あけみ
2025-03-30 13:19:39
4787文字
Public SPN(小説)
 

【SPN】大天使の横恋慕【C/D←ミカ】

謎時空のAU世界観でのキャスディン←ミカエルの話。アダムの件にも触れてます。
ちょっとだけS15のネタバレ有。

 定められたものだとミカエルは信じて疑わなかった。地獄に堕ちた正義の男は、自身の器になるために存在する。そして、自身の手足となりミカエルの槍としての役目を全うする運命だと。だから、地獄に堕ちた正義の男の魂を救う役目は己だと思っていた。
 一介の兵士が救ったと聞いた時は耳を疑った。神が仰せつかったことだと無理やり納得するしかなかった。ミカエルの内心は穏やかではなかったが。神の気まぐれは今に始まったことではない。大事な役割はミカエルに任せてきた神だ。黙示録の準備に必要不可欠なミカエルの器を一介の兵士に監視を任せることは、大した問題ではない。最終的にディーン・ウィンチェスターがミカエルの器になることは決定事項だからだ。
 しかし、ミカエルの心中とは裏腹に厄介なことが立て続けに起こる。
 地獄からディーンの魂を救ったカスティエルは、どうやらディーンに随分と執着しているようだとザカリアから報告を受けた。あろうことか、人間側に情を向けていると。ミカエルは瞬時に判断を下した。ナオミを派遣し、カスティエルの天使としての役割を今一度呼び戻すよう命令した。人間に情を寄せる天使の末路は厄介だとミカエルは知っている。アンナも面倒なことをしでかしたのだから、その直属の部隊にいたカスティエルも要注意だと察した。
 それでもカスティエルのディーンに対する執着を断絶することはできなかった。ミカエルは不可解だった。カスティエルが天界を裏切ってでもディーンに惹かれる理由が。地獄に堕ちた彼の魂に触れたことで何を見たのか。ミカエルは目を細め睨んだ。カスティエルはディーン・ウィンチェスターの何を知っているというのか。今まで自身の器に興味を示さなかったことを悔やみ始めたミカエルは、ディーンに接触することにした。
 ジョン・ウィンチェスターの器越しであったが、ディーンの魂を前にしたミカエルは全てを理解した。地上にいても彼の魂の輝きは目立った。それを地獄の地で目のあたりにしたカスティエルがたった一人の人間にこうまで惹かれ執着する理由は、ここにある。
 ディーン・ウィンチェスターの魂は美しい。
 だからこそ、ミカエルは誇りを感じた。その美しい魂は自身の器に生るべくして存在する唯一無二だと。大天使の器になる人間は廃人になるが、彼は特別だ。ミカエルを宿しても心が壊れることはない。いや、その魂は決して穢しはしない。ミカエルは誓った。器にする人間に情をひと時でも寄せたのは初めてのことだ。

 ミカエルはディーンの危機に駆けつけ悪魔の大群から彼らを守り抜いた。人間は恩を感じると、報いる心理が働くらしい。ディーンがミカエルの器になることを承諾さえすれば、天の加護を得るのだから断る理由はないはずだ。
「さぁ、ディーン。君の魂も大切な人たちも守ると約束しよう。私を受け入れろ」
 そう、ミカエルは確信したのだが、予想だにしていないディーンの返答は拒絶だった。
「天使は信用できない」
「何だと?」
 ミカエルは眉根を寄せた。
「お前たちは、人間のことを見下している。ただの猿としか見ていない。この世界のことも本当はどうでもいいと思っているんだろ。大事なのは神が示した通りの黙示録を辿ることだけ」
 ミカエルに鋭い視線を向けながら言い捨てるディーンに、内心では意外性に驚いていた。ディーンは冷静で的確に状況を把握している。言い当てたその殆どは間違っていない。だからミカエルも訂正はしなかった。だが、彼が言う「天使は信用できない」という点で例外があるようだ。
「カスティエルは当てはまらないと?」
 ミカエルがディーンの傍にいるカスティエルに視線を向ける。ディーンが向けるカスティエルへの態度は、他のどの天使に対しても違う。ミカエルがここにきて一番、不可解で気に入らない点はそこにある。
……キャスはお前たちとは違う」
 ミカエルから一歩後ずさりしたディーンはカスティエルと肩が触れ合う。その瞬間、ミカエルは胸がざわついた。一介の兵士であるカスティエルが大天使を前に臆することなく対峙しているのも気に入らない。
 ディーンに差し伸べた腕を下ろしたミカエルは拳を握りしめる。
 人の魂には凄まじいエネルギーが凝縮している。天使は天界で管理しているのは、エネルギーの利用価値を熟知しているからだ。大天使の器になれる人間は稀である上に魂の質も別格だ。ディーンは更に貴重な逸材であり、容姿に無頓着なミカエルでも彼が他の人間より美形で綺麗なことに気付いた。自身の器だと思えば悪い気もしない。ディーンが承諾するのも当然のものだと思っていただけに、この拒絶はミカエルに怒りと焦燥を抱かせた。

