Ai
2025-03-30 23:53:07
5501文字
Public パラライ
 

御子柴と那由汰が入れ替わった話

cozmez+御子柴

・御子柴と那由汰が入れ替わった話
・台詞をまとめただけの台本小説

 ――今日の那由汰は何かがおかしい。

 スラムを吹きぬける風は冷たい夜をつれてくる。眠りにつくには人肌が恋しい深夜である。
 口をひらくとこぼれそうになるアクビを飲みこんで、珂波汰は那由汰の背中に呼びかけた。

「なあ、まだ寝ねーの?」
…………
「那由汰」

 珂波汰はもう一度、呼びかけてみるが、那由汰はふり返ろうとはしなかった。
 これでもう何回目だろう。何度も呼びかけているのに、今日の那由汰は完全にムシを決めこんでいる。もうかれこれ何時間もずっとこの状況だ。
 何があったかは知らないが、那由汰はずいぶんと不機嫌で、珂波汰が帰ってきたときも「あ。珂波汰、おかえり」とは言ってくれなかったし、食事中にどれだけ話しかけても「へー……」とか「ふーん」とか愛想のない返事ばかりだった。
 今だって珂波汰には興味もしめさず、スマホとにらめっこしては顔をしかめている。

「なあ、那由汰。何すねてんだよ」
…………
「那由汰」
「さっきから那由汰、那由汰うっせーな。『那由汰』が鳴き声のオウムかよ。どんだけくり返せば気がすむんだ。
 こっちは忙しいんだよ。テメェにかまってる暇なんかねー。寝たけりゃ勝手に寝てろ」
……は? 那由汰?」
「何度も同じこと言わせ――……テメェ、誰だ?」

那由汰?「あ?」

「那由汰はそんなこと言わねぇ」
「はあ? 聞いてねーのかよ。双子から」
……聞くって、なにを?」
「あ? その様子じゃマジで知らねー感じかよ。俺とコイツの中身、入れ替わってるって」
「はあ? 入れ替わってるって那由汰が?」
「見りゃ分かんだろ。この見た目でそうじゃなかったら誰と入れ替わってんだよ」
「じゃあ、テメェは誰なんだよ」

矢戸乃上賢太「獄Luckの御子柴賢太」

「御子柴って……獄Luckの」
「そう言ってんだろ」
「は? なんで?」
「こっちが知りてぇ。とにかく、大ごとにはしたくねぇ。今、元に戻る方法を探してんだから邪魔すんな。おねむのお子様は静かに寝てろ」
…………
「あー……クソ。入れ替わりの前例とかねーのかよ……
…………
…………
…………チッ」
…………? おい、ちょっと待て。スマホ取り出して、どこにかけようとしてんだ」

「警察」

「大ごとにすんなって言ってんだろうが! 言葉通じねーのかよ、母国語くらいは勉強しとけ」

「あ? お前がここにいるってことは那由汰は監獄に居んだろうが」
「は? そりゃそうだろ。なに言って……
「釈放させる」
「はあ!? んなことできるわけねーだろ。バカかよ」
「このまま那由汰を監獄に居させるわけにはいかねぇだろーが」
「アイツは今、俺の姿になってんだよ。……どんな理由でも釈放されるわけがねぇ。少し考えりゃ分かんだろ、それくらい」

………………チッ」

「あ、おい! どこ行く気だ」
「那由汰のところに決まってんだろ。それ以外にあんのかよ」
「はあ?」
「那由汰ひとりを監獄に居させるわけにはいかねぇだろ。俺も行く」
「監獄はお泊り施設じゃねーんだよ。どういう思考回路してんだ、お前。さすがに引くわ」
「じゃあ、どうにかできんのかよ」
「できるなら、すでにやってる。どうにかしてる。こっちだって分かってんだよ」
「チッ……
「舌打ち、やめろ。てかおい、またスマホ持ち出してどこにかけようとしてんだよ」
「那由汰。それ以外、ねーだろ」
「いや、他にも候補あんだろ。あ、弟の連絡先以外、登録してねーのかww」
「あ? 那由汰の連絡先がありゃ充分だろうが」
「ホント、どんな思考回路してんだよ……。しかもビデオ通話って」

 1コール……2コール……

「珂波汰?」
「那由汰!」

 電話がつながったことに珂波汰は安堵しながら、画面のなかをじっと見つめた。
 名前の表記は『那由汰』だ。だが通話画面に写っているのはまぎれもなく獄Luckのanonymousだった。
 どうやら御子柴の話は嘘ではないらしい。

