ストームボーダー内の廊下をセイバーに手を引かれて歩いていた伊織は、正面から歩いてくる自分たちのマスターである藤丸立香の珍しい格好に目を丸くした。
セイバーも同じだったようで、足を止めて立香を見る。
膝丈の黒いスカート、赤いリボンのついた襟付きシャツの上から茶色のベストを着ている少女は久しぶりにオレンジがかったセミショートの赤毛を一房シュシュで結っている。
「カルデアのマスター、今日はいつもの白いレイソウ? ではないのだな」
「ん? そうだよ。今日は学生服の礼装なんだ」
立香が照れくさそうに黒のスカートの端を掴んだ。
「ガクセイフク?」
聞き慣れない単語にセイバーが下顎に人差し指を添えて首を傾ける。
「学び舎のことだ」
「マナビヤ?」
横から伊織が補足するけれど、セイバーは首を傾けたままだ。ますます混乱しているようで眉をひそめている。
「似たような年齢の人たちと同じ部屋で学問を学ぶ場所のことだよ。学校によってはこういう風に制服が決められているところもあるんだ」
「カルデアのマスターのセイフクなのか?」
セイバーの問いに立香が困ったように眉を下げて首を左右に振る。
「違うよ。これはあくまでも礼装だから、私が着ていた制服とは違うかな」
「そうか。ガクセイとは楽しいものなのか?」
セイバーの口から出たのは純粋な問いだった。それを聞いた立香は太陽のような金色の瞳を大きく見開いて息を呑む。
少しの間を置いて小さく「うん」と笑った。立香の感情の変化に気付かない伊織ではない。口には出さないまでも、そっとセイバーの細い肩に両手を置いた。
「イオリ?」
自分の方を振り向いたセイバーに伊織は緩く首を左右に振り、これ以上は何も云うなと目で訴える。
「呼び止めてすまなかったマスター。用事があったのだろう?」
「ううん。大丈夫だよ」
「ちゃんマス~!」
明るく笑う立香の背後から清少納言の声が聞こえる。声のする方へ振り向いた立香が手を挙げて応えた。
「なぎこさん~こっち~」
駆け寄ってきた清少納言も黒のセーラー服のような姿だ。その後ろからついてくる鈴鹿御前も赤いスカートの制服を着ている。
伊織とセイバーは互いに顔を見合わせた。
「マスタ~、こんなところにいた。そろそろ部屋に行くっしょ」
立香の両肩に手を置いて顔を覗かせる鈴鹿御前がポカンとしている伊織とセイバーに気付いて金色の瞳をしばたたかせた。
「あれ? 宮本伊織とヤマトタケルじゃん。マスターになにか用事?」
「いや、俺たちは偶然廊下で出会っただけだ。用事があるようであれば俺たちはこれで」
「これからなにかあるのか?」
去ろうとする伊織の横からセイバーが問う。鈴鹿御前、清少納言と藤丸立香の三人が共に行動することに興味を惹かれたらしい。
問われたことが嬉しかったのか、清少納言が両手を組んで「ふっふっふ」と笑う。
「あたしちゃんたちはこれから制服女子会をするんだぜ!」
「セイフクジョシカイ?」
セイバーが首を傾けた。
「そう。あたしらちょうどJKっぽいじゃん? せっかくならお菓子を食べながらマスターの部屋で恋バナとかしちゃおうって」
「じぇいけえ?」
困惑気味の伊織に鈴鹿御前が笑い声を上げる。
「そんな眉間にしわを寄せることもないっしょ。JKは女子高校生の略。女子高生と言えばやっぱ学校帰りにカフェで恋バナっしょ」
「そういうものなのか」
下顎に手を添えている伊織に立香が苦笑する。
「そんなに難しく考えなくてもいいよ、伊織。ただ、友だちと何気ない会話をしながらクレープ食べたりしてただけ」
「カルデアのマスターはガッコウの帰りに友人とコイバナ? などしたことがあるのか?」
立香が目をしばたたかせる。少し考え込む仕草をして唇に人差し指を当てた。
「内緒」
「んじゃ、それも含めてちゃんマスに色々と聞こうぜ」
「いいじゃん、いいじゃん。それじゃあ、あたしらはこれで」
清少納言と鈴鹿御前に立香は引っ張られて行く。その後ろ姿を見送った伊織は自分を見つめている視線に気付いて目線を下ろした。