……私が君を地獄から救うはずだった」

 それは悔しさから溢れた言葉だったが、ディーンには届くことはなかった。
 たった一つの掛け間違いだ。カスティエルではなくミカエルがその役目を果てしていたら。ディーンの傍にいたのはミカエルだったはずだ。襲いくる悪魔の群れからウィンチェスター兄弟を手助けしたミカエルだったが、それでもディーンの警戒心を解くことは難しかった。
 ミカエルは眉間に皺を寄せる。頑なに拒むディーンに苛立ちを感じるが、それ以上にカスティエルの存在が癪に触る。しかし、厄介払いをしようものならディーンの承諾を得ることは一生叶わないだろう。そこが悩ましかった。
 そこで、ミカエルはアダム・ミリガンに目を付けた。彼もウィンチェスターの血を引いている。ディーンほどではないが、ミカエルの器に耐えられる魂を持っていた。

 ミカエルは再びディーンと対峙するため、アダム・ミリガンを器にし地上に降りた。


   ×   ×   ×


 アダムは、黙示録のことも天使と悪魔のいざこざにも興味はなかったが、ミカエルと半同居のような人生を送ってから精神力は図太くなったと自身でも自覚している。地上の10年は地獄で換算すれば100年を軽く超える途方もない時間だ。それくらいの時をアダムとミカエルは地獄の牢獄で過ごしたことになる。地獄の扉が開かれた一瞬の隙をミカエルは見逃さなかった。無事に地獄を脱したアダムは解放された自由を満喫した。もちろん、まだミカエルの器であるが意外にもミカエルは、アダムの意識を表に出すことを許している。
「おいしい!」
 アダムは感嘆と声に出す。ディーンたちと再会したアダムは賢人のバンカーに案内され、大好物のハンバーガーを頬張っている。
「これ、ディーンが作ったの?」
 目を丸めながらアダムは顔を上げ、ディーンを見つめた。
「気に入ったか?」
「うん! すごくおいしい!」
 答えると、ディーンは少しはにかんだように微笑んだ。

 アダムはディーン・ウィンチェスターが美形なのを初対面で会った時に感じ取っていた。そして、それは大天使のミカエルも同じだったようで、アダムは大天使にも容姿の好みがあるのだと感心した。今もアダムがハンバーガーを食べている傍ら、ミカエルも興味津々に魅入っている様子がアダムに伝わる。
 まるで、横恋慕だ。
 アダムは苦笑しながら、ディーンの隣に歩み寄るカスティエルを見やった。ミカエルはどうやらカスティエルを心底嫌っているらしかった。ディーンとカスティエルの距離感はお互いの信頼が垣間見える。10年前に会った時よりも二人の関係は慈しみ親密になったのだろう、二人の間に割って入ることは不可能で、今更ミカエルがどう関わろうとディーンが器になるわけもなし、カスティエルと同じ位置を得ることもないだろう。それゆえにミカエルの不機嫌な気配がアダムに伝わる。

