに摘まれた薄い黄緑色の花をドゥリーヨダナは興味深そうに覗き込んだ。
「おまえがそう言うなら、今年その花を見たのはわし様が初めてだということだな!」
アシュヴァッターマンは頷いた。
大国の王子であるドゥリーヨダナは金銀財宝や珍しい品々など贈られ慣れている。昔ほど貧しくはないものの王族の豊かさには到底敵わないアシュヴァッターマンが用意出来るのは真心だけだった。
例えばどこまでも広がる森の中を最初に綻ぶ蕾を探し、忍耐強くその開花を待ち続けるような。
それが分かっているドゥリーヨダナは手ずからその籠を受け取った。
「それで、おまえは何が欲しいんだ?」
予想していた言葉にアシュヴァッターマンは息を深く吸った。
「…旦那は初めてが好きだろう?」
「もちろんだとも!」
楽しげに頷くドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンは意を決して口を開いた。
「──俺もいつかは妻を迎えて子を成さなくてはならねぇ。その前に」
言葉を切ったアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは無言で促した。
「あなたを、抱かせて欲しい」
告白に性悪な男は顎に手を当てた。
「花程度の対価としては到底釣り合わんが。──おまえの初めてとならまあ許そう」
その夜ふたりの寝台に飾られた花は別名、夜の女王とも呼ばれている。
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