「どうした、セイバー」
「うむ。カルデアのマスターは普通の媛のように笑って過ごしていたガクセイだったのだなと思っていた」
「そうだな」
「今の状況では友に会うこともできぬのだな」
「だから清少納言殿と鈴鹿御前殿が代わりに話し相手となっているやもしれん」
「……いや、あの二人は単にコイバナがしたいだけのように思うぞ?」
清少納言と鈴鹿御前のことを思い出したセイバーが眉を寄せる。否定できない伊織は無言になる。
「なあ、イオリ」
袖をセイバーが引いた。視線を落とせば、セイバーがこちらを見上げている。
「カルデアのマスターに何かできないだろうか?」
「なにか、とは?」
「むぅ、それが思いつかぬからきみにも考えてほしいのだ」
伊織はジッとセイバーを見つめた。カルデアに呼ばれてしばらく経つが、ここで過ごすうちにセイバーもずいぶんとマスターに慣れてきたようだ。
喜ばしいことのはずなのに、少しだけ胸がざわつく。その感情に目をそらして伊織は顎に手を添えた。
「マスターに菓子を贈るのはどうだろうか」
「団子だな!?」
「いや、マスターには〝くれえぷ〟などどうだろうか」
「くれえぷ? きみは知っているのか?」
「知らん」
即答する伊織にセイバーから非難めいた視線を向けられる。
「知らないのに贈ろうとしているのか? やれやれだぞ、イオリ」
ため息混じりに云ったセイバーがわざとらしく肩をすくめている。
「さきほどのマスターの顔。学生時代というものを懐かしんでいるような表情をしていた。会話の中で出てきたくれえぷはマスターの中での思い出の一つなのだろう」
「ふむふむ? だからきみはそのくれえぷとやらを贈ろうというのだな?」
伊織が頷く。
「くれえぷとやらが何かは解らぬままだが、エミヤたちに聞けば良い。となれば、疾く食堂へ向かうぞ、イオリ!」
両人差し指をこめかみに当てて身体を傾けていたセイバーが伊織の袖を引っ張りながら食堂へ向けて歩き出す。
「待てセイバー。落ち着け! 袖を引くな」
自分よりも力の強いセイバーに引っ張られながら伊織が歩いていると、正面から見知った集団が来た。浅葱色の羽織を纏う集団は五人で談笑している。
「斎藤さん、今日の勝負は私の勝ちです。約束通り今度おごってもらいますからね!」
「はいはい。沖田ちゃんってば今日も絶好調で……」
人差し指と中指を立てて笑みを見せている沖田に頬を引きつらせていた斎藤が伊織とセイバーに気付いて会話を止めた。
同じく気付いた土方、沖田、山南、永倉も足を止める。
「あれ? 伊織さんにタケルさんじゃないですか。相変わらず二人セットで行動しているんですね」
駆け寄ってきた沖田が伊織とセイバーを見比べて人懐っこい笑みを見せた。
「そういうきみたちもシンセングミ? 同士でいつも行動しているではないか」
「セイバー」
セイバーの返しに目をしばたたかせた沖田が斎藤たちと顔を見合わせた。
「やだなぁ~。今日はたまたまみんなと模擬戦してただけですよ。そんな四六時中一緒にいないですって」
「模擬戦か」
新選組の面子とは何度か剣を交えている伊織が反応する。すかさずセイバーが伊織の前に立ち手を広げた。
「きみ、模擬戦と聞いて少し羨ましいと思っただろう?」
「思っていない」
見上げてくるセイバーに伊織は首を左右に振る。確かに少し羨ましいとは思ったが、剣を交えたいとは思っていない。
けれど、信用していないセイバーは疑いの眼差しを向けてくる。
「お二人はこれから食堂へ向かうところですか?」
山南が話題をそらした。穏やかな雰囲気の山南の問いにセイバーが「おぉ! そうだった。イオリ、食堂へ向かうぞ」と思い出したように手を叩いて伊織の袖を引く。
「俺たちはマスターへくれえぷを作りに食堂へ向かうところだ」
沖田たちがきょとんとして伊織たちを見た。発音し慣れていないが、マスターへクレープを作りに行くと云う二人に五人は顔を見合わせる。
先に小さく笑ったのは沖田。袖に手を入れて何かを取り出しながら近づいてきた。