「那由汰、だよな?」

 顔はanonymousだけど……
 珂波汰が目の前の真実に戸惑うなか、画面のなかの御子柴が「ははっ」と穏やかそうに頬をほころばせた。

御子柴那由汰「そりゃそうだろ。俺のスマホにかけてんだから。なんかあった? 珂波汰。もしかしてanonymousとケンカしてイヤになったとか?」

 珂波汰の反応を待っている御子柴(那由汰)の顔がさらにゆるく微笑んだ。
 あ……、この表情はよく知っている。
 毎日見ている那由汰の顔だ。
 画面に映る御子柴の顔の向こう側に那由汰の気配を感じとって、珂波汰はようやく、胸の奥にたまっていた重たい空気をはきだした。

「なんで、入れ替わったんだ?」
「知らねー。なんか、奉仕活動中のanonymousとぶつかって、目開けたら身体が入れ替わってたんだよな。珂波汰、そいつから聞いてねーの?」
「さっき気付いた。いつもの那由汰とちげぇから」

「は? なんで言ってねぇの?」
「こっちの台詞だわ。なんで言ってねーんだよ」
「俺のせいかよ。てか「お邪魔します」って挨拶ついでに説明するだろ」
「俺がてめーらの家に帰ったとき、誰も居なかったんだよ」
「なら、珂波汰が帰ってきたときに言えばいいだろ」
「あぁー……ハイハイ。申し遅れました、俺はanonymous」

「あー……おう。
 それより、那由汰。ぶつかったって大丈夫か? たんこぶとか」
「分かんねー。ぶつかったあとはコイツの身体に入ってたし。こっちの身体はでけーたんこぶできてっけど」

矢戸乃上賢太「はあ!? たんこぶ!?」

「なあ、珂波汰。俺の頭、平気か見てくんね?」
「あー、ちょっと待てよ」
「あ、おい! 勝手に触んな」
「うっせーな、我慢しろ」
…………
……あー、切り傷はなさそうだな。たんこぶもねぇ。……よかった」
「そっか。ありがとな、珂波汰」
「おう」
「よくねーよ。俺の身体はたんごぶ出来てんじゃねーか」
「お前の頭が弱すぎんだよ」
「頭が弱ぇのはテメェらだろ」
「「はあ?」」

「御子柴君!」

矢戸乃上賢太「あ?」
犬飼「そちらでの生活は問題ないですか? それにしてもなんだか不思議ですね。理由を知っていても、いまだ御子柴君だとは思えなくて」
「あ? クソ看守様はこの状況が問題ねーように見えてんのか? 脳内お花畑ですか?w」
「あ、いつも通りの御子柴君ですね」
「どこ見て確認してんだよ」
御子柴那由汰「口の悪さだろ」
矢戸乃上賢太「てめーもたいして変わんねーだろ」

「それより珂波汰。見て」
「ん?」
「服、リメイクした」
「いーじゃん」
「あ? おい!? 俺の服ッ! 魔改造すんな!」
「あ? イケてんだろ。那由汰の服にケチつける気かよ」
「ケチもなにも完全にcozmezの衣装になってんじゃねーか! 俺はてめぇらのお仲間じゃねーんだよ」

「「は? cozmezは“那由汰/珂波汰と俺”のチームだ。ぜってー入れてやんねー」」

「ハモんな。誰が入りてーつったんだよ。こっちから願い下げだわ。
 てか、袖の色変わってね? 勝手に染めんな」
「染めてねーし」
珂波汰「へー、そうなのか?」
「これさ、この脇のトコあんじゃん。そこをほどくと、手首の近くまでスルスル〜ってほどけんだ。でさ、袖口と肩の縫い目のとこ。ここ、ほどくと袖がバラせっから、別の袖と付け替えたってわけ」
「へー……。よく分かんねーけど、那由汰すげーな」
「リメイクの域、超えてんだろ。業者かよ。てか、許可なく勝手にいじんな」
「はあ? ちゃんと許可得てんだけど」
「はあ!? 誰の?」
「監獄ヒマすぎっから着てる服のリメイクしてーつったら、『いいんじゃない? それ配給の服だし』って」
「紫音か。もとに戻ったらしめる。てか、誰か止めろよ。その双子」
犬飼「ええっと、そのですね……一応、土佐くんが――

凌牙「けど、それシバケンの服だろ。勝手にリメイクしていいのか?」
紫音「配給の服ってことはシバケンの私服じゃないし。私服はさすがにまずいけどさ、配給なら何かあればまたもらえるでしょ」
「そうか」

「もとに戻ったらしめる、その2」
「彼も突然、御子柴君になってしまったわけですし、趣味で心を落ちつかせるのも一種の手かと……
 安心してください、御子柴君。すでに新しい服を申請済みです。御子柴君が帰ってきたときには新品の服が配給されるはずです」
「うぜー、しめるその3。
 つーか、クソだせー配給服とかいらねーよ。
 それより、もとに戻る方法。少しは見つかったのかよ」

