ぐるさん
2025-03-30 00:08:52
2239文字
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3.29ふみりかワンドロ 【お花見】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.3.29お題をお借りしました。

「うーん、まだ駄目かぁ……教えてくれてありがとね、理解くん」
「いいえ、こちらこそいつもありがとうございます、依央利さん」
「ううん、僕はだって皆の奴隷だからね!理解くんはもっと僕をコキ使って……あ!洗濯機鳴ってる!」

 パタパタとリビングを飛び出す依央利さんと入れ替わるように、見慣れたオレンジの人影が現れる。

「何の話してたの?理解」
「ふみやさん」

 ふみやさんはゆるりとドアをくぐり、スッと私の前に立つ。

「今年のお花見はいつにするか、依央利さんと相談していたんです」

 何時ぞやかのお花見の際、休息をとってもらう為に黙って準備を進めた事を、依央利さんは根に持っている。

 そのため、時期が近づくと我先にとお花見の準備に取り掛かるのだが、今年は天候不順や季節外れの気温の乱高下に見舞わわれ、未だに桜は蕾のままだ。

「なので、毎朝の散歩の度に近所の桜の木を確認し、様子を依央利さんに伝えて、蕾が開いたら本格的に日程を決めましょう、という事になっているんです」
「へぇ、そうなんだ」
「ですが今日も咲いていませんでした……
「ふーん……理解、部屋でちょっと待ってて」
「え、ふみやさん?ちょっと!?」
 
◇◇
 
「お待たせ、理解」

 ふみやさんに部屋で待っているように言われて二時間程が経過した頃、ふみやさんは何やら荷物を抱えて部屋に入ってきた。

「もう一体何なんですか!というかこの荷物は一体?」
「弁当とレジャーシート」
「え?」
「お花見行こ、理解」

 え?お花見?ふみやさん二時間前の私の話聞いてました?

 疑問は晴れないまま、ふみやさんは私の手を引いてズンズンと歩き出す。

 そのまま一緒に家を出て着いていくと、これまた何時ぞやかの河川敷に到着する。確か依央利さんと一緒に大瀬くんが川に入るのを止めようとした場所だ。

「もう少し歩くよ」

 ふみやさんの指示に従って歩みを進める。ふみやさんは一体私をどこに連れて行こうとしているのだろうか?何も言わず、それでいて楽しそうな横顔を眺めていると、不意に鮮やかな黄色が視界に飛び込む。

「わぁ……!」

 それは、河川敷のある一帯に咲き誇る菜の花だった。風が軽く吹く度に黄色の波がうねる様は、まさに今が満開と言っているようだ。

「んー……この辺りかな……
「ふみやさん?」

 私が思わず菜の花畑に見惚れていると、近くでふみやさんがレジャーシートを広げ始める。

「理解、そっちの端っこ抑えて」
「は、はい!」

 協力してレジャーシートをピンと広げ、二人でシートに乗ると、ふみやさんはいそいそとお弁当を広げ始める。

 それは小さめのお重箱の形をしており、ちょうど二人分のおにぎりとおかずが綺麗に詰められていた。

「すごいですね……一応聞きますがこれ、どうしたんです?」
「依央利に作ってもらった」
「でしょうね」
「ほら、早く食べよう」

 ふみやさんに急かされおにぎりを手に取ったが、どうにも落ち着かない。そもそも、私は何でこんな所で昼食を……

「どうかした?」
「えっ、いやぁ、その……
「理解?」
「えぇっと、今更何ですけど、どうしてふみやさんは急にこんな事を……?」

 私の言葉に、ふみやさんは予想外だと言わんばかりに目をぱちくりとさせている。

「どうしてって、お花見のためだけど。俺、最初に言わなかったっけ?」
「花見って……ここ菜の花畑ですよね?普通お花見って言ったら桜の花ですよね?」
「でも、綺麗な花見て弁当食べたら、何の花だって花見だと思う」
「屁理屈じゃないですか……
「そもそも、奈良時代の花見は梅が主流だった、という話もある」
「平安時代以降は桜が主流ですけどね」

 ああ言えばこう言う、いつものやり取りだ。別に喧嘩をしている訳では無いが、こうなったふみやさんは中々譲らない。

「そもそも花見は桜じゃないと駄目?何で?別に何だっていいじゃん」
「何でもは良くないでしょう。折角の季節を楽しむ行事なのに」
「じゃあ何だったら良いの?」
「えぇ……そしたら桃の花……はもう過ぎてしまいましたし、次は菖蒲の花とか?」
「五月か……別に良いけどそれまで理解待てる?」
「待つ?何を?」
「お花見」

 いよいよ話が見えなくなってきた。同じ言語を話しているはずなのに、全然ふみやさんが何を言いたいのかが分からない。

 そんな私の思考を読み取ったかのように、ふみやさんが口を開く。

……だって、桜の花が咲いてないって言った時の理解、めちゃくちゃ残念そうだったから」
……え?」
「それなら、菜の花だけど先にお花見したら良いかもって」
「えぇ!?」
「お花見デートもできて一石二鳥」
「でッ、でででデートォッ!?」

 ここに来て何というどんでん返し。絶妙にズレた優しさと、思い切りの良い行動力がこんな結果を産むとは誰が予想出来ようか。

 確かに、皆でお花見に行くのが待ち遠しくて、桜が中々咲かないのが残念に思う気持ちは本当だ。 
でも、貴方と一緒なら、花が無くてもお弁当が無くても、どこだって嬉しいのだけど……

「ほら、理解早くご飯食べよ。ていうかずっとおにぎり握りしめてるよ」
「ハッ!いただきます!」

 でも貴方が嬉しそうなら、たまにはこういう日も悪くない。手にしたおにぎりを、改めてふみやさんと一緒に頬張った。