「マスターにクレープを作るんですね。それなら沖田さんからはこれを」
手にしていた包みを手渡してくる。
「団子です。みんなで食べようと思っていたんですけど、マスターにクレープを作るならこれも入れてください」
「沖田殿、これはかたじけない」
包みを受け取った伊織の横でセイバーが瞳を輝かせながら団子を見ている。食べないようにセイバーから遠ざけていると、今度は土方が前に出る。
手を突き出した土方に伊織はつられて手を出した。
「ほらよ。持っていけ」
伊織の手には真空パックされたたくあんが乗せられている。
「たくあん」
「タクアンではないか」
手元を覗きこんだセイバーがじゅるり、とよだれを垂らす。おにぎりと一緒に食べているせいか、たくあんを見て食欲をそそられたらしい。
「土方殿も。かたじけない」
たくあんを受け取った伊織に斎藤が頬を引きつらせている。
「いやいや、副長。クレープを作るって言ってるのにたくあんって」
「刻めばいけるんじゃないですか? 永倉さんはどう思います?」
「俺に聞くな沖田。それと適当に答えるんじゃねぇ」
意見を求めるように山南へ斎藤、沖田、永倉が視線を向けてくる。困ったように山南が眉を下げて袖に手を入れた。
「私からはこちらを」
山南も伊織へと手を差し出した。両手が塞がれている伊織に代わりセイバーが両手を出すと、小さな手の上に小包が乗せられた。
疑問符を浮かべたセイバーが黄緑色の紐を引くと、包みが開かれ中から色とりどりの金平糖が転がった。
「コンペイトウ!」
嬉しそうに報告してくるセイバーに伊織は苦笑する。
「はい。金平糖です。これもクレープの材料として使ってください」
「うむ!」
穏やかに笑う山南にセイバーが大きく頷いた。
「ところで、斎藤さんと永倉さんは何も持ってないんですか?」
「持ってるわけねーだろ。っつーか、沖田たちが食いもんを持ってることの方が謎だ」
「そーそー。珍しく気が合うねぇ。普通はおやつなんぞ持ってないのよ」
へらへらと笑う斎藤に永倉が心底嫌そうな顔をして懐を探し出す。それを見なかったことにして沖田が伊織たちに笑みを向けた。
「二人ともこれを使ってマスターに美味しいクレープ作ってくださいね」
「それでは、私たちはこれで」
軽く会釈した山南に続いて沖田が手を振って去って行く。賑やかに会話をしながら去って行く浅葱色の羽織を見送った伊織とセイバーは再び食堂へ足を向けた。
食堂にはエミヤや紅閻魔たちがいた。昼時は過ぎているからか、食堂は比較的空いている。
入ってきた伊織とセイバーに気付いたエミヤが声をかけてきた。
「おや、二人ともどうしたのかね?」
「お昼ご飯でちか? さっき食べた気がしまちたが、紅の気のせいでちたか」
紅閻魔が申し訳なさそうにする。
「いや、俺たちは食事をしに来たわけではない」
慌てて伊織が御櫃を開けようとする紅閻魔を引き止める。では、食事以外に何の用事があるのだろうかとエミヤと紅閻魔が顔を見合わせる。
「実は私たちはカルデアのマスターにくれえぷ? とやらを贈ろうと思っているのだ」
「しかし肝心なくれえぷを俺たちは知らん。故に、エミヤ殿たちに教えを請いに来た」
礼儀正しく頭を下げる伊織に倣ってセイバーも遅れて頭を下げた。
「なるほど、ご主人にクレープをでちか」
「それなら私たちも協力しよう。まずクレープというのは」
エミヤからクレープについて伊織とセイバーは説明を受けた。途中で、クレープの名前の由来を聞いていたセイバーが眉を寄せて苦い顔をし始めた。
「セイバー、どうした?」
「いや、クレープの由来がな」
「焼いた時にできる縮緬状の模様からくれえぷと名付けられたことに何か問題あるのか?」
特に引っかかる要素はないように思えるが、セイバーは腕を組みながら低くうなり声をあげている。
「チリメン、チリメンドンヤ……。どうしてもあのワカダンナの顔が過るのだ」
江戸の特異点で店番をしていたギルガメッシュに似た深紅の瞳の男性のことを思い出す。