「俺も聞きてー。那由汰はちゃんと戻んのか?」
「それは現在調査中です。まだ事の真相は分かってません。ですが、安心してください。矢戸乃上君」
「あ?」
「上層部に報告した結果、現在の状況の真偽の確認および今回の措置が決まるまで、御子柴君はプレハブにて待機という形になっています。
 もし御子柴君の精神が本当に入れ替わってる可能性も考慮し、ご家族の安全は必ず保障するとのことでした」
「真偽も何も別人だろーが」

「私たちから見ればそうなんですが、お二人を知らない方々から見ると、やはり信じがたいという状況でして……
 先ほども申しあげましたが、本当にお二人が入れ替わっていた場合のことも考え、御子柴君のなかにいる矢戸乃上那由汰君はプレハブにて待機を。
 そして矢戸乃上那由汰君のなかにいる御子柴君には外からの見張りをつける。現段階ではそういう措置になっています。
 今回は事態が事態ですし、特別対処として彼には監獄での自由行動が約束されています。このプレハブ内でという制限付きではありますが……
 もちろん、衣食住は絶対に保障いたします。獄Luckの皆さんにも協力していただき、矢戸乃上那由汰君にはできるだけ普段通りの生活を送っていただけるように努める方針です」

「マジでお泊り施設化してるじゃねーか」
……じゃあ那由汰は大丈夫なんだな」
「はい!」
「珂波汰、心配すんなよ」
「てか、こんな事態になってんなら先に言えよ」
「珂波汰の仕事が終わる頃に電話しようと思ってたんだけどさ、リメイクに集中してた。ごめんな、珂波汰」
……まあ、無事ならいい。俺も明日、そっちに行くし」
「え!? 監獄にですか?」
「問題あんのかよ」
「あ、いえ。できるかどうかは分かりませんが、上部の方に矢戸乃上君の滞在許可を申請してみますね」
「ああ、頼む」
「やったな、珂波汰。明日、いっしょに飯食おーぜ」
「おう」

「テメェら監獄をなんだと思ってんだ。
 てか、犬飼。本当に何の真相も分かってねーのかよ」
「最善をつくしてはいるんですが、なんせ今までに事例がないものですから……
 ですが一刻でも早く、御子柴君がもとに戻れるように、獄Luck一丸となり頑張りましょう」
「あ? んな悠長なこと言ってる場合じゃねーだろ。この役立たず……! …………あ」
双子「「?」」

……おい、ガキども。夜中にはしゃぎまわりやがって」
御子柴那由汰「え……なんか急に雰囲気、変わってね?」
「またかよ」
「“また”って、珂波汰なに?」
「あー、そいつ――
裏犬飼「おい、ガキ。テメェもだ。好き勝手しやがって。今すぐ殺して永遠に眠らせてやろうか」
「は? どういうことだよ。珂波汰、コイツなに?」
「テメェ、那由汰になんかしてみろ。ブッ殺すぞ」
「面白い。電話越しに何ができる?」
「あ! おい、俺のスマホ――「黙れ」
「珂波――……!」

 ツー……ツー……

「那由汰? 那由汰っ!! あークソ、電話切りやがった!」
「あ、おい! どこに行くんだよ!」
「あ? 那由汰のとこに決まってんだろ」
「おい待て、バカ!」

 バタンッ!

「マジで行きやがった……

 時刻は深夜0時30分――
 那由汰のために家を飛びだし、真夜中のスラムを走りぬけていく珂波汰。矢戸乃上家にひとり残された御子柴。裏犬飼に寝るように脅される那由汰。
 はたして、御子柴と那由汰は無事にもとに戻れるのだろうか。

矢戸乃上賢太「…………めんどくせー」



【次回予告】

四季「那由汰くん、入れ替わっちゃったんだね。大丈夫かな……? このまま何もなければいいんだけど」
御子柴「ムリだろ」
四季「あはは、即答……。えっと、次回は珂波汰くんも監獄でチルタイムを過ごすみたいです。
よかったね、那由汰くん」
御子柴「だから、監獄はお泊り施設じゃねーんだよ。だいたい――

リュウ「ここでリュウくん参上の次回予告ッ! とう!」

四季「えッ、リュウくん!?」
御子柴「…………!?」

リュウ「体が入れ替わった2人にさまざまな試練がふりかけのごとく、パラパラとふりかかる!
 たまご、オカカ、梅……。味はいったい何なのか。2人は宇宙銀河の時空を越えて、もとに戻ることはできるのか。
 この話のゆくえを知る者はすでに存在しない。アポロはすでに食べられたのである。

 次回! ねえ、みんなは誰と入れ替わりたい?
『かなかなとなゆなゆの監獄Chill time』
 監獄でついにcozmezのリリックが響きわたる。
 かなかなのお昼寝シーンもあるよ。次回もサービスサービス!」

御子柴「……………………