RINGO
2025-03-30 22:20:12
2107文字
Public 境界の灯
 

番外編1-3


 すべての施設の見学を終え、一行はコテージに戻る。
 次はどこへ手伝いに行くかという話し合いのはずだったが、青年がぼんやりしている間に仲間たちが、彼の様子を見て勝手に決めていた。
 青年は不満げに眉を顰める。
「おい、何勝手に決めてんだよ。」
 仲間の兵士は他の兵士と顔を合わせて、問題あるのか?といった顔をした。
「いや?オメェなんか仲良さそうに男の子と話してたやろ?」
「なぁ?子供好きなんじゃないかと思ったけど違うのか?」
……にしても、お前にしては良い顔してたな?成績一番いいくせに、ぼーーっとしてんのも悪くないけど、人間味出てたぜ?」
 それを聞いて、ほかの兵士がニヤッと笑いながら中指の関節で青年の頭をグリグリと押した。
「そーか?俺はぼーーっとしてるくせに成績良いの腹立つけどな。」
「お前やめろっての!」
 そう言いながらも悪ノリが連鎖し、肩を叩かれたり背中を押されているうちに気づけば笑っていた。

 そうして、青年は明日から孤児院の手伝いに行くことになったのだ。


「ということで、今日からお手伝いしてくれるお兄さんです。」
……よろしく、おねがいシマス。」
 青年は慣れない挨拶をして無難に頭を下げる。
 顔を上げれば、子供たちの好奇心で輝く目の数々。
 射貫くようなその視線で、ひくりと頬が引きつった。

 穏やかな日差しを受けて、外に干したシーツが優しく翻る。
 その穏やかさとは裏腹に孤児院の中は熾烈を極めていた。
 
 青年が挨拶を終えると、一人の女の子がぽつりと言った。

「おにいちゃん、どこから来たの?」

 それを聞いた途端に、「いくつ?」「抱っこして!」「いつまでいんの~?」と子供たちがわらわらと集まり質問攻めが始まった。
 助けを求める様に施設の職員を見るも、『その調子でお願い。』と言わんばかりにさっさと他の仕事へ行ってしまった。
(どうやら俺は他の仕事をする為の人柱みたいだな……。)

……おーい。起きなよ」
 声量を押さえたその声で青年は目を覚ます。
「あぁ……身体をすぐ動かさないで。脇に子供がいるから。」
 目を動かし、右の脇腹に一人、足先に二人……と確認してようやく体を起こす。
 そして、やっとのことで孤児院の事務所にたどり着くと椅子にどっかり座った。
「お疲れ様、お昼寝の時間真っ先に寝ていたけど、どうだった?」
 職員にコーヒーを渡されて青年は受け取る。
「いや……もう、訓練より辛かったっす。」
 青年はコーヒーをじっくり味わい、疲労を滲ませた。
「それはないでしょ……」と笑いながら職員もコーヒーを一口飲む。
「でも、おかげさまで他の仕事が大分スムーズに終わったよ。助かった。」
「そりゃ……よかったっす。」青年は力なく笑った。

……あぁ、そうだ。」
 心ここにあらずといった調子でぐったりしていた青年が頭を掻きながら体を起こす。
 よろよろ立ち上がり、自分の荷物から筆記用具を取り出した。
「それは?」
 元の席に戻る青年に、職員が尋ねる。
……ここに視察に来ていたの、忘れてました。」
 息をつきながら、青年は再び椅子に座ると、職員の方に軽く体を向ける。
「それで……困りごととか、備品の希望とかあったら最終日までに俺に教えてください。まとめて提出するんで。」
「それが君らの“研修”ってわけね。」
 職員のその言葉に青年は思わず苦笑する。

 職員は立ち上がると、笑いながら事務所の戸棚へ向かった。
「じゃあ、さっそく備品の希望出そうかな。」
 そう言って青年に一枚紙を渡す。
……これは?」
「欲しい書籍のリスト。あの子たちのリクエストなんだよね。」
 青年が紙に目を通すと、いくつか知っている本のタイトルが並んでいた。
……生き物の図鑑から、絵本……。)
「恋愛小説まであるんですか。」目を丸くして驚いた。
「女の子たちに人気なんだよ、その本。そういう意味でも君は待望だったよ。」
 青年はハハッと苦笑いする。
 リストは裏面までずらりと並んでいる事に気づいた。
「というか結構リクエスト多いですね、てっきり体を動かす方かと思ってたんですけど。」
「いつもあんなじゃないよ、君が来ていつもの三倍ははしゃいでたね、あの子たち。」
 職員は笑う。
「君に懐いてた男の子が兵士さんが来たんだよって昨日から周りの子たちに言ってたから、他の子もワクワクしてたみたい。」
「なるほど……。」
 青年は、昼寝をしている子供たちの部屋の方へ顔を向ける。
 書籍リストを見る限り、閲覧を制限するようなものはなさそうだった。
 昨日の少年の様子からも不自由さは感じなかった。
……あいつらはあいつらで、ここの暮らしを楽しんでいるんだな。)
 ふっと息を吐き自然と微笑みを浮かべた。

「あっ、そうだ。」
 職員が小さく声を上げると、ロッカーへ向かった。
「どうかしました?」
 青年は少し冷めたコーヒーを啜る。
 職員が机に戻ると、職員が押し付ける様に青年に渡した。
「これ、良かったら兵士さんたちにって、うちの婆ちゃんが。」