2025-03-29 18:54:15
1973文字
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塔の君と魔法使い

ランタンイベ後のジャミカリが「塔の少女」の童話について話すお話。グリム版の「ラプンツェル」を参考にしています。無自覚両片思いからくっつく甘々ジャミカリです。
勢いで書いたので恥ずかしくなったら消すかもしれません。その時は「あっ恥ずかしかったんだな……」と思ってください。

 塔に閉じ込められて育った少女の話を、むかし童話集で読んだことがある。
 両親が魔女の怒りを買い、その贖いとして少女は魔女に引き取られた。そして魔女が大切に育てていたたくさんの薬草と同じように大切に育てられ、年頃になると塔のてっぺんに閉じ込められたのだ。
 その少女も、長い長い髪を持っていた。

「へえ、塔のお姫様の話と似た話が他にもあるんだな」
 就寝前のお茶の時間。ふとその話を思い出したのでカリムに語って聞かせると、隣に座ったカリムは俺の長い髪を弄びながら大きな目をぱちくりと瞬いた。
「やっぱりジャミルの髪は太くてまっすぐでサラサラだなぁ。俺のとは全然違ぇや」
 俺もお返しとばかりに、カリムの長くなった髪を撫でる。ふわふわしていて、一本一本が俺の髪よりも細いためか柔らかくて触り心地が良い。
「まあ、彼女はお姫様ではないし、ランタンなんて話のどこにも出てこなかったから、別の物語なんだろうが……塔に閉じ込められた長い髪の少女、という点では一致しているな」
「ふうん。似てるけど細かいところが違う話があっちの地域、そっちの地域にあったりするって言うし、その童話もそういうものなのかもな」
 カリムは俺の髪から手を離すとハーブティーをひと口する。それからぽわ、と口を開け、
「その女の子は、塔から出られたのか?」
 その答えなら、はっきりと思い出せる。当時、古く重たい童話集を読んだ時に衝撃だったから。
「出られた、という結果だけ見ればそうだな。正確には追い出された、だが」
「ええ? 誰に追い出されたんだ?」
「魔女に」
 カリムがガーネットレッドの瞳をまん丸に見開く。間抜け面、と笑いそうになる。
「えっ。魔女はその子を塔に閉じ込めた張本人だろ? どうしてだ?」
「魔女の怒りを買ったからだ」
 カリムは眉根を下げ、塔から追い出されたという少女の身を案じているのだろう、心を痛めた様子だ。本当に、俺の主人はお優しい。
「いったい何をしたんだ? 魔女は女の子を大切にしていたんだろう?」
「塔に忍び込んだ男と恋仲になり……子どもを身ごもったんだ。それが魔女にバレて塔を追い出された」
「どうして魔女は怒ったんだろうな。めでたいことじゃないか」
 エレメンタリースクールの頃の俺と同じ疑問を持ったらしいカリムに、俺はふぅとため息をついてみせる。
「さあな。理由なんてわかりゃしない。童話なんてそんなものだろう。おとぎ話は、ときに理不尽だ」
「不思議だなー」
 カリムはごろりとカーペットの上に寝転がると、また俺の髪を触りはじめる。次の軽音楽部のライブまで切らないと言ってきかない自分の髪には、今は興味がないらしい。変な奴だ。
 カリムは不思議だと言った。でも俺には、魔女の気持ちが少しだけ想像できる気がした。
(俺が魔女だったなら)
 一番に守って、食事を作ってやって。たくさん心を砕いて。そこまでした存在を。
(こいつを誰にも穢されたくない)
 そこまで考えて、カップに残っていたお茶を一気に呷る。俺は今、何を考えた?
……変なことを考えたな)
「なあ、ジャミル」
「なんだ?」
 んん、とカリムは考え込むようなそぶりを見せてから、「考えてみたんだけど」と話し出す。
「オレだったら、もし怒りを買って追い出されちまったとしても、また魔女に会いに行くなって」
……どうして」
「『塔の姫』を攫って育てていた女性も、姫さんにとっては大切な存在だったんじゃないかって、リドルが言ってたんだ。それと同じで、魔女だって、大事に育ててくれた大切な人に変わりはないからな。仲直りしたいよ」
 俺は今度こそハア、とため息をついた。
「お人好しめ。門前払いされるのがオチだろう」
 カリムはにかっと笑った。
「かもな。でも諦めないぜ。俺は諦めが悪いからな!」
「知ってる。嫌っていうほどな」
 カリムの煌めく髪をひと束掬い上げ、口づける。するとカリムは頬を赤く染め、何すんだよジャミル、と唇を尖らせた。
 その唇に吸い寄せられるようにして口付けながら、益体もない妄想を膨らませる。
 畏怖されるほど強大な力を持つ魔女もいいが、俺がもし塔に忍び込んだ男だったとしたら、少女にユニーク魔法をかけて塔からさっさと連れ出すだろうな。そして魔女に連れ戻されないよう、手元に閉じ込める。大事なものは、誰にも手が出せないようにしておくのが一番だ。
「じゃ、じゃみる?」
「ふ、間抜け面」
 まあ、こいつは閉じ込められたところで自由に歌い踊り、どうにかして飛び出して、好きなように世界を駆け回るのだろうけど。
 けどその想像をしても、気分は悪くならない。
 それは目の前で顔を真っ赤にしてわなわなと震える幼なじみが、ひどく愛おしく思えたからかもしれなかった。