特徴的な笑い声を上げる若旦那が江戸の聖杯戦争時に営んでいたのが縮緬問屋だったらしい。若旦那と面識があるセイバーは当時のことを思い出しているのか眉を寄せたままだ。
「あー、コホン。思い出に浸っているところ悪いが、クレープについての説明は以上だ。なにか質問はあるかね?」
「ないな。セイバーはあるか?」
「私もない」
首を左右に振った伊織とセイバーにエミヤは頷くと、キッチンの奥へと消え機械を手に戻ってきた。見慣れない機械に二人は疑問符を浮かべる。
「エミヤ殿、それは?」
「ふっ。これはクレープメーカーといってね、クレープの生地を家庭で簡単に作れる機械だ」
「ほうほう!」
興味を惹かれたのか、瞳を輝かせたセイバーが調理台に置かれたクレープメーカーを見る。
「さて、クレープ生地はここにある材料で事足りるが、具材はどうするかね?」
話を聞いていた紅閻魔がすでに薄力粉、卵、砂糖、牛乳を用意していた。
さすが女将だと感心していた伊織は、ここに来る前に新選組の面々からもらった食材を調理台に置いた。エミヤが目をしばたたかせる。
「土方殿、沖田殿、山南殿から頂いたものだ」
「団子に、金平糖。そして、たくあんか。……たくあんか」
「なぜ今二回繰り返したのだ?」
調理台に置かれた真空パックされたたくあんを凝視しているエミヤが珍しく眉を寄せている。
「いや、クレープの具材としてどう使おうかと考えていた。スタンダードなクレープの具材は生クリームとフルーツ類だ。だが、おかずクレープというのもある」
腕を組んでレシピを考えているのだろう。その間に紅閻魔が伊織たちにクレープ生地を作るように促した。
「このボウルに薄力粉と砂糖を入れて泡立て器で混ぜるでちよ」
「相解った」
「私が混ぜよう!」
頷いた伊織の隣でセイバーが手を挙げた。にこりと笑った紅閻魔がボウルをセイバーに渡すとセイバーが混ぜ始める。
「次は牛乳を半分入れるでちよ。これは伊織さまにお願いするでち」
「さあ、来いイオリ!」
「牛乳を入れるだけだ。そんなにぼうるを近づけるな」
ずいずいとボウルを伊織に押しつけるセイバーを伊織がたしなめるけれど、相手は聞く耳を持たない。
「遊んでいると怒るでちよ。牛乳を入れたらまた混ぜるでち」
半目の紅閻魔に二人は背筋を伸ばした。力加減に苦労しながらも真面目に混ぜているセイバーに紅閻魔が満足そうに頷く。
「いいでちね。卵を割り入れたら混ぜて最後に残りの牛乳を入れて生地は完成でち」
「うむ! 残りも頼むぞ、イオリ」
「解った」
伊織とセイバーが紅閻魔の指示の下クレープ生地を完成させた。その間たくあんを見つめていたエミヤがおもむろに包丁を取り出した。
刻んだたくあんを常温に戻していたクリームチーズと混ぜて味をみる。
「うん。これも有りだな」
一人納得しているエミヤに伊織とセイバーは顔を見合わせる。気付いたエミヤが苦笑しながら近くにあったスプーンでたくあん入りクリームチーズを掬ってセイバーの前に差し出した。疑問符を浮かべるセイバーにエミヤが頷く。
「味見だ。食べてみるといい」
「食べてみてくれ、セイバー」
こちらを見上げるセイバーに伊織が食べるように促せば、エミヤからスプーンを受け取ったセイバーが口に含んだ。
「んん! なかなか合うぞ!」
「そうだろう」
セイバーの素直な反応にエミヤが得気な顔を見せた。
「他の材料はクレープに乗せるなり、生クリームと合わせればいいだろう。さ、あとは生地を焼くだけだ」
ホットプレートのような形状の機械の電源を入れたエミヤは鉄板に水を落として温度を確かめると、セイバーが混ぜたクレープ生地を落とした。
木製のトンボで生地を薄く伸ばす様子を眺めていたセイバーが琥珀色の瞳を輝かせている。
「セイバー、落ち着け。顔が近い」
火傷をしないように伊織はセイバーの両肩を掴んで引き離す。
「ぶぅ」
「ぶぅ、じゃない。エミヤ殿の邪魔になるだろう」
顔をこちらに向けたセイバーが不満そうにほおを膨らませる。
