頻子
2025-03-31 18:17:38
2315文字
Public KODR二次
 

死体埋め(?)

ベケニュ伴侶ラブコメ
ときどき魔界倫理
スケルナイトとかウルハムがいる

「ニュート、死体を埋めに行くぞー!」
 念力で勢いよく毛布を取り上げられ、ニュートは大いに不服だった。カーテンが軽快に開き、かすかな日差しが差し込んできた。
 まぶしい日光をよけてシーツを転がると、ぶんぶんと肩を揺さぶられる。
 自分は魔界で一番えらいんだぞ、と、ベーケス2世をにらみつけたが、ベーケス2世はニュートの権威をケタケタ笑い飛ばし、腕を引き、起こして、ぽんっと背中を叩いた。
「起きなさい。ニュート。今日はいっしょに死体を埋めるって約束しただろ!」
 してない。
 魔界王の仕事は忙しく、最近は、週休二日制になってしまった。週に一日しか休めない。完全週休二日制ではない。
 ニュートがぶつぶつ言っていると、ぬるいスープを見るような目で見られた。
 たしかにベーケス2世はもっともっと忙しいけれども。
 何が悲しくて、貴重なおやすみに死体を埋めなくてはならないのか。
 そんな約束はしていないと主張すると、ベーケス2世は、はあー、と大げさにため息をついた。
「忘れてしまったんだなあ、ニュート……
 ベーケス2世は、都合の悪いことを、ニュートの記憶力のせいにしてくる。実のところ、あんまり幼少期のことを思い出していないのを、根に持っているのだ。
「でも、俺がニュートのためにどれほど心を砕いてるか、ニュートだって、すこしは知っておいたほうがいいだろ? それに、ほら、人間界では、一緒に死体を埋めると、切っても切れない仲になるらしいじゃないか……
 そんなの、聞いたことない……
 ベーケス2世は何か勘違いしている気がする。あるいはベーケス2世のいた人間界か、ベーケス1世が勘違いをしている。
 半ば無理矢理身支度させられ、お庭に連れていかれる。瑞々しく咲き誇る薔薇が揺れている。あれでいいよ、とニュートは指をさすのだが、やっぱりそうじゃないらしく、ベーケス2世はせかして庭の中心に進み、傾いたねこぐるまを指した。
「ほら、ほら。今朝、庭に迷い込んでいたから、俺が仕留めておいたんだ。あそこ……とーっても強そうな麒麟だろ? ……魔界王の伴侶になってから、俺の念力が弱くなったとかぬかしてるアホがいるが、俺は、今だって、とってもとっても優秀なんだ」
 はいっ、と、ナイフを握らされて、ニュートはとてもブルーなお気持ちになった。
「まだ息はあるから、とどめは一緒にさそうな、ニュート! 安心していいんだぞ、俺が付いてるからな。お前の吸血鬼の牙が、ぜんぜん短くたって、俺はニュートを愛しているし……
 なんかほんのりdisられた気がするけど、それより、麒麟ってすっごく神聖な何かじゃないんだっけ?
 ニュートはとてもむずむずした。
 なんかやばい感じじゃない?

ところが――
「あっ」
 もぞもぞと麒麟の死体が動いた。
 そんなとき、とっさに後ろにかばわれて、それは、ちょっとは嬉しいけども……
 ウルハムだった。
 ウルハムの口から、麒麟の頭が落っこちる。
「あ、ニュート様と2世。見てみて。ほら、これ。捕まえたんですよ。よくわかんないけど、なんか死にかけてて、えへへ。僕、とどめを刺したんですー」
 ベーケス2世が、雪原の氷よりも冷たい目でウルハムを見ている気配がある。
「朝ごはん、まだですか? ニュート様のところにもってって、褒めてもらおうと思って。あれ、どうしたんですか? 二人とも……
「俺が捕まえたのにーーっ」
「ええっ、なんで、なんで? 分けてあげようと、思ったのに。ああーーっ」
 割となじみの光景である。
 ウルハムが空高く持ち上げられ、空でじたばたと暴れていた。
 いくらウルハムでも、あんな高さから落っこちたら、打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれない。
 下ろしてあげてほしいとニュートはお願いするが、ベーケス2世はたいそうご立腹で、ぶんぶんとウルハムを振り回す。
「おはようございます。にぎやかですね」
「あ」
「あ?」
 スケルナイトが立っていた。マントがニュートの視界を遮った。裾は重く、べったりと濡れ、ぽたぽたと何かが滴り落ちていた。何かが。
 ニュートはついそれを目で追ってしまっていた。
 血だ。
「ああ。いえ。私のケガではありません。今日は、見張りのついでに、ニュート様の命を狙う不届き者を五体ほど、始末したところでして。……ご覧にならないほうがよろしいかと。わざわざ死体を見せるなんて、魔物のやることですから」
 空気がはっきりと凍り付いた。
 背後でぴゅーっとウルハムが落っこちて、どさっと落ちた。しばらくののち、起き上がったのでほっとした。
「死ぬかと思ったぁ……
 ニュートはどれかというとお城の警備が心配になった。
 城壁に穴でもあいてるんじゃない?
「まあ、だいたいはスケルナイトが全部始末してますからね……
 じゃっかんのときめきを覚えかけたが、今はそんな場合ではないのだった。
「殺す……っ」
 ベーケス2世の心が荒廃している。
 ニュートは慌ててお花を持ってきて、あげたり、なだめたりしてみたのだが、険しい顔は治らなかった。
 お仕事してるだけだから。お仕事してるだけだから、ね?

***

「ニュート! 今月で24人王座を狙うものを消したぞー!」
 ニュートはきゅっと眉をひそめた。
 あれから、ベーケス2世は一緒に死体を埋めようとせがむことはなくなったが、代わりに物量で攻めてくるようになった。別にそんなに頑張らなくてもいいよ、というのだが、ベーケス2世はお構いなしだった。ずっしりと重い薔薇の花束を膝に置いて、じっと出方を伺ってくる。