「アダム、本当に大丈夫なのか?」
 アダムが後方にいるミカエルの気配に鬱陶しさを感じて眉を寄せていたのを、ディーンが気付き顔を覗き込んだ。しっかりと視線を合わせたディーンに、アダムは彼の瞳の色がヘイゼルグリーンだと知る。
(綺麗だなぁ)
 アダムがぼんやりしているのを余所に、ディーンはアダムの中にいるミカエルが意思を翻し抵抗するかもしれないと警戒している視線を向けている。ハンターなら疑うことも当然だろう。だが、ミカエルは全く別の情緒を抱えている。勝ち目のない恋をして嫉妬して勝手に拗ねているのだ。
「うん、大丈夫。ミカエルは僕が代わりたい時に代わってくれる。さっきは、彼が突然不機嫌になったんだ。感覚的に……後部座席で僕を通してカスティエルを睨んでる感じ」
 アダムは奥に引っ込んでいるミカエルの様子をディーンに伝えた。
「なんだ、それ?」
 深刻な危機感とは程遠い例えにディーンは首を傾げたが、隣にいるカスティエルは苦渋に表情を歪める。ミカエルがディーンの魂に興味があることを知っているからだ。
「ディーン、彼から注意を逸らすな。ミカエルは油断ならない」
 カスティエルは鋭く言い放つも、ディーンは先程より警戒心が緩だように見えた。
「こっちのミカエルは、異世界のミカエルとは違うようだ。俺があいつの器になった時、こんなふうに自由にさせてくれなかっただろ」
 ディーンの言葉にいち早く反応したのはアダムの中にいたミカエルだった。突然、意思が反転し頭を揺さぶられる感覚を味わう。アダムは文句を言い放ったが、ミカエルは表に出るとディーンに迫る。
「器になると承諾したのか!? 私以外の奴に!」
 お前はディーンの何なんだよ。と、思わずアダムは呆れ果てる。しかし、あのディーンがミカエルの器になることを承諾したのは意外だった。
「あー……、まぁ、いろいろ事情があったんだよ。それに、あれで懲りた。今思えば、確かにお前の方がマシだったな」
「なら、今からでも」
「何でそうなる! 俺を器にする意味も状況でもないだろ。あと、分かってると思うが、もしアダムに危害を加えたらお前をアダムから無理やり引き離してやるからな!」
 きっぱりと言い捨てるディーンに、ミカエルは目を細めた。
「言っただろ、私はお前が大事にしている者たちを守ると。アダムを人質に取る行為はお前にとって悪手だと知っている」
 私の力が届く範囲で器の安全は保証すると、ミカエルは答える。
……分かった。信じる」
 あっさりと頷いたディーンに対して、ミカエルは少し驚いた。出会った当初よりディーンの態度は柔らかくなっており、張り詰めた緊張感と怒気を含んだ空気も無くなっている。彼らが言うところの経験がディーンを変えたということだ。ミカエルはディーンから視線を外す。意固地になっていた自身が情けなく感じた。
「お前、少し変わったな」
 ディーンはミカエルの意気消沈とする表情に何を感じたのか、柔らかい声色でそう呟く。
「以前ならもっと俺たちのこと見下してただろ。態度も高圧的だった」
……ひとりの人間と長い間ともにいたのだ。理解できないことも多いが、慣れた。お前こそ、天使は信用できないのではなかったか?」
 ミカエルは半ば不貞腐れた言葉を言い捨てる。それは、少し稚拙な態度だったためディーンは苦笑する。
……いろんな天使に会ったからな。俺たちと同じで天使にも考え方が違う奴らがたくさんいるのも分かった。……そいつらの中に器にした人間と懇意になり器を大事にしてる天使もいた。だから、お前のことも信じるよ」
 ミカエルは顔を上げた。
 ディーンから信頼を寄せられることは、妙に感情を揺さぶられ高揚感が溢れる。これは、媚薬のようだと感じた。これ以上、表に出ると浮足が立つ。立場が危ういと感じたミカエルは、アダムと交代した。
……ディーンは天使たらしだね」
 アダムが言うと、ディーンは困惑したが隣にいるカスティエルは真顔で頷くのだった。







web拍手
fedibird>@cocoapoko
bluesky>@cocoapoko