「二人とも、焼き上がるからしっかり見ておくことだ」
「ほら、セイバー」
両肩を掴んだままの伊織がセイバーにクレープへ集中するように言う。エミヤはステンレス製のスパチュラを手にすると鉄板とクレープ生地の間に差し込んだ。
生地を鉄板から離して一度ひっくり返して鉄板から取り出す。
「おぉ! これがくれえぷ!」
「いや、まだだ! ここに具材を盛り付けて完成だ!」
セイバーの純粋な反応にテンションが上がっているのか、エミヤは紅閻魔が作っていた生クリームを絞り、薄く切ったイチゴとバナナを乗せて巻いた。
「さあ、食べるといい。これがクレープだ」
筒状に巻かれたクレープを受け取ったセイバーが口に含んだ。咀嚼しているセイバーの表情が次第に明るくなり、口の端に生クリームを付けたまま伊織の袖を引いた。
「イオリ、イオリ! これは美味いぞ!」
「そうか」
嬉しそうに報告してくるセイバーを伊織は穏やかな眼差しで見下ろす。
「うむ! これはカルデアのマスターも喜ぶに違いない!」
にこにこと笑顔を見せるセイバーに伊織は「そうだな」と小さく笑った。
「では、私たちも微力ながら手伝うとしよう」
「ご主人が喜ぶ顔はあちきも見たいでちからね」
「二人ともかたじけない」
エミヤと紅閻魔が手伝ってくれるのであればありがたい。一礼した伊織に二人は顔を見合わせて微笑んだ。
食堂から出てきたセイバーの手には長方形の箱。隣を歩く伊織は落とさないか不安そうに見ている。
「ふふ、たくさん作ってしまったな」
「そうだな。マスターも喜ぶだろう」
会話をしながら向かうのはマスターである藤丸立香の自室。まだ清少納言や鈴鹿御前と話しているのだろうか。
であればちょうどいい。部屋のチャイムを鳴らすと、すぐに立香が出た。思いがけない来訪者に立香は目をしばたたかせる。
「あれ? どうしたの二人とも」
首を傾けた立香にセイバーが箱を差し出した。
「ふっふっふ! 受け取るがいい、カルデアのマスター! 私たちからの贈り物だ」
「贈り物?」
受け取った立香が箱に視線を落とした。
「開けてもいい?」
「ああ」
問いに伊織が短く答える。すぐに立香が箱を開けた。中には綺麗にラッピングされた四角いクレープ。立香の表情が明るくなる。
「どうしたのこれ?」
「私とイオリで作ったのだ」
「エミヤ殿と紅閻魔殿にも手伝ってもらった。日頃から世話になっている礼だと思ってくれていい」
得意げな顔で告げるセイバーに伊織が補足する。クレープを見つめている立香が「そうなんだ」と小さくこぼした。
「それと、シンセングミからも具材を分けてもらったぞ」
「土方殿、沖田殿、山南殿からそれぞれマスターにと」
目を丸くした立香はすぐに嬉しそうに微笑んで二人を部屋の中へと通した。
「せっかくなら一緒に食べよう」
「いや、俺たちは」
「ナギコやスズカはもう良いのか?」
遠慮する伊織に次いでセイバーが問う。部屋の中には誰もいない。二人はすでに帰ってしまっているようだ。
「二人とも帰ったからね。ほら、二人とも座って座って」
さっそく椅子を用意する立香に断りきれなかった伊織が苦笑する。
「飲み物用意するから。何が良い?」
「俺は茶で」
「私もイオリと同じもので!」
椅子に腰かけた伊織の隣でセイバーが元気よく手を挙げるのを見て立香が笑った。
お茶を飲みながらセイバーが一つ一つクレープの中身を説明するのを聞いていた立香が話半ばにクレープに手を伸ばした。
「おぉ! それはたくあん入りのくれえぷだな」
「なんて?」
「なかなか美味いぞ!」
包みを開けた立香が恐る恐る口に含んで「あ、美味しい」と小さくこぼした。それを見て安堵した伊織とセイバーは顔を見合わせる。
満面の笑みを向けるセイバーにつられた伊織は小さく笑った。
「ありがとう、二人とも」
嬉しそうに笑った立香に二人は満足そうにして自分たちもクレープに手を伸ばした。
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